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追憶の宝石  作者: ま行
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穏やかな暗雲

 橋田の恋愛を応援する、俺がその助力に北村に声をかけてから、あれよあれよと残りの東西南も加わり、俺は初めてメッセージアプリのグループという機能を使っていた。


 グループ名は「橋田応援し隊」ネーミングは北村案だ、北村のセンスは独特だと思ったが、しかし代案を出せない俺がぐちぐち言う資格はない。


 流石にこの話し合いに雫を混ぜる訳にはいかないので、少し後ろめたいがこのような形でコソコソと話し合う事になった。正直あまりいい気分はしないから、この状況を早いところ脱したい。


 通知音がぽこんとなるのに、まだ一々驚いてしまう。いい加減慣れないといけないなと思いつつもスマホを取り出した。


「ねえねえ、皆ちょっと提案があるんだけど」


 発信元は西だった。どんな提案かと聞く前に東野が返信してしまう。


「どんな提案?」

「皆で水族館行かない?実は親戚のお兄ちゃんがそこで働いててさ、一回行ってみたかったんだよね」

「いいじゃん、場所はどこ?」

「〇〇市にあるでかいとこ」

「あー私知ってる!最近ネットでニュース見たよ。ショーが好評だって」


 メッセージ欄はまたたく間に東西南北ズのやり取りで埋まっていく、俺はただただ流れる滝を見つめるように勝手に動いていく画面を見ている事しか出来なかった。


「ちょっと男子共、見てるんだったらさっさと話し合いに参加しなさい」


 北村が怒りマークの絵文字をつけてこんなメッセージを送ってきた。何で見ている事が分かるのかと思ったら、メッセージを見ると既読だと分かる仕組みになっていた。


「お前たちが勝手にどんどん話を進めるからだ」


 橋田のメッセージが出た。どうやら橋田も俺と同じ様に追いつけていなかったみたいだ、ちょっとだけ安心した。


「俺は決まってから教えて貰えればいい」


 川井は敢えて黙って見ていたのか、それでもいいのだろうか。


「じゃあ光輔は?」


 北村のメッセージに俺の名前が出てきて一気に焦る、俺が文字を入力している間にまた話が流れていかないように、急いでメッセージを打ち込んだ。


「早くてついていきますん」


 焦りすぎて滅茶苦茶な文になってしまった。ついていけないと書きたかったのに、慣れないのに急ぎすぎた。


「まあ光輔はそんな事だと思ったからいいけど」

「同じく」

「私もそう思ってた」

「光輔くん、無理はしなくていいよ」


 北村に東野と西が追随する、南部さんだけは優しさを見せてくれる。あいつらどんどん遠慮がなくなってきている。


「尾上も俺と一緒で話がまとまってからでいいだろ?大まかに決めてくれたら後で意見するから」


 川井に心の中でお礼を言う、細かい気遣いが出来る奴だ、すごく助かる。


「光輔と和也はそれでよし、でも透は残れよ。お前の為に色々やってんだから」

「へーい」


 俺は深く溜息をついてスマホを仕舞った。橋田はまだまだ解放されないようだが、俺は逃れられて助かった。こんな目まぐるしい事を毎日平気でしているかと思うと、勉強なんかよりもっと頭を使う気がした。


「光輔くん、何でそんなに疲れているの?」


 声が聞こえてきて顔を上げる。


「雫か、ちょっとな。まあそんな大した事じゃないよ」


 俺は何も発言らしい発言をしていないので、本当に大したことじゃなかった。それでも雫が言うには見るからに疲れているようだ。


「何か珍しくスマホいじってなかった?」

「ああ、橋田達とメッセージしてたんだ。滅多に通知が来ないから、音が鳴る度に驚くけど」

「透と?…しつこいとは思うけど、何かされたりしてないよね?」


 雫はまだ俺が橋田に殴られた件を引きずっているようだった。仲直りしたと言ってもあの直情的な性格が心配みたいだ。


「そんなに心配いらないよ、川井もいるし。それに話してみると橋田も中々面白い奴だ、こうして知らない事を知れるようになったのも雫のお陰だな」

「そうかな?そう言われるとちょっと照れるな」


 実際雫との色々な事がなければ、俺は今もいつも通り一人でいて、いつも通り陰口を叩かれたり、勉強ばかりしている変人だと言われていただろう。それが気になる訳ではないが、気分はよくない。


