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愛しい存在
それからというもの、お父さんは姿を見せなくなった。
母に似ていると言われた私に告白出来て、成仏出来たのかどうかは分からない。ただ、私にとって忘れられない出来事にはなったのは確かだ。
ある朝、会社に出掛ようとドアを開けると風が吹き込んできた。風は冷たく、すでに秋風だった。
あの後、霊視の能力を買われた私は、今西さんの会社で働くことになり、今日が初仕事の日だった。
すると、風にのって微かに声が聞こえてきた。
『──私達の分まで長生きするんだよ』
驚いて家の中を振り返ると、やはりそこには誰もいなかった。
「お父さん、お母さん」
私は涙が出てきそうになるのを、必死でこらえて言った。
「──行ってきます」
勢いよく玄関のドアを開けると、私は走り出した。
────空を見上げると、今日も空は青かった。