第6話 村の縁
村に到着すると、村娘は開口一番、サブロウを家の中へと招き入れた。簡素ながらも手入れの行き届いた部屋に通され、サブロウは改めて深々と頭を下げた。
「この度は、まことに、まことにありがとうございました。あなたの御蔭で、わたくしは命拾いをいたしました」
女性はそう言って、涙ぐむ。サブロウは、村人たちの助けを求める視線を感じながらも、まずは状況を把握することにした。
「いえ、お気になさらず。それよりも、あなた様のご家族の事、お聞かせ願えませんか?」
女性は俯き、声を絞り出すように語った。山賊に襲われたのは、彼女の兄弟二人と親戚の一人、合わせて三人だったという。彼らは村から少し離れた畑仕事からの帰り道で襲われ、まだ埋葬されていないと聞いた。
「かような時に、誠に恐縮ではございますが…」サブロウは言葉を選んだ。「手前は、旅をしておりまして、身寄りもない天涯孤独の身にございます。もし、お役に立てることがございましたら、何なりとお申し付けください」
サブロウの言葉に、村人たちの間にわずかなざわめきが起こる。旅人、しかも身寄りがないとなれば、この乱世では珍しいことではない。しかし、その顔に滲む誠実さに、村の男衆は顔を見合わせた。
「そう、おめえさんとこ、こわよ」村の長老らしき男が、しわがれた声で言った。サブロウは「こわよ」が「困ったろう」というような意味だと理解し、頷いた。
「う、うん。まことに、困っております」村娘の父親だろうか、憔悴しきった男が続いた。
「ええ、我ら男衆も、たった今戻ったばかりで…」
「お、おい、そこの若いの。もし差し支えなければ、手伝ってくれぬか?」
男衆の一人が、サブロウに声をかけた。サブロウは待ってましたとばかりに、すぐに返事をした。
「もちろんでございます。喜んでお手伝いさせていただきます」
こうして、サブロウは村の男衆七人と共に、三人の遺体を戸板に乗せて筵をかぶせて村の墓地まで運び、埋葬を手伝うことになった。遺体は痛々しい状態だったが、サブロウは表情を変えず、黙々と手を動かした。村人たちも、最初はよそよそしかったが、懸命に働くサブロウの姿を見て、少しずつ警戒を解いていく。
日が暮れる頃、ようやく埋葬が終わり、村人たちは深々と頭を下げた。サブロウは、村の人々の素朴な温かさに触れ、この場所での滞在を決意する。武田の陣営に入るには、まずはこの村で足がかりを築くのが上策だろう。