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美醜逆転の世界で呪いが解けて絶世の美女(この世界基準)になってから前世を思い出した王女とその家族

作者: そらから

十数年前、城に仕えていた魔女により、王家は醜くなる呪いをかけられた。

『魔女の呪いを解く事が出来た者にはどんな望みも願いも叶えてやろう!』

王の宣言により多くの者が魔女の呪いに挑んだが、長らく呪いを解ける者はいなかった。

しかしついに魔女の呪いを解けると言う若者が現れた……………。

王城の謁見の間では、魔女から呪いのこもった水晶を奪ってきたと言う若者が王と向かい合っていた。


鍛え上げられ引き締まった長身の肉体を黒い鎧に包ませた若者の顔は、兜に覆われていて伺い知れない。


そんな若者に、集まった貴族達は怪しいものを見る目を向けたていた。


王も若者の姿を訝しく思ったが、呪いがとけるならば何でも良いと、早く呪いを解くよう若者に促した。



「俺が呪いを解いた暁には、お約束通り報奨に、カリーナ王女をいただけますか?」


「無論だ!王たる余が偽りは申さぬ!」


若者の確認に、王は間髪入れずに頷いた。


本当に呪いが解けるのか、皆が固唾を飲んで見守るなか、若者はコクリと頷くと

高々と掲げた水晶を勢い良く床に叩きつけた。


水晶が粉々に砕け散り、キラキラとした輝きを放つ。


王家の人間がみな眩い光に包まれた。


次の瞬間、


神々しいまでに美しい姿を取り戻した王家の姿がそこにあった。



「おおっ!!!!!」


「王家がかつての美しさを取り戻した!!!」


「何と、美しいお姿!!!!」


謁見の間が喜びの歓声てワッと沸く。


そして見事呪いを解いた若者に目を向けて凍りついた。


そこあったのは、兜を脱いだ若者の姿。


短く整えられた髪はカラスの濡羽色のように黒く艷やかで、長いまつ毛に縁取られた切れ長の瞳は、深い海の様に青く煌めき、スッと通った鼻筋にスッキリとした面長の顔にシミ一つない陶器のように滑らかな肌、完璧なまでにバランスのとれた顔。



王族達が驚きに目を皿のようにして唖然と若者を見つめる。


求められたカリーナ王女も目を見開き、手で口元を覆いぶるぶると震えている。


誰もが顔面蒼白でその顔から目が離せず息を呑んだ。


やがて


謁見の間にいた一人がポツリと呟きを落とした。



 「……………………なんて醜い………。」






謁見が終わった日の夜


王家の人間がプライベートで集まる一室


王と王妃が 子供達である王太子、第二王子、そして王女の前で土下座していた。


なぜなら本日呪いが解かれた訳だが


呪いが解けた瞬間に、彼等は前世を思い出したからだ。


かつて日本という国で、平凡に慎ましく暮らしていた"佐藤さん一家"だった事を。


しかも、唐突に理解したのだ。


この世界、美醜が前世と逆転してる! と





「家族みんなで王家に転生しているまではいいわよ!

でもなんで美醜逆転の世界!?

しかもなんで醜くなる呪いが解けた瞬間前世思い出してんの?

呪いが解けてもまったく喜べないじゃない!!!」


カッと王女が、肉に埋もれて開いているのか開いていないのか分からない目を見開きドスンと重たい腕をテーブルに叩きつけた!



つまり彼らは、今世で呪いをかけられて、ずっと不細工(今世基準)として生きてきたのだが、呪いが解けた瞬間に、不細工(前世基準)になってしまったのだ。



怒り心頭の子供達の前で、両親である王と王妃はぶるぶると身を寄せ合って平謝りする。



「ごめん!父ちゃんが本当悪かった!なんで魔女にあんな事言っちゃったのかマジで反省してる! 

『最も美しい王家』なんて呼ばれて天狗になってた!!調子こいてすいませんでした!!!」


「母ちゃんも本当おかしくなってた!『美貌の王妃』とか言われて有頂天になってたのよ!許して〜!」 



10数年前、王家は魔女によって呪いを受けた。


それは第二王子の誕生の宴での事だった。


国中の魔女が招かれる中、たった一人の魔女だけがその宴に招かれなかったのだ。


 " ()()" という理由で。


それまで国に貢献してくれていた魔女は怒り、王家の人間に醜くなる呪いをかけたのだった。



「馬鹿じゃねえの!魔女が怒るの当然だろが!糞親父!!お前『醜い者はこの国にいらん!』とかほざいたんだって?

どの口が言った!このビールっぱらのハゲ親父!」


「母ちゃんだって『醜い女など女ではないわ』とかよく言えたな!今の自分の姿よく見て言えよ、このおたふくデブスが!!!」


王太子と第二王子が怒髪天で二人を募る。


「本当にごめんって!で、でもさ、もう呪いは解けたんだしさ!

それに一家揃って転生していた事が分かったんだから前を向いて行こうよ!」


「そ、そうよ、ほら、一応この世界では美しくなった訳じゃない?

も、モテモテ期来たんじゃない?悪いことはかりじゃ………。」


へらへらと誤魔化そうとする両親に子供達の怒りが爆発する。


「ふざけんな!まったく喜べんわ!!完全に前世基準に引きずられているから自分が不細工にしか見えんわ!

しかも昨日までの丹精で引き締まった格好いい俺の顔と体(前世基準)を覚えているから余計辛いわ!

こんな腹の突き出た下ぶくれの顔とか受け入れられるか!!!」


ブルンブルンと揺れる腹肉を揺すりながら王太子が叫ぶ。


「私だってそうよ!ずっと不細工な王女って言われて来て、やっと綺麗になれると思ったのに、呪いが解けた瞬間の私の絶望が分かる!?昨日までの超絶可愛いナイスバディー(前世基準)な私を返してよ!!なんでこんなくびれのないプヨプヨのお腹に、おてもやんみたいな顔………。くりくりのパッチリ二重まぶただったのに肉に埋もれてどこ見てんのかすら分からないじゃない!!」

 

「そうだよどうすんだよぉ!!俺なんて産まれた瞬間から呪いをかけられた上での、解けても呪われた容姿だよ!おまけに今まで不細工すぎて婚約者のなり手がなくてここまで来たのに、呪いが解けた途端にオークの化け物みたいな令嬢達に取り囲まれて狙われてんだよ!この先俺の結婚とか絶望的だよ!!!」


第二王子がニキビ面を真っ赤に染めて野太い足でドスドスと地団駄を踏んだ。


憤る第二王子を王太子が憐れみをこめた目で見つめる。


「……ああ、それについては同情する。俺には愛するベアトリーチェがいて本当よかった……。」


「てめえ………。」


ホッと胸を撫でおろす王太子である兄を第二王子は不細工な泣き顔で睨んだ。


かつて王太子の婚約者選びはとても難航して大変だった。


王太子の地位があろうとも不細工な彼に嫁ぎたいという令嬢が一人も現れず、どうしたものかと頭を悩ませている時にたった一人だけ手を挙げてくれたのか侯爵令嬢である現婚約者のベアトリーチェ嬢だった。

非常に聡明で賢かった彼女だが、容姿に難があるため彼女もまた婚約出来ずにいた。

『私のような醜い女で宜しければ……。』そう言って王太子の婚約者になってくれた令嬢だった。


「結果として俺は呪いのお陰で、賢く美しく(前世基準)、心まで綺麗なベアトリーチェと婚約出来たからな…………その点は感謝してもいいかもしれない……。」


「そ、そうか!」

「そ、そうよね!」

両親である王と王妃の顔がパアッと明るくなる。


「だからと言って、親父とお袋を許した訳じゃない。」


「「はい………。」」

王と王妃がガクリと項垂れる。


「くそっ!俺だって可愛い彼女が欲しい!!なのに周りにはオークの群れにしか見えない令嬢しかいねえよ!

