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稀人  作者: うち
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漆黒の帳

秘書官が戻ると、全員で王城に向かうことが命じられたと官吏長から説明があり、そのまま王城に向かう。とにかく急げといわれ、着いた先に見えたのは玉座に座るこの国の国王だった。


「陛下、すみません。ことの重大性を考えお伝えに上がりました」


官吏長と旦那様に倣い、片膝をつき頭を下げる。そのまま声がかかるのを待つと


「よい、頭を上げよ」「人払いを」と短く告げた。


そして関係者のみとなった後、官吏長が報告を陛下に伝えた。

一通りの報告の説明を受けた陛下は玉座からこういった。


「もういい、輝彦。そこにいるのは寛治か?久し振りじゃねえか?」


へ?輝彦って官吏長?寛治??国王陛下???頭の中はパニックだ。

そんな僕にはお構いなしに話は進む。


「だが実際にその話を立証することは可能なのか?」


「確証がなければ公表もできぬ。お前の考えを聞かせよ」


「私には筋は通っているように思えます。しかし立証方法と仰られると考えが及びません」


「ふむ、仮設を立てた張本人ならどうか?」


「もしかしたら、報告に来た時点で何か考えてるやもしれませんが。。。」


「ふ~~~~~ん」


視線が僕に集まる。

とりあえずの自己紹介をし、立証について幾つか考えがあることを伝えた。

すると国王陛下は笑いながらこう言った。


「いいじゃねえか!我が国にこんな優秀な刀剣士が育ってんのは嬉しいぜ!」

「よし、お前今日から騎士団入れ」


は????


「兄上お待ちください。その辺りは後程でお願いします」


「なんだ?お前も狙ってんならそいつは本物なんだな」


「失礼を承知で申し上げます。彼はうちの婿なのでご容赦をお願いしたい」


「なんだ寛治もかよ」


そんなやりとりが続いたが最後は紳士協定が結ばれ話がもとに戻った。


そして仮説の立証にはどうすのが最善かを問われた僕は。比較対象を増やす必要性

を訴えた。概ね理解は得られたが実施規模という問題もある。

仮説である以上、国の立証実験など情報が洩れたら一大事である。

おいそれと街中で実験などできるわけがない。


結果、国王陛下は国の情報を開示してくれた。


「このことは騎士は皆しっているが箝口令をしいている。」


迷宮は王城内にもあるということだった。なぜ箝口令など強いているのかと伺うと

王族が富を独り占めしているというような誤解をうまないためであるという。

ただ箝口令に対しての明確な罰則はないとのことだった。

所謂、公然の秘密である。そしてそれは他国も似たようなものであると教えられた。


迷宮は国の繁栄に多大な影響を与えている。街にある迷宮は市民生活に深く結びつき、安定に寄与し

幸福を与えているという。そして、国管理の迷宮は国の運営に寄与している。探索しているのは騎士団の人達で、得られたアイテムは全て国の所有となる。職務で迷宮に入るのだ当然だろう。

しかし問題もあった。人手不足だ。

国管理の迷宮という存在を公表しない以上、騎士団員のみで探索を進めなくてはならない。当然、深度は街中の一般迷宮に劣る。それでも国有迷宮にしているお陰で、国民に納税等の余計な負担をかけないで済んでいる。貧富の差はあるが平和なのはそのせいかもしれない。


