召喚
考え込んでいると、突然ポケットから震えを感じる。
「こんな時になんだよ」
私は、ポケットからスマートフォンを取り出す。
エリからの電話の着信だ。
私は電話に出る。
「もしもし、時恵様。夕食の準備ができておりますが、帰りは遅くなりますか?」
「エリ!今それどころじゃなくて、脱出手段を考えていて……」
……。
電話が通じている!?
「もしもし時恵様、どうなされましたか?」
「エリ、今から説明するから聞いてくれ!」
私は、エリに現状を説明した。
「なるほど承知しました。高橋様のお怪我はないですか?」
「今のところ大丈夫そうだけど、少し精神的に不安定な部分がある」
「わかりました。そちらの方で召喚の詠唱は可能でしょうか?」
「魔導書があるから、やってみる。じゃあ、一回切るぞ」
先に志崎達に電話することも考えたが、とにかくエリがいてくれれば戦力的にも心強い。
「高橋さん、もうちょっと待ってて」
「う、うん」
過去、何度もやっているが、エリを召喚するのは久しぶりだ。
エリは昔、私の父が契約した使い魔なのだが、その契約を私が引き続いている。
「ふぅ~」
息を整える。
「私は代行者であり継承者」
「それ故私は所有者である」
「庇護するもの。加護するもの」
私の回りに魔法陣が形成されていく。
「啓蒙するもの。暗黙するもの」
魔法陣が発光し始める。
「時の流れが躊躇して換言し」
「この場をもって伝承、因習に従う」
さらに強く魔法陣が発光する。
「乞い、来い、乞い、来い」
「エリ!」
魔法陣から緑色の粒子が発生し一か所に集まると人の姿を形成する。
「よし、手応えありだ」
粒子は、たちまちエリを形成する。
召喚の成功だ。
「時恵様大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫。何か体に違和感とかある?」
「いえ、問題ありません」
エリは、高橋の元へ歩いていく。
「高橋様ですね。時恵様から全て聞いております。少しお手を拝借してもよろしいですか?」
「あ、はい」
エリは高橋の手を握る。
「バイタルは正常です。高橋様、お腹など空いておりますか?」
「い、いえ。特には」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます」
さて、これからどうするか。
「時恵様、先ほど志崎様には、連絡を入れておきました」
「すまないエリ、助かった。早速で悪いんだけど、この壁壊せそう?」
と私は、地面を軽く叩きながら言った。
「そうですね……」
エリも、真っ白な地面を軽く叩く。
「どこを壊した方がよいですか?」
「上か下のお好きな方を」
エリは、天井と地面を見る。
「上で行きましょう。時恵様、足場を飛ばしてくれませんか?タイミングは任せます」
「了解」
私は魔導書を開き、詠唱を開始する。
「地が露呈し顕在する」
エリがスカートのポケットから革手袋を取り出し、装着する。
「分断する壁。……エリ行くぞ」
エリは、深呼吸する。
「どうぞ」
私は、最後の一節読み上げる。
「穿て!」
私の足元から二つの岩が生えて、天井に向けて飛んでいく。
「フー」
と同時にエリが膝を曲げてしゃがみこむ。
「空雅……」
エリは小さく呟くと、足の周りに緑のオーラが発生する。刹那、エリは足を伸ばし跳躍する。
エリは、私が放った岩よりも速く、天へ進んでいく。そして追いつくと岩を蹴りさらに速度が増す。 さらにさらに二つ目の岩を蹴り速度が増す。
「火雅!」
と一言、口にすると天井に向かって渾身のアッパーを放つ。
エリの拳が天井に当たった瞬間、破裂音が鳴り空間全体を揺らいだ。
「おぉ」
エリは、仕事を終えると勢いをなくして落下してくる。
地面に当たる瞬間、緑のオーラがエリの体を包み込み減速する。
「一応、手ごたえはありましたが……」
なに事も無かったように着地したエリは、上を見上げた。
私と高橋百合も、続いて上を見上げる。
「ひび割れがあるような、ないような?」
エリが放った所を凝視すると、黒い筋みたいなものが入っているような気がする。
「すごい音だったけど、エリさん大丈夫ですが?」
「さん付け不必要です、高橋様。こちらは問題ありません。それと時恵様、嫌な予感がします」
嫌な予感?
私は、もう一度上を見上げると黒色のひび割れが拡大している。
「高橋さん、念のため近く来てくれな、ん!」
瞬間、私は高橋に急いで駆け寄る。
「時恵様来ます!」
天井のひび割れはさらに拡大し、割れた。
割れた天井の先は、真っ暗な空間が広がっており、手の主もそこにいた。
「……どうみても化け物だな」
手の主は、全身真っ白の妙齢の女性に見えるが、髪で顔が隠されていて表情が見えない。
また体の至るところに手が生えており触手のように、うにゃうにゃしている。
「時恵様、こちらに気づいたかもしれないです。目が合いました」
確かに、よく見ると髪の隙間から睨んでいるような気がする。
高橋百合は、そっと私の後ろに隠れる。
「プギャァァァァァーー!」
突然、手の主が咆哮を上げた。
まるで獲物を視認したかのように一直線に向かってくる。
「時恵様サポートお願いします」
私は魔導書を開き、先程と同じ詠唱をできるだけを早く読む。
「地が露呈し顕在する。分断する壁。穿て!」
岩が手の主に飛んでいく。
「んな!?」
それは途轍もなく恐怖を感じさせる光景だった。
手の主が岩に当たる直前、さらに手が生えて、岩を砕いたのだ。
「火雅!」
エリの手袋が赤くなる。
「上が壊せるなら」
エリは地面にむけてパンチを放つ。
再度空間が衝撃で揺れると、地面にひびが入り崩壊していく。
「ちょっ落ち、おわぁ!?」
私の足元にも、ひびが入り崩壊していく。
「高橋さん摑まって!」
私は高橋百合に手を伸ばして捕まえる。
エリ、エリはどこだ。
必死に探すが見つからない。
「お二人様、大丈夫ですか?」
エリは、上から私たちに被さる。
「何とかぁー!」
急激に落ちるスピードが速くなる。
「時恵様、あれを!」
落下地点を見ると眩い光に覆われていた。
私たちは、そのまま落下し続けて、光に飲み込まれていった。