読者さん、逃げてぇええええええ ~悪役令嬢ベアトリス其の2~
「作者さん、逃げてぇええええええ ~悪役令嬢ベアトリス其の1~」から、まさかの続編。悪役令嬢ベアトリスをザマァする傑作小説は、データが残っていたようです。
学校の昼休み、私は、友達のカオリと一緒にお弁当を食べていた。
「ねぇミカ?このネット小説、すっごく面白いんだけど読む?」
「へぇ、どんな話なの?」
「ヒロインを陥れた、悪役令嬢がザマァされる話だよ。幻のPDFデータを貰えたんだ」
「それって、噂の?データを消さないといけない小説?」
「そうだよ。まだ昼だし、夕方までに読んで、データを消せばいいのよ。10分くらいで読めるわ」
「そう、じゃぁ、読んでみようかしら」
「じゃぁ、後でデータ送るね」
食事を終え、しばらくして、私のスマートホンのチャット&通話アプリに小説PDFのデータが届いた。
「ん~、次の授業は、古典か……退屈だし、小説読もうかな」
机で隠れて先生からは見えない腹部の前スペースで、私はスマートホンを操作する。
……ヒロインに酷いイジメをした悪役令嬢ベアトリスが、最後は首を刎ねられる物語だった。
胸がスカッっとする、素晴らしい『ざまぁ』。お手本のように読みやすいにもかかわらず、テンポの良い展開。こんな面白い作品でも書籍にならないんだ、ふぅん。
授業そっちのけで3回も読み返してしまった。隣で4人協力プレイして現在ラスボスと戦っている男子よりマシかな。時々「ぐぉ」とか言ってるし。
授業が終わって、休み時間にカオリから声をかけられる。
「読んだ?」
「うん、すっごく面白かった」
「でしょ、ちゃんとデータは消しておくのよ。暗くなると出るらしいから。ちなみに、私はもう削除したわ」
「う……うん」
生返事をかえした。もう一回読みたいし、データは夕方にでも消せばよいだろう。
この小説には、それくらいの魅力があった。
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この初夏の時期、放課後の吹奏楽部は忙しい。野球部の応援曲の練習の為だ。
そして私は、音が大きくて人数の少ないトランペット担当だから、ミスをすれば即バレてしまう。強打者のマサヤ君に頑張って欲しいので、私の練習にも熱が入った。もう少し練習しないと。
「おーい。練習熱心なのは良いが。そろそろ、帰れよ」
顧問の先生が私をたしなめる。
「はい、わかりました」
自主練習だし学校にいる必要もない。私は荷物を片付けて、帰り道途中でいつも練習している河川敷に移動した。
こうやって薄暗くなった河川敷で練習するのが、私は好きだ。
暗くなって悪くなる視界のかわりに、耳が鋭敏になる気がする。
強打者のマサヤ君がバッターボックスに入った時のメロディを力いっぱい演奏していると……
「データ、もってるんでしょ。消してほしいですわ」
何か聞こえた気がした。でも、私の演奏でかき消されるか細さだ。
「とくにラストが、酷い、ひどい、ヒドイ……ですわ」
また、声が聞こえた気がする。
太陽は完全に沈み、辺りがいっそう暗くなったころ。
赤い服を着た、白目の全くない瞳の女性が現れたのだ。
「ねぇ、私のこと、みえる?無視しないで欲しいですわ」
「きゃぁあああああ。お、お化け?幽霊?」
「ベアトリスっていうの……知ってるハズですわ。ホラ」
小説のラスト『ざまぁ』シーンで、首を刎ねられた悪役令嬢だ。
自己紹介では御丁寧に、斬られた自分の首を両手で持ち上げてきた。
こっ怖い、こわい、コワイ。私は河川敷を猛ダッシュで逃げた。
「逃がしはしない。ファイヤー・ボールDEATHわ」
幽霊なら人魂とかなんだろうけど、ファンタジーな火の玉が飛んでくる。
「きゃ、熱っ」
ファイヤー・ボールの端の炎が、ふくらはぎをかすめる。靴下が焦げた。
「次は、外さないですわよ」
また、ファイヤーボールが放たれる。もう避けられない。
「ミカっ、大丈夫か。ウォリャァアアアア」
突然現れた男の子が、金属バットでファイヤー・ボールを撃ち返してくれた。
「マサヤ君、どうしてここに」
「俺の応援曲を練習してくれていたから、聞いていたんだよ。練習の邪魔しちゃ悪ぃしな。で、突然演奏が止まったから駆けつけただけだ」
「くっそ、リア充、爆発しろですわ。ファイヤー・ボール」
白いドレスを血液で真っ赤に染めたベアトリスが、オーバースローでファイヤー・ボールをぶん投げた。繋がっていない生首が落下しないから不思議だ。
「くっ、きわどいコース」
バシュンっ!
ファイヤーボールの上側にバットが当たったため、打ったボールは、地面に叩きつけられた。
ぶすぶすと、地面が焦げる。
「待って、ベアトリス。スマホから小説のデータ消すから。それでいいんでしょう」
「うるさいですわ。もう遅いですわ。2人まとめて、死にさらせぇええええ」
ベアトリスがドレスの裾もお構いなしに片足をカチ上げ、オーバースローで炎の魔球を投げ放つ。
「直球ド真ん中だ。打ちごろだ、いっけぇえええ」
バッシューーーーーーーンっ!
マサヤ君は、ファイヤーボールを盛大にホームランした。
「……えっと、あの工場って」
ホームランファイヤーボールが飛んで行った先には河川敷の工場がある。
「やばいっ、花火工場だ」
気が付いた時には、既に遅かった。
ホームランファイヤーボールは花火工場に吸い込まれていく。
夏祭りに向けて、この時期は大忙しのハズだ。
ひと呼吸後……
ドォオオオオン と 大爆発が起きて、
発生した衝撃波が、私とマサヤ君とベアトリスを粉々にした。
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ここは『リンコフ研究所』。
「リンコフ所長、前回『情報思念集合体』の『具現化』実験で出現した悪役令嬢ベアトリスが、拡散した小説PDFデータの持ち主を襲っています。どうするんですか?」
「ああ、そうか。大丈夫だ、もう手は打ってある」
「……どのような?」
「トラックとの交通事故で、この世界から異世界転生する話は沢山あるだろ?で、その代わりに、ざまぁ処刑されたファンタジー悪役令嬢を、どんどんコチラの世界に入れてるんだ。ざまぁ同士つぶし合いしてくれたら、それでいいだろ」
「そんな、上手くいきますかね」
「ん?多分、大丈夫だと思うよ」
数日後、異世界で処刑されたザマァ令嬢達の大量召喚&活躍によって、最終戦争が勃発した。
ホラー小説で「爆発オチ」を書いてみました。
花火工場近くの河川敷で、ファイヤー・ボールをホームランするなんて。
怖いですね、恐ろしいですね、ホラーですね。
異世界ザマァ令嬢達がコチラの世界にやってきて最終戦争が勃発するなんて。
怖いですね、恐ろしいですね、ホラーですね。
もう、ホラーじゃない?かなぁ。
え?「データ、全部消えるんじゃないの?」って。
毎日、毎日、
日本→インド→ドイツ→イギリス
→アメリカ→ハワイ→日本
で、日中にデータが巡っているとか何とか。
傑作小説ゆえん……ですね。