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魔が差す瞬間

 そう言いながらハンカチを差し出すと、彼女は驚いたのか、目を瞠ったまま呆然としていた──思えば、あれが全ての始まりだったのかもしれない。


「いいえ」


 彼女は驚いた顔を元の表情に戻すと、私を見て少しばかり微笑んだ。


「あの──今夜、空いてませんか? 良ければ、一緒にお食事でもどうです?」


 突然のことで、別の意味で開いた口が塞がらない状況に陥っていると、青だった信号が、いつの間にか点滅していた。


「……」


 私が何も答えられずにいると、彼女は早口に「十九時に、またここで」と言い、去っていった。


 生まれて始めてナンパをされた私は、交差点のど真ん中で、呆然と立ち尽くしていた。


 信号が赤になっても固まっていた私は、車にクラクションを鳴らされて、我に返ったのだった。



※※※※※



 夜になるのを待って、私は昼間の交差点へ向かい、横断歩道の手前に立っていた。


 今西さんも適当なもので「追加料金が発生したから、会社としては全然問題ないし、大丈夫だよ」と呑気に喜んでいた。


(全く──人の気も知らないで。私は既婚者なんだぞ)


 そんな気持ちを察したのか、今西さんは「まあ、たまには羽を伸ばしても、バチは当たらないんじゃない?」と、再び適当なことを言っていた。


(ほんと冗談じゃない。奥さん以外の人となんて)


 昼間の事を思い出しながら、物思いに耽っていると、彼女が交差点の反対側から歩いて来るのが見えた。早歩きで歩いてきた彼女は、目の前まで来ると「ごめんなさい。遅くなって」と言った。


「いえ。私も、今さっき来た所です」


 私は踏み出してはいけない一歩を、踏み出してしまった。




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