あいつら俺が醜かった時は見向きもしなかったくせに急に態度かえやがって!!!

仮にオークじゃなかったとしてもお断りだっつうの!!!!」


「オークは言いすぎだろ。探せばブタ共の中からでも1人くらい心の優しい令嬢が見つかるかも知れないぞ?」


「フォローになってねえわ!!ブタに見えてる時点で、見つけられるか!!」


ギロリと第二王子が兄である王太子を睨む。


「あっ、そう言えば、さっき公爵令嬢のカトリーヌ様がベアトリーチェ様に『美しくなった王太子殿下に貴女みたいな醜女は相応しくありませんわ。』って婚約解消を迫ってたわ。」


「なんだと、あの顔も心も醜いオーク公爵令嬢め!!」


「本当は自分だってオークって思ってんじゃねえか!!!」


「そのオーク公爵令嬢、この世界では絶世の美女で通ってるけどね。」


「ふざけんな、やってられるかぁ〜!!!兄ちゃん婚約者ゆずってくれ!!!」


「絶対嫌だね!王太子の座をゆずる事があっても、ベアトリーチェだけはゆずるか!!!」


突き出た腹をぶつけ合う大乱闘か始まった。




「ストップーーーーーーー!!!!!」


パンッと王女が手を叩く!!!


「皆言いたいことはあるだろうけど!今は私の婚約について考えてよ!!」


肉に埋もれた小さな目をメラメラと燃やす王女に皆がハッと注目する。



「そ、そうだったな、あの呪いを解いた若者の件で集まったんだった………。」


「うっ………うっ…………。」


王太子が頷き、第二王子も泣きながらも姉に向き直る。



「あ、えっと、お、怒ってる!?あの、勝手に報奨にあげるとか約束しちゃって……怒ってる?」


「で、でもでも、あの若者、(前世基準では)すっごい美男子だったしゃない?駄目なの?えっ、気に入らなかったの?」


オロオロと狼狽える王と王妃を王女はジロリと睨みつける。


「「ひいっ!」」


「怒ってる!!それも怒っているけど、それよりあいつ等よ!!あいつ等ふざけやがって!!!」


ダンッとテーブルに拳を叩きつければ、重みでパカリとテーブルが割れた。


「あんの、オーク令息共め!!!!」


「「ひいいいいい!!!」」


王女の呪が解けた途端、貴族の令息達は目の色を変えた。


報奨として結婚が決まったと言うのに、その日の内に、高位貴族たちから続々と婚約の打診が来て、報奨の話をなかった事にするよう願う嘆願書が山のように届いたのだ。


「あいつら………。私が不細工だった時は散々人の事を化け物呼ばわりしておいて、いまさら良くも愛を囁けるな……!」


呪いにかかっていた時、王家の中で最も醜かったのは王女だった。

その為王女が一番いじられて来たのだ。

令息達は王女を醜い化け物のように噂し合っては、万一目をつけられたら堪らないと避けに避けまくり、王女と結婚する事を刑罰のように恐れた。

陰で『オーク姫』と呼ばれていた事も知っている。


それなのに令息たちは態度をコロリと変えて、暑苦しい視線を送ってくるようになったのだ。


それに王女は完全にキレていた。


「こっちだってオーク令息とかマジで無理!!!!

父ちゃんと母ちゃんには責任とってもらうからね!!!」


「せ、せせせ、責任て?わ、わし、何したら良いの?」


「そんなの決まってるじゃない!!何が何でもジーク様と結婚出来るようにして!!!」


魔女の呪いを解いた若者ジークは王女の好みのタイプ、ドンピシャリだった。


呪いが解ける前は、鎧に包まれた醜い引き締まった筋肉(今世基準)の体を見て、どんな醜い顔の男が来たのかと戦々恐々としていたのだが、呪いが解けた今、彼のご尊顔は天に感謝するレベルだった。


『マジで一目惚れしたわ!!!』


これで自分が元の超絶美女(前世基準)だったらとは思うが、今世では今の醜い姿が絶世の美女らしいので仕方ない。

彼の方がこちらとの結婚を望んでくれている以上、これを逃す手は王女にはなかった。


それにこれを逃したら自分は一生結婚など出来ないと思う。

王女である自分が輿入れ出来るこの世界の王族や高位貴族は大抵が美しい(今世基準)。

そして呪いが解かれる前、考えられる全ての王侯貴族に婚約の打診をしたが、醜いということで嫌がられ断られていた。そのためずっと婚約者は見つからなかったのだ。王女との見合いのパーティーで、王女を激しく押し付け合い大喧嘩になっていた苦い記憶が蘇る。


それなのに今更美しくなったからと態度を変えた相手と上手く行くなど、顔の問題を除いても、まったく思えなかった。



「兄ちゃんもケント(第二王子)も協力してくれるでしょ?」


「ああ……そうだな。どちらにしても、あのオーク共より良いだろうしなぁ。」

王太子も貴族令息達の今までの妹への態度を知っているだけに、大きく頷いた。


「ズルい!姉ちゃんも結局格好いいの(前世基準)とくっつくのかよ!」


「協力してくれたらジーク様のご親戚の女の子を紹介して貰える様に頼んであげるよ?」


「全力でバックアップするぜ!!!姉ちゃん!!!!」


第二王子はサムズアップで答えた。




そしてロイヤルファミリー全員が一丸となって、呪いを解いた若者と王女の結婚を押し進めて行く事になったのだった。





呪いを解いた若者ジークを逃さない為の作戦として、王家は様々な策を打ち出した。


ジークを歓待する事はもちろんのこと、醜い(今世基準)ということで肩身の狭い思いをしているであろうジークの環境も良くするべく動き出すことになった。


「まずは美醜についての偏見を無くすことから始めましょうか!」


魔女が醜いという理由で宴に呼ばれなかったのを見て分かるように、この世界は美醜に対してとても強い偏見があった。

前世の王や貴族達などの権力者が自分たちは神から選ばれて、この地位に産まれたのだと特権を掲げて横暴に振舞っていたのと同じように、

美は天から与えられたもの故、美しければ美しいほど神に愛される素晴らしい人間だと考えられ、逆に顔が醜いものは、神から見放された心も卑しく醜いのだと、広く思われていたのだ。

その為、醜い者はどれ程頑張っても正しい評価を貰えないのが常だった。


この問題を解決すべく、王家は美醜による不当な扱いを全面的に禁じる命令を打ち出した。


そして周囲を驚かせる事に、王と王妃ははこれまで見目が良くないという理由で遠ざけていた家臣達に頭を下げたのだ。


「本当今まで申し訳ありませんでしたー!!!!」

「お願いします!王宮に戻って来て下さいー!!!!」


美貌の王と王妃がスライディング土下座で元家臣達に頭を下げる姿は圧巻で、今まで不当に扱われていた家臣たちはタジタジとなったが、王と王妃の真摯な謝罪と懇願に打たれ再び王家の為に働くことを了承してくれた。


