序章~メルニアの森にサヨナラバイバイ~
始めまして、完熟ラーです。
少しでも面白いと思われる作品を書きたいと思います。
不定期更新になりますがよろしくお願いします。
天は唯試練を与えるのみ
神は唯裁きを下すのみ
魔王は唯恐怖を与えるのみ
我は唯希望を齎すのみ
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それは、虎のような獅子のような、得体の知れない咆哮を轟かせた。
全身は赤黒い皮膚で覆われ、血管が今にも破裂しそうなほど浮き出ていた。人のような形相をしているが、溢れ出るオーラは人が出せるようなものではなかった。
その姿形は見る者全てを畏怖させ、精神を狂わせる。現に今しがた初めてこれを見た新兵は、余りの恐怖に股間を濡らし、泡を噴いて倒れたばかりだった。
''一国の兵士が情けないものだ''
男は運ばれていく新兵を見遣り溜息を着いたが、自分も初めて見た時は同じような目にあったことを思い出す。
毎日ここに足を運んでいる男は魔王覇気を防ぐ魔法装備を着ている為かろうじて平静を保てているのだ。生身の人間が耐えれる筈がない。
「悪魔の調子はどうだね?ジュンナー所長」
不意に後ろから声を掛けられ、張り詰めていた緊張から勢い良く振り向いてしまう。
「これはこれは、フリップ陛下」
「はっはっはっ、おどろかせてすまないね。メルニア国のトップたるもの偶には私も足を運ばないとな。...............私の責任でもあるからな。」
「...............そうですか....」
ジュンナーは相槌を打つことしか出来なかった。
「全く、父上も厄介なものを遺してくれたものだ.......」
27年前、メルニア王国は隣国と大きな戦争をしていた。
絶対に負ける訳にはいかなかった先代国王は、禁忌とされる悪魔召喚を行ってしまった。
戦争奴隷300人を生贄に、上位の悪魔を召喚し、使役することに成功した。
悪魔は瞬く間に敵兵を蹂躙し、3年続いた戦争をメルニアの大勝利で収め、国に平和が戻った。
筈だったが
獲物に飢えた悪魔はメルニア兵に牙を向けた。
当然そのことは予期していた為、メルニア兵はすぐさま対魔結界を張ったのだが、敵兵の魂を喰らったことにより信じられないほど魔力量を高めた悪魔の力は軍部の想像を遥かに超えていた。
悪魔は遠征していた王を含めた前線の兵を文字通り全滅させた。対魔結界など無意味でしか無かった。
戦時中とは比較にならない数の死者を出した事態を重く見た政府は討伐隊を組み、勇者パーティが抑え込んでいる間に、ジュンナーが開発した『魔力霧散結鎖』で何とか捕縛に成功し、王城の地下で管理していると言うわけなのだが.......
「魔力結鎖は今の所問題なく発動できています。
..........しかし、年々効力は弱まっています。まだ10年程は大丈夫でしょうが、余り悠長にもしていられないというのが魔道学班の見解です」
フリップ王はそれを聞いて安堵と焦燥の綯い交ぜになった複雑な表情を見せる。
「そうか.......。万が一悪魔が解放された場合は、我が国だけで太刀打ちできるかのう.....」
「おそらく不可能でしょう。周辺諸国と連合軍を組んでも勝てるかどうか......。悪魔と渡り合えるのはそれこそ勇者か或いは.........」
「.........『精神語王』か......」
「....左様でございます」
繋がれている悪魔が一際大きな咆哮を放った。
王はその咆哮に身震いしながらその場を離れる。
「いづれにせよ存在しているかどうかも怪しい御伽噺に期待する訳にもいかんからな。着実に兵力は蓄えねばならんな」
それだけ言い残すとフリップはその場を後にした。
ジュンナーはそんな王の背中を悲しい顔で見つめていた。
''陛下にこれ以上心労をかける訳にはいかない''
そう心に誓いながら。
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『おーい!どこにいるんだよー?』
ふふっ、ここならしばらくは見つからないだろうな
『教えるわけないだろー』
かくれんぼで教えるわけないだろ
『どこいったんだよ、あいつ』
『しゃあねえ、奥の手使うべ』
奥の手ってなんだ?
疑問に思った瞬間
''ブラストウィンド''
「ブベラッッ!」
突然の強風に落葉ごと巻き上げられた俺は次の瞬間地面に叩きつけられた。
『あ、アモンみっけ』
『おいっ!かくれんぼで魔法使うのは反則だろっっ!!』
俺は立ち上がりながら魔法を放った方に怒鳴る。
おっと、自己紹介をしていなかったな。
俺の名前はアモン=リューラン
天涯孤独の15歳だ。
生まれてすぐに親に捨てられたらしく、物心ついた時から森で暮らしている。
『馬鹿野郎!戦いは常に真剣勝負だ!反則も糞もあるわけねぇだろ!』
さっきは森に住んでる魔物達とかくれんぼをしていたんだが、このふざけたことを宣う魔鳥のラッセルが放ったブラストウィンドのせいで見つかってしまった。唯の遊びで魔法使って言い訳ないだろ。許せん。
『まあまあ、でもレイだって消臭の魔法使ってたんだからお互い様じゃんサッ』
牙栗鼠のヒュエンが抗議をしてくる。
『お前ら鼻がいいから匂い消さねえとすぐ見つかっちまうんだよ!』
あたりまえだけど、今までの会話は全部念話だ。
魔物が喋れるわけないもんね!
ただ、何となく癖で声には出してしまうんだよなぁ。
そんなふうになんだかんだと騒いでいると、
『アモン 泉に来なさい 話があります』
と、俺の所に念話が届いた。
『やっべ、ママから集合かかっちった。てなワケで俺ちょっと行ってくるわ』
『リョーかいっ!終わったらまたあそぼーネ!』
俺は急いで泉に向かった。
泉に着くと、そこには大きなドラゴン
俺のママが待っていた。
森で捨てられていた俺を拾ってくれたドラゴンはこの森で今日までずっと育ててくれた大恩人だ。
「どうしたのママ。話って」
ドラゴンは普通に話せるので俺もそのまま話しかける。
「あなたはもう15歳になりましたね」
急に何の話だ?
「うん。この前15になったよ」
「人間の世界では、15歳は成人といい、独り立ちをするそうです」
「へー、そうなんだ」
なんだ?話が全く見えないぞ。
「なのであなたは、王都に出なさい」
・・・ふぁ?
「え?ちょっと待って?どういうこと?」
「この森を出て、1人で王都に暮らしなさいということです」
「いやそういう事じゃなくて!!なんで急にそんなこと言うんだよ!」
「実は、捨てられていたあなたを拾ったと言う話、あれは嘘です」
まさかの爆弾発言!!!?
「え、どういうこと!?」
「本当はあなたの両親に頼まれたのです。『しばらく子供を預かって欲しい』と」
「そ、そうなんだ。じゃあ俺の両親は今どこに?」
「残念ながらもう亡くなっています」
oh....マジスカ....
「じゃあ別に森を出る必要無くない?」
親がいないなら、尚更外に出る必要はない。
「私はあなたの両親にこうも言われました。『来るべき時が来たら、王都の士官学校に入れて欲しい』と」
何その急展開!?
「あなたはもう十分一人で生きて行けます。魔物と心を通わせるあなたの力を使えば、軍でもやっていけるでしょう。さあアモンよ。旅立ちの時です!」
そんなわけで、俺の王都での生活が始まったのだった。
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