2階層と妖精
風呂から上がり、着物を借りて部屋に戻る。着物っていっても浴衣みたいなものだ。
着馴れない僕は裾が下につかない程度に帯のところまでたくし上げ帯で止めた。
何とも奇妙を出で立ちだ。とりあえず。手が出せるようにタスキをかりよう。
そんなことを考えながら部屋に戻った。
水差しから水をコップに入れていっきに飲み干して一息ついて寝ころんだ。
その時、お声がかかった。
「あ、あの丈瑠様。お戻りでしょうか。丈瑠様」消え入りそうな声がする。
えっ?彩花さん?と寝ながら横の襖越しに尋ね返し、身体を起こしてどうしたのかを
聞いた。すると少し間があったが返答があった。
「あ、あのお疲れのところすみません。お話を聞いてもいいでしょうか?」
問題ない旨を伝えると、問いかけられた。
「寂しくはないのですか?」
一瞬どう答えるか迷ったが、正直に答えた。寂しいですよと。でも。。と続けて
出会った人々の好意に救われたことをゆっくりと語る。相槌もないので聞いてくれているかは分からないが、自分の思いをそのまま言葉にする。そして暫くして謝意と共にこんな言葉が返ってきた。
「あ、ありがとうございました。一つお願いがあるのですが」
何でしょう?と聞き返したが返答がない。香菜さんの声がする。ちょっと心配になったが
暫くすると彩花さんはこう切り出した。
「眠るときですが襖を少しだけ開けても良いでしょうか?」
ん?そんなことかと思いながら了承と告げるとまたも礼を言われるが、気に病むようなことではないと伝えた。そしてこちらから香菜さんに問いかけた。香菜さんにはタスキの他に
家内での帯刀は勿論、散歩という行動の自由を求めて許可を頂いた。もともと部屋への無断入室以外は行動制限はないらしい。許可も頂いたので部屋の外を見廻ることを伝えると
香菜さんから了解と不在時に床の準備が入ることを聞き、部屋を後にした。
僕に特殊な能力はない。呪いみたいな物を看破するなど到底想像もつかない。今できることは屋敷内に何があるかを確認するくらいだ。彩花さんのことも心配なのであまり離れることはできないがとりあえず半刻ほど廊下をあちこち進み、途中に出会った女中さんに話を聞きながら
散歩を終えた。部屋に戻ると寝床の準備も終わっており薄明りがついていた。ランタンの様なものが頭もとに置かれている。他に変わりはないのを確認し、刀剣を太刀掛に置き彩花さんに戻ったことを伝えた。返事はなかったが襖が少しだけ開いているのが分かる。
小声で香菜さんに問いかけると彩花さんはすでに床に入った様子だ。眠られているかは分からないが今のところは何事もないようだ。確認を終えた僕も明かりを消し寝床にもぐりこんだ。短い眠りを繰り返し特に気になることもなく朝を迎える。朝方に異変があったとは聞き及んでないので、小声で香菜さんに声をかけると返答があった。寝ずの番だったのだろうか?廊下で話したいと伝え、部屋の外で暫く待った。出てきた香菜さんに今日の予定を伝える。護衛といっても僕は四六時中傍にいる必要はない。僕の仕事は異変の調査であり、彩花さんの心身の早期安定だ。日中に問題がないのであれば少し1時くらいは時間を貰いたい。迷宮での活動と鍛錬だ。これは流石に旦那様に話を通さないとまずいらしくそのまま待機していると。洗濯された衣服を持って香菜さんが戻ってきた。
問題はないらしいが衣服が乾いておらず、半乾き状態であると伝えられたがそのまま受け取り着替えて迷宮に向かうことにした。
自分に課した目標のグレーラビット20頭の討伐はすぐに達成した。怪我の影響もない。
痛みもほとんど感じない。刀剣自体の強度と身体能力の向上が以前の比じゃない。速度強化って身体の反応速度は勿論、思考処理速度なども上がってるように感じた。1階層ではもう
弊害になるようなものは見当たらず、次の階層に向かう。時間的な制約もあるので今日は軽く様子見として階下につく。見たところ代り映えはない。薄暗いが明かりはある。人は1階層より多い。1階層での主な収集物はグレーラビットの毛皮とウッドラットが残すリーフ、薬草だ。
スライムは自身が飲み込んだものをたまに残すらしい。ゴブリン種は種類は多いが布しか残さない。1階層で今日分かったことはそんなとこだった。これじゃ2階層の方が良いに決まってる。生活には困らないが高望みは期待できないし、刀剣強化にもつながらない。全く持って意味不明だ。
さて2階層の情報を集めようと思い散策を開始する。いきなり重症や即死はないだろう。
安易かもしれないがそう感じる。2階層であった最初の魔獣は爪犬と言われる狼に似た魔獣だった。気性は荒く縄張り意識も強い。同種以外の魔獣にも平気で仕掛けるらしい。爪が異様に長いのが特徴だ。ドロップするのは爪か毛皮だ。毛皮は匂いが強く不人気らしい。
そんな自己主張の強い魔獣が2階層のメインだと探索途中で出会った刀剣士に聞いた。最初に遭遇したのは単独の爪犬で、こちらを認識すると同時に突っ込んできた。
こちらは楽だ。待ち構えればいいだけである。
束に手をかけ構える。一刀で終わる。単独なら楽だが、群れていると結構きついのかもというのが初戦の感想だ。好戦的だから囲まれるとボコられそうだ。爪も鋭いので当たったら痛そうでは済まない。迷宮に入る前に見かけた怪我人は群れに囲まれたんじゃなかろうか?