美が全てであると思っている貴族達は大反発をしたのだが、圧倒的な美貌を誇る王家の人間に


『美がそれほどまでに重要だと言うのなら、我等よりも醜いそなた達に王家の決定に逆らう権利はなかろう。』

と一蹴されて終わった。


それでもまだ己の美を鼻にかけていた貴族達の中には、業務をボイコットする者もあったが、見目が悪くとも優秀な者達に取って代わらせれば、美しいだけで上に立っていた連中など足元に及ばないほどの成果を上げて、結果ボイコットしていた連中はそのまま職をなくし、国はどんどん風通しが良くなっていった。


こうして王国は、美醜に関係なく、優秀な者たちが重職に就ける国として噂が広がり、容姿のせいで正当な評価を得られなかった優秀な他国の者たちまでもが、続々と集まり加速度的に発展していった。


美しい人間ばかりで固められていた王宮にどんどん見目の悪い者たちが増えていった事から、一部の心ない者達からは "不細工パラダイス" などど揶揄されたりもしたが、それも王家の神々しい美しさの前では誰も表立って文句をつけられる者はいなかった。


そして嬉しい誤算だったのか、ジークのスペックが予想以上に高い事だった。


この世界にありがちな、醜い故に人一倍努力しなければ認められない状況であった事を差し引いても、非常に頭の回転がはやく、魔女を探す為に世界中を旅していた為、幅広い知識を持ち、各国の情勢や地理にも詳しかった。

王太子である兄など彼を側近にと言い出すほどであった。

時々商隊の護衛の仕事をしてお金を稼いでいたらしく、鍛えあげられた肉体から察せられるように戦闘力もとても高かった。その実力は王国の騎士団長ですらのしてしまうほどで、やや脳筋気味の弟の第二王子などすっかりその強さに心酔してしまった。


超絶に醜いジークが優秀さを示すことで、美貌と個人の能力には何ら関係がないのだと示すことが出来、王女とジークの婚姻に対して不平や婚約の撤回を求めていた貴族や貴族令息達を封じることが出来た。


美しさを全ての基準と考えてきた人々も、ぐんぐんと発展し良くなる国を目の当たりにして、その考え方を見直す者も出始めて、かつての王国とは比べ物にならないほど、醜い人間にとって住みよい国へと変わって行った。


更に王家の人間は事あるごとにジークを持て囃した。

『これも全てジークのお陰だ!ジークこそが我々の呪いを解き、美醜に囚われる等と言う最も愚かしい呪いも解いてくれたのだ!!!』

と強調した為、これまで虐げられてきた容姿に難ありな者達から大変な感謝をされる事となり、狼狽えるジークを他所にこの国でのジークの地位は不動の物となっていったのだった。


国の美醜感覚の改善も順調に進み、王女とジークの結婚に反対するものもいなくなり、周囲の地盤は完璧に整えられていった。


当のカリーナ王女とジークの関係も良好で何ら問題はないように思われた。


王族の婚姻には、婚約期間を一年設けるのが慣例のため、婚姻までの間ジークには王宮に住んで一緒に暮らして貰うことになっていた。

婚姻前だと言うことで、寝室はまだ別々の部屋を使っているが、カリーナはジークの側を片時も離れず、熱烈なラブコールを送り続けていた。


魔女の呪いを解いた報奨として王女との婚姻を望んだジークだったが、どうやら当初はその願いが本当に叶うとは露とも思っていなかったようで、王家の歓迎ぶりと王女のダダ漏れの好意にずっと困惑の表情を浮かべていた。


謁見の次の日王宮に招かれた時など、王と王妃はジークに会った途端、『我が息子!救世主よ〜!!』と縋りつき、無駄に派手な顔に涙を浮かべ『お願いだから王女と結婚してね!気が変わったとか言わないでね!』と手を合わせて懇願して、ジークを驚愕させた。

王女の兄である王太子は『色々と文句垂れてくる奴等がいるかも知れないけど、ぜんぶ黙らせるから!任せろ義弟よ!』と見惚れるほどの格好いい笑顔で王女との結婚を歓迎し、唖然とさせた。

王女の弟である第二王子は『ジークさんみたいな兄上が出来るなんて嬉しいです。もう、お兄様とお呼びしてもいいですか?』と猫なで声の上目遣いで、キラキラと愛らしい顔でお願いし、戸惑わせた。

そして報奨となったサリーナ王女は絶世の麗しい顔に眩いほどの笑顔を破顔させて、大喜びで出迎え、『ジーク様の婚約者になれて嬉しいですわ!』と熱い眼差しを送り、呆然とさせた。


頭の理解が追いつかず目を白黒させて、ずっと狼狽えていたのも今は懐かしい。


『こんな醜い自分になぜ好意を向けてくるのか?』と最初は訝しそうにしていたジークもカリーナのスキスキ猛攻撃に段々と絆され落ちてきているようだった。



ジークは基本物静かで、カリーナが話しかけても二言三言(ふたことみこと)返してくれるくらいだったが、知識をひけらかしたり、強さを誇ることもなく、反発的な貴族に絡まれても対応はいつも穏やかだった。

カリーナはそんなジークの事がどんどん好きになり、ジークの事を知りたくて知ろうと沢山話しかけ、その度にジークの良い所を見つけ出してはジークを褒めまくった。

醜い者が冷遇される世界だ。きっと今まで心ない言葉も沢山言われてきただろうと考えたカリーナは、ジークの劣等感も払拭してあげたくて、容姿以外の美徳をこれでもかとジークに伝え、愛情表現も惜しまなかった。

カリーナのストレートな愛情表情に、ジークはその都度真っ赤になって照れていて、初心で可愛い反応にカリーナは何度悶えただろうか。

そうして、顔から一目惚れしたカリーナだったが、もうすぐ一年が経つだろう頃には、すっかりジークの人柄に惚れ込んでしまっていた。


温度差はあるもののジークもカリーナに対して憎からぬ感情を抱いてくれているように感じられ、カリーナは幸せの絶頂にいた。

しかし気がかりな事が一つだけあった。


もはや日課となったカリーナの愛の告白に対して、顔を朱に染め嬉しそうな笑顔を見せてくれるも、ジークの笑顔にはどこか影があるように思えた。

どこか辛そうな、憂いを帯びた笑顔を見るたびにカリーナの胸はチクリと痛んだ。


それにジークの人柄を知れば知るほど、真面目で誠実な性格なのが分かり疑問が浮かんでくるのだ。


『どうして呪いを解いた報奨に()()()()()()()()を望んだのだろうか?』


ジークの性格上、ただ美しいからという理由や王女の夫という地位で女を欲するとは思えなかった。

『もしや覚えていないだけで昔何処かで会って見初められたのか!?』

などどお花畑な事を考えたりもしたが、ジークほどの超絶美形に会って忘れるなどある訳がない。

そもそも平民のジークと王家の王女である自分が出会う場などある筈もない。

自分が醜いと自覚しているジークだ。結果的にカリーナは大歓迎したが、報奨に求められた王女が嫌がることなど予想したはすだ。それなのになぜ強引に求めるような真似をしたのかサッパリ理由が分からなかった。


