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追憶の宝石  作者: ま行
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仕切り直す者、探す者

 フードコートに到着したのは俺たちが一番遅かった。何度か俺がはぐれかけたのが原因なのだが、東野にその度に見つけてもらえて助かった。


「美香と光輔、遅かったね」

「誰か首輪買ってきてくれない?光輔地図に弱い癖にちょろちょろ動くから、滅茶苦茶苦労した」

「苦労かけてすまない、でも助かった」


 でも首輪は勘弁願いたい、苦しそうだし。


「そっちどうだった?」

「クラゲすごく綺麗だった。幻想的で素敵」

「俺も堪能した」


 どうやら北村達は北村達で楽しんでいたようだ、橋田の用事が済むまではどうしようもないから、楽しむのが正解かもしれない。


「梨々子は?駿太さんと何してたの?」

「職場に面白い先輩がいるって聞いてたから、その人に挨拶してきた。本当にすごいユニーク、昔はお笑い芸人目指してたんだってさ」

「へー?面白い経歴の人だね」


 北村達が会話で盛り上がっているので、俺は雫の様子を伺った。何だかとても浮かない顔をしている、にこにこと笑顔を貼り付けているのが不自然だ。


 話しかけたいけれど、隣にいる橋田もぎこちなく笑っているのが気になる。どう切り出したらいいものか分からず、結局俺は声をかけられずにいた。


「これからどうする?皆でもう一回り見ていく?」

「そうだね、そうしたらここ出てどっかで食事してこうよ。雫ちゃんもそれでいい?」


 南部に聞かれて雫はハッとした顔をする。


「あ、う、うん。いいよ、私もそれでいい」


 よく聞いていなかったのか返事も曖昧だ、やっぱり二人の間で何かあったのか、そんな事を感じさせられた。橋田の返事も同様だった。


「じゃあ大水槽の方見に行こう。私らずっとふれあいコーナーに居たから全然他の生き物見てなくてさ」

「マジ?ずっと?」

「うん、思いの外盛り上がったからさ。最終的に周りのお客さん皆巻き込んで海の生き物講座開いてた」

「何それ、すごく楽しそうな事してんじゃん」

「めっちゃ楽しかった。でも他の水槽も見たい、光輔は絶対誰か他の人と一緒にいるように!いいね?」


 俺は東野の言葉に黙って敬礼をした。これ以上迷惑をかける訳にもいかない、従うのが懸命だろう。




 全員で移動している最中、俺は取り敢えず皆からはぐれない事だけを意識して歩いていた。水槽をじっくり見て回りたい気持ちはあったが、迷ったら最後、館内アナウンスで呼び出される未来が見える。


 それに少し人混みの中にいすぎた。一人静かにして、楽しげに話す皆の後ろをついていくだけでも、俺は案外楽しめていた。


「光輔くん、ちょっといい?」


 いつの間にか隣に雫がいた。迷わない事に集中しずぎて気が付かなかったようだ。


「どうした?大丈夫か?」

「え?」

「ずっと無理してるだろ、何かあったのか?」


 聞いてから思った。何かあったに決まっている、この聞き方はまずかった。上手く取り繕う事が出来るか焦ったが、雫の反応は意外なものだった。


「何もないよ、何もね」


 何もない訳がない、事情を知っているというだけでなく、表情や態度を見ればそういう事に疎い俺でも分かる。


 でも、雫が何もないと言うには何か理由がある筈だ。敢えて聞かないというのも必要な事かもしれない。


「そうか」

「うん、そう」


 言葉少なにも程があるとは思ったが、適切な言葉が見つからない。俺はそんな自分が情けなかった。


「話しあれば聞くよ、今俺に出来るのはそういう事じゃないか?」

「どこで覚えたの?そんな気の使い方」

「そうだな、思うに雫に推奨された交友のお陰だな、悪くないだろ?」

「ふふっ、そうだね。うん、悪くないね」


 雫は暫く話し出さなかったが、思い切ったように口を開いた。


「光輔くんはさ、不安になったりしない?」

「何にだ?」

「私と一緒にいてさ、いつ記憶から消えて宝石にされるか分からないんだよ。一度その事で傷ついたでしょ?それを不安に思わない?」


 その質問に俺はすぐに答えた。


「不安なのは否定しない、だけど、俺は何度でも雫の記憶に戻るよ」


 答えを聞いて雫は驚いた表情で俺の顔を見た。俺は精一杯の笑顔を作って明るい顔で雫を見つめ返した。


「スペースが無くても居座るぞ、もうそう決めたからな」

「何か光輔くんちょっと雰囲気が変わった?」


 そう聞かれて俺は思い当たる節を探す。そして父と母との会話を思い出した。もし変わったとすれば、それが大きなきっかけだ。


「俺父さんと母さんと話したんだ。上手く話せるか不安だったけど、想像以上に上手く話せた。それはさ、間違いなく雫のお陰なんだ」

「私のお陰…」

「そうだよ、雫がくれたきっかけで俺は人との関わり方が大きく変わった。色んな事に気がついたし、人によってどんな考え方があるのかって知った。以前の俺だったら無意味に思えた事が、無意味なんかじゃないって知れたんだ」


