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追憶の宝石  作者: ま行
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友情が助く

 マスターの手伝いをする事に決まって、当然ながら橋田と川井にも声をかけた。二人とも承諾してくれたが、俺としては少し申し訳なかった。


「いいのか?ただ遊べるだけじゃなくて店の手伝いで忙しいけれど」


 俺の問いかけに橋田も川井も笑って答えた。


「困ってんだろ?人手は多い方がいいじゃねえか」

「俺はそう見えないかもしれないが、花火が大好きなんだ。それが見られるだけでも行く価値があるな」


 二人ともそう言って笑った。親切に甘えていいものかとも思ったが、ここは素直に甘えさせてもらおう。


 そもそも俺一人で東西南北ズをまとめるのは無理だ、絶対に振り回される。橋田、川井には申し訳ないが道連れだ。


「で、何時、何処行くんだ?」

「その辺の計画は北村と雫が色々やってくれてるんだ。北村が率先して仕切ってくれてるから、そっちに聞いてくれると助かる」


 北村は雫と頻繁に話し合って計画を立ててくれていた。北村はそういったことを取りまとめるのが上手い、思えば橋田の告白作戦の時皆を引き込んだのは北村だった。恐らく天性の才能だろう。


 そしてそんな北村に色々と意見をしてちょっとずつ軌道修正をするのが雫だ、息のあったやり取りを見ていると、長年の絆というか、変に関係がこじれてしまう前は、こういった間柄であったんだろうなと思わせた。


「分かった北村だな、そっちに話し聞いてみるよ」

「本当に助かる。ありがとうな」

「お礼はいいよ、俺も透も、お前とはもう友達だと思っているからな」


 川井の言葉に、俺は少しだけ驚いた。思ってもみない事を言われて、少々面食らってしまった。


「改めて言葉にされると照れくさいな…」

「…言うな、俺も言って後悔してる」

「ははは!和也の面白い一面が見れたな!滅多見れないぞ尾上!」


 橋田が楽しそうに笑っている、その頭を川井が引っ叩いた。その様子を見て俺は吹き出してしまった。結局最後は三人で笑った。友達が出来る事がこんなにも幸福な事なんだと身にしみて理解出来た。




 俺は休み時間に、雫と北村が一緒にいる所へと行った。俺に気がついて雫が手を振った。


「どうしたの光輔くん?」

「おっ、光輔じゃん。雫に用事?」


 俺は雫に小さく手を振り返して北村に言った。


「どちらかと言うと両方だな、雫にも会いたかったけど、聞きたい事があったのは北村だ。橋田と川井の話はもう聞いたか?」

「…あんたは正直だねホント」


 雫が顔を赤らめているのを見て、俺もぽろっと出た本音に気がついて顔が熱くなってきた。俺たちの様子を見て北村は呆れたように首を振る。


「何時まで初々しい事してんの二人とも、そろそろ胸張って堂々としたら?」

「ど、堂々としてるだろう?」

「鏡見ろ鏡、お前たち二人とも顔真っ赤、耳までな」


 北村は鼻で笑ってそう言った。悔しいが否定は出来なかった。


「透と和也の事はさっき二人から聞いたよ、マスターにメッセージ送ったら人手は多いほうが助かるって返信きた」

「あれ?連絡先交換してたのか?」

「聞いておいた方が便利でしょ?」


 なんという行動の早さとそつのなさ、そしてコミュニケーション能力の高さか。こういった行為をさらっと的確に行えるのが北村が人気者たる所以なのか。


「岡本さん、あっ、マスターのご友人の方ね、岡本さんも助かるってさ。祭りの間だけでも開業出来るなら是非そうしたいって。毎年やってて常連さんもいるから、がっかりさせたくないんだってさ」


