第4話
久しぶりに登校する三条は存在感抜群で、校門付近の生徒の衆目を一身に集めた。
校則違反という言葉も、三条の世界には存在しない。一応制服は着ているものの、その上からピンクのカーディガンを羽織っていた。鞄にも大量の缶バッジが付けられている。
すぐと、生徒指導の佐藤先生に連行されていった。
私は外の植え込みに陣取る。窓から生徒指導室の様子を覗く。菜々と、その不良友達も招集させられていた。ピアスやアクセサリーを悪びれもせず着用している。
「お前たちにタバコの目撃情報がある」
佐藤先生が菜々たちに向かって言う。どうやら、常習犯の三条は後回しらしい。
「もし本当なら大問題だぞ。退学も覚悟しろよ」
「斜森はどうなんだ?」
三条は横で静観していた。
そして沈黙を破る。
「ああ先生、それ私のキャンディです」
そう言うと、三条は制服のポケットから大量のキャンディを取り出した。
「はぁ?」
「この子たちに渡したやつです。いつも大量に持ち歩いてるんで」
「三条お前ってやつは……。処分は後日言い渡す。またしばらく謹慎してなさい」
私は窓から離れる。三条の自己犠牲により、どうやら決着は付いたみたいだ。
後日、どうしてもお礼がしたいという菜々と、彼女にかわいい服を着させて写真撮影をしたいという三条の欲望が合致して、撮影会が開催された。それでもなぜか私の部屋で。
三条は大量の衣装をパンパンに鞄に詰めて持参した。
「菜々ちゃんかわいい!」
メイド服とかナース服を手渡して、ご満悦そうにスマホのシャッターを切っていた。
「それにしてもアリスの部屋は普通だね」
「うるさい。あ、絶対クローゼットは開けないでね。あんたの好きなナイトクローラーの布だと思って」
「触れられたくない秘密があるってこと?」
私たちの会話の外で、菜々は恥ずかしそうにポーズを決めている。三条の言葉を借りるなら、なんというか非常にかわいい。
「それで処分はどうなったの?」
頃合いを見て訊ねる。
「私はまた謹慎。あと多分留年する」
「菜々ちゃんと不良ちゃんたちは私に巻き込まれたってことでお咎めなし。不良ちゃんたちは私に借りができて、菜々ちゃんにタバコを強要しないように約束した。おまけに私は留年が決まったから万が一彼女たちが報復に走っても、菜々ちゃんを守れる」
「三条あんた……」
「菜々ちゃんもこれで溜飲が下がったと思ったし、もう無理することなく自然体でいられる相手を探してほしい」
「なんというか三条先輩は王子様みたいですね」
菜々が身体を傾けながら微笑む。
「お母さんとも仲直りするんだよ。本来なら、一番自然体でいられる相手のはずだからね」
菜々と別れ、三条と二人きりになる。
ピンクの髪をくるくる巻きながら、ハンドミラーを見ている。
「それでもほとんど見ず知らずの子を守るために、一年棒に振るなんてあんた」
「だって菜々ちゃんの笑顔が見たかったんだ。笑顔ってかわいいから」
「でも菜々は救われたと思う」
「ほらね、私が言った通りだった。かわいいは世界を救う」
「部分的に、の間違いでしょ」