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似ている丸文字

 私はオフィスに着くと自分のデスクの上に鞄と本の入ったレジ袋を置こうとした時に昨日、岡田先輩が手伝ってくれた会議の資料の束がデスクの上に綺麗に並べられている事に気づき、その資料の一部を手に取りパラパラとめくり軽く中を確認した。

私はその資料束を持ちオフィスを見渡して愛沢のデスクの方へと向かった。


『愛沢さん、これ今日の会議の資料できたから』


愛沢は私に気が付きニコッと笑った。


『ありがとう、本当に助かった……』そう言って愛沢は資料を受け取った。


私は軽く首をふりながら『うぅん』と言って自分のデスクに戻ろうとした時、愛沢に『鳴海さん?』と言って呼び止められる。


『実はね、昨日彼氏との記念日だったんだ。 だから鳴海さんが帰っていいよって言ってくれた時すごく嬉しくて……本当にありがとう』と愛沢は私から受け取った資料を親指で軽くこすりながらそう言った。


私は愛沢の昨日が記念日だったという言葉に一瞬息が止まってしまう程強く反応してしまう。

亮太の部屋に置いてあるカレンダーにも昨日が記念日だと書いてあったのを覚えていたから。

頭が真っ白になって何も話す言葉が見つからなかったけれど

動揺していることが愛沢に悟られないように私は口角を上げて頷いた。


『そうなんだね。 彼氏さんと付き合って長いの?』


『うん、学生の頃から付き合ってるから今年で付き合って3年になるんだ』


私は愛沢のデスクにあるメモ用紙のような物に目を向けて

その用紙に愛沢が書いたであろう文字を見る。

そして亮太の部屋のカレンダーに書いてあった文字を思い出していた。

亮太の部屋で彼女の文字を見た時に平仮名の『ろ』と数字の3の見分けがつかないような印象が強く、愛沢の書くその丸文字が前に見たものととても似ているような気がした。


愛沢は私から少し目線をズラして『あっ、圭さんだ』そう言いながら私にまたねと、軽く手を振ってオフィスの奥の方にいる岡田先輩の方へと早足で向かっていった。


私はその後ろ姿をずっと見つめていた。





 就業時間が終わってみんなが一斉に帰る準備を始める夕方に私は胸ポケットに入れているスマホのメッセージの受信音に気が付き。

手帳型のケースに入ったスマホを取り出しメッセージを確認した。


亮太: 明後日空いてるかな? 美咲の誕生日遅れちゃったけれどお祝いしたくて。


私はそのメッセージに返信はせずに両手でスマホをそっと閉じたその時。


『鳴海さん……それ……』と後ろから誰かの声が聞こえて

私はビクッと肩を上げながら素早く振り返ると

そこにいたのは目を丸くして後ろに立つ愛沢だった。


私は慌ててスマホの画面を隠すように両手でスマホ覆った。

その瞬間私の頭によぎったのは今スマホの画面を愛沢に見られていないかどうかそれだけだった。


『あ、愛沢さん……どうしたの?』私は動揺で少し声を震わせながらそう言った。


『……鳴海さんも好きだったの?』

愛沢は特に動揺する様子もなくいつも通りの平常心で私にそう話した。

そして、愛沢のその視線の先が私ではなく私より少し後ろであることに気づき

私はその目線の方へと顔を向けると

私のデスクの上で倒れたバックから今朝買ったファッション雑誌が表紙を上側にして出ていた。


『これのこと?』と私はその雑誌を指差す。


『そう、私もね毎月買ってるんだ』

そう言って愛沢は自分のカバンから私と同じファッション雑誌をチラッと出して見せた。


『今日発売日だったからさ、出社前にね駅の売店で買ってきたんだー』


『そうなんだ……』そう言って肩を撫で下ろす私。


『そういえば、雑誌に載ってたパンケーキ屋さん、うちの職場の近くなんだよ』


『へぇー』と少し興奮気味の愛沢とは対照的に私は苦笑いで頷いた。


『昨日の資料のお礼に奢ってあげるよ』

愛沢はそう言って戸惑う私の手を引いて二人でオフィスを出た。


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