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追憶の宝石  作者: ま行
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磨き上げて

 俺は解説が記載されている本を広げて、宝石を相手に悪戦苦闘をしていた。


 最初に手をつけたのは、雫と皆との繋がりの切っ掛けとなったあのカーネリアンだ。思い入れというのもおかしな話だが、特別な石なのは間違いない。


 水につけながらひたすらにヤスリで磨いていく、明確なイメージはないけれど、まずは角を落として丸みを持たせたいと思った。あまり大きな石ではなかったので、細かくて慣れない作業に、目と肩に急激な疲れが現れた。


 休憩を挟みながら、作業に没頭していく。必死になって宝石と向き合い、磨き続ける。もっと輝く筈だ、綺麗に、そして気高く、そんな気配は一切見えないけれど、心の中でそう唱え続けた。


 肩と首がバキバキと悲鳴を上げていた。集中して見続けていたからか、目も限界まで疲れていた。一旦休憩をしようと思い、作業の手を止めて一度宝石を持ち上げた。


「…おお、凄い」


 思わずそんな言葉が漏れ出た。夢中になって作業していて気が付かなかったが、段々とそれらしい形になってきて、光沢が出始めている。まだまだ不格好ではあるが、自分で磨いた宝石が輝くのは何だか気持ちが良かった。


 俺は作業途中の様子をカメラで画像に収めた。役に立つかは分からないけれど、自分の手で記憶の宝石に本格的に触れた最初の記念だ。


 しかしこれは、想像以上に達成感がある。綺麗になっていく宝石を見ていると疲れも何処かに行ってしまったようだ。俺は再び椅子に座ると、ヤスリを手にとって作業を続けた。




 体を揺さぶられて誰かに声をかけられている、そんな感覚に俺は目を覚ました。


「あっ起きた?こうちゃん」

「…梢さん?」


 寝ぼけ眼をこすると、辺りがすっかり暗くなっている事に気がついた。がばっと体を起こして時計を見ると、夜になっている。


「ご飯出来たから呼びにきたの。何度もノックしたのに反応ないから心配しちゃった」

「ごめんなさい、ちょっと休憩するつもりが寝ちゃってたみたいで」


 俺は慌てて梢さんに謝った。作業の途中、手を止めて少しだけ目を瞑っていようと思ったら、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。


 勉強等で寝落ちした事がないので、何かに没頭して寝落ちしたのはこれが初めてだ。背伸びをすると、体からパキパキと音がした。


「わあこれどうしたの?」


 梢さんが俺の机の上から何かを拾い上げた。俺も見慣れない物だったので、手に乗せてもらう。


「あっ!」

「えっ?えっ?何?」

「こ、これ!出来てる!」


 俺の手の中にあったのは自分で磨いたカーネリアンだった。形はお世辞にも綺麗とは言えないけれど、ちゃんと輝きを放つ宝石になっていた。


「こ、これ、雫の記憶の宝石だよ!俺が磨いたんだ!」

「自分の手で加工したの?すごいわね…」


 梢さんは受け取った宝石をまじまじと見つめていた。改めて見ても歪ながらちゃんと宝石だ、嬉しくなって心の中でガッツポーズした。


「でも、何でまたこんな事を?」

「うん?ああ、理由はそうだな…、何でだろう?」


 俺の言葉に梢さんは力が抜けたようにずるっと体勢を崩した。


「ちょっと、理由もなくやる事じゃないでしょ?」

「そうなんだけど、強いて言うならその理由を探してるからやってるんだ」


 梢さんは訳が分からないというように首を捻った。言っている俺も分からないのだから無理もない、説明が出来ないのだ。


 取り敢えず今考えている事のすべてを吐き出すだけ吐き出した。説明でも何でもない、ただの気持ちの羅列、感情の洪水だ。それでも梢さんはうんうんと頷きながら聞いてくれた。


