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追憶の宝石  作者: ま行
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協力要請

 五十嵐は大丈夫だろうか、北村達は上手くやれているだろうか、俺は橋田と川井の後を追いながら心の中ではハラハラとしていた。


 放課後の時間を乗っ取られた俺は何故か橋田と川井と一緒にいる。五十嵐のグループにいた男子二人だ、内一人の橋田は俺の事を殴った奴だ、殴られるように挑発した俺も悪いけれど。


 だからといってこの二人に付いて歩く時間は地獄のようだった。どっちも何も言わないし、ただ何処に向かっているのか分からないまま校内を歩いているだけだ。


 無駄な時間を過ごす苦痛に耐えきれない、だけど自分から抜けるとも中々言い出せないという最悪な状況にいた。せめて何か目的を教えてくれればとっとと終わらせるのになと、心の中で独りごちる。


「…イッ…オイッ…オイッ!!」

「あっ?何?」


 気が付かない内に声を掛けられていたみたいだった。何処かについたのかと思ったらまだ廊下だった。今までの時間がすべて無駄になってると思うと体から一気に力が抜けた。


「何してんだお前?」

「何でまだここにいるんだ?」

「あぁ!?」

「いやもうムカつくから言うけど何でまだ廊下にいるんだよ、さっきも廊下にいて、まだ廊下って何処で何がしたいんだ?用がないならもう帰らせてもらいたいんだが」


 付き合いきれないと俺が言う前に橋田が言った。


「待て待て!確かに用事がある!」

「それは分かったけれど、今までの無駄な時間は何だったんだって聞いてるんだ」

「ぐっぐぅ…」


 何故か真っ赤な顔をして橋田は唸り声を上げている、このまま意味の分からない時間が続くのならもう帰ってしまおうか、俺は実に無駄な時間を過ごしたと溜息をついた。


「あっ!お前溜息つきやがったな!」

「ついたけど何だよ?」

「何だよってお前!」


 妙に突っかかってくる橋田を、ずっと黙って見ていた川井が制した。こいつ動くのかと失礼ながら俺は思ってしまった。


「まあ待て透、お前がそう喧嘩腰だと話にもならないだろうが」

「だけどよ!こいつが、こいつぅ」

「悪いな尾上、透も根っから悪い奴じゃないんだ。ただちょっと直情的なんだ」


 それはもう見ていれば分かる。川井の方は話が通じそうだ、俺は川井に話しかける事にした。


「で、川井もただ理由もなく歩いてたってのか?」

「理由がない訳でもないが、まあそうだ」

「嫌にならないのか?」

「段々嫌気が差してきた所だった。だから尾上が咎めてくれて助かったよ」

「和也ッ!!」


 食って掛かる橋田の額を川井が手で抑えた。その様が実に手慣れていて、恐らく何度も同じような事があったのだろうなと二人の関係性が伺い知れた。


「こいつが話があるんだよ。今までのは話す勇気が出ずにうろうろしていたって事、悪いけれど聞いてやってくれないか?」

「俺にそんな義理があると思うか?」

「今聞かないとまたしつこく付きまとうぞ」


 確かにそれは御免被る。仕方がない、今日それを我慢するか、明日からずっとこの調子か、選べと言われたら前者しかない。




 結局五十嵐とよく来る階段下に来た。元々は彼ら発の情報だから、俺は間接的に教えてもらったようなものだ。


「なあ、話の前にちょっといいか?」


 川井が俺にそう話しかけてきた。


「何だ?」

「早めに言っておきたくてな、今まで悪かったな尾上。態度含めて色々と謝罪する。ごめん」


 そう言って川井は俺に頭を下げた。それはもう潔い謝罪に俺も面食らう。


「オイッ!和也!」

「黙れよ透、こればかりは邪魔すんな。大体俺より先にお前が謝る必要があるんだぞ。そのつもりだったのに俺に先を越されやがって」


 ぐぐっとまた橋田が口を噤んで唸った。謝罪するつもりだと?俺は自分の耳を疑った。あの橋田が?謝る姿だ想像出来ない。


「それで謝罪は受け入れて貰えるだろうか尾上?」

「そもそも俺は川井達に何か非があったとは思っていない、謝罪される謂われもないさ。だから答えは気にしてないって事で」

「そうか、正直気が楽になって助かるよ。でもやったことがなくなる訳じゃない、すまなかった」


