表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶の宝石  作者: ま行
34/81

想いの理由

 春もそろそろ終わりを告げる、天候に気候に、暦以上に季節は肌で感じるものだ。今日は朝から雨が降っていて、道行く生徒達の傘がもそもそと動いていく。


「よう尾上、おはよう」

「ん?ああおはよう橋田」


 急に後ろから話しかけられて驚いた。振り向いて顔を確認してようやく橋田だと分かった。


「登校時間が被るなんて珍しいな、いつもは橋田の姿なんて見たことないのに」

「言われてみるとそうだな、お前絶対俺より早くに教室にいるし」

「何事も時間前行動を心がけておく事が大切だからな」

「部活に所属してる訳でもないのに立派な事で」


 話しかけられてからずっと橋田は後ろをついてくる、何だこいつと思って俺は聞いてみた。


「何か用か?」

「は?」

「いやずっとついてくるから」

「はあ!?」


 橋田の驚く声が大きくて俺も驚く、そんなに変な事を言っただろうか。


「このまま一緒に登校すりゃいいじゃねえか!」

「え?」

「え!?」


 そうか、そんな事思いつきもしなかった。中学生の頃から誰かと一緒に登校するなんてしてこなかった。すごく久しぶりでその感覚をすっかり忘れていた。


「まったくよぉ、尾上はマジで薄情だよな」

「いや、俺より情に厚い人間はそうはいないぞ」

「どの口が言うんだよ、知らない仲でもないのに挨拶だけ交わしてはいさよならって言える奴がよお」


 まあ確かにクラスメイトの中では橋田は知っている部類には入る。最近は川井と橋田と行動を共にする事も多くなったし、言われてみるとちょっと素っ気なさ過ぎたか。


「そうだな、折角だし一緒に行くか」

「最初からそう言っときゃいいんだよ、まったく」


 そのまま特に会話らしい会話もなく橋田と一緒に通学路を歩いた。沈黙が続いているがこれでいいのだろうか、俺から話題を振るとかはあまりしないので、こういう沈黙をどう処理したらいいのか迷う。


 と言っても橋田達と一緒にいるときも、俺は本当にただ一緒にいるだけと言うか、誘われるがままにそこに居て、時々話を振られて返事をするくらいだから、AIの方がもっとまともに会話をするかもしれない。


