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狐と祭りと遊び上手と。  作者: 淡雪みさ
第一章 ようこそきつね町
13/33

夏野菜



 ◆


 からかさ小僧や河童たちと別れてから、小珠は野狐たちと走って屋敷へ帰宅した。夕食を食べたらすぐにまた妖力を扱う練習をしようと思ったのだ。

 キヨや野狐と共に夕食の準備をしていると、キヨがふと炊事場の小さな窓から廊下の方を覗いて小声で言った。


「向こうに、へたり込んでいる脆弱な男がいないかい?」


 脆弱な男? と不思議に思いキヨが覗き込んでいる窓を見ると、向こうの廊下に倒れている金狐が見えた。

 何かあったのかと慌てて炊事場から出て金狐に駆け寄る。


「金狐さん? 何をしてるんですか」

「あ゛ー……小珠はんですか? 気にせんといてください」

「そう言われましても……」


 廊下に倒れている人を放っておくわけにはいかない。


「床が冷たいんでくっついとるんです。暑いからか、昼から体しんどぉて……」


 妖怪も暑さには弱いらしい。この町も、ここ数日で急激に気温が上がっている。市にいる妖怪たちの中でも体調を崩して帰っていった者がちらほらいた。

 そこで小珠はふと思いつき、炊事場まで小走りで戻る。昨日収穫したトマトとナスを取り出し、ナスを軽く炒めてから、トマトと混ぜて味付けをする。小さな器にそれらを入れ、とたとたとまた金狐の元に戻った。


「金狐さん。もし良かったら、食べてください」


 金狐が疑わしげに眉を寄せる。何を用意したのかと不審がっている様子だ。


「夏野菜は栄養価が高いですし、水分も豊富です。夏は体調を崩しやすいんです。野菜食べて元気になりましょう! 座れますか?」


 そう励ます小珠をじっと見つめた金狐は、しばらくしてむくりと起き上がる。そして、無言で小珠の持つ器を小珠から取り上げ、もぐもぐと食べ始める。小珠が「お水も持ってきますね」と炊事場に戻っている間に、金狐は小珠の切った野菜を全て食べ終えていた。


「大丈夫ですか? 夜にかけて涼しくなってくると思いますから、もう少しの辛抱ですよ。野狐たちに伝えてお医者さんを呼んでもらいましょうか」


 体温の上昇があるか確認しようと金狐の額に触れた時、金狐が目を見開いて小珠の手を払った。何故か耳まで真っ赤になっている。やはり高温による病気なのでは……と心配して近付くが、金狐は後退った。


「な、何しはるんですか。女性なんですから男の俺に安易に触れんといてください」

「は、はあ……」


(もしかして金狐さん、女性が苦手……?)


 意外な一面を見てしまったような気がして、慌てて手を引っ込める。

 そういえば、べたべたと肩に手を回してきたり悪戯に突然体当たりしてきたりする銀狐とは違い、金狐はこれまで頑なに小珠と一定の距離を保ってきた。突然屋敷にやってきた異物である小珠に心を開いていないためかと思っていたが、もしかすると、そもそも女性と関わるのが苦手なのかもしれない。


「すみません、出過ぎた真似を……私、そろそろ炊事場に戻りますね」

「……いえ」


 立ち上がって金狐から離れようとする小珠に、金狐が問いかけてくる。


「そういえば、銀狐から聞いたんですけど、まだ瑠狐花を咲かせようとしとるいうんはほんまですか?」

「え? はい……ずっと頑張ってはいるのですけど……」


 結果が出ていない現状を恥ずかしく思い、少し俯く。


「……そうですか」


 金狐は自分から聞いておいて興味なさげな相槌を打った後、立ち上がってどこかへ行ってしまった。動いて大丈夫なのかと少し心配だが、その足取りは見る限り確かだった。



 ◆


 その次の日も、次の次の日も、次の次の次の夜も、小珠は何度も瑠狐花を咲かせようとした。


 結局――――瑞狐祭り当日になっても、瑠狐花は、咲かなかった。





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