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追憶の宝石  作者: ま行
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類似する気持ち

 いつものように夜のテレビ会議を終えた。


 皆もう大体の内容は理解し始めていて、俺が教える事も少なくなってきた。皆結晶解離病について詳しく理解したいというよりも、病気についての特徴やどんな症状があるのか等、五十嵐と対処する時に気を付けたい事が知りたいのだと俺が理解してからは早かった。


 何でこうなるのかより、こうなった場合を教えればよかったのだ。俺は症状について一々最初から最後まで説明していたから時間がかかった。相手の知りたい事と内容に合わせて話す事はとても重要だ、今回の事で俺も色々と気づいた。


「じゃあ尾上、今回もありがとう」

「うん、東野さんも積極的に質問してくれてありがとう」

「私は教えてもらってる身なんだから、尾上がお礼いうような事じゃないよ」


 東野さんはそう言って笑った。


「でも本当に助かってるよ尾上、そろそろ私達もちゃんと雫と向き合わないとね」

「そうだね、もう俺が教えられる事もないと思う。後は西さん達次第…と言うよりも五十嵐次第か」


 西さんは俺の言葉に俯いた。向き合うにも勇気がいるだろう、特に五十嵐を通じて知った自分の醜い感情と向き合うにはだ。


「尾上くん、私達は本当に雫ちゃんと仲直りできるかな?」

「そればかりは俺には分からない、でも五十嵐は話を無下にするような奴じゃない、と思う。ハッキリした事は言えないけど南部さんも頑張ってね」


 俺はそう言って南部さんを励ましたが、やはり表情は浮かないようだ。東西南北ズの中でも朗らかで柔らかな雰囲気の彼女も、五十嵐に対しては嫉妬の感情を抱いていたのだから人間関係は複雑怪奇だ。


「じゃあそろそろ」

「あ、えっとちょっといいかな北村さん」


 俺は会議を切り上げようとした北村さんを引き止めた。怪訝な表情で北村さんは止まった。


「何だよ?」

「ちょっと二人で話せないかな?この後時間ある?」

「ハァ!?」


 やけに慌てる北村さんと、何だか色めきだつ周りの様子に、俺は変なことを言っただろうかと首を傾げる。


「時間ない?なら別の機会でもいいけど」

「いや、べ、別にそういう訳でも」

「何だか大事そうな話みたいだね、じゃあ私達はこれで!」


 西さんがそう言って通話を切ると、他の二人も急いで通話を切ってしまった。北村さんは皆を引き留めようと声をかけていたけれど、鮮やかな撤収にそれも間に合わない。


「で、話せるの?話せないの?」

「…まあ少しだけなら聞くよ」


 二人きりになった画面越しで北村さんがそう呟いた。




 北村さんに対する恐怖感をなくす為に五十嵐に言われた事は結構単純だった。それは一対一で話すというもので、特に話を聞いてあげるといいと言われた。


 聞くと言われても難しいし、一対一だと俺がもっと萎縮するのではないかと思ったが、やってやるぞと気合を入れた。


「悪いね、こうして改まって時間もらっちゃって」

「いいけど何だよ?」


 キッとした目で睨みつけられるとやっぱり怖い、だけど音を上げるにはまだ早い。


「聞きたいんだ。どうして五十嵐にこだわるのか」

「はあ?」

「だってそうだろ?北村さんの友達は五十嵐だけじゃない、東野さんや西さん南部さんだけじゃなくてもっといるだろうに。別に五十嵐である必要はなくないか?」


 これは五十嵐のアドバイスとは関係なしにずっと俺が思っていた事だった。話を聞く事が大事なら、どうせなら聞きたい事を聞こうと思った。


「それは前も話しただろ、雫にちゃんと謝りたいって…」

「それは聞いたし理解もしたけど、元の関係に戻ったら結局同じ思いをするだけじゃないのか?」

「何を言って…」

「俺より余程北村さんの方が五十嵐との付き合いが長いのに、五十嵐の抱えている事に気が付かなかった。それで勝手に嫉妬したりして、健全な関係に戻れるの?」


 俺は半ば自分の感情を吐き出すように北村さんに質問した。北村さんが怒ろうとも関係ない、聞きたい事を聞くんだ。周りに口を出す者がいないからこういう踏み込んだ質問も聞きやすい、だから五十嵐は一対一で話せと言ったのか。


