営業スマイルではないスマイル
店長さんと女性の店員さんが厨房の方へ戻り
私は先輩になだめられ落ち着きを取り戻した。
そして私は目を腫らしながら皿の上に乗ったケーキをフォークで大きく切って大きい口を開けて両頬をリスのように膨らませながら食べた。
『可愛い顔出来るんじゃん』先輩はワインを飲みながらジーっと私の顔を見つめてそう言った。
私は口一杯にケーキを入れながら『んっ?』と聞き返した。
『鳴海が営業スマイルじゃなくて普通に笑っている所初めて見たからさ』先輩はそう言ってワインのグラスを飲み干した。
『今日残業頑張って良かったなぁって思いまして…… だって今日二人で食事に来ることができたから。 頑張ったご褒美ですね!きっと』
先輩は少し赤くなった顔を手で仰いだ。
『普通そう言う事面と向かって言う?』と照れて笑った。
私はまたフォークでケーキを口の中へと運びながら
フフフッと笑って頷いた。
それから帰る前に店の真ん中で女性の店員にポラロイドカメラで誕生日の記念撮影をしようと勧められて先輩と二人で並んで撮った写真を赤い封筒に入れて手渡された。
店を出ると先程店の人が呼んでくれたタクシーに私たちは乗り込んだ。
そしてタクシーが私の家に向かう途中で先輩は会社で少しまだやることがあるからと言って運転手にお金を渡し途中で降りた。
『じゃあ、また明日会社で』と先輩はタクシーを降りながらそう言った。
『はい、今日は本当にご馳走様でした』
私を一人乗せたタクシーが家の前に着くと先程先輩が渡したお金のお釣りを運転手さんから手渡される。
このお釣りは明日先輩に返そう。
私はタクシーから降りて家の前へと向かいいつものようにバックから鍵を出してドアを開けた。
そして暗い部屋の中ベットには向かわずお風呂場の方へと向かい服を脱いでシャワーを浴びる。
いつものようにシャンプーを出そうとしたが途中で手を止めてお風呂のドアを開けて洗面台の下の戸棚からいつかもらった試供品のシャンプーとトリートメントを取り出した。
試供品のシャンプーの袋を開けてそれを鼻に近づけた。
『……少し香りがキツイかな』と呟きながらそのシャンプーを髪に揉み込んだ。
今日の出来事を思い出しながら一人でニヤついてしまう。
愛沢さんに腹が立ってしょうがなかったけれど今では残業させてくれてありがとうなんて感じてしまう。
人間って単純なものだ。 本当に。
『——可愛い顔出来るんじゃん』
その先輩の言葉が頭の中をグルグルと周りその度に私はニヤケて緩む表情を必死で抑えようとするがそれを我慢すればするほどに鼻の穴が広がって鼻の下も伸びてしまう。
そのなんとも言えない表情が浴室の鏡に写り自分の見て私は
『……ほ、本当に可愛いか?』と浴室で1人呟いた。