 もうすっかり相手方の名前も聞いていたのか、俺なんて行って覚えればいいか程度に思っていた。


「でも大人数でお仕掛けて迷惑じゃないか?民宿の部屋もそんなにあるのか?」

「そこは心配ないそうだよ、マスター結構大きい民宿って言ってたじゃない?画像が送られて来たけど、旅館みたいだったよ」


 雫はそう言うと、自分のスマホを操作して俺に画面を向けた。写っていた建物は確かに大きくて立派だった。旅館と言われても差し支えないように見える。


「じゃあそれなりの人数で行っても大丈夫なんだな」

「うん。バイト代も出すって言われたんだけど、そこは断っておいた。あくまでもお手伝いって事でね。宿泊費が浮くなら安いもんでしょ?」


 北村の言葉に俺は頷いた。まったく同じ事を考えていたからだ。


「それに人数が多くなれば担当で分ける事も出来るからね!」

「担当って?」

「海に行ってずっと遊ばないつもり?交代で人数振り分ければ、時間にも余裕が出来るでしょ?忙しい時は全員で手伝うけど、タイミング見計らって私達も遊ぼうよ」


 俺は北村の言葉を聞いて呆れた。だからあんなに熱心に計画をしていたのかと、今になってようやく分かった。


 ずっと海の家の手伝いをしているつもりだった俺からしたら、海で遊ぶなんてのは考えがなかった。そんな必要もないだろと思っていたが、北村達はどうやら違うらしい。


「雫とはその相談をしてたのか?」

「私は殆ど何もしてないよ。結衣が考えてくれたの」

「ふふん、私そういうの考えるの上手いの。どう光輔?見直した?」


 そう言って北村はふふんと自慢気に胸を張った。


「ハッキリ言って見直した。北村はすごいよ」

「ふへっ!?」

「?何だ?変な声出して」


 今度は北村が顔を赤くして固まった。何か変な事を言っただろうかと思っていると、雫が俺の耳たぶを摘んで引っ張った。


「イテテテッ!何々!?何だよ!?」

「…別に、虫がとまってたから」

「虫っ!!もうついてないか!?大丈夫か!?でかい奴だった!?」

「早くお手洗い行って鏡見てきなよ、まだ居るかもよ?」


 俺は飛び跳ねてトイレへと駆け込んだ。もう話なんて聞いていられない、俺はすぐにでも鏡を見たくてたまらなかった。




 こうちゃんが足早に去っていったのを確認してから、私は結衣の方を見た。


「ごめんって」

「結衣には怒ってないよ、光輔くんに怒ってるの」


 本当の事だし、結衣に怒る理由もない。ほっと胸をなでおろしているようだが、心配することなんてないのにと私は思った。


「しかしあいつさらっと平気な顔でああいう事言うな」

「そこが光輔くんの良いところでもあり悪いところでもあるの、私にしてみればね」

「でも正直で真っ直ぐなところが好きなんでしょ?」


 結衣の指摘に私は口ごもった。その通りだけど、口に出されると照れてしまう。


「勘違いしないで欲しいけど、雫の気持ちがちょっと分かった気がする。あの嘘のなさっていうか、本当に心からそう言ってるって感じはちょっとドキッとするね」

「そうだね、私も本当はずっとドキドキしてた。告白されてからは別の意味でドキドキしてるけど」


 私がそう言うと結衣は笑って言った。


「雫が懸念してるような事はないって、光輔が雫以外の人に目を向けると思う?断言出来る、それはありえないよ」

「…そうかな?」

「確かに光輔とちゃんと向き合えればあいつの良いところって一杯分かるけど、私達は偶然そうなっただけだから」

「偶然?」


 結衣の言葉の意味が分からなくて私はそれを聞き返した。


「雫っていう共通項が出来て、仲直りしたくって協力を頼んで、光輔がガチガチに固めてる周りに対する壁に入れてくれたから私達は今こうして仲良く出来てる。でもやっぱり、光輔を理解してくれる人ってそう多くないと思うな」

「…そう、だね。うん、そうだと思う」


 こうちゃんは自分の心を守る為に壁を作る、それ自体は悪い事じゃないけれど、元から近づき難い性格をしているのが、更に増長されてしまっている。


 最近は態度が軟化しているとはいえ、まだまだ周囲の目は冷たいままだ。本人は毛ほども関心をはらっていないので問題ないが、周りはそんなこうちゃんを見て悪感情を持ってしまうだろう。


「そんな心配そうな顔しないでよ、雫のお陰で光輔も前よりずっと話しやすくなったし、きっとその内光輔の人の良さに気がつく人もいるって」

「不思議、結衣がそう言うと信じられる」

「ふふっありがと!」


 私は結衣の笑顔に微笑みで返した。こんなに大切でかけがえのない絆を、私は消し去ろうとしていたのか、そう思った。


 改めてこうちゃんの言葉が胸に響く「消えていくとしても無くす必要はない」この言葉と行動がなければ、今の私はどうなっていただろうか。


 こうちゃんは今鏡と一生懸命にらめっこしているだろう、ちょっと悪いことしちゃったなと思いながらも、心の中で感謝の気持ちを膨らませ、こうちゃんに届けと思った。

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