「お前に雫と私達の何が分かんだよ」

「分かんねえよ、分かんねえから聞いてるんだろ?俺は五十嵐の事まだ全然知らないけど、北村さん達より知ってる事もある。逆に俺だから聞けるんじゃないか?本音ってやつをさ」


 画面の向こうで北村さんは大きな溜息をついて俯いた。そのまま暫く固まった後、顔を上げると話し始めた。




「私は透と一緒で、小学生の頃から雫と一緒にいた。と言っても私は五年生の時に転校してきてからの友達だけど」

「透って橋田の事だっけ?」

「そう、雫と一番付き合いの長いのはあいつ。家が近所で小さい頃からの付き合いだったらしい」


 一番古い付き合いは橋田だったのか、そう思うと俺にあれだけ突っかかってきたのも頷けるかもしれない、長く友人をしているだけに俺の姿は酷く無神経に映っただろう。


「雫はその頃から人気者だった。自然と周りに人が寄ってくるような感じ、私も前の学校ではそうだったけど、ここではその中心は雫なんだなって思った」


 本当に昔からそんな感じだったんだな、五十嵐の心中を慮ると気の毒で胸が痛む。


「その事があんまりにも気に入らなくて、私雫の上履きを隠した事があるの」

「えっ?」

「醜い嫉妬心よ、自分が中心人物だって勘違いしていた焦りもあったけどね。前居た場所でも人気者だったから、次行った場所でも人気者にすぐなれると思ってたの」


 すごい自信家だなとは思ったが、周りが勝手におだててくれればそこまで増長するのも仕方がないかも知れない。特に小学生の内なんかは目立つだけでヒーローになれると思っている節が俺にもあった。


「でもさ、クラスの人気者にそんなトラブルがあったらどうなるか分かるでしょ?皆で徹底的に犯人探しが始まったの、先生まで巻き込んで大騒ぎしてさ。私その時、心臓が飛び出るくらいに緊張して涙が止まらなかった」

「それは…、確かに子供には荷が重いな」

「やったことは許されないけど、軽い気持ちだったから尚更ね。どうしようもなくなって、私は涙ながらに上履きを持って雫に謝りに行ったの。バラされて終わりだと思ったけれど、他に方法も思いつかなくて」


 それはそれで結構勇気がいる行動だ、黙ったまま嵐が過ぎ去る事を待つことも出来たのに、それを良しとしなかった北村さんの性格も垣間見える。


「雫に謝って上履きを返したの、多分涙とか鼻水とかで顔はべちゃべちゃになってたと思う。雫は私から上履きを受け取ると任せてって言ったの」

「任せて?」

「言われてすぐは私も分からなかった。だけど雫はすぐに行動に移って、手作りの上履き袋にハサミを入れて大きな穴を開けたの、何の躊躇いもなくね」

「そりゃまた大胆だけど、その後どうするんだ?」

「雫は犯人探しに躍起になっている皆を呼び寄せて言ったの、自分の上履き袋に穴が空いていて上履きを通学路で落としてしまった。私がそれを拾ったけれど騒ぎが大きくなって言い出せなかったって皆にそう説明して回ったの」


 五十嵐は自分に非があるように演出して、北村さんはそれを助けてくれたように見せたという事か。確かに本人がそう言っている事も、実際に上履き袋に穴が空いている事も見せれば説得力がある。多少怪しまれるかもしれないが、そこは勢いでも乗り切れると踏んだのかもしれない。


「しかし五十嵐はすごいな。思い切りがいいというか何というか」

「泣いている私のフォローまでしてくれたからね、任せてって言った意味が分かった時、ああ敵わないなあって思ったの」

「そしてそれが切っ掛けになったと」

「雫がね笑顔で言ったの、もう大丈夫だよって。それから私雫と友達になった。友達にしてもらったって言った方がいいのかな?それが私が雫にこだわる理由」

「これが理由?」

「私は雫にずっと恩と借りがあるの、それを返す事も出来ずにただ離れる訳にはいかない。これは雫の為じゃなくて私の為だ」


 北村さんもまた自分のエゴの為だと思っていると知って、俺は五十嵐が言ってくれた事を思い出した。そして五十嵐が北村さんと一対一で話せと言った理由が心から理解出来た。


 俺と北村さんは不器用な所が似ている、自分の気持ちに上手く折り合いをつけて、許す事も出来ずに引きずる所が似ているのだ。


 この話し合いを経て、俺はもうすっかり北村さんに対する恐怖心はなくなった。似通う所を見つけると、途端に身近な存在に感じるのだとこの時初めて知った。

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