思い出と彼女の想い
「本当に、これで良かったのかい?」
「ええ。だって父に会えましたし、父には安らかに眠って欲しいと、今でも思っていますもの」
依頼人の正体は、リストラされて便利屋に再就職した主人公の娘だった。幼い頃、父を亡くした彼女は、母をも病気で失い、一人で生きていた。
ただ、彼女は少しばかりの霊能力を持っていたばかりに、亡くなった自分の父に似ている幽霊に、偶然出会ってしまった。彼女は深く考えずに、こっそり後をつけた。
その幽霊は、彼女が幼い頃に住んでいた家の前で立ち止まると、そこで消えてしまった。
幽霊のことが、どうしても気になってしまった彼女は、霊媒師に詳しい知り合いに頼みこんで、便利屋を紹介してもらった──ということだったらしい。
そして便利屋を通じて、彼女は彼女のお父さんと接触を図る事が可能になったのだった。
※※※※※
小さい時の父の記憶しかなかった私は、会った時に少し違和感を覚えたが、すぐに自分に似ていると思い始めた。
成仏して欲しかったが、どうやら父は自分が生きている──と思っているということが分かった。
今西さんによれば、魂が満足すれば自然に還るということだった──つまり、成仏するということだったが、父が満足する事が何なのか、全く思いつかなかった。
だから、母から聞いた話で、父が『自分からプロポーズ出来なかったことを、死ぬほど後悔していた』という話を思い出し、今回の計画を思いついたのだ。
父に成仏してもらうために、試してみる価値はあると思った。だから、あんなに動揺するとは思わなかったし、あんなに困った顔をするとも、思ってもみなかったのだ。