疑問符を抱えつつも、これからもっと好きになってもらえばいいし、いつか理由を話してくれるたろうと、一抹の不安や痛みに蓋をして考えることなく日々を過ごした。


しかしちょうど一年が経ち、さあそろそろ結婚だと期待に胸を膨らませつつある時だった。その疑念に向き合う時が来た。


『話があります。』と王家の皆を集めると、ジークは深々と頭を下げた。

突然の事に理由がわからず王家のメンバーは固まり顔を見合わせた。


「ど、どうしたんですかジーク様?頭を上げてください。な、何かあったんですか?」

いつまでたっても頭を上げないジークにカリーナが代表して声を掛ける。

ジークがゆっくりと顔を上げ、心配するカリーナの顔を見ると、ジークの顔は苦痛に歪んだ。


「申し訳ありません…。俺は…………ずっと嘘をついていました。

一年前、魔女の呪いが籠もった水晶を奪って来たというのは嘘なんです。

呪いの水晶は奪って来たんじゃなくて魔女から渡されたものだったんです…。」


「えっ!?」


「ど、どういう事だ!?」


「な、なんで魔女が!!??」


驚きで動揺する王家を前に、ジークは意を決したように口を開いた


「それは……………「やだわ!ジークったら勝手に喋っちゃったら契約違反じゃないのぉ!!!」」


ジークが説明しようとした言葉に被せて、甲高い女の声が何処からともなく聞こえてきた。


ブワリと煙が立ち込め、現れたのは(くだん)の呪いをかけた魔女だった。


「!!!!お、お前は!!」

「の、呪いの魔女!!!!」


王と王妃の言葉に子供達である王太子と第二王子、そして王女が唖然として魔女を見つめる。

呪いをかけられた当時、幼子と赤ん坊だった彼等は魔女の顔を知らなかった。ほぼ初対面だ。

年齢不詳の魔女は、燃えるような赤毛にパッチリとした緑の瞳にボン・キュッ・ボンの噂に違わぬ迫力の醜さ(今世基準)だった。


「そうよ!!久しぶりね。王とおう……ひいいいいい!!!???」

ズザザザザーーーっと流れるようなスライディング土下座で王と王妃が魔女の足元に滑り込む。


「その節は大変に申し訳ありませんでしたあああああああ!!!!」

「調子来いてごめんなさいいいいいいい!!!!」


「ちょっ!?な、何アンタ達!?キャラ変わってない?」

『すいません!すいません!』と謝る王と王妃の勢いに押され、魔女がヒクヒクと口元を痙攣させた。


両親である王と王妃は仕方ないとして、子供であった自分達にまで呪いをかけた魔女に、会ったら文句の一つも言ってやりたいと思っていたが、今はそれは置いておいて、カリーナは聞かなければいけない事がある。呆けた意識を戻し、魔女に問いかけた。


「呪いの水晶玉をジーク様に渡したとか、契約違反って何ですか?」


突然の事にポカンとしていた王太子と第二王子もハッと我に返り問いかける。


「そ、そうだ。魔女が呪いの水晶玉をジークに渡したとか言っていたが、どういう事なんだ?」


「ジークさんと魔女って何か関係があるんですか?」


三兄弟の問いかけに、魔女がフフンと鼻を鳴らした。


「そのまんまの意味よ。私がこのジークにアンタ達の呪いを解く水晶玉を持って行かせたのよ。そして呪いが解けたら、王女との結婚を報奨として要求するように指示したの。」


「どうしてそんな………。」


魔女の意図がまったく分からなくて困惑する。そんな事をして魔女に一体どんなメリットがあると言うのか?

すると魔女は少しバツが悪そうにコホンと咳払いをする。


「……………まあ、その。呪いをかけた時は頭に血が昇っちゃって、王家全員に呪いをかけたんだけどね、ちょっと……、ちょっと子供達にまで呪いをかけたのは、やり過ぎだったかなぁ?と思って。」


「「 ああっ!?」」

王太子と第二王子が地の底から響くような声をあげる。


「ちょっ!睨まないでよ!だから、救済措置として呪いを解いてあげる事にしたんじゃない。

でもただ解いたんじゃ面白くないし、『この親にしてこの子あり』って言葉もあるじゃない?

クズ親の子供もクズな可能性があると思って、醜い男が王女を報奨として望んでも、約束通り望みの報奨を与えるか、そして1年間約束を反故にすることがないか試して、大丈夫だったら完全に呪いを解いてあげる事にしたのよ。

それでジークには願いを叶えてあげるかわりに協力するように契約させたの。」


「はぁ!?なんだそれは!ふざけるな!!」


「お前、俺達を試す為にジークさんを使って姉ちゃんを報奨に求めさせたのか!?」


王子二人が怒り心頭に魔女に詰め寄った。


「やっ、やぁね!元はと言えばアンタ達の親が悪いんじゃないの!

でも良かったじゃない。今日で約束の一年がたったからアンタ達の呪いも完全に解けたわよ。

それに、結果として醜い者を受け入れる事で、この国は発展してるみたいだし?なかなか住みやすくなったみたいだから、何だったらまた私が力を貸してあげてもいいわよ?

この十数年私がいなくなったことで、私の偉大さも身に沁みてわかったことでしょうし?」


「「てめえ…………。」」

ギリギリと拳を握りしめて怒る王子達。


カリーナはジークの方に目を向けた。

魔女が喋っている間、ジークは俯いたまま一言も声をあげなかった。

カリーナはジークの言葉で真実を知りたかった。


「ジーク様……………。魔女の言ってることは本当ですか?」


カリーナが感情を乗せない声でジークに問いかける。

ジークの肩がビクリと跳ね、ハッと皆の視線がカリーナとジークに集まる。


「魔女に言われたから……………私との結婚を報奨に望んだんですか?」


「カリーナ王女……………。」

俯いていたジークが苦しげな表情をカリーナに向ける。

しかしジークは肯定も否定もしなかった。

カリーナの瞳が揺れる。



「…………それで………魔女の言う事を聞いて…1年間私と婚約を続けて……ジーク様は何を得れるんですか?」


「ああっ、そうだったわ!」

カリーナの言葉を聞いた魔女が、空気など何も読まないようにパチリと指を鳴らす。


ボワリと再び煙が立ち込め、一人の少女が姿を現したかと思えば、ジークに抱きついた。


「ジーク!ジークなんでしょ?ごめんなさい私の為に、こんな姿になって!!辛い思いをさせて!!!」


ふわりとした栗毛色の髪に、湖の湖畔のような水色の瞳をキラキラと潤ませて、ジークを見つめる少女。

透きとおるような白い肌に薔薇色の頬の可憐な少女とジークが向かい合えば、まるで一服の絵画の様に美しい光景が広がった。


「まあ、ちょっと契約よりしゃべるのが早かったけどサービスしてあげるわ。」


そして再び魔女が指を鳴らせば、二人は眩い光に包まれた。


光の中から出てきた二人は、先ほどの光のように()()()姿。


王家全員が息を呑む。


「ああっ、戻れた!戻れたわジーク!元の姿に戻れたわ!!」


「………………………ヒルデ………。」


「これで()()()()()()()有り難うジーク!」

ヒルデと呼ばれた()()()少女が同じく()()()()()()()()()ジークに抱きつき喜びの声を上げる。


カリーナはそれを無表情に眺めていた。


(ああそうなんだ…………。なんだ、そういう事なんだ……………。)


考えれば、ジークの態度はいつも戸惑ってばかりだった。ジークの様子が変な事にだって気づいていたじゃないか。

ショックを受けるも、どこかで納得している自分がいた。



「ふぅー、さあコレで一件落着ね!ヒルデあんたジークに感謝しなさいよ。あんたを元に戻すためにジークは一年も醜い姿になって頑張ったんだから。他の魔女がかけた呪いを解くなんて私じゃなきゃ出来ないんだからね!」

魔女が一仕事終えたかのように晴れやかに笑った。


「…はい。…………はい、有り難う……ジーク。」

ヒルデが泣きながらジークに縋り付いてお礼を言っている。




「は、ははっ」

とんだ茶番だと乾いた笑いが出た。


「良く……分かりました。………ジーク様、ヒルデさんとお幸せに。」

流石にこれ以上見ていられなくて、カリーナは踵を返した。


「!!!カリーナ王女!待っ………。」

走り去ろうとするカリーナに気づいたジークが手を伸ばしたが、ジークを遮るように王太子が前に出て、凍てつくような冷たい瞳でジークを睨みつける。


「ジーク。妹を追いかけることは許さない。」


「!!!王太子殿下……。」


「あら、なあに?何で急に出て行ったの?」

一人理解していない魔女がのんびりと小首を傾げる。


「ふざけんな……ふざけんなよ魔女!姉ちゃんが何したって言うんだよ!!人の事振り回すのも大概にしろよ!!!ジークさん……てめえも…姉ちゃんの気持ちを知ったうえで、よくも……よくも騙せたな!!どんな事情があったか知んねぇけど、ふざけんな!!!