 何か言うべきか、面白そうな話題を探っている内に、橋田の方から俺に声をかけてきた。


「なあ尾上、お前雫とデートに行ったんだろ?」


 そういえばその話はもう橋田に聞かれていた。川井がいないのでややこしい事になりそうだから、あまりその手の話をしたくないのだが、否定する理由もなかった。


「行った。そういう約束だったからな」

「そうか、雫は楽しそうにしてたか?」


 意外な事に橋田は落ち着いていた。この手の話題、取り分け雫に関する事ではすぐムキになるのが橋田なので肩透かしをくらう。


「そうだな、そんな様子だった」


 俺がそう答えると橋田は暫し沈黙した。何か言われないと、それはそれで落ち着かないなと思った。


「雫とはさ、小さい頃から一緒にいた。その話はしたよな?」

「そうらしいな、家が近かったとか何とか」

「付き合いも長いし、お互い遠慮なく色々言い合いから、本当に自然と俺は雫の事が好きになってた。一緒に居るのが普通くらいに思ってた」


 幼馴染というやつか、俺はその手合がいないから感覚は分からない。そして好きとそうはっきりと言える橋田はすごい。でも一つ分からない事があった。


「自然とって何だ?」

「ん?」

「そういう感情は自然と湧くものなのか?きっかけや要因などがある訳ではなく?」

「ああそういう意味か」


 他に何か意味があるだろうか、もしかして俺は説明が下手なのか?でも北村達には教え方が上手いって言われるのに。


「おい!尾上!お前また一人の世界に行ってるぞ」

「む、すまない。それで、教えてもらえるか?」


 橋田の言葉で我に返り改めて聞く、橋田は少し恥ずかしそうにして鼻の頭を触ると、他の人には言うなよと断ってから話始めた。


「雫はさ、あんまり自分から前に出ていくタイプじゃないんだよな、どっちかって言うと半歩後ろで見守っていたいってタイプでさ」


 俺は雫本人から聞いたから知っているが、橋田は長い付き合いからの経験則だろう。人の性格まで読み解くその時間を持つ事は何故かちょっと羨ましかった。


「そんな性格だから滅多に強く発言する事ってないんだよ。動く時は大胆に動くけど、割りとじっとしてる事が多い」

「北村を助けた時の話みたいだな」

「知ってるのか?」

「本人から聞く機会があってな」


 転校してきたばかりの北村とは交流も少なかっただろうに、助ける為に躊躇なく身を切る行動をとった。


「困ってる人がいるとか、助けなきゃって雫が判断した時には即動く。雫は自分が中心人物になるのが不思議だって言ってたけど、俺は結構自然な事だと思う」


 橋田の意見に俺も概ね同意した。確かに見た目や雰囲気などが人を惹き付ける要素ではあるのだろうが、雫は雫だから皆慕うのだと思う。


「悪い話が逸れたな。兎も角雫はそういう事するって事。それでな、俺は中学の頃バレーボール部に所属してたんだ。滅茶苦茶弱小で、部員も本当に少なかった」

「ほうバレーボール」

「出来るのか?やるか?」

「出来ない、授業でやった事があるが、顔面レシーブして鼻血出して終わった」


 それを聞いて橋田は笑った。


「何か想像できるぜ、お前の顔面レシーブ」

「でも上がればいいんだろ?鼻血は出たが俺はコートに立ち続けたぞ、周りに止められたからプレーが終わってしまったが」

「ハハハハ!それも想像出来るわ!ハッハッハ!」


 予想外にウケてちょっと気分がよかった。一頻り笑った後橋田は話を続ける。


「それでさ、弱小チームってやる気というか士気も低いんよ。どうせ勝てないからって皆思うんだよな。でも俺はそれが嫌で、皆を説得して頑張った。練習は経験者に指導してもらえるようお願いしに行ったり、トレーニングメニューも体育の先生に相談して作ったりさ、やるからには全力でやりたかったんだ」

「それは、俺が言うと変かもしれんが、想像がつくな」


 とても橋田らしいと思った。付き合いはすごく浅いけれど、確かにそう思った。俺のその言葉を聞いて橋田は少しだけ笑顔になった。


「ありがとよ、何か嬉しいわ」

「むっ、そうか?」

「そうだよ、お前とこんな会話するなんて、前は想像もつかなかったけどな」


 それは確かにそうだ、俺も少し口元が緩んだ。


「まあでも、どれだけ情熱持ってやってもさ、弱小チームがすぐに強くなるって事そうないんだよ。俺たちは精一杯やったけどさ、結局一勝も出来ずに終わったよ」

「そうか、残念だったな」

「おうありがとよ。残念だったけど楽しかったよ、皆で頑張ったからな、結果も欲しかったけれど贅沢は言えないからな」


 そこまで言って一度橋田は黙った。すうと息を吸い込むともう一度話し始める。


「俺たちの部活は、他の運動部と違って一勝も出来なかった。同級生達からは、やっぱり今年も駄目だったかって皆から薄笑いしながら言われたよ。そんな時にさ、雫が言ってくれたんだ、一生懸命やった透達を笑うなって、珍しく声を荒らげてさ」

「皆の前で?」

「そう皆の前で、全員面食らってたよ、俺含めてな。だけどさ、すごく嬉しかったんだ。ああ、頑張ってる所をちゃんと見ててくれたんだなって、誰でもない雫が見ていてくれたのが俺にとっては嬉しかったんだ」


 そう語る橋田の表情は輝いて見えた。本当に嬉しかったんだというのが伝わってきたし、好きになった理由の一つというのが心から理解できた。


 それから学校につくまで橋田の昔話に付き合った。どの話を聞いてもちゃんと面白い、昔の俺だったら鼻で笑って無駄だと切り捨てていただろう。


 橋田は本当に雫の事を好いている、そして俺はその気持ちを応援してやりたいとはっきりと思った。そういう約束だとか、そんな理由ではない。


 だけど、それでも何故か胸の奥が痛んだ。本当に小さな小さな痛みだけれど、どうしてかその痛みが俺は気になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