便利屋への再就職
それから今西さんの会社で働き始めたが、今西さんの会社の仕事内容は特殊だった。
例えば、指定された場所へ行き、のら猫にエサをあげたり。そうかと思ったら、瀬戸内海にある島へ行って、草むしりをしたり──時には、鹿児島の指宿へ行って、お墓回りの掃除をしたこともあった。
違法な事は何もしてないのに、手取り月給が四十万円も貰えるとは思わなかった。正直、意味が分からない。
そんなある日のこと。私は、今西さんに事前に手渡されていたハンカチと写真を持って、指定された新宿の交差点へ向かっていた。
写真に写っている女性が交差点を通りかかったら、ハンカチを差し出して「これ、落としませんでしたか?」と聞いて、ハンカチを渡して欲しいと言う。
私は全く訳が分からないまま、交差点へ向かった。これで「私のです。どうも、ありがとう」とでも言われたら、開いた口が塞がらないだろう。
気のせいかもしれないが、写真の人物には、会った事があるような気がしていた。
交差点の側にあるビルの陰で、対象の女性待っていた私は、写真の人物を見落とさないように、人を待つ振りをして、横断歩道のある道をチラチラと見ていた。まるで、張り込みをしている刑事にでもなった気分だ。
しばらくすると、反対方面から写真の女性が歩いて来た。私は慌てて横断歩道へ向かうと、女性の脇を通り過ぎ、すれ違いざまに振り返った。
「あの、これ落としませんでしたか?」