「Fiction.3.9 愛称 初めて会った人が驚く瞬間ナンバーワンとツー……」
この話には不快に感じさせてしまう恐れのある表現が含まれています。
予めご了承ください。
『俺の名前はイトウ セイタロウです』
……って『女子高生』が言ったら……。
どうなるか? なんて分かりきってるだろ。
いつも俺と初めて会った人が驚く瞬間ナンバーワンとツーを争っているからな。
……俺が──親にキレた瞬間ではぶっっちぎりのナンバーワンだけど。
女性で俺と言っていることは。まあ、まだある方だと思うが。
……『セイタロウ』はねぇよ。
──でも、幼い頃の俺は。
なんらかの意味があってつけてくれたんだって。信じて。
思いきってなんで、この名前にしたか?
……って親に聞いたら。
「男の子が欲しかったけど、女の子で~。
『男の名前つけたら男になるんじゃね!?その発想、神じゃね!?』っていうノリからだよ~」
……ってアッハッハとか笑いながらいいやがったときはキ、レ……ッ! ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ……
……っ!
……ハァッ……ハァ。ヤベェ、危なかった……。
ダメだ、これ思い出しちゃ……。
怒りで頭に血が上って……ハァ……ハァ……。
何も考えられなくなって……。
意識が……飛んじまって……。
しかも、意識飛んだ後は……。
…………。
だから……そんな俺に。
『ハル』って愛称をつけてくれた大親友のレイカには感謝してる。
それまでずっと、
『よーーっwwwセwイwタwロwウw』とか。
『女性タロウ!』とか。
……囲んでバカにしてくるやつ。
『あっ……うん……』って同情するやつ。
……同情するやつはともかく。
バカにしてくるやつは意識飛んでなくても容赦なくボッコボコにしていた。
『イラつかせるやつはたたきのめす』
それがいつのまにか俺のルールとして定着していたからな……。
……それはまだアイツらが悪いから仕方がないにしても、俺は。
悪気がなくて、俺を名前で呼ぶ人に対しても。
その時のキレた瞬間のことを思いだして。
イライラがおさまらなくなって。
いつのまにか相手に暴力をふるっていた……。
……でも、そんな暴力的な俺でも。
レイカだけはいつのまにか一緒にいてくれていて……。
俺が力で解決しようとしたらレイカが止めてくれるようになっていた。
そして、そんな日が続いていたある日。
レイカは俺に『ハル』という愛称を考えてきてくれていた。
名前の由来までは聞いていないけど……。
おそらく、セイタロウの『晴』からとったんだと思ってる。
……それからは俺のことを本名で呼ぶやつは、ほぼいなくなり。
名前で呼ばれて、あの時のことを思いだし、いつのまにかボッコボコにしている。
──そんな自分が嫌になる毎日から解放された。
「……そうか」
……この反応は。女装趣味の男性と思われたか。
色々事情があるんだろうと深入りはしない……もしくは考えることを放棄したパターンだ。
また沈黙が続きそうになる前に続ける。
「俺の能──」
俺の能力について話そうとしたその時、何かの音が響く。
とっさに振り向くと、あの異物が、うなり声をあげていた。
……いや、あれは『犬』に……近いか?
今まではそれどころじゃなかったから分からなかったけど………『四本の足』『三本のしっぽ』『黒い……機械のような体』
『たいていの人は見ただけで怯えそうな姿』をしている。
やっぱり眠らせておくだけだとやば「大丈夫だよ。心配いらない」
(……よし。……そろそろやってみるか。ここでは相手に俺の心の声は聞こえない。違ったらまあ、俺が恥ずかしいだけで済むけど。もし、そうだったら……覚悟しとけよ謎男。
──『改心の構え』)
……それにしても。
このゲンさんって……よくみるとカッコイイよね。
バイオリンも上手だし……正直……ちょっと……っ。
ほれちゃ──「えー!そうか──
「やっぱ、テメェあの──オトコと同じタイプかァッ!」
「え!? 何の、はな──」
「……喰らえ──|『改心の一撃』【インベイジョン・オブ・ノゥト】ォォォ!!!!」
『言・分・O・聞・無』……。
──男は! ぶっ飛ばすッッ!!
ちょくちょくクスクス笑ってたりしたから……。
なんとなくはそうだろうなと思ってたけどなぁ……!
『改心の構え』
『改心の一撃』とはぁ!
異世界にいた時に教わった、『心を読まれているか確認するための方法』、『心を読まれていると分かった時の断罪方法』だ!
