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夢を見るには、冷たすぎたから。  作者: 七里 結記
とある歴史研究家のレポート
3/7

#モンド王国について

 

古来より続く太陽の国モンドを僅か半年で滅びに導いた暗愚の王太子、と名を歴史に刻んだジェイド・モンド。


彼の記録は、革命により滅んだ王家、それも事の発端となった人物であるためにそう多く残されていない。それでも、運よく処分を免れることのできた貴族達の私的な日記が存在した。


それぞれは別の人物が書いたものであり、関係性も纏まりがないもの。

彼らに共通するのは、直接ジェイド・モンドに会い、話したことがあるという記述のみ。

そして、彼らが総じて綴るのは、彼の人が如何に聡明で高潔な存在であったか。

中には、彼ほどこの国を憂い想い、光の下へと導こうとしていた人は居ないと称える者も。


どれもが、彼は愛に溺れ、愚を犯すような人間ではないはずだと、誰もが信じていた。と、嘆きにインクを滲ませていた、その一方で。


品行方正の塊であり、聡明で高潔な王太子が愛に溺れるきっかけを作った存在が何者であったのかは、どんな文献にも、どんな記録にも残されて居らず、見つけることは叶わなかった。が、当時王太子が通っていた学園の学生名簿と様々な媒体による証言を元に、候補者を数人までに絞り込んだその結果。


全ての始まりである王太子の婚約破棄騒動後、革命による混乱の最中、姿を消し、行方が分からなくなった女生徒が1人存在することが判明した。


女生徒の名前は、ディア・イゲティス。

モンド王国に於ける貴族階級の中でも最下位とされる男爵家出身ではありながら、ある時を境に王太子と密な関係を取り始めた彼女の存在は、当時の学園内でも悪い意味で注目を浴びていたことが、残された情報の多さから分かった。


それは彼女が、純粋な貴族では無かったことも、当時の生徒たちが筆を軽くした要因の一つだったのだろう。


戸籍こそは当時のイゲティス男爵とその妻の子とされてはいるものの、実際に彼女を生んだのは平民のメイド……それも洗濯婦人であったことは、人の醜聞が蜜の味な社交界では有名な話。加えて、イゲティス男爵家は汚れた噂の絶えない一家であったという記録も残されていた。


まず、イゲティス男爵はギャンブル依存症による借金と脱税を重ねており、義母である男爵夫人は散財は当然として、違法に奴隷を購入しては虐めるという趣味を持ち、腹違いの兄に至っては両親の悪い所だけを受け継いだ悪逆さで名を馳せていたのである。


そして、婚外子の末娘は恐れ多くも王太子と密な関係を匂わせ、娼婦の真似事を高位貴族の子息へ振る舞っていたのだ。


と、幾つかの資料として上げられた当時の生徒たちが遺した日記から、「婚約破棄を王太子がシア嬢へと言い渡したとき、一番傍に居たのが彼女だ」と記されているものが見つかったのも、彼女が有力であるという意見を後押ししている。


けれど、断言できないのは、彼女に関する情報が婚約破棄騒動にのみ集中しており、その後については一切残されていないからであった。

国が滅びる切っ掛けとなった事件であるからに、関りがあったとされるならば、革命の混乱が起きていたからと言って咎を受けずに済むはずが無いだろうと考えるのが定石である。しかし、もし、そもそもの起点が異なっているとするならば―――彼女が婚約破棄騒動後に姿を消したことも説明がつくだろう。



そう、これは仮の話だ。

もし、この一連の話が全て、かつて聡明であったと謳われた王太子が仕組んだことであれば……と。

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