魔女もお前らも消えろよ!とっととこの国から出てけよ!!!」

ぶるぶると拳を震えさせ第二王子が叫んだ。


「なっ!!!なんなの!?せっかく呪いを解いてやったのに!

なんて無礼なのかしら!王と王妃がクズならやっぱり子供もクズなのね。

ちょっとは、この国にいてやってもいいかと思ったけど撤回するわ!

後で泣きついてきても知らないからね!!」

第二王子に怒りをぶつけられ、状況がわかっていない魔女はキーキーと怒った。


「いいや魔女、お前には今すぐこの国から立ち去ってもらう。」

「ええ、そうね。直ぐに出ていってちょうだい。」

それまで魔女の足元でスライディング土下座をかましていた王と王妃がすっくと立ち上がった。


「はっ?さっきまで泣いて謝っていたくせにアンタ達まで何よ?

元はあんた達のせいだってこと、喉元過ぎれば忘れたのかしら?

もう一度呪いをかけてあげたっていいのよ?」


「そうだな悪いのは儂らだ。だから儂らに呪いをかけたのはいい。

だが子供達にしたことは絶対に許さん!!呪いたければ好きに呪えばいい!醜くくされようが、たとえヒキガエルにされようが、お前はこの国には置かん!

いますぐ去れ!!!」


「あなた良く言ったわ!!!その通りよ!呪いたければ呪えばいいわ魔女!だけど私もどんな姿にされたって、絶対にあんたをこの国にいさせたりしないわ!」


王と王妃、王子二人に凄まれて魔女はたじろいだ。


「なによ!なによ!なによ!こっちこそこんな所にいてやるもんですか!

ジーク!ヒルデ!あんた達も行くわよ!!!」


魔女がパチリと指をならし3人が煙に包まれる。


「!!!!ま、待ってくれ!魔女………………………。」

最後にジークが焦ったような声を出しながら、煙の向こうへと消えていった。


嵐のように現れた魔女が消えれば、そこにはどうにもやり切れない怒りだけが残された。








一ヶ月後、王宮の庭園にあるガゼボでカリーナはぼーっとお茶を飲んでいた。

あれからまったくやる気が出ず、何をする気にもなれない。


あの後、家族達はみんな魔女とジークに憤ってくれた。

だけどカリーナは怒る気力がわかなかった。

それどころか、やっとジークの笑顔が曇っていた理由が分かって、今となっては逆に申し訳ない気持ちにすらなっていた。


王家を騙したことや、カリーナに少しでも気のある素振りを見せたことに対して、まったく腹が立たないといえば、嘘になる。

だけどジークにも事情があったのだし、何より王家の美醜感覚が逆転している事を知らなかったのだ。

ある意味、こちらも騙していたようなものだ。


ジークにしたら報奨に望んだ王女が自分に熱を上げるなんて予想外もいいところだっただろう。

醜い姿に変にかえられていたのだ、王女に好かれるなど露とも考えていなかったはずだ。

好意を寄せるカリーナに、ジークはずっと困惑していたのだから。


それに、こちらがジークを好きになったのだって、最初は顔を好きになったのだ。前世の記憶が戻り、美醜感覚が逆転していたからこそ、美しいジークに一目惚れしたのだ。

もちろんその後、人柄にも惚れだが、これが記憶が戻る前の自分だったらどうだったろうかと思うと、きっと結果は違っていただろう。


つまり本来であれば、魔女の呪いが解けて、円満に婚約解消となって、めでたしめでたしで終わっていたのかもしれないのだ。


そう考えると、なんだかジークを顔で好きになった自分が悪いようにも思えて来ていたたまれなくなった。


その上、ジークの笑顔にどこか影があることに気づきながら、自分は見て見ぬふりをしてきたのだ。

どこか辛そうな、憂いを帯びた表情は、騙していることへの罪悪感だったのだろう。優しい彼の事だ、きっと相当辛かったに違いない。

時々何か言いたそうにこちらを見つめていたのも気づいていた。

それなのに、その事に目を向けず、そのまま結婚しようと思っていたのだから、自分も大概酷い女だと思った。


家族は落ち込むカリーナを一生懸命慰めようとしてくれた。


「父ちゃんがカリーナにふさわしい超絶不細工(前世基準)を見つける大会開いてもっといい奴見つけてやるからな!!」


「母ちゃんも、いい醜男がいないか社交界の伝手をフル活用して情報を探ってみるからね!!」


「男はジークだけじゃないぞ!今ならこの王宮にだってカリーナの気に入る相手がいるかも知れない!あんな男忘れて元気を出せ!!」


「そうだよ姉ちゃん!この世界でなら姉ちゃんは超絶美女なんだからさ!自信持って次行こうよ!!!」


「ありがとう………。でももう多分、私はこの先誰かを好きになる事は出来ないと思う……。」


そんな事を言って家族を凍りつかせ、心配させてしまって大変申し訳なかったが、もう心底恋愛などする気がおきなかった。


カリーナはジークが本当に好きだった。

呪いが解けて元に戻った()()()姿を見ても、その気持ちは変わらなかった。

この美醜逆転の世界で、こんなに好きになれる人はもう現れないだろうと思えるほどに。

この先仮にどんなに素敵な人が現れても、きっとジークと比較して好きになんてなれない気がした。




「……………………もう誰とも結婚したくない。」


「…………………………それは………困ります。」


ここにいないはずの人の声に驚いて振り返れば、更に驚愕の声が出た。


「!!!どどど、どうしたんですか!?その姿は!!!」


そこには、サラリとしたカラスの濡羽色の黒髪に、スッと通った鼻筋にスッキリとした面長の顔、シミ一つない陶器のように滑らかな肌に、煌めく深い海のように青い瞳の眉目秀麗な男………………そして両目の周りを丸く青痣でパンダにしたジークの姿があった。


「エエッ!!??何で元の醜い姿(今世基準)に戻ってるの!?

いや、そ、それよりその目はどうしたんですか!?なんで目の周り青痣パンダになってるんですか!!!???」


ジークがここにいる事に驚いだが、ジークの姿にはもっと驚いた。

何がどうなって青痣パンダなのか。せっかくの美貌もパンダ目のせいで台無しだ。


慌てるカリーナに、苦笑したジークが己の顔を指差し説明する。


「魔女に頼んでもう一度この姿に変えて貰いました。

国王陛下には一生この姿でいることを誓って、貴女に会わせて貰えるよう許可を取りました。

この両目の痣は、王太子殿下と第二王子殿下にそれぞれ頂きました。」


「えええええっ!!!!」


一生この姿って何言ってんの!?父ちゃんたら何誓わせてんの!?

