0話 終幕と……
初めまして、上野鄭です。
拙作をお手にとっていただきありがとうございます。
本日は12話まで連続更新します。
翌日からは0時更新目指して頑張ります。
よろしくお願いします。
※2025/11/11 改稿しました
「これで一度目――。あとは二回、か……。――目的のためとはいえ、君には申し訳ないと思っているよ」
誰にも聞かれることのない独白。
懺悔にも似たそれは孤独な世界に揺蕩う。
誰にも知られず、誰にも巡り合わず。
ただ終わりの瞬間を心待ちにして――。
◆◆◆
聖法歴1022年7月30日
“――世界大戦が終結した”
この世界の中立組織である聖法教会から正式発表がなされると、世界は歓喜に包まれた。
八年にも及ぶ世界大戦は、各地にその爪痕と、悲しみだけを残し、多くのものを失った。
それでも、人々は終結にむせび泣き、“元凶の排除”という明確な終わりを迎えた彼ら――英傑たちへ称賛を送っていた。
決戦から一か月後の今日。
公表と合わせた終戦記念セレモニーが開催されていた。
場所は聖法教会総本山であるミスルト教国首都ヴィスクムで催され、その様子は世界中に中継されていた。
報道では「皆さんもよく知る、あの聖法教会主導により、夢の世界連合が組織されました!」や、「聖法教会と賢人会双方の尽力により、無事終戦を迎えられました!」と、二つの中立組織を持て囃し、褒め称える言葉が多く飛び交った。
セレモニーでは決戦に参加した多くの英傑や各国の軍人たちも紹介され、民衆たちはモニター越しにでも、感謝や賛美の声を上げていた。
特に「十傑」――俗に賢人会と呼称される「世界異能評議会」が十年に一度定める、世界有数の実力を誇る十人の英傑――が紹介されると、人々の声がひと際大きくなる。
――聖法教会の枢機卿であり、賢人会の役員でもある「使徒」。
――バーチ共和国の騎士団長で、人徳に優れた「守護」。
――フラクシヌス帝国の軍人で、若干十五歳という若さで選出された期待の新人である「超人」。
――クエルクス貿易都市の魔道具技師で、数多くの魔道具を操る「要塞」。
参加した「十傑」は四名だったが、他にも「剛腕」、「碧靂」、「双璧」……といった名だたるな異名を持つ英傑たちの姿も垣間見えた。
◆◆◆
「……やはり彼は不参加か」
「しかたないさ。自国の行事にも一度も参加しないぐらいだからね。どうしようもない」
微笑みを浮かべて手を振る「守護」の言葉を、同じく隣で人々の歓声に応えていた「使徒」が拾う。
「彼が一番の功労者なのに参加者一覧に載るだけというのは、どうにもやるせなくて、な」
「君の気持ちも分からなくはないけど、それが彼の要望でもある。総指揮官としても、一聖職者としても、約束を違えることはできないよ」
笑顔のまま嘆息するという器用な真似をした「使徒」へ、「守護」が動きを変えず小声で尋ねた。
「差し支えなければ、彼が――『悪鬼』が何を求めたのか尋ねても?」
「彼が求めたのは――」
◆◆◆
長きにわたる苦難が終止符を迎えたことで、人々に笑顔や活気が戻ってきた。
街は賑わいをみせ、多くの人で溢れかえっていた。
そんな街の様子を、一人の少年が静かに眺めていた。
彼は周りの人々と打って変わり、物憂げな表情のままゆっくりと立ち上がる。そして、その場から飛び降りてしまった。
突然人が降ってくれば驚いてもおかしくはないのだが、どういう訳か、彼のことを誰も気に留めない。
音もなく着地した彼は、大通りの人波に逆らって歩き出す。
周囲から浮くその少年は、周りの人々に気付かれることなく、街に背を向けて去っていった。
◆◆◆
彼の目的地は、街から少し離れた小高い丘の上。
街を一望できるその場所には、崩壊した石壁や朽ちた家屋が無造作に転がり落ちていた。
広大な敷地は荒れ果て、昔の栄華は見る影もない。
草も伸び放題、瓦礫や倒木もそのままの姿は、人の手が入っていないと告げていた。
そんな周囲の惨状には目もくれず、一本だけそびえ立つ大きな木の下へと歩み寄る。
木の足元には、一抱えはある大きな石が置かれていた。
表面はのっぺりとして、何も刻まれていない。
少年も、無言でただひたすらに見つめるだけ。
顔も髪に隠れて窺い知れない。
ふと、思い出したように右手の花を、そっと石の上に置く。
少年が持参した花は、近くの孤児院から持ってきたもの。
最後に一度だけ顔を伏せると、隣の木にもたれかかって座り込む。
そのまま、ゆっくりと瞳を閉じて眠りについた――。
1話目は続けて投稿します。
2話目からは1時間後に投稿します。
また、よろしければ合わせて「六英雄キ -過去編-」もよろしくお願いします。




