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ダメな自分を変えたくて、私がした『おいしいパスタの法則』  作者: ハチサロン
いつかもらった試供品
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二番目

 私の好きな人には彼女がいる。


ただそれだけと言ってしまえばそれだけのことだ。


自分がされて嫌なことは人にしてはいけない。

他の人の恋人に手を出してはいけない。

そうはいうけれど恋人なんて所詮口約束でしかない。

まぁそれが結婚となると話は別になるんだろうけど、口約束だけの恋人関係なんて信頼関係の上にしかないものだから、私の好きな人は信頼するに値しないってこと。


ただそれだけ。


所詮それだけのことなんだ。


『——美咲みさきが好きだよ』


薄暗い部屋のベッドの上で男が私の名前を呼ぶ。

私は口角を上げ少し目を細めた。

男は私の顔を見て満足そうにフフッと笑った。


この言葉にだって多分深い意味はない。


今この瞬間だけはそう思うような気がするってだけだ。


『明日の美咲の誕生日なんだけど予定あるから祝うの来週とかにズラしてもいい?』

男はシャツを着ながら、あたかも申し訳なさそうに言った。


『いいよ、無理して祝わなくても別に。学生じゃないんだし今年でうちら24歳だよ? もう喜べないよ年取るの』


誕生日を祝ってもらうのが無理そうなのは知ってた。

この男の部屋のカレンダーには赤いペンで彼女の字で私の誕生日の日に三年記念日と書かれているのを先月の終わりにカレンダーをめくった時から気付いていたから。

これ以上歳は取りたくないなっていうのも本音ではあるけれど

自分の誕生日を選んでくれないところが私はニ番目なんだなって思い知らされる。


亮太りょうた? 私明日も仕事早いからそろそろ帰るね』


男は私に背を向けながらスマホを操作して『うん』と返事をした。


テーブルの上に私のヘアゴムが置きっぱなしになっていることに気づき私はそれをバックにしまって部屋を出た。


 深夜0時を過ぎた人気のない夜道を私は一人歩く。


こんな真夜中の時間なのに外はまだジメジメと蒸し暑く足取りも重くなる。


『そういえば今日何も食べていないや……』私は一人呟く。


朝は会社に行く準備で食べそびれて昼近くに少しお腹が空いた感じがしたのだけれど

いざ昼になるとその空腹感も感じなくなっていて会社の自販機でお茶のペットボトルを買ったっきり。

今も今でそんなにお腹も空いてはいないけれど

何かお腹に入れないと多分眠る時に気持ちが悪くなるから仕方なしに私は帰る前にコンビニへと立ち寄った。



 入り口の自動ドアが私に反応してチャイムと同時に開く。

なぜか私はいつも自動ドアが自分に反応することで自分が今ちゃんと生きているんだなぁって実感したりする。


まぁ当たり前のことではあるんだけど、時々自分は他の人から見えていないんじゃないか。って変な感覚になってしまう事があるから今日も自分の体でしっかりと生きているんだなって感じたりする。


私は店の中へ入るといつものように店員さんがいるレジの横は通らず雑誌の置いてある窓側に沿って遠回りをして目的のお弁当の置いてあるところへ向かう。


代わり映えのしない店の商品を眺める私。


社会人になり一人暮らしを始めたばかりの頃よくしていた自炊も今ではしなくなった。

今ではコンビニの弁当を見ているだけでその味が簡単に想像できてしまうほど食べ慣れてしまったりしている。

悩んでいるのは何を食べたいかを選んでいるわけではなくて

いわゆる消去方で。何なら食べられるか除外しながら選んでゆく。


私は心の中でうーん。と悩みながら弁当の置いてある場所から離れて隣の棚にあるゼリーを2つ手に取った。

2つは食べる気はないけれどこんな時間に会社帰りのスーツ姿で一人分のゼリーを買っていたらいかにも寂しそうな奴に見えてしまうから私なりの精一杯の抵抗だ。

まぁ店員さんに寂しそうって思われたところで何もないのだけれど会計の時のその一瞬だけでもすこし私なりによく取り繕いたくてついしてしまう。


『これ美味しいですよね』

レジにゼリーを出して財布をバックから出そうとしていた時に思いがけず若い女の店員さんに話しかけられて私は目を丸くした。


『私も好きですこのゼリー』

大学生のようなその若い女の店員さんはバーコードを読み取りながら私を見て笑顔でそう言った。


私は目を細め顔を緩ませて軽く会釈した。


私はこのゼリーを好きで買っているわけじゃない。

食欲がなくこれくらいしか喉を通る気がしないからだ。

けれどそんなことよりも私は若い女の店員さんを見て

なんて清々しい笑顔だろう。 そう思った。

まだ少し幼さが残るその笑った顔は周りを明るく灯すような

そんな眩しさを感じさせた。


世間ではきっとこういう女性を愛嬌がある女性というのだろう。

そしてきっと私にはそれが欠けてる。

もっと可愛く生きる事ができれば今私はこんな時間に一人で食べたくもない夕食を買っている事もないだろう。


私は真顔に戻りレジ袋に入ったゼリーを彼女から受け取って店を出た。


 家に着くといつものようにバックのサイドポケットの中から鍵を取り出し、それを鍵穴へ差し込み軽く時計回りに回した。


ドアを開けると玄関に荷物を置いて、ソファーにスーツの上着を置いた。

そのまま真っ暗な部屋の中を電気もつけずに奥のベッドに向かった。


そして紐が切れた人形のようにベッドに倒れ込んだ。


私の部屋にはテレビがない。

見終わった後に……で?って思うものばかりだからだ。

そして他の人の笑い声がとても不快に感じるから。

自分は少し変わり者。いや、少数派の人間かもしれないけれど赤の他人に変わってるねって言われるのもとても嫌だ。

私からしてみればその多数派が変わり者のように見えているから他人の思考や思想でその当たり前を作られるのも嫌だ。


同じような理由でSNSの類なども全くと言っていいほど見たりしない。

他の人の充実したある日を切り取ったそれを見ても

だから何なんだろう。

それを見た他の人にこの人はなんて言って欲しいんだろうが先にきてしまう。

くだる。くだらないが理由ではないんだ。

問題はそれよりも先にあるそれが一体なんなのだろうになってしまう。


これを同僚に話した時に

鳴海なるみさんって冷めてますね?』と言われた。


……これは冷めているんだろうか。

私から言わせてみればその自分を見てほしい行為、それに群がる人たちの方がよっぽど冷めているように感じる。


私はベッドの横にある棚の上のライターでガラスに入ったアロマキャンドルの先の芯に火を灯した。


揺れる火が真っ暗い部屋の中を灯す。


この瞬間が一番落ち着く。

なにやらわからない他人の日記を見てるよりも断然こっちの方がいい。

火を見ていると無心になれる。

何も考えずにいられる。

キャンドルに灯る優しい火の揺れを見ながら私は眠りについた。


このまま朝なんて来なければいい。


二度と目を覚さなければ楽なのに。

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