調査
2015年 4月14日 夕方。
あれから一週間が経過した。
日常の学校生活は、私が予想していたのと違うものになっていた。
原因は、高橋百合だ。
私は当初、高橋百合の性格から、すぐにクラスの中心に溶け込み、他のグループと喋り合ったりして、私との関係が自然に薄れていくと考えていたが、そんな事はなかった。
まず、高橋百合の名前からして席は近いだろうと思っていたが、まさか、カ行とサ行で始まる苗字の生徒がいないことで席は、高橋百合の左横になった。
そこからは、休み時間に声を掛けてくるのはもちろんの事、昼休み、朝の学活。放課後も駅まで一緒に帰る仲になりつつあった。また、高橋百合の経由で知り合いになる子も出てきた。
私にとってこんなに充実した学校生活は、初めてだったので少し混乱する一週間になった。
「トキ、おいトキ?」
私は、下げていた頭を上げる。
「は、はい」
とりあえず今は、こっちの事を考えよう。
「本当に大丈夫?トキちゃん」
黒髪ロングでサングラスをかけた妙齢の女性は、少し心配そうにこちらを見ている。
「はい、大丈夫ですよ文子さん」
「そう、なにかあったらすぐ言うんだよ?」
と心配そうにしてくれる人は、佐藤文子。高等初級の古術魔術師。志崎と同期の魔術師。既婚者。
「もう、ちょっとノブ!かわいい未成年の後輩達がいるのに吹かすじゃないわよ」
「おっといけねぇ。わりぃわりぃ」
志崎は苦笑いをする。
志崎、佐藤文子の二人以外に色葉、綾香、一樹が集まっていた。
「あ、色葉ちゃん。綾香ちゃん」
「なんですか文子さん?」
色葉だけが口を開く。
「こないだ息子の世話ありがとね」
「いえいえ、全然お構いなく。私も好きで遊んでいるので」
色葉は、バッチリと笑顔を作る。
綾香は、無言で照れながら頷く。
そんな場面を見てると一樹に声をかけられる。
「トキ氏トキ氏、拙者が教えたアニメ見た?」
一樹は良く私にオススメのアニメを教えて見た感想を求めてくるのだ。
「あぁ、バイクで旅するやつ?」
「そう、それでござる」
「凄く面白かったよ。だから書籍を買ったんだ」
トキが驚愕の表情をする。
「なんと、もしかして二十巻全て?」
私は首を縦に振る。
「おぉ!これは一緒に談議するしかない!今度時間あったらどうでござるかぁ!」
一樹は興奮のあまり鼻を鳴らす。
興奮しすぎだろ。顔ちか!
「お、きたきた」
志崎が何かに気づく。
「何でござるか」
一樹が荒い息を止める。
良いタイミングで助かった。
白いワゴン車が来て、目の前で止まる。
後部座席の自動ドアが開くと三人の少年少女が降りてくる。
「色葉!綾香!おひさー!」
最初に出てきた一人目の少女は、出てきた途端に二人に抱きつく。
「ちょっと夏!危ないって」
色葉は、嬉しそうに飛び込んできた少女に注意する。
「ごめんごめん」
飛び込んできた少女は、望月夏。低等上級の忍術師。日本人からすれば馴染みある忍者だ。
「おい夏!いきなり飛び出したら危ないだろう」
私と同じぐらいの少年が降りてくる。
「黙れバカ兄」
夏の発言が少年の心を刺す。
「グッハ!バカ兄だと?それをお兄ちゃんに言って良いと思って.、い、いるのか!」
少年は胸を抑える。
「うるさい。クソ兄」
とどめの一撃を少年は食う。
「グハ!」
少年は、その場に倒れた。
倒れた少年は、望月冬。望月夏の兄。低等上級の忍術師で夏と同じ忍者。そしてシスコン。
「よいっしょっと」
「どわっつ!」
冬は、次に車から出てきたスケッチブックを持った少年に踏みつぶされる。
「あ、ごめん」
スケッチブックを持った少年は、円山ケン(けん)太。中等中級魔術師の魔術師。
「あ、カズキ!画集貸してくれてサンキューな」
ケン太は、一樹に本を渡し、さらに一枚の絵を渡す。
「おぉ、ケン太氏わざわざ複製ありがとう、それで感想は?」
ケン太は、右手で親指を立てる。
「めっちゃかわいかった」
「それはそれは良かった」
なんの本を借りたんだろう?