統治すれども支配せずってことだ。


そして他国も同様だからこそ侵略のような戦争は数千年前起こったきりだそうだ。

迷宮深度を下げ恩恵を受けるだけで国も民も幸福なのだ。平和なはずだ。


また、年1回開かれる5国間の情報共有会議で保有する迷宮深度の申告義務があるそうだ。

迷宮深度が国威を示すということになるので、優秀な刀剣士の育成は自国の発展と国威に直結する。どの国も刀剣士に力を入れているのは当然だ。

また今回のような情報は貴重であり、扱いは特に注意が必要となると教えてもらった。

そして今回の仮説が立証されたら国には申告する責任があり、虚偽や違反が認められた国は厳罰が

下るということだ。


14歳になって他国という存在をはじめて知った。


そして陛下から得た情報を踏まえ、立証方法を考案した。

公表はせず、先ず、迷宮入りする騎士に走力を計測してもらう。

計測方法は砂時計の砂がが落ちきるまでの距離や反復回数を計測することとして、

計測が終わったものは王城内の迷宮1階層で一定期間グレーラビットだけ討伐してもらう。

その後に走力を再計測すれば比較できるだろう。期間はひと月としようと提案する。


話し合いはまだまだ続く。


担当者や人選がどうとか、貴族対応がどうとか、僕の知らない話が続いている。

その中で国王陛下がこんなことを言った。


「しかし、大人数でグレーラビットばかり討伐していたらいなくなるんじゃないのか?」


「兄上の言う通りかも知れません」


「ちと人数絞るか?」


「そうですね。公表できない以上、最低限の方が情報はもれませんし。。。」


そんな王族兄弟に考えもせず、”誰にも話したことがない”ことを言ってしまった。


討伐箇所には時間の経過で魔獣は再発生していると思いますよ。

増えることはありましたが、減ることはなかったと記憶してます。。。


全員の視線が僕に集まる。もちろん彩花もだ。


「おい、その話は聞いてないぞ」と官吏長の額に青筋がたったように感じた。

「兄上、同時に検証をお願いします。」


「お、おう」


「丈瑠は後で彩花とともに私の私室へ来るように」


なぜか二人して俯いてしまい、官吏長にその他の隠し事がないかの尋問を受けた。

そして彩花には目を離さぬようにと注意勧告。彩花は腰を折って謝罪していた。


そしてひと月が過ぎた。


今日、官吏局から王城に行くのは僕と彩花、官吏長の3名だ。

王城につくと前回とは異なり、別室に案内された。官吏長の話でこの部屋は外交官等の来賓迎え、打ち合わせに使う部屋らしい。


「さ、こちらへ」


品のいいお爺さんが優しく案内してくれた。


「悪いな、宰相閣下」


「昔みたいに、”じい”でいいですよ」


やはり官吏長は王族だ。あまり深入りしたくはないが、そうも言っていられないのは先刻承知だ。

宰相閣下が退出され、ほどなく国王陛下が来られた。

そして宰相閣下も。。。どうやら巻き込まれていたらしい。

各所の人員は王であっても勝手はできないのだろう。それに貴族がいると聞いた。

あったことはないが、王家を興隆させるには必要なのかもしれない。

そう言った柵を宰相閣下がまとめているようだ。


早速、本題に入る。


多少の誤差は人によってあるが、基本的に参加した騎士の能力向上が認められたのである。

特に若年層の伸びが圧倒的だったのだ。彩花は14歳、騎士では16歳が一番の低年齢だと

報告を受けた。結果として低年齢から効果は薄くはなるが、総じて効果ありと判断された。

仮説が立証された。


また、リポップの確証も得たらしい。リポップ時間には幅があるらしいが人気が少ないほど早くなる傾向があるらしい。討伐終了後、その場にい続けていると再発生はしないようだ。

そんな事実を淡々と告げられた後。国王陛下は天を仰いだ。


「まいった」


え?何故ですか?と聞き返すと国王陛下は溜息まじりに教えてくれた。

王族と宰相家だけに伝わる秘話についても。。。


「こうもあっさり立証されようとはな」


「我が国にとって一番の損失は丈瑠の名を発見者として公表せねばならないということだ。」


そうなるとどうなるのですか?という問いに陛下は続けた。


「丈瑠を我が国に留めおくことは事実上、不可能となるだろう。」彩花がピクリと反応した。

「他国からの転出の勧誘もあるだろうが、一番は婚姻か。」

「お前が婚姻を承諾しようがしまいが我が国の関与を勘繰られるのだ」

「故に、我が国は消極的であっても他国に協力せざる負えないのだ」

「婚姻だけならいい。下手をするとお前を巡り戦争が起きる可能性まである」

「私はな、今回の立証はそれだけの価値があると思っているのだ」


僕が立てた仮説はあらゆる可能性を秘めていた。

”魔獣討伐”による身体強化。今回はグレーラビットのみだった。

逆に言うとグレーラビット1種のみしか検証していないのである。他の魔獣にも何らかの身体強化や違う効果があるかもしれないのだ。グレーラビット以上の効果の者がいたら?

迷宮探索が活性化するのは良いことだ、しかし情報はどうだ?申告義務があるとはいえ迷宮深度に

直結する情報を全て晒すほどのお人好しはいない。国威なのだ。

そう思ってしまったら国家間の絆はあっさり崩れ去るのか知れない。陛下はそんな状態の渦中に

僕がいることを危惧しているのかもしれない。知と力はある意味同義なのかもしれない。


でもと僕は反論した。どう考えても過大評価しすぎだと感じたからだ。

それとも陛下の危惧に他の理由があるのか?不安な気持ちに苛まれる。


陛下の話しにはまだ先があった。


「実はな、我が国の王家、宰相家に伝わる秘話がある」

「人の特異点となる人物の話だが、お前と似た知己を持ち合わせていたらしい」

「更に、お前の出自の不明瞭さと酷似している記載もあるのだ」

「率直に尋ねよう」

「お前はこの世界で精を受けたものではないのではないか?」


えっ!?


