第112話 訓練1日目
「ギーク先生、私にも教えてください!」
「先生、僕もお願いします!」
「ふむ、やる気は十分なようだな。もちろん構わないぞ」
メリアとベルンも的当ての競技を練習するようだが、とても気合が入っている。特に普段大人しいメリアがここまでやる気になっているのは珍しいな。
……もしかするとシリルたちからイリス先生のことを聞いたのかもしれない。メリアはイリス先生の上がり症克服の際によく話していたのと、性格が少し似ていることもあって特に仲がよかった。
理由がどうあれ、内気なメリアが魔術競技会へ前向きになったのはよいことだろう。ベルンは元からやる気十分だったしな。
さて、生徒たちもやる気になっていることだし、この施設が使える時間も限られている。せっかくの学園外の貴重な時間を有意義に使うとしよう。
「よし、今日の訓練はここまでとする」
夕方となり、本日の施設の利用時間が終了する。
「このあとは自由行動となる。まだ訓練をしたりない者もいるかもしれないが、休むことも訓練のうちだ。普段の学園の授業ではこれほど長時間魔術を使用したことはないだろうから、しっかりと身体を休めるといい。それと先にも言ったがこの施設には他の利用客も多いので、節度ある行動をとるように」
「「「はい」」」
施設の使用時間が終了した後は各自で自由行動となる。一応図書室や浜辺などで魔術の勉強や訓練はできるが、今日は午後一杯鍛えることができたのでもう十分だろう。普段の学園では演習場がそこまで広くないこともあって、一人当たりにするとそれほど長時間使用できないが、ここでは十分に時間をとることができた。
明日からは午後だけでなく午前中も施設を使用できるため、休むことも大事である。ちなみに晩ご飯は自由な時間に食堂へ行って各自で食べてもらう。そういえば前世での修学旅行は広い大広間で同級生たちと同じ時間に食べたか。
そして生徒たちがここへ来た時も伝えたが、この施設には別のお客さんも大勢いる。前世でも修学旅行の際はむしろ観光や食事などが終わったあとも気が抜けない。他校の修学旅行生とトラブルが起きたりなんてしょっちゅうだからな。今回は別の学園の団体客はいなかったから大丈夫だとは思うが。
「イリス先生とノクスもお疲れさま」
生徒たちを見送ったあと、施設に忘れ物がないかを2人と一緒に確認をしつつ見回っている。
「い、いえ! 私は本当に最初の的やボードの使い方を説明するくらいでした。ノクス先生もギーク先生も本当にすごいですね」
「僕の方もそこまで具体的なアドバイスはしてあげられなかったからね」
「いや、俺一人じゃ全員を監督することができなかった。2人がいてくれて本当に助かったよ」
基本的には生徒たちの指導は俺が行ったが、それ以外の場所で2人が監督してくれているだけで俺は安心することができる。一応は怪我をしない魔道具はあるが、それでも何が起こるか分からないから気を抜けない。
「むしろ私も教師として勉強になることが多いです。ちゃんと手当もいただいていますしね。それにあの魔道列車に乗れただけでもここへ来てよかったと思っていますよ」
「僕も結構楽しんでいるから気にしなくていいよ」
この合宿の期間はちゃんと普通の給料以外にも手当は出ている。前世でも旅行などの引率をすると特別業務手当として1日あたり数千円の手当が出ていたが、それよりもほぼ1日中生徒たちを監督しているので心労の方が勝るんだよ。教師側は観光で楽しんでいる余裕なんてないのである。
「さあ、せっかくここに来たんだから、海へ行かないとね。綺麗な女性がいるといいなあ! あっ、もちろん僕はギーク一筋だからね!」
「「………………」」
まあノクスはノクスだよな。否定をするのも面倒だ。ノクスも最近はイリス先生や勉強会のメンバーの前では猫をかぶらないようになっている。
もちろん引率が終わったあとのことをとやかく言うつもりもない。もちろんその相手がうちの学園の生徒であれば止めるが。
「ギークとイリス先生もせっかくならどう? 海に来られる機会なんてめったにないよ?」
「そうだな、海に来られる機会は少ないし、たまには見ておきたい。それに初日と最終日は特に生徒たちが浮かれがちになる。問題を起こさないか監督しつつ行ってみるか」
「……相変わらずギークは真面目だねえ」
「ええ~と、私はどうしましょう……」
「イリス先生も無理はしないでいいですからね」
海があまり好きでない人もいるからな。正直に言えば俺も海で泳ぐことはあまり好きでもないので、それを無理強いするつもりもない。