『改心の構え』、これは『心を読んでいるかどうかの確認』。
さっきみたいにとりあえず相手を『心の中で』褒める。(心にもなくても……な)
……褒め方は色々あるらしいけど。
ここで重要なのは『心の中』──つまり、『本心』から思っているように感じさせること。
そうすることで『心を読んでいるヤツ』を欺くことができる。
アイツらは『心の声』を信じきっている連中だから。
それはそれは効果的に決まる。……後はそれをバレないようにする。
『改心の一撃』、これはもう言うまでもないな。
『言い分を聞くつもりは無ぇ……!』という怒りを込めた一撃を放つ。
『言・分・O・聞・無』!
──技名は……気にすんな。
とにかく。こういう能力をもってるやつはたいてい──なやつだ。
……俺は心を読めるやつを他に知ってる。
例えば『──オトコ』──セカリだ。
一人でキシキシ笑ってる変なやつだと思ってたら。
あの──オトコには幻をみせる以外に心を読む力があって。
それをずっと隠したまま、俺やみんなの心の声を盗み聞きしては笑ってやがってたってわけ。
それがバレたのは、──オトコが離れている時にある女神に出会ったときだったか──
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「……あのコウモリはあなたの敵です」
「知ってます」
「え? そうですか。ということは心を読まれていることは既にご存知──」
「……あ?」
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
……この時だ。
そして、その後。『改心の構え』『改心の一撃』を教わり。
──オトコが戻ってきたら。
『──よくみるとカッコイイよね。それに……優しいし。もし……もし付き合うなら……こん──『えーー!?ほん──
これで──オトコが心を読む力があることが確定した後、どうなったかというと。
みんなで『改心の一撃』をぶちかました。
完っ全に自業自得だ。
俺だけならともかく。他のみんなの心の声を勝手に断りもなしに聞いてやがったから仕方ない。
──そういや、この時から──オトコって呼ぶようになったんだっけか……っと。これはどうでもいいな。
「て、感じだな。心の声聞こえてるんならこれで説明は十分だな?」
「いてて……さすがにひどくないかな……?」
「なにいってんだ。勝手に人の心の声聞いてるんだからプライバシーの侵害だし、これぐらいは当然だろ?」
「」
また黙っちまった……。
こういう時俺も心の声が聞けてたらお互い様で済むんだけどな……。
──そんな時。
[グォオォィィィィン!]
異物が目を覚ましていた。
……本当に大丈夫なんだろうな?
ゲン……さんに心の声でコンタクトをとる。
「大丈夫」
『……ギィィィイィ』と嫌な音をたてて。異物は背伸びをしている。
そして、そのまま辺り一面を見渡すと、異物は大きな口を音を響かせながら開き──
[ンーーー ヨクネテイタ ミタイデスネー……]
と一言、つぶ、やい……ん?……え?ええ?えええ!?
「「しゃべったァァァぁぁぁ!!??」」
2人揃って、驚いた……。
……ってか、驚かねぇわけねぇって!?
てか、なんでそんな、こどもっぽい声してんの!?
──ハッとして、ゲンさんのほうを向く。
……あー、ダメだ。『せいしんちょうりつ』の力なのかと思ったけど、違うっぽいな。顔固まってる。
[ナンダカ キモチノヨイ ユメヲミテイタ キガシマスー]
図体の割にはかわいい声してんなこいつ……。
[ハッ! ゴーシュジーン! イマイキマーーースッ!]
異物はそう叫ぶと『ガジャガジャガジャ』というよく分からない音を立てながら。走り去って……消えてしまった。
透明になる機能でもついてんのか?
どうすんだこれ……。
追い掛けるのは無理だ……もう姿みえねぇし。
そもそも、見えてたとしても。
今の俺が走ったところであの速さに追い付けるわけもねぇし……。
「そうだね……とりあえず君は安全なところへ。その感じだと力は使えないんだよね?」
──そう、異世界で発揮してたような力は使えない。
「……だよね。あのいきものなのかよくわからないのは僕に任せて。大丈夫だと思うけど、念のため追ってみる」
……俺は、何のために。ここに……帰って。
「……帰ってきた理由なら『この世界に大切な人がいるから』でも。『今から探す』でもいいと思うよ」
え……?
「理由なんて大したことじゃないよ。大事なのはこれから何をするか。今の自分ができることを探してみればいいよ」
……今の自分に。
「君とはまた近いうちに会うことになると思う。なぜだかそんな気がする」
っ! ゲンさん……。
「それじゃ──あ!?「捕獲完了」
……その瞬間。
ゲンさんの姿は消えて──代わりに。
虫とりカゴのようなものをぶら下げた小さな女の子がそこにいた。
(え……? 今……何が?)
なんてことを考えてる隙に。
「あなたも」
突然虫とり網のようなものが振り下ろされ。
俺の意識はとぎれた。