 それは本当に衝撃的で、とても刺激的だった。振り回されているだけに思えてた事も、すべて俺の今に繋がっている。


「だから答えは不安だけど問題はない。少しは安心できるか?」


 きっと今一番不安に思っているのは雫で、何かがきっかけになってその不安が溢れ出したのだと思った。だから少しでも安心させられるような事を言いたかった。


「光輔くんはすごいね、欲しい言葉をぽんって軽く渡してくれるんだもん」

「役に立ったようで何よりだ」

「勿論!ありがと、元気出た!」


 雫はそう言うと皆の輪の中へと入って行った。いつもの調子に戻ったように、楽しそうに笑いながら話している姿を見て、俺もほっと胸をなでおろした。




 俺たちは水族館を存分に堪能すると、今度は街に出て皆でファミレスに入って食事をした。


 友人同士で、こんなに大人数で食事をするのは初めてだった。傍から見ると俺はとてもソワソワとしていたと思う。


 東野と西にドリンクバーで作られた地獄のブレンドを味わって悶絶するも、何だかんだで楽しい体験が出来た。わいわい騒ぐ事も案外悪くない、勿論迷惑をかけない範囲なのは当たり前だが。


 東西南北ズと雫はまだ遊んでいくようだ、俺はもうそろそろ人混みの許容値を超えそうだったので、ここで別れて帰る事にした。


「尾上が帰るなら俺も帰るよ、お前迷うだろ?」


 てっきり雫達についていくと思っていた橋田がそんな事を言い出した。俺は首を傾げて言う。


「いや、流石に電車に乗るだけなら…」

「そうだな、尾上が心配だし、俺たちはこいつについて行って帰るよ。お前たちも遅くなるなよ」


 俺の言葉を遮るように川井にがっと肩を組まれた。事情はよく分からないけれど、橋田はどうやら雫達と離れたいらしい、俺も適当に話を合わせる事にした。


「そうね、光輔はそうした方がいいでしょ」

「私いなくてもはぐれるなよ光輔!」


 北村と東野にそう言われて、俺たちはその場を後にした。駅に向かって歩いている道中、俺は川井と話していたけれど、いつもそこに入ってくる橋田がやけに静かだった。


 いつも勢いだけはある橋田が静かだと、何だか落ち着かない。そう考えていると、橋田は急に口を開いた。


「雫に告白したけど振られた」


 その一言は言葉なのにずしりと重たく感じた。


「そうか」

「…」


 川井は呟くようにそう返して、俺は何も言えずに黙っていた。こんな時なんて声をかけたらいいのか分からない、沈黙は金なりとは言うが、何か声をかけてやりたかった。


「でもさ何でかな、俺はこうなるんじゃないかって頭で思ってたんだ。別に諦めてた訳じゃないぞ、ただこの結果を知っていたような気もするんだ」

「それはどういう意味なんだ?」


 言っている事の意味が分からなくて俺は橋田に問う、すると橋田はこちらに向き直ってニカッと笑顔を浮かべた。


「今は駄目でもいつか俺の気持ちも届くかもしれないだろ?俺は一回で諦めるような男じゃない、今回はもう最初からそんな気持ちだったから駄目なんだ。俺はまた自分を見つめ直してまたアタックするさ、仕切り直しって事さ」


 橋田のその笑顔は強がりのようにも思えた。しかし、同時に覚悟と強い意思も感じ取れるようだった。それを見て川井はふっと笑った。


「しぶといのはいいが、相手に迷惑だけはかけるなよ」

「当たり前だろ!雫の気持ちだ最優先だ!」

「まあ、お前ならそう言うと思ってたよ。俺はこれからも協力してやるよ透」


 川井はそう言って橋田の頭をわしゃわしゃと撫ぜた。ぐしゃぐしゃになった髪型で抗議の声を上げるも、橋田は吹っ切れた表情をしていた。


「という訳で尾上ありがとうな、お前は約束を果たした。もう俺の事手伝う必要はないぞ」

「えっでも」

「別に恋を成就させろとまでは頼んでないだろ?雫と仲直りできたし、ここまでお膳立てしてくれたんだから、お前はちゃんと俺との約束を果たしたよ。だから…」

「だから?」

「今度はお前がお前の気持ちと向き合ってみろよ。余計なお世話なのは分かってるけどさ、本当の気持ちを見つけろよな」


 俺の本当の気持ち、橋田にそう突きつけられて俺は胸が締め付けられるような思いになった。この苦しみはなんだろうか、これこそが橋田が向き合えと言った俺の本当の気持ちなのかもしれない、そんな事を思った。

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