第2話
喚く三条を引きずって、彼女のアパートを出た。幸い休日なので、話は早い。
三条に問題の家まで案内させる。表札に斜森とあった。偶然にも私の後輩の家で、偶然にも庭で水やりをしていた本人と目が合う。
「あれ、有栖川先輩……?」
「お、おはよう」
柵から顔を出す斜森菜々を眺める。
滑らかな金髪に、洗い落とせそうなくらいの薄い唇。私の中学時代を知る数少ない人間で、当時は同じ陸上部だった。華奢な体型で、腰の細さは砂時計みたいだ。
「そのぬいぐるみ、なくしたと思って探してたんです。先輩が見つけてくれたんですね」
勘違いしているみたいけど話を合わせておく。
「そ、そうなの。返しに来たんだ」
「ありがとうございます。お隣の方は三条先輩ですか?」
「よろしくね」
三条は校内の有名人なので、菜々も認知していたみたいだ。
弾ける笑顔に罪悪感を感じながら、私はぬいぐるみを差し出す。
「せっかくだからお茶でも飲んでいってください」
「うん」
私たちはそのまま菜々の部屋に移動した。用意されたクッションに座る。
菜々がキッチンに立ったあと三条が話しかけてきた。
「菜々ちゃんとアリスって知り合いなの?」
「中学時代の陸上部の後輩なんだけど、高校デビューして悪い友達と付き合ってるって聞いてたから心配してたの。でも元気そうで安心したかな」
「高校デビュー、か」
「そういう三条は犯罪者デビュー」
「もうぬいぐるみは返したでしょ」
反論したところで、菜々が戻ってくる。
「ゆっくりしていってくださいね」
微笑む菜々は身体が横に傾いていた。彼女の癖だ。気を抜くと、すぐにそうなってしまうらしい。たしか陸上部に入ったのも、体感を鍛えたいという理由だったはずだ。
「あ、今斜めになってましたか」
訊かれたので頷く。
「私ぼーっとしてるから、気を抜くと身体が斜めに傾いちゃって」
菜々が三条向けに短く説明をした。
「でも直さなきゃって思ってるんです。友達にもよく馬鹿にされるから」
「私はそのままの菜々ちゃんがかわいいと思う」
「なに口説いてんのよ」
照れたのか、菜々がトイレで再度離脱した。
三条が暴れ出す。
「菜々ちゃんかわいいよね……」
「え?」
「かわいい!」
一度かわいいに脳内が汚染された三条は、もう人の言うことを聞く耳を持たない。
「持って帰りたい」
「なに言ってんの、あんた」
「私と趣味も合うと思うんだよね」
「その自信はどこから来るわけ」
「菜々ちゃん前に学校でロリポップ食べてたから」
「菜々が校舎で? あんたの錯覚じゃないの?」
タイミング悪く、菜々が部屋に戻ってくる。三条は私を押しのけて菜々に迫る。
「菜々ちゃんかわいいから今日から私の家の子にならない?」
「なりたいです!」
前のめりで返事がある。
「なりたいんだ……」
「親と喧嘩してちょうど家出したいと思ってて」
「展開が早すぎてついていけないんだけど」