僕自身でも意識しないと思い出せないことを確信をもって言い当てられた。


「悪い、言い方が良くないな。お前の出自どうあれお前はお前に違ない」

「しかしな、王として無視できぬ一節もあるのだ」


「”栄華繁栄と暗黒消滅を併せ持つものなり”とな」


暫く、絶句してしまった。


僕は一体何なんだ。僕が自分を一番知らなかったってことだよね。


僕は”海内丈瑠”と言い切れるのか?僕が知ってる”海内丈瑠”は26歳の会社員だったはずだ。

じゃあ、今の僕は誰だ。この姿はなんだ。僕は僕じゃないのかもしれない。。。


光が明滅しながら上から下へと漆黒に染まってゆく。

気が付けば足元まで真っ暗だ。ダメだ。。何も見えなくなってしまう。


深い深い漆黒の帳が意識を包み込む。


そして身体中を漆黒が塗りつぶし、溶かし存在が焼失した。黒は黒にしかなれない。


怖い。


何が怖いのか?


わからない。ただ怖い。


意識さえも漆黒に塗りつぶされそうだ。意識が下に引き摺られて少しづつ大切な何かが

四方八方に千切れ飛んでいく。


そして恐怖さえ消滅する。


絶界。


お前は世界に拒絶されお前はお前を拒絶した


それが全てだと。









「タ」 「ス」 「ケ」。。。。。「テ」


どこかわからないが、チリッ  微かな痛み




「タ」 「ス」 「ケ」。。。。。「テ」


感じない痛みが少しづつ大きくなるような気が?と感じて、いし”き”が浮遊した錯覚



「タ」 「ス」 「ケ」 「テ」


いし”き”が意味と混ざった時、痛みが復活した感覚。


同時に目の前に見慣れた文字が漆黒に浮かび上がる


”海内丈瑠”


刀剣に刻まれている文字が漆黒に抗うように青さを滲みだしている。

手を伸ばして触れると、声が聞こえた。


「タケル!、タケル!!、タケル!!!」


”海内丈瑠”に触れるほど、音は大きくなり意味を思い出す触覚。


僕の名だ。


あまりの愛おしさに胸に抱いた瞬間。呼びかける音が雷鳴となり、辺りを青に染め上げる知覚。


「タケル!!!」


「丈瑠、丈瑠、お願いこっち見て」


あーーーー頬が温かい、気持ちいい感覚。


あれ?この娘なんで泣いてんの?こんな可愛い子泣かせるなんてクソ野郎だなという視覚。


「陛下、丈瑠の眼が動きました」


「そのまま呼び掛けて上げなさい。」


「丈瑠、丈瑠、聞いてよ、ねえ」


「私はあなたを認めてるよ。誰よりも認めてる。私を救ってくれたのはあなたなのよ」

「何があっても傍にいるから」「丈瑠が丈瑠じゃなくてもいい、私があなたの傍にいるよ」


何かが嵌った音がした。そして掠れた「タ ス ケ テ」が再度頭に響いた。

視界にあった暗闇は消えていた。その代わりに彩花のグシャグシャな泣き顔が飛び込んできた。僕は彩花に向かい言葉を発した。


彩花、その顔じゃお嫁に行けないよ。と


一瞬泣き止んだ彩花は僕の顔を覗き込み、胸元へ抱え泣きじゃくる。

眼を閉じ、彼女の体温を着物越しに感じる。“あたたかい”


しばらくして彩花は落ち着いた。彼女の胸元から解放はされたが、まだグスグスしている彼女は僕の手を握って離してくれない。

僕はどうなっていたんだろう?聞くのは怖いが陛下に聞いてみる。


「なんと言えばいいか。。。。」


返答はしてくれたが、陛下と官吏長の表情は険しい。僕は一体なんなのだと思い切って

陛下に聞いた。


「稀人だ」


すみません、ちょっと違うことに引っ張られた結果、違う方向に進んじゃってたみたいなので

改稿しました。お見苦しいものがさらなる酷いものにお詫びします。

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