 何とも丁寧な奴だ、こうしてまともに話すのは初めてだけど、割りと話が合いそうでいい奴な気がしてきた。


「ったくよぉ、こんな奴にそんな態度を」


 橋田の方は相変わらず一人でぶつぶつと何か文句を言っている、これで話になるのかと心配だったが、川井が頭を軽く小突いた。


「何すんだよ和也!」

「お前がその調子だと話が進まないんだよ。下らないプライドは捨ててさっさと謝れ。お前が謝りやすいように先に謝ってやったんだから」


 川井のその言葉で俺は納得した。そういう理由だったのか、川井は中々に甲斐甲斐しいなと思った。


「ぐぐぐ、オイッ!尾上!」

「ああん?」


 いい加減腹に据えかねていた俺は思っているよりも威圧的な返事をしてしまった。あの橋田がちょっと怯んでいて面白い。


「あ、あのだな、その、な、殴って悪かった。謝るよごめん」

「…あの時は俺も悪かった。橋田は五十嵐の事を大切に思うが故の行動だろ?まあ殴られて痛かったけれど、それで分かった事もあった。だから答えは川井に返したのと一緒だ、もうお互い気にしないでいいな?」

「ああ、その、あ、ありがとう」


 こうして橋田の殊勝な態度を見れただけでも溜飲が下がるというものだ、俺が悪かったというのも本当の事だし、これで多少気にしなくて済むようになった。


「それじゃ改めて話を聞こうか?ただ謝る為にうろうろとしていた訳じゃないだろう?」


 そう言って俺は廊下に座り込んだ。二人もそれに続く、男子だけで固まってこうして話の場を設けるなんて、想像だにしなかった。




 座ってからそこそこ時間が経った。俺はもうとっくに限界がきていたが、流石の川井も鶏冠にきたようだった。


「透お前マジでいい加減にしておけよ」

「分かってる!分かってるけどさあ!」


 俺と川井の深い溜息のタイミングが重なった。もう待てない、俺は無理やり話を聞き出す事にした。


「勇気がないのか言う気がないのかは知らんけど、もう俺は待たないぞ。こうして謝罪を受けて目的も達したようなもんだろ?何かあるのならまた今度にしてくれ、俺はもう諦めた」

「引き止めて悪かったな尾上、流石に俺もここまでだとは思わなかった。もう付きまとわないようにさせるから」


 俺たちが立ち上がろうとすると、橋田が腕を掴んでガッと引き止めた。


「分かった!話す!話すから待って!」


 川井と顔を見合わせてもう一度溜息をついた。そして立ち上がりかけた腰をもう一度下ろす。


「で、本題は何?」

「尾上、そのぉ、お前最近雫と仲が良いよな?何か俺の話とか聞いてないか?」


 いまいち要領を得ないが、取り敢えず五十嵐との会話で橋田の名前や話題が出るかと聞きたいらしい。


「いや、特に聞かないし、話題にもあまり上がらないな」

「ぐっ、ぐうぅ、そ、そうか」


 何だかショックを受けているようだが、何故ショックを受けているのかが分からずに俺は混乱する。


「聞きたいのは五十嵐の事か?それだったら俺より余程二人の方が知ってるんじゃないのか?」

「いや、そうもいかないんだ。最近北村達も含めて俺たちも五十嵐から避けられ気味でな、それで焦ってるんだこいつ」

「焦ってる?何に焦るんだ?」


 川井が「あーこういう感じか」と言って俺をまじまじと見た。


「何だよ?」

「いや何というか、尾上って結構面白い奴だったんだな。もっと早く話かけたらよかった」

「五十嵐みたいな事言うんだな、そんなに面白い人間か?俺ほど面白みのない人間もそういないと思うが」

「そうやって言える所がユニークなんだよ、後で連絡先聞いてもいいか?無駄にメッセージとかはしないからさ」


 俺が川井とそんな話をしていると「ダーッ!!」と大声を出して両腕を上げた。


「俺抜きで仲良くなるな!てかそんな話を進めるな!」

「長いんだよ透、もう早く言っちまえ。俺も付き合いきれないぞ」


 川井がそう言うと、橋田はぎりぎりと聞こえるほどの歯ぎしりをした後立ち上がって俺を指さした。


「尾上!俺はずっと昔から雫の事が好きだったんだ!お前俺に協力しろ!」


 フーフーと息を荒げて肩を上下させる橋田に、かける言葉も見つからずに俺はただぽかんと口を開けていた。

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