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追憶の宝石  作者: ま行
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思いを託す

 叔父さんと梢さんに事の経緯を説明した。そして自分の考えを伝える。


 俺が話を進める程に、叔父さんは涙を堪えきれず声を上げて泣いていた。梢さんは逆に静かに話を聞き、黙って何か考え込んでいるようだった。


「一人で勝手に決めてごめん、でも、これは俺の心が決めた事だから」

「光輔っ!お前は、お前はっ!」


 言葉にすることが出来ない叔父さんは、涙で顔がぐしゃぐしゃだった。でも、俺の事を思ってくれているのは言葉がなくとも伝わってくる。


「こうちゃんの計画、何もかも無理があると思うんだけど?」

「そう、俺だけの力じゃ無理。だから、全部使う」

「全部?」

「うん、俺が作ってきた人との繋がり全部使う。それでも足りないと思うけど、でもやるよ」


 人と人の繋がりは、俺が得た新しい力だ。雫や、北村、東野、西、南部、橋田、川井、友達がそれぞれに違う力を教えてくれた。心強い俺の味方だ。


「資金は?」

「自分の分だけじゃなく、父さんと母さんにも頼むよ。霞さんの力も使わせてもらうつもり」

「他力本願過ぎないかしら?」

「俺に出来ない事は頼むし、頼る。駄目だって言われてもやる」


 図々しくも厚かましくも、躊躇いはしない。血反吐を吐いてでも、結果を出してみせる覚悟があった。


 梢さんは黙って立ち上がると部屋を出た。それからとんとんと階段を上る音が聞こえてきて、しばらく待っていると今度は下りてくる音が聞こえてきた。


 俺の目の前には通帳と印鑑、そしてカードが置かれた。すべて梢さんが持ってきた物だった。


「こうちゃんの将来の為の貯金がそこに全部ある。自由に使いなさい」

「梢さん…でも、これは…」


 これは叔父さんと梢さんが、俺の順当な進路の為に用意してくれたものだろう。こんな邪道の為に使っていいのか、思わずためらってしまった。


「他の人には遠慮しないで、私達には遠慮するって言うの?私達はこうちゃんのもう一つの家族、そして私はあなたのもう一人のお母さん。誰よりもあなたの事を思っているわ」


 机においた手に、梢さんの手がそっと重ねられた。じんわり熱と小さな震えが伝わってくる。


「あなたの行く茨の道を、隣で一緒に歩いていけない事が悔しい。でも、やると決めたからにはあなたは絶対にやり遂げる。私はそれを信じてるわ」


 もう片方の手にも暖かな感触があった。ゴツゴツとした大きな手、叔父さんの手だ。


「お前は兄貴と俺の、お義姉さんと梢ちゃんの自慢の息子だ。何があっても負けないと分かっている。だから迷わず進め、光輔ならそれが出来る」


 俺は叔父さんと梢さんに手を握られながら頭を下げた。


「ありがとう。本当に本当に、全部ありがとう。俺の家族になってくれて、本当にありがとうございます!」


 我慢できずに俺は泣いた。叔父さんと梢さんも泣いた。でも、これは拭わなくていい涙だ。やっとあの時の雫の気持ちが分かった。嬉しい涙は拭うのがもったいない。




 俺は東西南北ズと橋田川井を呼び出して同じ様に説明をした。協力してもらいたい事をまとめたノートを全員分作ったので、それも一緒に渡す。


「これが必要で最善なこと?」


 南部にそう聞かれて俺は頷く、納得はいかないようだが、南部はそれを見て言った。


「過酷だし、何より残酷だよ。でも、他に方法はないんだよね?」

「ない」

「分かった。じゃあ協力する」


 南部のその言葉に東野が反論した。


「六月!あんた本気で言ってるの!?駄目だよ協力なんて!こんな…こんなのってあんまりだよ!雫も光輔も、あんなに幸せそうだったのに…」

「でも美香ちゃん、今の私達に他に何か出来る事がある?雫ちゃんはこのままだと、全部記憶が消えちゃうかもしれないんだよ?」

「それはっ…そうだけど…」


 東野も俺と一緒に結晶解離病について勉強した事がある。急性化についてもその時教えた。今までは進行を食い止める方法がなく、止まってくれるのをただ祈るしかなかった。


 でも今なら違う、残酷でも方法はある。


「美香、私も混乱しているけれど落ち着こうよ。誰かに気持ちをぶつけて解決する事じゃないんだから」

「梨々子…」

「光輔、私は納得も賛成もしないけれど協力する。でも約束してよ?いつかきっと元通りになるって約束して」

「分かった。約束するよ」


 その約束は何の力もない、それは西にも分かっているだろう。だけどその気持ちは嬉しかった。約束は信頼の証だ。


「北村はどうだ?」

「…私も納得は出来ない。解決方法も知らないし、どうすればいいのかなんて見当もつかない。だけど、光輔の覚悟なら分かる。雫と一緒のあんたをずっと見てきた私達は、その覚悟の大きさと重さが分かる」

