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「この話はフィクションってことで!」  作者: 成
再章 俺たちの旅はこれから……のはずが。
2/24

「Fiction.1 初戦」

あれ? でも何か他に忘れてる……ような……?


(……あ゛っ゛!?)


──(自主規制)オトコォォォォォ!!! ちょぉぉっっとま゛っっっ──!?」



──その瞬間。

 俺は巨大な黒い影とクラクションの音とともに吹き飛ばされ……自分の身に起きた出来事を一瞬で理解させられる。


 おい、嘘だろ……? 

 なんでこんなことに……!?


「つっ……!」


──『なぜ、こんなことになっているのか』


 疑問を抱きつつも俺は空中で態勢を立て直し、着地する。


 これくらいの衝撃なら……俺はあっち(異世界)で何度も経験したから慣れたもんだ。


 だが、あっちへ行くきっかけとなったトラックは……吹き飛ばされ炎上していた。


 そのトラックと俺を吹き飛ばした……うごめく黒い塊以外は。


 (隕……石じゃねぇよな……?)


 いきなりすぎて信じられねぇけど。 

 あれがヤバいものだってことは……分かる。


 少し、落ち着くために深呼吸したあと。


──真っ正面にいる『黒い塊』に目を向ける。


 黒い塊のような……そのデカブツは。

 ギシギシと音を立てながら姿を変えて──怪しく光る真っ赤な鋭い眼で俺を見つめる。


(──来る)

 

 すぐに戦いの火蓋が切って落とされることを感じ。

 ……全身の鳥肌が総毛立っていく。


 (ソロ戦闘か……準備──っ!?)

『BァォアoギャァァォァァァW!!』


 デカブツは叫び声のようなものを上げながら……既に俺に飛び掛かってきている。


 準備をする隙も与えてくれないデカブツに対し、とっさに手をかざす……。


──が。


「……っ!?」

 (魔効(ニューオリ)使えないんだっけか……っ!?)


「くっ……!」


 一瞬動揺してしまったけど。

 何とか……横転して回避することはできた。


 そして、俺が一旦息を整えている間に。

 デカブツはその勢いのまま……後ろにあった廃ビルに突っ込んでいく。


 ガラスが砕け散る音、建物が一気に崩れ去るような音が響いた……。


──その時だった。

 

「なんなんだよ……ぉ! 今……のぉ!」

「ひぃぃぃぃぃぃい!?」


 突然、悲鳴が聞こえ……俺はすぐさま後ろを振り返る。


 俺の後ろには交差点があり、その向こうには、何人か人がいた。


 ……そこで俺はようやくこのおかしな状況に気づく。


 そこにいるのは、俺のよく知っている『人』。

 獣人や竜人、人の姿をした魔物とかそういうのじゃなくて……。


──人だ。


 そういや、俺のいた世界……なんだよな? ……ここ?


 でも俺のいた世界は。

 こんなデカブツなんて存在しない、平和な世界のはずだ……。


 ……まさか、──(自主規制)オトコが間違えて……。

 

──いや、それはないな。 


 これはよく知っている風景だ。

 俺が学校に行くときによく使う道だから間違えるはずもない。


 何年か前に空き家になった廃ビル。

 異世界に行くきっかけになった交差点。


 交差点の向こう側には。

『おうだんするときはてをあげてわたろう!!』という看板のついた歩道橋。


 ……間違いなく俺のいた世界だ。


 どうやら、あの人たちは……。

 交差点の向こう側にいるから無事だったようだけど。

 

 もし、このデカブツ……。

 異世界にいてもおかしくないものってことで……。

異物(いぶつ)』でいいか。


 『異物』が向こう側の人達に襲い掛かるようなことがあったら……絶望的だ。


 ただ幸い。

 異物は勢いよく突っ込んだ先の廃ビルの一部が崩れ。

 下敷きになって身動きが取れなくなっている。


 まあ、あの感じだと。

 すぐに復帰しそうだけどな……。


 それでも、避難させるなら今のうちだ。


 俺は交差点の向こう側にいる人たちに向かって。

 ありっったけの声で叫ぶ。


「俺がここで引き付けるからー!みんなぁ!!早く逃げろー!!」


 これで……向こう側の人たちが襲われる可能性を減らす。

 あのデカブツが動けなくない間に逃げてくれさえすれば……。

 異世界でもらった俺の力、で……? 


 ……ん? 俺の力? あれ、使えな……?


 ……いや、ちょっと待てって!?

 こっちでも使えるって言ってたよな!? おい!?

 

 その時、一つの信じたくない考えが俺の脳裏をよぎる。


 まさか、使えないんじゃなくって。

 『使わせてもらえない』……のか? 

 

 え、この状況で……?

 

 そんな……嘘だろ……? 

 (すぐにカタをつけてやる)なんて感じてたのに……はは。


 あれ……? 体が、震え、て……?

 ……い、いや! 俺が……っ! 

 ここで……食い止め……ない……と。


──でも、どうやっ……て?


