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追憶の宝石  作者: ま行
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友人 東野美香の話

 東野のお陰で何とか無事にふれあいコーナーまでたどりつけた。周りは子供ばかりだが、俺は奇異の目を気にせずにヒトデに触れた。


 周りの視線が気になるのか、東野は後ろから俺を見ているだけだったが、その様子の方が周りから浮くと気が付いたのか、隣にしゃがみ込んだ。


「光輔さあ、周りの目を引いても本当に気にしないよね」

「どう見られていようともやりたいことをやらない理由にならない」


 俺はそう言った。本心だ。


「心が強いなあ」

「強くないよ、俺は。精神的には東野達の方がよっぽど健康だ」

「そういう意味じゃなくてさ」


 東野は指先でナマコをつついた。


「やりたい事や将来も見据えてさ、色々やっててすごいじゃん。勉強だってめっちゃ出来るし」

「テストで良い点を取れる事が人の善し悪しには繋がらないさ、俺は偶々その辺の要領が良かったってだけだ」

「そう言い切れる事が強く感じるんだよなあ」


 強い、強いか、そもそも心の強さとはなんだろうか、俺の心が強かったのなら、今でも父と母と一緒に過ごせていたのではないだろうか、病気を憎み、すべてを滅するとばかりの怒りを抱かないのではないだろうか。


「東野は強くなりたいのか?」

「うーん、そういうのとは違うけどさ。単純に光輔のそういう姿勢ってかっこいいと思うんだよね、だからどっちかと言うと憧れ?」

「俺にか?」


 馬鹿にするつもりはないが少し笑ってしまった。東野が俺に憧れる姿が想像がつかなかった。


「だーかーらー、光輔本人にって事じゃないってば」

「悪い悪い、分かっちゃいたけど、額面通りに受け取るのが俺だからさ」

「そうだと思ったよ、私達も大概光輔に遠慮しなくなってきたけど、光輔も私達に遠慮しなくなってきたよね」


 それはそうだと思う。言っても東西南北ズとは雫の次に付き合いが長い、まあ他の人の交友関係に比べたら遥かに短い時間なのだろうが、結晶解離病の勉強などで割りと濃い時間を過ごしたお陰だろう。


「私って、雫のあれこれがある前には、本当に漠然と毎日過ごしてたんだよね。他人がどう思うかなんて気にしなかったし、自分たちさえ面白ければいいと思ってた」

「大多数の人間がそうだろ」

「そうだろうけどさ、それでも私は特別な存在だって思ってた。説明のつかない自信っていうかさ、根拠のない万能感があったって言うか。分かる?」


 よく分からなくて首を傾げた。それを見て東野は笑う。


「分かんないか、まあそうだよね」

「すまん」

「何で謝るのさ、本当に真っ直ぐだね光輔は」


 それから暫く二人で水槽の生き物と存分に触れ合った。最初の内は遠慮気味に触っていた東野も、次第に慣れてきたのか楽しみ始めていた。


 俺も全力で楽しんだ、折角来たからには楽しまなければ損だ。そうして高校生二人が水槽の生き物に夢中になっていると、周りの子どもたちが興味深いのか集まってきた。


 俺たちは子どもたちも巻き込んで一緒にふれあいコーナーで遊んだ。それを見ていた近くに居た飼育員さんも来て、生き物についての授業のようなものが始まった。


 直接触れたりしながら、生き物の生態を詳しく教えてもらえたので、すごく楽しかったし為になった。終わる頃には周りから拍手が巻きおこり、何故か周囲の親達から感謝されたり、飼育員さんにも褒められた。


 一頻り楽しんだ後、俺たちはへとへとになってベンチに座っていた。


「まさかあんな大事になるとはな」

「いやー本当に、でも楽しかったよ。ヒトデの口ってひっくり返したとこにあったんだね」

「俺たちが見ていた所は背中だったとはな、それに肛門が真ん中にあるとは知らなかった」


 詳しい解説付きで見ると理解力も変わってくる。それに飼育員さんもとても楽しそうだった。俺たちも子どもたちもあれだけ食いついて聞いていれば、解説する側も楽しいか。


「何処か静かな所で休憩しよ、光輔も人に囲まれて疲れたでしょ?」

「ありがとう。そうしよう」


 他の人からの連絡もまだ来ていない、俺たちは少し移動して別の水槽のある所へ移った。




 もう少し照明が落とされた深海の生物のいる水槽前で、俺たちはベンチに座ってそれを眺めていた。


 水族館に来て想定外の楽しみ方をしてしまった。それもこれも、東野のノリのよさもあるだろう。


 二人になる事がなかったから知らなかったが、東野は何というか、打てば響く性格をしている。こちらが振った話題にもきちんと反応してきて、逆にその話題に絡めて話題を振ってきたりする。