 それに雫が前に言ったように、友人が出来るとクラス内であまり目立たなくなった。というより一部になって馴染んできたと言うべきか、兎に角以前のような居心地の悪さはなくなった。


「でもこんなにすぐに結果が出るとは思わなかったから、やっぱり光輔くんが元々人付き合いが上手なんじゃない?」

「そうだろうか?まあ、確かに自分から人を避けていた訳だから、やってみなかったからって理由はありそうだな」

「あっ、でもパニック症状は大丈夫?無理してない?」

「心配してくれてありがとう、だけどそれは薬で調節出来るし、俺も無理なら無理って言うから大丈夫だよ」


 何となくではあるが、自分でも限界というものが分かる。あまり一所に集中してしまうとその限界も忘れてしまいがちだが、そうならない方法を探っていくのもリハビリの一歩だ。


 そんな話を雫としていると、久方ぶりにひそひそと俺の話をクラスメイトがしているのが聞こえてきた。いや、よくよく聞いてみると、俺より雫について話しているみたいだった。


「五十嵐さん、尾上のこと名前で呼んでなかった?」

「聞いた聞いた。あの二人なんかあったのかな?最近やけに一緒にいない?」

「何か一緒に下校しているみたいよ、見たって友達が言ってた」

「やばー、絶対なんかあんじゃん」


 どうやら俺の事を下の名前で呼び出した事が引っかかるらしい、確かに関係性の深まりを感じさせる行為かもしれないが、気に食わない。


 俺がヒソヒソと有る事無い事言われるのは構わない、ただ雫が色々と言われるのは腹立たしかった。


「雫、あの、もうちょっと次の授業の準備したいから」

「あっそっか、ごめんね邪魔しちゃって」

「邪魔な事なんかない、それよりまた放課後にな」


 雫は少し寂しそうな顔をして手を振った。俺はそれにちょっとだけ手を上げて応えた。些細な事だけど、こんなことで雫の評判が下がるのはごめんだ。無理やり遠ざけるような形になってしまったが、この方がいいと思った。




 放課後になり、バイト先の喫茶ヤドリギまで雫と一緒に歩いていた。その道中でスマホの通知音が鳴った。


 見ていいかと雫と目でやり取りしてからスマホの通知を見る、どうも北村達の話がまとまったようで、こんな予定はどうかという相談のメッセージが入っていた。


 日付を確認し、問題ない事を返事した。短いやり取りだけで済んだのだから、川井には感謝しなければいけない。


「悪い、メッセージ返してた」

「謝る必要ないよ、一緒にいる時私もよくスマホ触ってるでしょ?」

「いやそれと比べたら俺なんて雲泥の差だろ」


 北村達のあの滝のようなメッセージのやり取りを返しているだけでも、俺は雫を尊敬する。


「何であんなに指が早く動くんだ?」

「それこそ慣れでしょ、光輔くんもその内こうなるよ」

「…四六時中は勘弁願いたいな」

「アハハッ、光輔くんは特にそうだよねえ」


 くすくすと笑う雫を見て、俺も微笑んだ。この二人の時間が、最近では心地よいというか安心できるような時間になってきたように思う、こういった感情の変化も東条先生が言うような良いことだろうか。


「雫、最近は結晶解離病の症状は出てないか?」

「あー、そういえばそうだね。全然ないや、変かな?」

「いやそんなことはない。発症してから一年間何も症状が出なかった人もいる、個人差があるんだろう。何がそれを決めるのかは分からないがな」


 その原因を突き止める事が出来れば、症状の緩和や遅効も見えてくるかもしれない、やっぱりいち早くこの問題に取り組みたい、俺はそう思った。


「また今度色々聞いてもいいか?記録に残しておきたい」

「それは勿論、協力出来る事は何でもする…」


 雫の発言が途中で止まった。


「どうした?」

「あれ?雫じゃん!」


 少し離れた所から聞き慣れた声が聞こえてきて、俺はそっちに顔を向けた。見ると北村達、東西南北ズが喫茶ヤドリギに入ろうとしている所だった。


 雫の発言が止まったように俺も思考が止まった。よりにもよって彼女達にバイト先がバレる事になろうとは、あまり良い予感はしなかった。

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