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第100話 潜入


「あの~すみません」


「ここはビクサス伯爵様のお屋敷だ。何の用だ?」


 大きな屋敷が見えるこれまた巨大で立派な門の前にひとりの女性が近付いていく。


 門の前にいる護衛は全部で4人。そのうちの門の前にいる2人が武器を構えつつ、近付いてくる女性を警戒している。


「まあ、ここが有名なビクサス伯爵家のお屋敷なのですね。すみません、道を尋ねたいと思いまして……。ここから大広場へはどうやって戻れば良いのでしょうか?」


「なんだ、そういうことか。ここから大広場へはその道をまっすぐ進み、大きな赤色の建物がある通りを右に曲がればすぐに見えてくる」


 ただ道を聞いてきただけであることがわかり、見張りの護衛たちの空気が緩む。


 そもそも普通の街娘の服装をした女性ひとりでこの屋敷を訪れている時点で害意のある敵ではないと護衛の者たちは判断したようだ。


「ご丁寧にありがとうございます。お暑いのに皆様とても大変ですね」


「それが我々の仕事であるからな」


「とても身体を鍛えておりまして逞しいです。皆様のような方がいらっしゃるからこそ、私たちはこの街で安心して暮らせておりますわ」


「ふっ、それほどでもないぞ」


 顔立ちの整った綺麗な女性が護衛の者に頭を下げると、サラサラとした金色の長い髪が舞う。護衛の者たちも美しい女性に褒められて、まんざらでもない様子だ。


「さあ、大広場はそっちだ。旦那様は怖い人だから、目を付けられる前に早く行った方が――」


 護衛の者が会話の途中で膝をつき、そのまま前に倒れていく。他の3人も同様にその場に伏していった。


「お見事、4人を同時に眠らせるだなんてさすがギークだね」


「ノクスのおかげで完全に緩み切っていたから、簡単に眠らせることができたぞ」






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「よし、これでバレないかな」


 眠らせた護衛の者を屋敷の門の中に移動させ、見えない場所に隠す。これで他の者にバレることはないだろう。


「門にあった警戒用の魔道具もすべて解除しておいた。ノクスが護衛のやつらの気を引いてくれたおかげだ」


「ギークから貸してもらったこの魔道具のおかげで声もより女性に近付けることができたからお安いご用だよ。こういった男たちは単純だからね」


「………………」


 俺の目の前にいるまるでモデルのような女性は女装したノクスだ。相変わらず誰がどう見ても女にしか見えない。


 この魔道具の変声機は人が発する声を変えることが可能だ。人が声を出す仕組みは肺から送り出される空気と、喉にある声帯の振動、そしてその後の共鳴によって成り立っている。そこで声帯の振動を外部から魔道具で変えることによって声を変えることが可能になった。


 まあ、ノクスの場合はこの魔道具なしでもだいぶ女性に近い声を出すことが可能らしいが。


「ビクサス伯爵。第三学年の魔術史担当教師。裏口入学の斡旋から始まり、生徒の親から賄賂を受け取って成績を操作したり、特定の業者から賄賂を受け取るか。……よくもまあ、ここまで手広く金を巻き上げておいて今までバレなかったものだな」


「人を経由してお金を回収したりして、うまく隠していたみたいだね。やり口がずる賢いねえ」


「……まったく、肝心の生徒たちへの授業に力を入れてほしいものだ」


 学園は現在長期休み中であり、いつも以上に動けるようになった俺とノクスは第二学年と第三学年で問題のある教師を調査しに来ている。事前のノクスの調査によれば、警備は俺たちがいれば問題ないこともあり、アノンは別の仕事があって学園で留守番をしている。


 あいつがキレると屋敷を更地に戻してしまいそうだから、ある意味留守番でちょうどよかったかもしれない。


 ノクスがいるおかげで護衛の気を逸らすことができ、その間に俺は屋敷の門に設置されている警戒用の魔道具を解除し、死角から睡眠の魔術を使って護衛を眠らせた。以前にひとりでマナティの屋敷へ潜入した時は少し時間がかかってしまったから助かる。


「さて、このまま屋敷にいる者をすべて眠らせていくぞ」


 基本的にはこの護衛たちのように屋敷の中にいる者へ危害を加えない。ノクスの調査を信頼していないわけではないが、念のため記憶を覘く魔術を使って最終的な確認をおこなうつもりだ。


 冤罪や誤解なんかの可能性はゼロではないからな。とはいえ、今のところノクスが調査してくれた情報はすべて事実だったし、あれだけ様々な場所から裏金をもらっているビクサス伯爵が悪人であることはほぼ間違いないだろう。


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