 こんなに社交的な性格だとは知らなかった。子どもたちにも人気で、意外にも子どもたちからの支持も高かった。


「私ふれあいコーナーとかであんなに楽しんだ事無かったな」

「水族館や動物園の花形なのにか?」

「花形かなあ…、まあ人によるよね」


 触れ合える以上に見どころがあるだろうか、普段触ったり出来ない生き物に触れるコーナーこそ一番面白いと思うのだが、東野の物言いを聞くとそうでもないのか。


「でもま、今まで彼氏とかとデートで来た水族館の中で、今日が一番楽しかったかな。やるじゃん光輔」

「それは俺の力ではなく生き物の力じゃないか?」

「いやいや、ふれあいコーナーなんてどの男もいつもスルーしてたから。光輔が興味持たなかったら私も興味なかったし」


 やっぱり始めは興味なかったのか、中々水槽の生き物に手を出さないからおかしいとは思っていた。


「その、少し聞いてもいいか?」

「いいよ、何?」

「東野はその、交際経験はどれくらいあるんだ?」


 俺は東野の言ったデートという単語にどうしても引っかかっていた。と言うのも雫とのデートを思い出すからだ。


「あーまあそれなりに、数えた事ないからぱっと出て来ないけど。でも私は付き合ってくださいって言われれば大体オッケーするし」

「な!?そういうものか!?」


 耳を疑い聞き返す。しかし東野はあっけらかんとしていた。


「いやいや、私みたいのばっかりじゃないよ。ちゃんと断る人の方が多いと思う。だけどさ、ちょっと思わない?好きだって伝えられるって凄いなって」

「そうだな、それは俺もそう思う。橋田から聞いた話でもそう思った」

「透はそれにしてもちょっと意気地なしだと思うけど、やっぱりそれでも自分の気持ちをハッキリと言葉に出来るってすごいよね。だから私、告白されると何か断れないんだよね」


 告白、されたことのない俺には分からない感覚だ。人から好意を伝えられるとはどんな気持ちだろうか、直接的な意思表示はどんな感情を思い起こさせるのだろうか。


「でもそれって上手くいくのか?」

「流石に鋭いね、結論から言うとあんまり上手くいかないね。その人の事知っていく内に合わないなってなったり、私が好きと言うより、箔付けが好きって人もいるし。上手くいくかな?長続きするかな?って思った人程、相手の方から別れ話を切り出されたりね」


 相手から告白してきた癖に振るのか、理由が分からなくて考え込んでいると、東野は笑って「真面目か」と言った。


「理由は人それぞれで、正しいか分かんないただの推測だけど。多分私はその人の事が好きじゃないって分かっちゃうんじゃない?そもそもあんまり知らないんだから好きになりようがないのにね」

「東野は理解しようとしてくれているのに、それでも駄目なのか?」

「そんなものだよ、誰だって上手くいく自分しか想像したくないじゃん?それでその理想が崩れるとがっかりするんじゃない?こんな筈じゃなかったって」

「勝手な話だな」


 俺は東野の話を聞いて憤りを覚えた。東野とは短い付き合いだが、勉強の質問も積極的だし、結晶解離病の勉強会をした時も意欲的だった。


 東野は知る努力が出来る人間だ。交際していた男性のことも、きっと知ろうとしていた筈だ。それを自分の都合だけで関係を解消するのは理不尽だと思った。


「何で光輔が怒ってんのよ、不思議っていうかやっぱり面白い奴ねあんた」


 ケラケラと楽しそうに笑う東野を見て、これが強がりなのか、本当に心の底から笑い飛ばしているのか分からない自分をもどかしく感じた。


 俺は人を知らな過ぎる。改めてそう感じた。


「でもま、怒ってくれるとは思わなかったから嬉しかったな、ありがと光輔」

「礼を言われる事でもない」

「そういう時はどういたしましてでしょ?」

「ど、どういたしまして…」

「はい、よく出来ました!」


 そんなやり取りをしている時、俺のスマホと東野のスマホに同時に通知が入った。メッセージの差出人は橋田で、一度集合しようというものだった。


 俺が了解と短く打ち込むと、北村達も合流する旨のメッセージを送ってきた。俺たちは立ち上がって、水族館に併設されているフードコートに向かう事になった。


「光輔、道違うって。もう良いから私についてきて!」


 東野にぐいっと手を引っ張られて、俺は大人しく黙ってついていく事にした。

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