私は、何気なく挨拶を混じえて質問する。
「久しぶりケン太。どんな本を借りたの?」
ケン太が私の方に顔を向ける。
「おう、トキ。2月以来か?それよりもこの本は、あの白星白紅先生の画集でね——」
突然肩に重みがくる。
「ほらそろそろ出発だってよ。私は今回送り向かいだけだけどね」
「梨花さん。お久しぶりです」
金髪の妙齢の女性が後ろに寄りかかっている。
この人は、本城梨花。中等中級魔術師の魔術師。既婚者。
「いつ東京に来たんですか?」
「それがさぁートキ君聞いてくる?あのニコチン中毒者、昨日東京に来たばっかりなのに、いきなり電話掛けてきたと思ったら、車を出してくれなんて、人使いが荒いったらもう」
文子が梨花を私から引き離す。
「ちょい梨花、いくら子供がいないからってトキに愚痴を聞かせるな」
「何よ、別にいいじゃない。ねぇトキ君?」
文子は、梨花にチョップを入れる。
「このあと用事あるんだろ?ならさっさと帰った帰った!」
梨花は、半ば強引に運転席まで押されていく。
「じゃあねぇ皆!長期の休みには、ぜひ京都に遊びに来てねー。それとニコチン中毒者!何か奢れよ」
と言い残し、車で去って行った。
「おーい誰がニコチン中毒者だ、本当に。壱と夏樹が来れないからこれで全員か。よし、行くぞ」
私たちは、志崎に付いて行く。
この一週間、神隠しに似た事件は収まるどころか、証拠や原因なども一切分かっていなかった。だが相変わらず人は突然消え、目撃者も監視カメラも、その様子は、突然に瞬間移動したかの如く消えている。
志崎は、カバンから分厚いファイルを取り出す。
「この十字路で初めて人が消えている」
人が消えたという十字路は、よく住宅地にある信号がない小さな十字路で、周りには反射板付きのガードレール、カーブミラーが付いている。
「ちょうど、この中心で消えている」
志崎が皆にファイルの中の資料を見せる。
資料の中には被害者の顔写真と消えた推定時刻が記載されていた。
「望月兄妹。この辺の人払い頼めるか?」
「いいよ、兄貴は反対側ね」
夏は、一人で現場を離れていく。
「妹の頼みなら仕方がない」
冬は反対側に離れていく。
「綾香、この辺の妖精とかに情報を聞いてくれ」
「はい」
「で、色葉とケン太と一樹は、この辺の土地の情報を。そしてトキは……」
と一人取り残される。
仕方がない。この中では、残留を探すのは一番得意ではないのだから。
だが、正直不愉快な思いをしている。
別に一人取り残されることを不快に思っているわけではない。ただ、そこまで悩んで立場をあたえることに不愉快に思うのだ。
「消えた時の再現でもしてみるか……。トキ、中央に立ってみてくれないか?」
「わかりました」
私は、小さな十字路の中央に立ってみる。当然予想はしていたが、何も起こらない。
志崎が手を振る。
「おーい、なんか体調とかに変わりはないか?」
「いえ、特には」
私は周囲を見る。夕日の明かりが反射板に跳ね返っていて所々眩しい。二つのカーブミラーには自分の姿が交互に移る。
ミラーには、弱弱しく何を考えているのかわからない自分が立っていた。
「どう思う文子?」
「そうねぇ……。今のところは、なんも変哲がない十字路と言った所かしら?」
「ですよねー」
志崎は顎を摩る。
「志崎さん」
綾香が志崎に近寄って行く。
「シルフの子がその現場を見ていたらしいのですが、何かに引きずり込まれるように消えたと」
「ほうほう、なるほど、ありがとう綾香。色葉のサポートに回ってやってくれ」
色葉の名前が出たとたん綾香の顔が笑顔になる
「はい!」
と元気よく返事をすると色葉の手伝いにいった。
「トキ氏トキ氏、少し足元いいかな?」
下を向くと一樹がいた。
「はいよ」
私は少し立ち位置を変える。
「ありがとう」
一樹は手にしていた液体入りの試験管の蓋を開け、一滴だけ地面に垂らす。
しかし落ちた液体は、なにも変化しない。
「ん~なにも反応しないですな」
望月兄妹が帰ってくる。
「志崎さん、ついでに屋根の上から見てみたけど何もなかったよ。で、兄貴は?」
「我が妹と同じだ」
夏が冬に蹴りを入れる。
「ふが!?何をする我が妹よ!」
「変な呼び方すんな!」
突然、私の足元に痒みが出る。
「ん?」
足元には、色が付いていないネズミがウロチョロしていた。
「うぉ!」
よく見るとそこら中に同じネズミがうろついている。
「この辺も何もないか」
とケン太は、ネズミを頭と両肩に乗せながら歩いてきた。
「なんだ、ケン太のやつか」
ケン太が私の回りを見る。
「ごめんごめん。だけど結構な数にしても何も見つからん」
ケン太は、悩んだ顔をしながらスケッチブックを開ける
「ほれ、何匹が戻ってこい」
ネズミ達は、ケン太の命令に反応し、何匹かスケッチブックの中に戻っていく。
いつ見てもなんとも不思議な光景だ。
「それでマジシャンになったら凄く売れそうだね」
ケン太が苦笑いをする。
「それな、俺も一回考えたことがあるんだけど。こっぴどく、じぃちゃんに怒られたよ。あぁ恐ろしい」
色葉と綾香が帰ってくる。
「だめね、特に霊道とかではないみたい」
志崎はファイルから資料を出し見直す。
「ん~、一回吸ってきていい?」
佐藤文子が志崎の事を睨む。
「終わってから吸え」
「はい……。よーし次、行くぞ」
小さな十字路に始まり、マンションの玄関、橋の上、駐車場。今日限りで回れる所は、回ったが。分かったのは、綾香が聞いた『何かに引きずり込まれる』だけだった。
「これで、あちら側の世界のやつが原因とわかったが……。とりあえず今日は解散するか」
色葉は、現場をジッと見つめるが、息を漏らしてやめる。
「その方が良いかも。これ以上私でも分からないわ」
「じゃあ、解散解散。お金は、皆の所に振り込んでおくから、またよろしくね~」
志崎は、タバコを口にくわえる。
「バイナラ、ナライバ」
と佐藤文子と一緒に帰ってしまった。
私はふと気になって、色葉に話しかける。
「お嬢」
「何よトキ?」
「バイナラってなに?」
「知らないわよ」