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追憶の宝石  作者: ま行
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無理ではないが難題

 テスト期間が終わった。採点も済んで解答用紙も返ってきた。総合得点の順位も貼り出された。


 俺はいつも通り一位の成績だった。皆は順位表に群がってざわついているが、俺は順位にはこだわりがないのでスルーした。


 別に順位が高い必要はない、要は必要な知識を適切に運用出来るかを試したいだけだ。それが上手くいっているのなら問題はない、順位で何かが変わる訳でもないし、皆が熱を上げる理由も分からなかった。


 兎に角、テスト期間が終わったからアルバイトが出来る。俺にしてみればそっちの方が重要だった。テストで縮こまった体をぐいっと伸ばしてストレッチをしていると、背後から声をかけられた。


「よっす尾上」

「あっ橋田」

「あっ、とは何だ、あっ、とは」

「よ、よっす!」


 声をかけてきたのは橋田と川井だった。テスト期間が終わったからか、開放感溢れた清々しい表情をしている。


「尾上見たぞ、また一位取ってたな」

「ん、ああ、まあそうだな。川井も凄いじゃないか、十五位に名前が書かれてたぞ」

「尾上の教え方が上手だったんだよ、正直俺も点数に驚いた」


 二人とも何度か一緒に勉強会をした。川井はこう言うけれど、あまり手がかからなかったので元々のポテンシャルだと思う。


「それで?橋田はどうだったんだ?」

「おいおい尾上君、テストの順番で人生が決まるかね?聞いてどうするんだいそんな事」

「こいつは微増だな、順位は前と変わらずだ」

「和也てめえ裏切ったな!」


 俺は溜息をついて頭を抱えた。二人との勉強会で一番時間を割いたのは橋田相手だ、俺は自分の勉強はそっちのけで殆ど付きっきりで教えていた。


「お前、あれだけ俺がみっちり教えてやったのに…」

「待て待て!一回で結果が出る方がおかしいだろ?見てろって、次は順位なんてぶち抜いて尾上の上に立ってやるから」

「透、一位の上はないから同率一位しか無いぞ」

「うるせー!気持ちの問題だよ、気持ちの!」


 橋田の物言いには呆れたが、確かに一回や二回ですぐに成績に反映される方が難しい、川井は今回偶々かっちりとハマったのだろうが、橋田の言う事にも一理あった。


「で、何か用か?」

「ああそうそう、林先生が呼んでたぞ。見当たらないから俺たちも探してくれって頼まれたんだ。職員室まで来てくれってさ」

「林先生が?」

「何かやらかしたのか?」

「心当たりはないな、行けば分かるか。ありがとう橋田、川井」


 二人に礼を言うと俺は職員室に向かった。何か呼び出されるような事をしただろうか、やっぱり思い当たる節がないなと思いながら扉をノックして入室した。




 そこには林先生の他に南部が居た。先生が俺を見つけてこっちに来いと手招きしている。


「南部も呼び出されたのか?」

「あー、この様子だとやっぱり光輔くん聞いてなかったね」


 何の話かさっぱり分からない、そんな俺を見かねたのか先生が溜息をついた。


「尾上、そろそろ勉強合宿があるのは知ってるか?」

「知ってますよ、学校行事だし」

「二年生からは直前のテストで、成績学年一位と二位が実行委員となって活動の指揮を執るのは知ってるか?」


 寝耳に水だ、そんな事は知らない。俺は慌てた。


「そうなんですか!?」

「そうです。テスト前にも言いました。どうやら聞いていなかったようですが」


 本当に聞いていなかった。いつも通り何事もなく終わっていくものだと思って聞き流していたようだ。


「で、でも先生、俺無理ですよそんな事。陣頭に立つ事なんて出来ません、先生も知ってるでしょう?」

「分かってる分かってる。一旦落ち着け尾上、だからこうして南部も呼んで話し合いをする事にしたんだ」