そして何してくれてんのかあの野郎共。ジーク様の国宝級の美顔に跡でも残ったらどうしてくれるのだろうか………。


「す、すいません!うちのバカどもが………。」


「いいえ、国王陛下方のお怒りはごもっともです。

俺はこの一年ずっと皆様を騙していたのですから……。

むしろこの位で許して頂けるのなら安いものです。」


「で、でも何も殴らなくても………。」

確かに嘘をついていたことは良くないことだったかもしれないけれども、何も殴らなくてもいいと思う……。


「いいえ、俺は殴られて当然の事をしました。

貴女に許して頂けるなら、何百発殴られてもかまいません。

だから、俺に謝罪と弁明をさせて貰えませんか?

本当でしたらもっと早くこちらに戻ってするべきだったんですが、 魔女に飛ばされた場所がかなり遠くて、戻って来るのに時間がかかってしまったんです。申しわけありません。」


「い、いえ、私ならもういいんです。怒ってなんていないですから。

……………それに………弁明なんて……。」

今更言い訳なんて聞いても仕方がない。

ジークが恋人のヒルデの呪いを解くために魔女と契約した事はもう十分分かっている。

もう分かっているから、二人で幸せになったらいい。


それとも謝罪して、心を軽くしたいのだろうか?

祝福してとかだったら、ちょっと、だいぶ受け入れ難い………。


「本当にもういいんです。謝罪も、弁明もいりませんから……………。


…………………恋人のヒルデさんと末永くお幸せになって下さい。」


結局祝福してしまい、流石に泣けてきたので、もういいから早くお引き取り願いたい。

あまりに苦しくて思わずポロリと涙が溢れた。


それを見たジーク様が目を見開く。


「違います!!!!ヒルデは俺の恋人じゃありません!!!」


「えっ?」


「ヒルデは俺の()()()()です!!!!」


「えっ?」


ジークの言葉が頭に入ってこず、一瞬呆ける。


「恋人ではありません!ヒルデは俺の双子の妹なんてす!!」


「えっ?えええっ!!??いや、いやいや、嘘!絶対嘘!!だって二人全然似てないじゃないですか!!!!」


「似てないですが、確かに俺たちは双子の兄妹です。俺が母似で妹が父似なんです。誤解てす!!!妹の婚約者に横恋慕した魔女が、妹に美醜反転の呪いをかけたので、俺はその呪いを解くために魔女と契約してたんです!!!」


「そ、そんな…………。」

ヒルデがジークの妹で、妹のヒルデの婚約者に横恋慕した魔女が呪いをかけた。

驚愕の事実に体の力が抜けて行く。



「誤解をさせて申し訳ありません!それも全部本当の事を話して来なかった俺のせいです。それに今まで王家を騙し、貴女に本当の事を告げずにいた事、大変申し訳ありませんてした。」


ジークは心底申し訳なさそうに、深々と頭を下げた。


「いえ、もう本当にいいんです。騙されたと言っても、元はと言えば王家が魔女の怨みを買うような事をしたのは本当なんです。

………………それに………もう終わった事ですから……。」


「終わった………?」


「……はい。ジーク様のご事情も分かりましたし、魔女の件については責める気なんて私にはありません。

むしろこの一年、ジーク様のお気持ちも考えずに一方的に好意を押し付けてしまって申し訳なく思っているくらいです。

どうかもう、これからは王家のことも私のことも気にしないで下さい。

父ちゃ……父が何といったかは知りませんが、そのお姿も元に戻されて結構です。

父や兄達にも、これ以上ジーク様に手出ししないように伝えておきますから。」


ヒルデがジークの恋人じゃなかったと聞いて安堵した。

だけどジークとこのまま何事もなかったように過ごすのは無理だろう。

ジークが報奨に王女を望んだのは、あくまでヒルデの呪いを解くためで、本人が望んだことではないと知ってしまった。

もう呪いの件でジークが振り回されるような事になって欲しくない。

これ以上罪悪感を持って欲しくなくてそう言えばジークがサーッと青ざめた。


「…………それは…婚約を解消する……と言うことですか?」


「はい……呪いが解けた以上、ジーク様には無理して私に付き合って頂く必要もないでしょうし……………ずっと付きまとって、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。」


チクリと胸が痛んだが、ジークの罪悪感を利用して縛り付けるようなことはしたくなかった。

ジークが私のことを憎からず思ってくれるようになったのは分かっているが、愛しているわけじゃないことも分かっている。

私が一方的に好き好きと迫るのを、申し訳なさから受け入れてくれていただけなのだから。それならもう解放してあげたい。

だから微笑んでそう告げれば、ジークは青ざめた顔を更に青くして慌て出した。


「違います!!俺はカリーナ王女の好意を迷惑だなんて思った事は一度もありませんし、無理して付き合ってなんかいません!

むしろ好きだと言って頂くたびに、嬉しくて仕方ありませんでした!!

本当は俺も貴女に愛していると伝えたかった。でも騙している自分が後ろ暗くて言えなかったんです………。

お願いします!!どうか、俺にもう一度チャンスをくれませんか?

騙していた分際で、厚かましいとは思います!でも、もし、少しでも俺に好意が残っているなら、もう一度、貴女を愛する資格を頂けませんでしょうか!」


「!!!!!!!」


真摯な眼差しででジークに懇願されて驚く。

まさかジークが自分の事を愛してくれていたとは、嬉しさで駆け出して行きたい気分になったが、自分こそ愛する資格が無いことを思い出し思い留まった。

ジークはあの事を知らない。

自分が前世の記憶を持ち、その記憶から美醜感覚がこの世界と逆転している事を。逆転しているからこそジークの()に一目惚れした事を。

ジークはきっとカリーナの事を、醜い容姿にこだわらない、心優しい女性だと思って、好意を持ってくれたに違いない。

本当の事を知ったらきっと幻滅するはずだ。


「ありがとうございますジーク様。だけどジーク様は知らないんです。

私は貴方に好かれるような心の清らかな女性じゃないんです。

本当は人一倍美醜にこだわる酷い女なんです……。

私は…最初貴方の事を顔で好きになりました………。私………実は………。」


「美醜感覚が逆転している事なら知っています。」


「えっ?」


「先ほど国王陛下から聞かされました。」


「えっ?えええええええっ!!!!???」


何言ってくれてんのあのハゲ親父。

そしてジークは何でそれを聞いて平気な顔してるの!?


「な、何で……何で、聞いたなら愛してるなんて言えるんですか? 

美醜感覚が逆転してるなんて聞いて頭おかしいと思わないんですか?

貴方の事を顔で好きになったなんて分かったら嫌じゃないんですか?」


ジークの感覚が分からなくて動揺する。

ジークは困ったような顔を向けた。


「国王陛下は恐らく俺に諦めさせるためにその話をされたんだと思いますが、俺としたら良いことを教えた頂いたくらいにしか思えませんでしたね。」


「はっ?」


目が点になるとはこの事だろうか。超絶ジークの言っている意味が分からない。


「だってそうでしょう?俺がこの超絶不細工な姿でいれば、貴女は俺だけに見惚れてくれるって事でしょう?この世界のどんな美男子が貴女を口説いてきても、貴女からみたら全員不細工な訳です。それにこの世界の不細工な男は絶世の美女である貴女に畏れ多くて粉をかけることをしないでしょうから、俺としては安心でしかない訳です。」


「はっ?いやいや、何言ってるんですか?ジーク様は超絶不細工だって今の自分の姿を思うんですよね?それなのに不細工のままでいる気なんですか?そんなの嫌じゃないんですか?」


「貴女が好いて下さるなら別に何とも思いませんね。国王陛下にも貴女への面会の許可を頂くに際して『それなら一生その不細工なままでいる覚悟があるのか?』と問われましたので、『はい、喜んで。』と答えました。」


「はあぁぁぁ!!!???待って、待って、待って!!そんなの可怪(おか)しいですって!第一に私に好かれる為って、何でなんですか?()()()()()()()()って言ってるじゃないですか!!普通嫌でしょ!ジーク様はそんな女が良いんですか!!??」


「確かに顔()()が好きだと言われたら嫌ですけど、自惚れじゃなければカリーナ王女は俺の顔以外も好いてくれているでしょう?