それとももっと下なのか?2階層じゃ、いいかっこもできないだろう。
次に出会ったのは毒蛙だ。見た目ちょっと見持ち悪い。問題は匂いで生臭い。出会う前に
分かるほどの臭さである。体長と臭気は比例するらしいのは後から聞いた話だった。
遭遇しても動く気配すらないが近づいたら案の定、毒を広範囲に吐き出した。
僕は即座に離脱し難を逃れたが、あれは敢えて討伐するメリットがないのではないかと思える。
避けてしまえば問題ないのだから。。。しかしドロップアイテムは一部に人気があるらしい。
皮を残すらしいのだが薬効があるみたいだ。滋養強壮効果だ。
毒を食らわば皿までということだろうか。。今回はここで切り上げ戻ることにした。
時間もさほどかからず迷宮を出た僕は収集品の換金を考えたが屋敷に戻ることにした。
屋敷に戻り呼び鈴を押そうとしたが手を止め、引き戸を開け帰宅を告げた。
都度、呼び鈴押すのも迷惑だろうと考えたからだ。履物を脱ぎ揃え上がることにする。
忙しいのだろうか?与えられた部屋につくまで誰にも会うことはなかった。
入室すると寝床は片され朝餉の配膳が残されており、ちょっと気が利かなかったかもと自己嫌悪したが先ず彩花さんに帰宅を告げる。
「お、おかえりなさい」と小さな声が聞こえる。在室しているみたいだ。
不在のお詫びとお加減を聞き、変化はないことを確認しつつ、配膳された朝餉を流し込んだ。
膳を廊下に出し、さてどうしたものか?と考える。特に“今”しなくてはいけないことを思いつかなかったので思い切って彩花さんを庭園の散歩に誘ってみた。ちょっと前口上がながくなってしまい恥ずかしかったが、賛同してくれたので廊下で待つことにした。
すると香菜さんが先に出てきてこう言った。
「今、支度をされてますからもう暫くお待ちください。」「庭園にはそのまま出られますから履物をご用意しますね」と言い、玄関に向かって足早に歩いて行った。
香菜さんは早々に戻り、履物を縁側に置いて彩花さんの部屋に戻って行った。
そして出てきた彩花さんを見て驚愕した。見惚れてしまうほど綺麗だったのである。
淡い花柄があしらわれた桃色の着物。昨日はよく見ていなかったのか髪の色は金色に近く
後ろに纏め、髪留めでとめられている。うっすら化粧をしているように見えるのは気のせいだろうか?僕は現実的ではない美しさに見惚れながら呟いていた。彩花さん??
はっ、と気が付いた時は手遅れだった。失礼すぎるだろうと慌てる僕に彩花さんは尋ねる。
「はい?」何でしょうか?という面持ちでこちらの様子を伺っている。僕の問いかけが悪いので恥ずかしくなってしまい、思わず目をそらしてしまったが気まずくなるのも嫌なので言葉をつづけた。いえ、すみません。失礼だと思ったのですが別の方かと思ってしまいましたと正直に告げると、後ろに控えていた香菜さんが吹きだした。
いやこれも不味いのか?経験値不足でなにを言っていいか分からない。今更何を言っても
藪蛇になりそうだ。恐る恐る彩花さんの様子を見ると顔をそらし俯いてしまった。
ああそうか、ほとんど俯かれていたから印象が違うんだ。髪の色には気づいてもおかしくは
ないが意識の外にあったのだろう。全く気にもとめなかった。
やらかしたことはしょうがないと切り替え僕は先に履物に足をとおし庭に降りた。
続けて香菜さんが手をとって彩花さんが庭に降りる。そして香菜さんが彩花さんに話しかけた。「お久しぶりですね、お庭に出られるのも」彩花さんは首肯すると香菜さんと一緒に
僕の方に歩いてきた。
ちょっと誤字おおいのは堪忍してください。いずれ改稿します。