「成る程ねぇ…」

「梢さん何か分かる?」


 そんな話をしていると、部屋の扉がノックされた。向こうから叔父さんの声が聞こえてくる。


「おおい!二人とも何してるんだ?ご飯冷めちゃうぞ」

「いけない、こうちゃんを呼びに来たんだった。続きは忠さんも入れて話そうか」


 そういえばそんな話だった。すっかり忘れて話し込んでしまった。叔父さんを一人で待たせてしまったので、俺たちは話を切り上げて一度皆で話し合う事にした。




 晩ごはんを食べ終えた後、梢さんがお茶を入れてくれた。皆でほっと一息ついてから、先程梢さんに話した内容を叔父さんにも説明する。


「…分からん」


 叔父さんの一言はこうだった。まあそうだよなと俺は思う、何より俺が理解していないからだ。


「私はちょっとこうかなって思う事があるな」

「梢ちゃん本当?」


 梢さんの一言に叔父さんが驚いて反応する。


「まあ結局はこうちゃんが答えを見つけるしかないけど、多分不安なんじゃないかな?」

「「不安?」」


 俺と叔父さんの声が重なった。思わず顔を見合わせて苦笑いをする。


「うん、こうちゃん今まで意図的に大切なものとか関係とか作るのを避けてきたでしょ?それは心を守る為だったから仕方のない事だけど、それを変えるって決めた今はある意味無防備な状態でしょ?」


 確かにそうだ。俺は敢えてそういう事を避けて、考えようともしなかった。そんな事より雫の方が大切だったから改めた訳だが、その後の気持ちの変化は特に考えていなかった。


「もしかして俺って、結構考えなし?」

「今頃気が付いたの?まあ考えなしというよりも、馬鹿正直って方だけど」


 梢さんの容赦ない一言が俺の胸を貫いた。重く鋭い一撃だ。


「まあまあ、それが光輔の良いところだから」

「叔父さん…」

「それは私も分かってるって、こうちゃんはそのままだから素敵なの。で、私が言いたいのは、こうちゃんは雫ちゃんとの関係を、形に見える明確な物にしたいんじゃない?」


 そう言われると、思い当たる事もいくつかある。ただ、全部が納得出来るという感じではなかった。その事を梢さんに伝えると、梢さんはその事も肯定して続けた。


「私が感じた印象だからね、正解とは思わないよ。結局は自分で見つけるしかないんじゃないかな?」

「…ですね、その通り」

「俺はよく分からなかったが、その宝石を見せてくれないか?光輔が自分で磨いたんだろ?」


 叔父さんに言われて、俺は自室に戻って宝石を取りに行った。叔父さんは俺から宝石を受け取ると、感心したようにほおと声を上げた。


「人の手でも結構綺麗に出来るもんなんだな」

「でもまだまだ歪だよ」

「そんな事ない、中々味がある。ちょっと待ってな」


 そう言うと叔父さんは宝石を持って何処かへ行ってしまった。俺は梢さんと顔を見合わせて、何だろうと肩を竦めた。


 梢さんと最近の雫との事を話していると、持っていった宝石を片手に叔父さんが戻ってきた。そして驚く事に、その宝石にはアクセサリーの部品を通す為の穴が空いていた。


「叔父さん、これって?」

「実は俺、昔ハンドメイドのアクセサリー作りに凝っていてな。その時の機材があるからちゃちゃっとやってみた」

「えー?私そんな事知らなかったよ?」

「内緒の趣味だったんだ。実は梢ちゃんのその指輪も、俺が教えてもらいながら手作りした物なんだぜ」


 俺と梢さんは驚いて一緒に指にはめられている指輪を見た。すごく丁寧な作りで高級品に見える、これを自作したと言われると本当に驚きだ。


「これ忠さんが作った物だったの!?」

「流石に全部じゃないぞ?それは色んな人に手伝ってもらって作った。加工する技術なんて知らないしな。だけど主だった作業は俺がやったんだ」


 俺たちは「へえー」と声を合わせて感心した。叔父さんにそんな特技があったなんて知らなかった。


「でも何で秘密にしてたの?」

「あ?それはだな、その、わ、笑うなよ?」


 俺は頷いた。叔父さんはそれでも言いにくそうにしているが、思い切ったように言った。


「その、な、本当はすごく気の長いサプライズのつもりだったんだ。俺たちがじいさんばあさんになった時、梢ちゃんにあげたアクセサリーの数々、実は全部俺の手作りでしたって言ったらびっくりすると思って」


 それを聞いた梢さんは呆れたように溜息をついたが、俺は逆に焦って言った。


「そんな大切なサプライズ、こんな形でばらしちゃってよかったの?」

「サプライズは惜しいけど、光輔に協力しない方が後悔するからな。…でも梢ちゃんにはごめんなさい」

「あのねえ、驚きより呆れの方が大きいわよ。今ここで話してくれてよかったわ。…ていうか、そうやって誰かの為にすぐ行動出来る忠さんの方が私は好きよ」


 二人の間にいい空気が流れた。俺は叔父さんから宝石を受け取ると静かに立ち上がって、そっと部屋に戻った。

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