第7話
追っ手から無事に逃げおおせると、私の部屋に三条を泊めた。
駆け落ちしたみたいな気分だ。
「なんかあの有名な泥棒アニメのワンシーンみたいだったね」
「たしかに」
それにしても黒髪の三条は見慣れない。持ち前の元気もなかった。枯れたハイビスカスみたいに痛々しい。
「ごめん、アリスの休憩ポイントなくなっちゃったね。これじゃあアリスが走るのをやめるタイミングが分からなくて永遠に走り続けちゃうよ」
「私はそこまでバカじゃない」
「あの屋敷はね、私の実家なんだ」
「まぁ、そんな気がしてた」
「それであそこが私の部屋」
「三条らしくない部屋だった。真っ白でなにもない」
私が言うと三条は自嘲気味に笑った。
「あの部屋にいるとね、自分が自分じゃなくなるみたいなんだ。時々、あの部屋のことを思い出すと、私は自分を見失いそうになる」
「あんたって女優の卵なの? 雑誌に載ってたみたいだけど」
「そうだよ。清純派女優で売ってるからね」
「なるほど。あんたに女優になってほしいから、芸能活動をさせていて、ピンクの部屋とか服装をやめさせたいと」
「理解が早くて助かるよ」
「まぁ、三条のことだし」
「母さんね、女優を目指してたんだけど挫折したから、その夢を私に継がせようとしてるの。一人暮らしをさせてたのも私に社会経験を積ませるためなんだ。だから母さんの前ではあの趣味のことは隠してたんだけど、この真様子を見に来たときにバレちゃって」
だから、菜々のときも、必死に彼女の素描を守ろうとしたのかもしれない。
「私は弱い人間だと思う。結局、どこかで自分を偽ろうとしてる。あの部屋がその最たる証拠。あの部屋は、私にとって呪いみたいなもの。この前、様子を見に家に来たんだけど、ありのままの私を見て大激怒して」
「そっか」
「でもあの家に戻りたい。アリスとの思い出の場所だもん」