 う゛っ……!?

 

 なん……だ……? 目が……ぼや……けてきて。


 

 だ……んだん……頭……の中が……真っ……白に、なって……いっ……て。




 うご…………けな──


 



「何やってんだバカ野郎ーー!!お前も早く逃げろぉぉお!!」


 突如、頭の中に声が響く。耳がキーンとなる。


 その恩声(おんせい)は。

 俺の虚ろになっていた意識を引き戻してくれた。


 ……えっ……今のは?

 

 目の焦点が戻り、交差点の向こう側をみると。


 ヘルメットをかぶった……みるからに工事現場のおっさんが。

 メガホンを使って叫び返してきていた。


 そういわれて……はじめて気づく。


 ……そっか。俺も逃げないといけないんだ……。


 今の俺は残念ながら能力を使うことができない。

 装備品といえるようなものは……。


 横転した時に汚れちまった私服と。

 小物を入れたウエストポーチぐらいしかない。


 ……戦うための(すべ)がない。


 つまり──逃げるしかない。


「……クッ……ソォッ!」


 逃げなくてはいけない今の自分を情けなく感じながら。 

 俺はただ、自分のために。

 異物のいる廃ビルから背を向け、走る。


 『恐怖』によるものか、『悔しさ』によるものなのかは分から……ないけど……。

 俺の目から涙がこぼれ落ちていく。


 (俺は……何のために、ここへ……っ……!!)


 ただただ、無力感に包まれて……走っていた。


──その時。


「……!?」

 炎上しているトラックの中に動く人影が見えた。


 ……今逃げだせば助かる。

 それに……人影なんて気のせいかもしれない。

 でも! もし、まだ無事なんだとしたら!


──なんて、考える必要なんてない。

 それに、これは能力が使えない今の自分でも……。

 いや、今あのトラックの近くにいるのは俺一人だけ。


 『俺にしかできないこと』なんだ……!


 あっち(異世界)でもそれを貫いてきた。

 今さら『自分だけが』なんて考えは……っ!


──俺がそう決意しているうちに涙は振るわれ。

  体は既に動いていた。


 見る見るうちに、トラックとの距離を詰め。

 炎の熱さを我慢しながら。

 トラックの中にいる人影に手を差しのべて。


「大丈夫ですか!?」

 必死になって中の人の手を掴む。


──と同時に。

  ……体が急に動けなくなるほどの衝撃音が後ろで響く。


「や……ばい」

 かろうじて振り返った時には……。

 異物は既に何か叫びながら高速で飛びかかってきていた。


 まさに──

「『絶体絶命』……ですよね?」

「え?」


 その瞬間──俺が掴んでいた手は……いや、体自体が。

 トラックから飛び出した人影に思いっきり……。

 どういうわけか逆に引っ張られてしまって。 


「どうやら、大丈夫じゃないのはそっちみたいですね……。

 いくよ。   ……」

 そんな落ち着いた男性の声が聞こえたと思ったら。 


──突如、空間が裂かれたような音がして。

 いつの間にか異物は後ろの廃ビルへと吹き飛ばされていて……。


『グァcダアaァアマiァァドォn……』

 異物はよくわからない雄叫びをあげながらも。

 一瞬立ち上がったかと思ったら……。 


 すぐに『ドズン……』と地面が響くほどの大きな音をたて。


──倒れこんでしまった。


 ……正直いって。さ──「『さっぱり何が起こったのか分からない』でしょう?


 そうだ。もし、何かできるとしたら──


「まあ、一般の方はそちらの。

 少し心地は悪いかもしれませんが、『おせき』についてお待ちください……」


 …………。

 

 謎の男は『決まった……!オレ、カッコいい……!』って感じの声と手振りで。

 異物が突っ込んできたときに吹っ飛ばされてきたのだろう……。

 崩れたガレキへ俺を案内した。


 正直(何言ってんだ?こいつ……)と、とまどいつつも。

 今は何もできそうにない自分に。

 若干いらだちつつ渋々従った。


──そんな、今の俺の姿は。

 まさにヒーローか何かに助けられる『一般人』とでもいったところか?


 そんなヒーローの見た目の特徴と言えば……。

 装飾が少しついているくらいの地味な服装と。

 ちょっと耳が長いくらいのよくも悪くも普通の人って感じか。


 その中でも一番わけわかんねぇところは……。

 持ってるのが『バイオリン』だけってことだ。


 あれだけでいったいどうやって……。

 あのデカ異物をぶっ飛ばしたっていうんだ……?


 不可思議な状況に疑問を感じつつも。

 俺が『おせき』に着いたことを謎の男は確認すると。


──くすりと笑い。


『着いて』は『座って』って意味だったんだけどなぁ……。 


 とか。にやけながら小声で言ってやがるけど……。

 こんな状況で座ってのんきに見物できるわけねぇだろ……?


 全体的な印象として『なにいってんだコイツ』以外感じられなくなるやつは初めてだな……。

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