「そうか、ありがとう北村」


 俺の礼に北村は黙って頷いた。俺は橋田と川井に向き直った。


「二人はどうだ?協力してくれるか?」

「待て、一つだけ済ませてない事がある」


 橋田がそう言うと俺の目の前までずんずんと歩いてきた。そして拳を握りしめ引いた。殴られてもやむなしと思った俺は、甘んじて受け入れようと目を閉じた。


 しかしいつまで経っても殴られた衝撃はこない、薄目を開けて様子を伺うと、手を差し伸べて待っている橋田がいた。


「お前の選択に、俺は敬意を表する。並大抵の覚悟ではそれを決断できる奴はいない。尾上、お前はすごい奴だ。友人として誇らしいよ」


 俺は橋田の手を取って固く握手を交わした。


「頑張れ!負けるなよ尾上!」

「ああ!必ず、必ず解決できる方法を見つけてくるよ!」


 熱く胸を打つ橋田の応援に俺は勇気づけられた。思えばあの時殴られてからの縁だ、人生何が切っ掛けになるか分からないものだ。


「和也は?」

「ん?」

「ん?じゃねえよ!皆みたいに何かないのか!」

「そう言われても、大体皆に言われた後だし。これ以上のものは中々」

「だーっ!もう!そこは絞り出せよ!何でもいいからさあ!」


 川井はやれやれというように、組んでいた腕を解いて橋田のように手を差し出した。俺は同じように手を取り握手をする。


「根拠はないけど、俺は尾上ならやれるって信じてるよ。俺に出来る事があまりないのが悔しいけど、俺の力なしでもお前ならやるだろ」

「どうかな?茨の道だから」

「なら丈夫な靴を履いて行けよ、転ばないように靴紐をしっかりと締めてな。要はそういう事だろう?」

「確かにそうだ。ありがとう川井」


 皆に伝えるべきことは全部伝えた。そして改めて、友人になれた事を誇りに思った。絆は確かにここにある。それが分かっていれば十分過ぎた。




「…という訳です中井さん、お店急に辞める事になって申し訳ありません」


 喫茶ヤドリギに、中井さんと外谷さんを呼んで同じことを説明した。それと、雇い主の中井さんに謝罪する。


「んなこたいいさ、お前が気にする事じゃあない。…俺に何か出来る事はないか?」

「…強いて言うなら、雫にまた美味しいカフェラテを淹れてあげてください。それに美味しいお菓子も、あれは元気が出るから」

「そうだな。それが俺の仕事だな」


 中井さんはふーっと長い溜息をついて天を仰いだ。両目を手のひらで覆って、そのまま暫くその姿勢のままになった。


「こうちゃん、俺が呼ばれた理由はこの説明だけじゃないんだろ?」


 外谷さんにそう聞かれて俺は頷く。


「伝手を紹介して欲しいです。外谷さんならあらゆる国に精通してますよね?メモリージュエルに詳しい人と連絡を取りたくて」

「そんな事だと思って、役立ちそうな取引先についてまとめておいた。俺の名前を出せば話ぐらい聞いてもらえるだろう。でも、その後はこうちゃん次第だぜ?」

「無論です。流石、仕事が早いですね」

「俺はこれでも世渡り上手でね、顧客に合わせた商売を手広くやらせてもらってるよ。そのコツが仕事の早ささ」


 外谷さんはそう言うと、俺にずっしりと思いファイルを渡してくれた。沢山の情報が事細かにまとめられていた。


「こんなにいいんですか?」

「いいのいいの、それがこうちゃんの役に立つなら尚更いいの。そんな事よりさ、上手くやってとっとと戻ってきなよ。こうちゃんのいない店に浩也と行くのは寂しいからさ」


 俺は二人に向かってお礼と、深々と頭を下げて謝意を示した。頼りになる人達が周りに沢山いる。頼もしくて力強い、負ける気がしない、心からそう思った。

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