官吏長
官吏局につき窓口に向かうが、踏む台を取りに行くのを失念していた。
踏み台を携え、窓口に向かう。お願いしますと声を掛け2枚の依頼書を差し出した。
日付順に処理するのか一方は押印で簡単に終了した。
しかし。。。もう一方は窓口の女性が固まっている。うん分かるその気持ち。
何度、読み返しても意味が分からなかったのかお姉さんは離席を僕に告げると
奥にいた男性へ依頼書を見せていた。その男性も理解できなかったのか依頼書を持って
更に奥へと消えていった。気まずさに身悶えそうだ。見かねた別の窓口の女性から声が掛かる。「向こうで座って待ってたら。確認取れたら呼んであげる」
そう言われたら窓口に陣取るのも気が引けたので、踏み台をもって椅子に移動した。
それから1刻以上放置だ。今日は迷宮にも行ってないし、このまま終了かと呆然としていた。
「海内丈瑠さん、ちょっとよろしいでしょうか?」
いきなり女性から声をかけられた。質問を受けるのかと思いきや誘導に従い別室に案内されてしまった。足元は絨毯敷、高そうな調度品完備の部屋に案内されて着席を促された。
「官吏長が参られますので暫くお待ちください」
へ?どういうこと??説明もなく女性官吏官は退出していった。
半刻を過ぎようかという頃に扉が開く。観音扉だが、片方だけだ。
「待たせたね」
官吏長と思われる人物に声を掛けられた。後ろには秘書のような女官もいる。
官吏長は柔和な笑みを浮かべているのに対し、女官は怖そうだ。
「さて、この依頼書は君が書いたものではないのだね」
首肯すると、困ったような顔をしてこう続けた。
「全く意味が分からないんだ」「依頼もそうだが期限もね」
「報酬に関しては稀にあるので問題はない」
果して僕が説明してよいものか判断がつかないとと正直に伝えると、鈴森家の了承は貰っていると聞いて驚いた。待たされていた時間に官吏官が出向いて確認したらしい。
てか丸投げかよっと憤慨はしたもののこればかりはしょうがないと思ってしまった。
先ず、先ほど達成を認めてもらった依頼書を持ってきてもらった。
予め準備されていたのか扉から出ずに他の女官から秘書さんの手に渡り、官吏長に手渡された。そしてなるべく齟齬のないように説明を始める。
依頼を受けた時の鈴森家の状況と彩花さんの様子。異変の内容と異変状況の推移と彩花さんの体調の変化。そして結論と続け依頼に関しては達成の評価頂き持参したことを告げる。
続いて2枚目の依頼書を説明する。
外的な要因は確認されず、彩花さんの復調によって異変が発生していないことを告げると
秘書官が口を挟んできた。
「子供によくある虚言では?」
確かに否定はできないが嘘をついた罪悪感のみで心身に異常をきたすことは子供には
ないんじゃなかろうか?と思ったことを口にした。“ごめんなさい”で済むのだから。
仮に言い出せなくとも周囲と隔絶していけば子供に耐える術はないのではと秘書官を制した。そんなやりとりが続く中、官吏長は僕の話に耳を傾けてくれている。
そして依頼の内容に戻る。
再発の可能性はないとは言えない。完全に原因を特定し排除できていれば1枚目の依頼書にある追加報酬を申請できる。しかし、完全な特定ができないから僕に落ち着くまで見守って欲しいという旦那様の依頼だと思っていると伝えた。そして期限項目には刀剣士である僕から辞退を申し出ることを認めてもらっている。受理されるかは運任せだけど。。。と
併せて告げ説明を終えた。
「君、いくつだっけ?」
とても10歳とは思えない考え方だと言われギクリとしたが追及はなかった。
「とりあえず鈴森家に一緒に行こうか?」
官吏長は当初からの雰囲気を全く崩さず僕にそう促してきた。
そこに秘書官がまた割り込む。
「官吏長ご予定が!」
「君、何言ってんの?我が国が一番重要視しているのは何だ」
雰囲気が一変した。逆に秘書官がしどろもどろになる。
「と、刀剣士の育成です」
と小さな声で官吏長の問に答えた秘書官はそれ以上なにも言えなかった。
「だよね♪目の前にこんなに優秀な刀剣士がいるんだよ」
「この子の年齢でこんな説明できた子は私の記憶にいないけど君は知ってるかい?」
答えることができず、俯いたままだ。
「さて、馬車を用意させるから玄関ホールで待っていなさい」
「秘書官の君は馬車の用意と先ぶれを出すように」
秘書官さんに促され僕は席を立ち一礼して退室した。僕を外で待機していた女官さんに預け、秘書官さんは駆けだして関係各所に飛び込んでいった。
いやーブレない上司ってかっこいい!あんな上司が欲しかったなー等と回帰しながら女官さんの後ろについて歩いた。
そして日が落ちそうな時間になってしまったが、鈴森の屋敷に戻ってこれた。
馬車は絢爛で乗り心地がよく、睡魔との戦闘が結構大変だったがなんとか踏みとどまることに成功し下車することになった。先触が出ていたせいか玄関先には旦那様をはじめ執事さん、女中さんが勢ぞろいしている。当然だけど彩花さんの姿も見えた。
「出迎えすまんの」
官吏長は旦那様にそう言うと供の者を下がらせ馬車にて待機を命じ、旦那様の誘導にしたがって屋内へと進む。そこは迎賓館であり今までは入館したことのない場所だ。
完全な洋館であったためキョロキョロ気渡してると、傍に来られた彩花さんに笑われた。
そして、軽い軽食が出され、話し合い?がはじまった。
「彩花殿、息災か?」
官吏長の問に彩花さんは頭を下げ応対した。
「みなさんに大変心配をお掛けしてしまいましたが、丈瑠様のお陰で体調はかなり良くなりました。お気遣いありがとうございます。」
官吏長はにっこり笑う。「“寛治”よかったの」
友人然とした物言いに僕だけ“誰それ”みたいな感じになってしまった。
彩花さんの説明では旧知の中なのだそうだ。大きな商会はやはり官吏局上層とのパイプは必須であるとも教えてもらった。確か、官吏局は行政もになっていると聞いた。
施策によって販売商材にも影響はあるだろうから重要なパイプなんだと感じた。
「さて、依頼書のことなんだが彼からの説明は受けた。一定の理解はしたつもりだ」
「敢えて問うが、真か?」
官吏長はそう言って旦那様と彩花さんの双方の意見を聞く姿勢のようだったが、一瞬で終わった。
「彩花をみれば分かるでしょう」
「かねてより相談していたことに相違はないのですよ」
なんと!以前より内々に相談されていたことが判明した。そして心配もされていたようだ。
彩花さんは微笑んでいるだけで何もいわない。
ふたりの確認を終えると、官吏長は一言のみ告げてその話は終了となった。
「ならよい」
官吏長は僕に向かって依頼書の受理は明日正式にするから取りに来いというと、本当に
その場では完全にいらない子とかしてしまった。その後軽い酒席になるということで、僕と彩花さんは退室を許されたので迎賓館から自室に戻ることにした。
行間あけると読みやすくなりますかね。
詰め込みすぎは読みづらいだけかもしれませんね。陳謝