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夢を見るには、冷たすぎたから。  作者: 七里 結記
語られることのない誰かの記憶
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―――それならば、ゆめのはなしをしませんか?


鈴の音を転がした様な軽やかに跳ねる少女の声が、霞む思考の中でこだまする。

これは記憶だ。かつて、まだ幼く、互いに無邪気でいられたころの、遠い思い出と言う名の、記憶である。


―――ゆめを話して、何になる?


ぶっきらぼうに、突き放すかのようにしか話せれないでいた俺に彼女は、その大きな青い瞳を輝かせながら、口元を綻ばせたのだ。


―――ごぞんじ、ないのですか?ゆめは、こころをゆたかにしてくれるのですよ!


その笑顔が余りにも眩しくて、思わず目を逸らした、あの胸の鼓動まで。

この心臓が、忘れさせてくれることは無い。

長時間拘束されていたことにより力が入らぬ足。

引き摺ろうとせんばかりの力で引かれる鎖によろける体。

身に纏うのは服とは到底呼ぶことのできない布切れが一枚。


耳を済まさずとも聞こえてくるのは、かつての歓声とは程遠い罵詈雑言の嵐。

微かに聞こえる、それに応えるような怒声や命乞いは、先に向かった血族の者だろう。


言葉途中で断ち切られる無情さが、この国が抱く怒りの度合いを雄弁に語っていた。


―――それほどまでに、この国は腐り切っていたのである。


数百年にも及ぶ栄華、太陽の国と謳われたこの国の腐敗に気が付いたのは、今から五年前。

学園に入学する一年前のことだった。


王太子教育の一環として渡された資料の一つに見つけた小さな違和感。

それを切っ掛けに発覚したのは、税金の無断使用とそれを誤魔化すように修正された帳簿の存在だった。紛れもない脱税の証拠に怒りよりも失望の方が勝ったものである。

更に調べていくうちに判明したのは、足りない分の財源を確保するべく、一部の周辺国家へ借金をしていたという事実。それも秘密裏に国王の名の下で承諾されていたのだから、開いた口が塞がらなかったのは言うまでもないだろう。そして一番の問題だったのが、この借金の返済のために要求されていたのが、我が国の人材であったという事実。そう、この国は、金銭と引き換えに大切な守るべき臣民を、秘密裏とは言えど国家の名の下で売るという、人身売買を行っていたのだ。


ある時は婚姻と言う名目で。またある時は養子と言う形で。

中には、孤児の中から身目麗しい者達を自らの養子にした上で、他国に送り込む貴族も居たようで。


調べれば調べるほどに、全ての出来事に辻褄が合ってしまう現実に何度吐き出しそうになったことか。


強く根付いていた貴族による平民への差別的意識が、自主的に広がった孤児を養子にする慈善活動で薄れて来たのではないかと、喜んでいたからこそ余計に。


そして、なぜ今の今まで気付かなかったのだと、自分を責めた。

せめてこの国を去って行かざるを得なかった少年少女たちが、どこかで幸せであることを祈ると同時に、これからどうするべきかに思考を割き、そして決めたのだ。


もう、この国の王家は期待することが出来ない。自分がこのまま王になったとしても、甘い蜜を覚えた者たちを一掃することは不可能に近いだろう。いな、出来るのは出来るだろが、共倒れになる未来が容易に想像できた。そして、僅かに残った膿が選択するのは都合のいい王を擁立させることだろう。

そうなれば、この国が崩壊し、その隙を狙った周辺国家の何処かしらかが領土拡大を狙い、攻め入ってくる可能性が高い。なれば、多くの臣民が犠牲となってしまう。


―――どうせ、辿る結末が同じならば、いっそこの手で終わらせてしまおう。


そうして、始めた計画だった。

今すぐ、事を起こし、王家を筆頭に国の中枢を勤める貴族たちが一掃するのは簡単だが、次を導く王が居なければ、忽ち国は混乱を招き、他国に攻め入る隙を作ってしまう。

それでは本末転倒であるから、まずは一層された後にこの国を導いてくれる存在を探し出した。

ある程度身分による血筋が保証されており、臣民たちにも慕われ、かつ的確な指示を下せる、為政者に相応しい人を。


相応しいだろう人の候補は数名いた。その中でも、昔で耳にしたことがあった三代前の王、曾祖父の弟。自分から見て大叔父にあたるその人は、母親の身分が平民であったが故に王族として認められなかったが、子を為すことは許されていたらしく、彼の子孫が市井で普通に暮らしているのだという。

王家の血は尊ばれるもの。悪用されぬように、王家のものとして認められなくても管理されるべきだと学んだ身としては、当時の杜撰さに再び失望を抱いたが、こちらとしては渡りに船。

血筋も王の血があることから正統性を語れる上に、市井で暮らしているのだから臣民たちのことも良く知っていることだろう。そうでなくても、今からであれば、時が来るまでに自分が教えることも可能なのだ。


結果、彼ほど跡を託すに相応しい人はいないと、数度に分けて会話した上で判断し、相手からも次代を担う了承が得れた。


支度にかかる時間は短ければ短いほど良い。しかし焦っては良い結末を迎えることが出来ない。

慎重に、しかして迅速に。知識を受け渡し、剣を教え、王として必要となる全てを彼に授ける一方で、反乱の火種を巻く。


その一環だった。あの二人にあったのは。

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