 南部の顔を見ると笑顔ではあるが、困ったような表情を浮かべている。ここに居るということは、二位は南部だったのか、ちらっと見ただけだから分からなかった。


 俺たちは先生に連れられて空き教室に入った。適当に机と椅子を運んでくっつけて、話し合いの場を設ける。


 目の前に先生、隣に南部という形で俺たちは座った。


「まず確認しておきたいが、南部は尾上の事情を知っているか?」

「はい知っています」

「そうか、最近よく一緒にいる所を見るようになったが、どうやら関係は良好のようだな」

「まあ少しきっかけがありまして、だから南部は俺の事情も大体は把握してます」


 先生は南部に俺の事を話していいのか確認を取りたかったのだろう、その意図を汲み取って手順を省く。


「なら問題ないな。で、俺の意見だが、確かに尾上には荷が重いと思う。だから役目から下りてもらうのが懸命だとは思うのだが、如何せん特別扱いした後を思うとそうも言い切れない」

「慣例だからですか?」

「そうだな、そして競争心を煽る為でもある。成績一位が目に見えて活躍していると、自分もって気持ちが出てくるからな」


 それは理解出来るが納得は出来ない、別に勉強が出来る人間がリーダーシップを発揮する訳じゃないだろうに。その事を先生に伝えると、深く頷いた。


「至極真っ当な意見だ。だからな、この実行委員には筋書きが用意してある。取り敢えずそれに沿って仕事しておけばいいってやつを学校側も用意しておくんだ。ただ、それでも矢面に立ってしまうのは変わりない、尾上には酷だ」

「先生、どうしても尾上くんがやらなければならないのですか?私それは個々人の事情へ配慮が足りないと思います」


 南部が助け舟を出してくれた。


「それも分かってる、だからな、陣頭に立つのは南部がやってくれないか?尾上は裏方に回るって形で、それなら前例もあるからきっと反発も少ないと思うんだ」

「裏方ですか?」

「うん、そもそもやることもそんなに大変な事じゃない、勉強が目的だからな。細々した事への生徒側のまとめ役って感じだ。俺もサポートするからやってみないか?」


 先生にこうして頼み込まれると断りにくい、しかし南部の気持ちはどうだろう、代わりというのも気が悪いのではなかろうか。


「南部はそれでもいいのか?」

「それがありなら私はそれでもいいよ。光輔くんまた倒れちゃったら大変だもんね」


 他ならぬ南部がそう言ってくれているなら、俺としてもそこまで強く断る理由もない、役目を押し付けるようで悪いがお言葉に甘えさせてもらおう。


 それに先生の言っている事も分かる、特別扱いした後の事というのは、俺が今まで人の気持ちを無視して積み重ねていた不平不満のせいだろう。


 例えその気がなくとも人は人を傷つける事がある、雫と北村達との事でも思い知ったし、俺が蔑ろにしてきた人間関係についてのツケが回ってきた。


 先生はその辺のバランスの事を考えてくれているのだと思う、事情を説明しても納得しない者は納得しないし、俺としても自分の事をぺらぺらと喋る気はない。東西南北ズと橋田と川井は特別だ。


 気にならなくなってきたとは言え俺への不満はまだ聞こえてくる、雫が教えてくれた通り、俺はずっと自己完結させて生きてきた。


 西から学んだ無言のコミュニケーションというのも、集団で生きる上で意識しない事は出来ないのだろう。人が居て自分が居る。そんな当たり前の事が今までは見えていなかった。


「出来る所までですが、やります」

「そうか!よかった。俺も出来る限り配慮するから、あまり気負わずにやってみてくれ。無理ならすぐに言ってくれよ、体壊してまでやる事じゃあないからな」

「私も協力するから頑張ろうね」


 先生と南部がそう言ってくれるだけでもやれる気がしてくる。思いがけず舞い込んできた難題だが、何とか出来る事はやってやろう、そう思った。

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