顔なんて最初のきっかけなだけで、それほど重要じゃ無いんじゃないですか?

誰にだって容姿に対する趣味趣向はあるものです。それよりもその人の中身が愛せるかどうかが一番大切だと思います。」


「なっ!!!!」

衝撃にポカーンと口を開けたままフリーズしてしまう。


「ちなみに俺はカリーナ王女がどんな姿だとしても愛せます。今の絶世の美女の姿も素敵ですが、貴女の美醜基準の美女になったとしても、可愛いと思えるでしょう。

むしろ、そうなったら貴女を狙う不届き者が減って、いいとすら考えてます。」


「はっ!!??」

一気に顔に熱が集まり火照る。


「貴女は、醜い俺を沢山褒めてくれました。容姿以外の良い所を見つけようと一生懸命俺を知ろうとしてくれました。そして容姿以外の俺の知らない良い部分を沢山見つけて認めてくれました。」


「そ、そんなの好きになったら当たり前の事じゃないですか!!でも、それだって最初に容姿が好きだったから知ろうとしたんですよ!物凄く不純じゃないですか!?」


「先ほども言いましたが、きっかけはどうでもいいんです。

大事なのはちゃんとその人本人を見てくれているかどうかです。

カリーナ王女は俺の本当の醜い姿(前世基準)を見て、嫌いになりましたか?

醜い俺はもう好きではありませんか?」


「そ、それは…もちろん好きに決まってますけど………。」


もう二度と恋など出来ないと思うほど好きなのだ。今さらどんな姿になろうと好きに決まっている。

だけど、まだ納得出来ないカリーナにジークは優しく微笑みかける。


「ありがとうこざいます。嬉しいです。

自分でこんな事を言うのもなんですが、本来の俺の姿は…まあこの世界ではかなり格好いい部類に入ります。それは分かりますか?」


「えっ?あっ、はい。」

呪いは美醜を反転させる。今の超絶美男子なジークが反転するのだから、超絶不細工なジークはこの世界では超絶美男子になるに決まっている。

美男子だと思えなくとも、知識としては勿論解っている。


「俺はどちらかと言えば容姿を褒められて生きてきた人間です。

だからある意味褒められ慣れています。ですが、呪いで醜くなってみて、貴女に容姿以外を褒められるようになって、初めて気づいたんです。


容姿を褒める者は沢山いても、中身を褒める人間はなんて少ないんだろうと。

そして中身は変わってないのに外見が変わるだけで、こんなにも扱いが変わり、褒められるところが無い人間になるのかと驚きました。


だけどカリーナ王女、貴女は違う。貴女は容姿が好きで終わらない。人の中身をちゃんと知ろうと努力出来る人です。


俺は今まで、貴女ほど真剣に人の良い所をいっぱい探して頑張る人を見たことがありません。そして貴女ほど、純粋に俺の良い所を探して、見つけ出して、褒めてくれた人はいませんてした。


貴女が容姿以外の良い所を探して褒めてくれるたびに、俺の心は喜びで満たされました。俺の中身を知ろうと頑張ってくれる姿が愛おしくてたまらなくなりました。

そしていつしか、そんな純粋な貴女を愛している事に気付きました。」

ジークが蜂蜜を溶かしたような甘い表情でカリーナを見つめる。


「どうか、これからも俺を知ろうとしてくれませんか?

そして俺にも、貴女を知る権利をくれませんか?俺は、貴女の良い所を、心を、もっとずっと知っていきたいんてす。

好きになったら相手の事を知りたいと思うのが当たり前だと言う、貴女を知りたいんです。お願いだから、一生かけて俺に貴女を教えてくれませんか?」


愛する人にここまで言われて、それに応えずにいられる訳がない。

ボロボロと涙を流しジークに抱きつく。


「私も知りたいです〜!!ジーク様の事、もっと、もっと、一生知っていきたいです!!!」


ジークがホッとした笑顔で、カリーナを抱きしめ返す。

そんな顔もたまらなく好きだと心が満ちる。



「カリーナ王女、貴女に俺の事でもう一つ知って欲しいことがあるんですが……言ってもいいてしょうか?」


「何ですか?教えてください!」


ジークのことなら何でも知りたいです!どんな事でもどんと来い!と笑顔を向ければジークが少し悪戯な笑みを浮かべた。


「実は……………………………。」










数日後、王家の前で、スライディング土下座をしているズタボロの魔女がいた。


「本ッ当に申し訳ありませんでしたぁぁぁぉぁぁ!!!!!」


ゴージャス系美女魔女(前世基準)がスライディング土下座する姿はなかなかの迫力だった。


「すいません!すいません!まさか王女様が()()姿()のジークを好きになるだなんて一ミリも思って無かったんですぅ!!

それに王家の皆様が本気で改心してるとか想像すらしていませんでしたぁ!!」


涙ながらに謝る魔女に難しい表情の王家の人間達。


「謝って済むなら警察は要らねえんだよ!!お前のせいで姉ちゃんがどんだけ傷ついたと思ってんだよ!!」


「は、はい!!それはもう誠に申し訳なく………けいさつ?」


キョトンとする魔女に王太子が苦虫を噛み潰したような顔で溜息を吐く。  


「ケント、警察はこの世界にはないぞ。はあ…だがその通りだ。俺は妹を傷つけたお前を許したくない。だが元はと言えば親父とお袋のせいでもある。反省しているようなら情状酌量してもいいと思うが、それもカリーナ次第だな。」


(くだん)の魔女は、煙に巻かれて消えた後、ジークから王女と愛し合う仲になっていたと聞いて仰天していた。


『えっ!嘘でしょ!そんな事が起きるなんて微塵も考えてなかった……。』


本来は優秀で悪い魔女ではなかった彼女はそれを聞いて、顔を青ざめさせた。

王家に不当に扱われ解雇され、心がヤサグレでしまっていただけで、本当に誰かを傷つけるつもりなどなかったのだ。


更に今回の話を聞いた仲間の魔女達からボコられた。


『前に呪いをかけてた時は、事情が事情だったからやり過ぎとは思ったけど、仕方ないと思って口出ししなかったけど今回は酷いわ。』


『それにそんな事されると魔女全体の評判が落ちるじゃない!魔女がみんな邪悪だなんて事になったらどうすんのよ!』


そして王家に謝罪をして許して貰えるまで、もう仲間にいれないと宣言され、ハブられてしまったのだ。


「もう二度と、もう二度と悪い事に魔法を使ったりしませんから〜!!本当反省してるんで許してえ〜!!!」


「ど、どうするカリーナ?父ちゃんと母ちゃんは何も言う資格がないから、お前が決めていいよ。」

「そうね、カリーナの好きにしたら良いわ。」


魔女に対して思う事は沢山あったカリーナだったが、条件を出して魔女を許す事にした。


「ありがとうございます!!頑張ります!!!」


魔女は涙ながらに感謝していた。




ジークの青痣パンダが引いて、元のご尊顔に戻った頃、カリーナとジークの姿は遠国の王宮の一室にあった。


そこには元の姿に戻れたヒルデと彼女の婚約者がいた。


「ありがとうございます。そして私の呪いを解くためにカリーナ様はじめそちらの王家の方々には本当に申し訳ないことをいたしました。それに私に呪いをかけた魔女も捕まえて下さって感謝いたします。」


