第111話 合宿開始
「全員集まったようだな。それではこれより合宿を始める」
午後になって参加をする生徒たちが遅れることなく集まり、合宿がスタートした。
この合宿は基本的に俺が主導で行い、ノクスとイリス先生がその補佐をしてくれる感じだ。最初に全体を通して各競技に対して説明や指導はするが、基本的には学園にいる時と同じで生徒たちが自主的に鍛錬をおこなうので、指導というよりも監督の意味合いが強い。
競技会では魔術薬や魔道具などの使用は禁止されているので、今回はノクスもそこまで生徒たちにあまりアドバイスはできなそうだ。アノンは学園長として別の仕事があるので、今は部屋にこもって書類仕事をしている。あいつも学園長という立場だが、直接生徒たちを指導したがっていたな。
「借りている場所はここの部分の区域となる。他の場所には一般の利用客もいるので、迷惑をかけないよう気を付けるように」
今回借りているこの施設は学園の演習場以上の広さがあり、事前に連絡をして魔術競技会の練習用にレースと的当ての競技に適した訓練ができるように整えてくれていた。
そして施設の周囲にはここと同じような演習場が3つほどある。用途によって大きさも異なり、一人用の演習場なんかもあるようだ。学園の生徒として模範的な行動を心掛けてほしい。
「昼食は食堂などもあるから各自でとってくれ。この施設は朝から夕方までと時間は決まっているので気を付けるように。夕方からは自由時間となるが、2時間ほど講堂で座学や質問を受け付けている。魔術に関する書物が閲覧できる図書室などもあるので、希望する者は教師の誰かに申告するように」
この施設は非常に大きく、食堂やジム、図書室などの施設まで完備されているので驚いた。セキュリティもしっかりとしているし、使用料が高価な分、設備はだいぶ整っているようだ。
そんな高価な利用料のかかる施設にまだ第一学年の子供を送り出してくれる親も大変だ。やはり魔術を学ぶためにはある程度お金に余裕がないと無理なのも道理である。
「的やボードの使い方は学園で使っていた物と若干操作方法が異なるので、わからないことがあれば俺かノクス先生やイリス先生に聞いてくれ。同様に模擬戦をおこなう場合は教師の誰かに声をかけるように。魔力がなくなった場合にはマナポーションもあるが、1日あたり3本までとする」
生徒たちもすでに魔術競技会の競技内容については知っているが、学園で用意した練習用の物とは少し違う。俺たち教師陣は午前中にここへ到着していろいろと準備をしておいた。
ノクスと協力して大量に作っておいたマナポーションも用意してあり、俺たち教師としても準備は万端だ。生徒たちが少しでもこの合宿で魔術が向上できるよう最善を尽くす。
「さて、それでは始めよう」
「ギーク先生、的当て競技の練習のコツはありますか?」
「ふむ。的当ては出てくる的をいかに対戦相手よりも早く当てるかの勝負だ。高速で動く的をいかに早く正確に魔術を構成するかが鍵となる。また、早さと正確さだけに気を取られて的を壊すだけの威力が足りなくなる場合もあるからそこも気にするといい」
「なるほど」
「基本的には主要となる魔術を絞り、それをひたすら磨いていくが、対戦相手の魔術や戦略によって臨機応変に動かなければならない。ある程度慣れてきたら、他の者と模擬戦を繰り返すのがいいだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
今の生徒はこれまでの長期休み中の演習には参加できていなかった生徒なので、改めて的当て競技の要点を伝える。貴族の家は長期休み中にやらなければいけないことが多いので大変だ。
そして学園では動く的に魔術を当てる練習はできたが、実際の競技会のように対戦形式でおこなう本格的な練習は演習場の大きさや他の学年も関係してできなかったため、この合宿では何よりも対戦形式での模擬戦の経験が役に立つ。
相手の魔術の相性なんかもあるから、実戦の経験は大事なのである。