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追憶の宝石  作者: ま行
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知らない感情

「透と和也と仲直りしたんだ、そっか、良かったのかな?」

「良かったよ、橋田の方には俺は萎縮気味だったし、川井は割りと話が通じる相手だって分かったから」


 五十嵐に電話で学校であった出来事をぐちぐちと話していた。聞いてもらえるだけで大分心が楽になる、特に今日は疲れた。


「尾上くん大丈夫だった?」

「大丈夫って?」

「ほら、例のパニック症状出たりしなかった?前もそれで倒れたでしょ?」


 そのことか、俺は五十嵐に答えた。


「心配してくれてありがとうな、だけど今日は大丈夫、殆どの時間は無駄に過ごしただけだったから」


 正直橋田待ちの時間の方が長かったし、そっちの方がしんどかった。会話をしていたのもそんな長時間でもない、それに最後の方はどちらかというと怒っていたから気にならなかった。


「無駄って、一体何してたの?」

「結局俺にも分からん。校内をぐるぐると一周させられた挙げ句に特に目的地はないと言われたり、謝罪するまでに時間がかかったり色々だ」

「あー成る程ね」


 五十嵐は苦笑しながら言った。


「何だ?何か思い当たる節でもあるのか?」

「うん、透って行動するとなると早いんだけど、それまでは結構悩んだり尻込みしたりするの。尾上くんはそれに巻き込まれたんだと思う」


 まったくもって五十嵐の言う通りだった。てことは橋田はいつもはあんな感じか、あの俺を殴った時の即行動という勢いはまるでなかったからおかしいとは思った。


「和也はそれに黙って付き合ってるでしょ?文句は言うけど結局待つんだから辛抱強いよねえ」

「まったくだな、川井はよく付き合っていられると思ったよ。まあでも、二人共悪いやつじゃないって知れたのは良かったけどな」

「そっか、確かにそれは良いことだよね。尾上くん、ちゃんと交友関係広げてて偉いね」


 そういえば五十嵐とそんな話をしていたな、あまり意識はしていなかったが結果としてそうなっていた。


「あっ、ごめん尾上くん。お母さんから呼ばれちゃった」

「ああ、こっちこそ長話に突き合わせて悪かったな」

「ううん楽しかったよありがとう。またメッセージするね」


 別れを言って通話を切る、ぼすっとベッドの上にスマホを投げおくと同時に通知音が鳴った。画面を見ると名前の欄に橋田透と出ている、さっきの今で疎ましいなと思いつつもメッセージを開いた。


「今日は申し訳なかった。協力の約束感謝する」


 簡潔で質素なメッセージが画面に映る、約束してしまったから協力はするつもりだが、実際何をすればいいか分からない、橋田が何を求めているのか俺には汲み取るのは難しいと思う。


 どう返事したものか迷っていると、梢さんが俺を呼ぶ声が聞こえた。扉を開けて確認すると、夕食の用意が出来たと呼ばれていたので一階に下りた。




 夕食の配膳の手伝いをしながら俺は梢さんに聞いた。


「ねえ梢さん、他人の恋路の手伝いってどうすればいいのかな?」


 梢さんは俺の言葉を聞いて持っていた皿を落としかける、慌てて俺がキャッチ出来たからよかったものの、そのままいけば割れていた。


「ちょっと大丈夫梢さん?」

「ああ、ごめんなさい。お皿ありがとうね」


 俺はギリギリでキャッチできた皿を梢さんに渡す。その間も梢さんは俺の顔を興味深げにまじまじと見ていた。


「どうしたの?」

「いえね、まさかこうちゃんからそんな相談されるなんて思ってもみなくて」

「そ、そうかな?」

「そうよ。でもその、恋路の手伝い方ってどういう事?その人はお友達?」


 友達…、友達と言われるとどうなんだろうか、俺はまだ橋田の事をよく知らないし、今のところ興味もない。


「友達ではないかなあ…」

「お友達でもないのに手伝いするの?」

「まあ成り行きで約束しちゃったし、約束した事は守らないと」

「はあ、相変わらず真面目ねこうちゃん」


 そうこう夕食の準備をしていると、何やらウキウキとした様子の叔父さんが扉を開けて入ってきた。


「いい匂いだねえ梢ちゃん!今日のメニューは何かな?」

「今日は肉じゃがよ、ほらほら忠さんも手伝って」


 皆で食卓につき、いただきますと手を合わせる。食事中の雑談の中で、梢さんがさっきの相談を叔父さんにも話した。


「光輔がそんな相談をねえ」

「ね、驚いたでしょ?」

「いやいや梢ちゃんそうでもないよ。さっき俺中井さんに聞いたんだ、光輔は働き者で気が利くって。お客さんとのコミュニケーションも問題ないって言ってたよ。光輔も成長したんだよ」