「私からも感謝と、謝罪を。おかげでヒルデと安心して結婚式を上げられます。」


深々と感謝と謝罪を受けて、カリーナは朗らかな笑顔で答えた。


「いいえ、結果としては皆の呪いも解けて良い方向に向かったんです。私もおかげでジークと出会えたんですから万々歳ですよ!」


そんなカリーナにヒルデがほうっと羨望の眼差しを向けた。


「本当にカリーナ様は姿形が美しいだけでなく、心までお美しいのですね。

ジークは果報者ですわ。」


「そうだろ?俺の婚約者は全てが美しい。」


超絶醜い顔でニコッと笑うジークに妹のヒルデは少し引きつった笑みを浮かべて『何でまた自分から呪いがかかった姿に戻ってるの?』と疑問符をかかえていたが、隣のカリーナは顔を真っ赤に染めながら、うっとりとジークを眺めていた。


カリーナは(くだん)の魔女に、ヒルデに呪いをかけた魔女を捕まえることと、もう二度と悪い事をしない約束で許すことにしたのだ。

そして見事、あのゴージャス魔女がヒルデに呪いをかけた魔女を捕まえるのに成功した為、その身柄を引き渡すためにヒルデのいる遠国までやって来ていた。


魔女はいま牢に入れられ、今後は刑を待つことになる。


「それで、()()()()()()()殿下とカリーナ王女殿下の結婚式はいつ頃される予定なんですか?」

ヒルデの婚約者である()()()()が美しいポヨンとした糸目の顔をジークに向けて聞いた。


あの日、ジークがもう一つ知ってほしいと言った事。


それは


彼が()()()()()()()であったと言うことだった。


『どうして!?嘘をついていたんですか?王子様だなんて聞いてないですよ!』

喫驚するカリーナにジークは事も無げに伝えた。


『嘘なんてついてないですよ。俺は一度も平民だなんて言ってないです。本当の名前はジークフリード・ボールドウィング。ボールドウィング王家の四男です。』


『だって商隊の護衛の仕事をしてたって言ったじゃないですか!!』


『それも本当の事です。()()()で時々やっていました。』


若干ギリギリ反則ではないかと思うが、嘘はついていないですとにこやかに笑うジークにカリーナは絶句した。


兄である王太子は『平民にしては余りにも知識も教養もあるから、おかしいとは思っていたよ。』とすんなり納得した。


弟の第二王子は『ボールドウィングって超強い軍事国家だよな?何かすげえ強い王子がいるって噂だったけどジークさんがそうだったんだな!道理でうちの騎士団長が負けるわけだよ。』すげぇ~と被っていた猫を剥がして素で感嘆していた。


両親である王と王妃は『えっ、じゃあカリーナちゃん遠国にお嫁に行っちゃうの?』『そんな遠くに行って大丈夫かしら。』と心配された。


『王子と言っても、俺は四男ですから国に戻る必要はありませんよ。今までもフラフラと好きな所で暮らしてましたから。これからはカリーナ王女がいる場所が俺のいる場所です。』と言って王国で暮らすことになった。




王宮のテラスから、眼下に広がるオレンジ色に染まった黄昏時の城下町の景色を眺めながら、ジークが優しくカリーナに語りかける。


「カリーナは、その姿のままで本当に良いんですか?ご自身ではその姿に抵抗があるのでしょう?俺だったらどんな貴女でも愛しいと思えますよ。」


茜色の光に照らされる、端正な顔立ちのジークの隣に立てば、『不細工な自分の顔が一層不細工に見えるな〜。』と思いながらもカリーナは緩く首を振った。


「良いんです私はこのままで。ジーク様こそ私に会わせて不細工なままでいる必要なんてないんですよ?」


超絶美女になって超絶美男のジークの横に並びたい願望が無いわけじゃないが、好きな人には綺麗だと思って貰いたい女心だ。


「俺はカリーナに格好いいと思って貰える姿なら何でもいいんです。」


二人とも、同じ事を考えていて笑ってしまう。


「じゃあ時々、魔女に頼んでお互い姿をかえてもらうのはどうでしょうか?

私はどちらのジーク様の姿も見たいので。」


「良いですね。それは楽しそうです。どちらにしても俺には愛しい姿なだけですが。」

お互いに微笑み合う。



それから時々、二人は美醜を逆転させて周囲を驚かせた。

だが相手がどんな醜く変わってもお互いを変わらず愛おしそうに見つめる二人の姿をみて、段々と周りもそんな二人を受け入れて行くようになり、美醜についての認識は、どんどん変わって行った。


王と王妃は周りから

『セクシーなハゲた頭に男らしさが滲む脂ぎった顔の素敵な国王陛下』

『色っぽい突き出た腹に、上品なシワとシミが増えた美貌の王妃陛下』

と容姿を褒められ『『まったく嬉しくない………。』』と言いながらも、かつての失態を取り戻すべく政務に邁進した為、美しい賢王賢妃と讃えらるようになった。


王太子である兄は

秋波を寄せる公爵令嬢達を蹴散らし、かねてよりの愛しの婚約者ベアトリーチェ嬢と結婚し、賢く美しい妻に支えられ、着実に王太子としての道を歩み。愛妻家としても幸せな日々を送っている。


第二王子である弟は

やや脳筋気味だったのが完全に脳筋に振り切れ、ジークの指導の元メキメキと騎士として強さを伸ばしていき、最近ではあのゴージャス魔女を『お前は精神が弱いから悪い方へ心が傾くんだ。鍛えてやる!』と鍛錬に引きずりまわしているらしい。

『やめてぇ、私肉体労働派じゃないわよ〜!!』と渋っていた魔女も、なんだか楽しそうなので、実は良い感じなのではと噂され始めている。


そしてカリーナとジークは

『美醜を超えた理想のカップル』として王国民たちから、愛の指標として羨望と尊敬を集めるようになっていた。

ジークのスペックの高さも発揮され、王国は益々発展していき、二人の結婚式は大歓声のもと、多くの祝福の中執り行なわれた。



朝、


カリーナは隣でスヤスヤと眠る、でっぷりとした醜い男を愛しい眼差しで見つめていた。

どんな姿でもやはり愛おしく感じ、自分の心に安心と喜びが満ちて、ジークの頬に口づけを落とす。 


「お早うございます。美しくて醜い愛おしい旦那様。」


そして目を覚ましたジークもまた、ほっそりとした体に大きな瞳と薔薇色の頬の妻の姿を愛おしげに見つめ抱きしめた。


「お早うございます。俺の醜くて美しい愛する奥様。」


そして二人の仲睦まじい姿は、二人が共白髪となり美醜など関係がなくなる歳になっても、ずっと続いていったのだった。






おしまい

美醜逆転物が書きたくなって書いてみました。登場人物のほとんどが姿を変えているので、少し分かり辛いかもしれませんが、宜しければ絵面を想像しながら読んで頂けたら楽しんで頂けるかなと思います。


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