 やけに上機嫌だった理由はそれだったのか、俺のことをそんな風に評価してもらえていると思うとちょっとこそばゆい。仕事ぶりを評価してもらうのってこんなに嬉しいんだな。


「あらあらあら!やったわねこうちゃん!私も嬉しいわ」

「いやそんな、注意される事ばっかりだしまだまだだよ」

「それは違うぞ光輔、注意されるのは当たり前の事、きちんと戦力として数えてもらっている事が大切な事なんだ。俺は仕事中お前のパニック発作が出てしまうのかと心配していたが、それも上手にコントロールしているようで感心した」


 ああその事もあって中井さんに確認してくれたのか、叔父さんの方が余程気が回るし、親切で優しい、こんな大人になりたいと思わせてくれる。


「悪いな話が脱線しちゃったな、恋路の手伝いだって?また妙な相談だなあ」

「妙って何が?」

「好きなら好きとバーンと言って、駄目なら駄目ってスパッと諦める。それだけの事だろう」


 そりゃ叔父さんの場合は、小学生の頃からの幼なじみである梢さんとずーっと大恋愛したまま結婚までしたのだからそうだろうけれど、そんな簡単な話だろうか。


「こうちゃん、忠さんの言う事は参考にならないから駄目よ。この人私にしか告白した事ないんだから」

「そうだね、流石に俺もそう思うよ」

「何だよ何だよ、二人共酷いなぁ」


 しかし叔父さんの言う事も正しいかもしれない、結果なんていくら考えても分からないのだから、言ってみて反応を聞くしか方法はない。まあそこまでの過程が難しいのだとも思う。


「それで、光輔はその相手の事は知ってるのか?」

「ん、ああ知ってるよ」

「どうだ?可愛い子なのか?ん?」


 叔父さんがニヤニヤと笑いながら聞いてくる、俺は恋路を手伝う立場だと言うのに、こういう色恋沙汰の話が本当に好きだな、叔父さん含め中井さんも外谷さんも。


「そうだね、うん、俺が知っている人の中では一番の美人」


 俺がそう言うと、叔父さんと梢さんが同時に肉じゃがのじゃがいもを机の上に落とした。


「な、何?どうしたの?」

「いや光輔がそんな風に人の事を言うなんて初めて聞いたから」

「私はさっきから驚きっぱなしよ」


 そんなに普段から他人の話をしないのか俺は、自分では気がつく事が出来ないから分からないが、二人の反応を見るに余程珍しい事なのだろう。


 でも俺の五十嵐評は本当に思ったままの事を言っただけだ、きっと二人も五十嵐を見れば同じことを思うだろう。本性はとんだ食わせ者だが。


「まあ兎に角そういう事に正解ってないと思うから自分なりにやってみるしかないな」

「それに成就するにしても挫折するにしても、それはこうちゃん本人じゃないからね。協力するにしても限度があるとは思うよ」


 二人からのアドバイスはそんな所だった。二人が悪い訳ではないが、やはり想像だけでは上手く出来るかどうかがよく分からない。もういっそのこと橋田に言われた事だけやればいいかと俺は思った。


 でもそうか、梢さんが言っていたけれど事が成されれば橋田は五十嵐と恋仲になるということだ。そして俺はそれをただ見ているばかりか、橋田に手を貸すと約束してしまった。


 俺はベッドの上に身を投げ出して天井を見上げる。何だかずっと落ち着かない気がした。


 五十嵐に恋人が出来る、それが何故か想像できない。あれだけの器量良し、相手は引く手あまただろうに。それでも何故か五十嵐の隣に誰か男の人がいるのが想像つかなかった。


 何故か心の中でその事が引っかかり続けていて、俺はこのもやもやとした気持ちが何なのか答えが出ずに目を閉じた。

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