7 ギリギリマニア
自粛生活は、息苦しいと思いますが、なんとか、工夫して、少しでも快適な環境にしていければと思って書いています。
また、新型ウィルスの影響による経済のダメージや、感染者増加による医療崩壊も心配です。
新型ウィルスの問題が、日本でも深刻化してきていますが、まだまだ、やれること、発想する余地はあると思います。
やり方次第でよりよい方に向かうことはできると思うので、この作品が、よりよい方に向かうための工夫に、少しでも役立てば……。
よければ、この作品を読んでいただきたいと思います。
ユーリ「ほら、ウィルス検査で新型ウィルスに感染したことが判明して、たぶん自暴自棄になったんだろうけど、『まき散らし行動』みたいなことしちゃった人、いたけど。ああいうことしちゃう心理ってバカにならないっていうか、あり得ないことって思うのは危険っていうか……」
天平「そだなぁ。行動的にはカミカシイっぽいけど、それとは違う……『死なばもろとも系』っつーか?」
ユーリ「ホント、自暴自棄ってことなんだろうけど……。さっきのゾンビの話でいくと、ウィルス検査の結果が、『もうすぐあなたはゾンビになります』って宣告受けたみたいな衝撃だったんだろうな、っていうか……? 想像でしかないけど」
天平「『受け入れられない理不尽』みたいなのに対するやり場のない怒りみたいな、絶望みたいなの、オレもわからんではないとこではあるから……。自暴自棄になって、人に迷惑かける行動とってしまう人を、『この人何してんの⁈』って非難するのはカンタンだけど。実は、追い詰められた人は同じようなことやりかねない危険性、誰でも持ってるって、オレも思うよ?」
ユーリ「だから、もしも自粛生活した方がいい状況が長引いたら、経営の苦しくなったお店の人が自分の店や周囲の店を壊して回ったりとか……それか、自粛生活がつらくなった人たちが、『もうこんな息の詰まる生活やってらんない!』って爆発して、ふつうの生活しようと、無防備にお店に集まって、隣の席の人とわいわいお酒酌み交わしながらごはん食べたりして、そこで感染が拡大する、とか……。そこまでのことは起きないかもしれないけど、なんか、怖いよね、早く終息してくれないと」
天平「確かに、その辺、怖いとこだよな? 自粛生活が続くと、メンタルやられそうってことだろ? いつになったらなんとかなるのか、この苦境を脱することができるのか、いつか救われるのか? みたいな、大丈夫なのか大丈夫じゃないのかハッキリしない状態が続くのは、マジで心を圧し潰すからな。心が折れたらそれまでだと思うし」
ユーリ「かと言って、心を落ち着けるためにふつうの暮らしをしようとすると、新型ウィルスの感染を拡大させてしまうかもしれないから――」
天平「ほら、感染を防ぐ、それってつまり、新型ウィルスを避ける、ってことで、災害時の避難とかと同じようなとこあるんじゃないか? って話してただろ?」
ユーリ「うん?」
天平「災害時の避難のときの避難所や仮設住宅での生活考えると……家が壊れたり、物理的な理由で避難生活が長期に渡ってしまってる人いるけど――っつか、今も避難所や仮設住宅で暮らしてる人、いるよな? 避難生活してるのに、さらに新型ウィルスの感染問題まで抱えたら、そうとう不安だよな……」
ユーリ「そうだね、避難生活って……。新型ウィルスは目に見えないからどこにどう感染の危険があるかわからないけど、家の中にいるってだけで、安心感持てる、っていうか。自分の家があると、家の中ってやっぱり、安心感あるもんね?」
天平「そういう不安を支えるのは、やっぱ、周囲の人の心遣いなんだろうな、って、大人たち見てて思うけど――。とにかく、避難生活って、すぐに通常の生活に戻れる人はいいけど、長引く人もいるわけで」
ユーリ「うん」
天平「けど、長期の避難生活っていうのも、生活の支援や、復興するための支援とか、生活環境とかそういうの、災害が起きるたびに、大人の人たちが考えて考えて実践して少しずつ過ごしやすく、よくなってきてると思うんだよな? オレは避難生活の経験ないから、実際の実態はよくわかってないし、まだまだ厳しい問題がたくさんあるんだろうけど――」
ユーリ「避難所の生活の工夫とか被災した人たちや支援している人たちの活動とか、テレビとかでいろいろ取り上げてあったりするよね? ホント、しんどい思いいっぱいされてあると思うけど、前向きな姿をいっぱい見せてもらって、なんていうか、ありがたいな、って思う」
天平「だから――っていうのもヘンかもしれないけど――感染避け生活? っていうのも、感染を上手に避けながら快適に生活できるように、感染避け生活をよりよく回していけるように、工夫していかなくちゃいけないんじゃないか?」
ユーリ「大人たちが、避難生活をよくする支援をしてきたみたいに?」
天平「みたいに。――なんつーか、『ここがゴールです、ここまで走り抜けば後は元の生活できますよ』っていうのが、今現在、ハッキリ見えてるとは思えないから。感染避け生活、長期戦に備えることも考えておいた方がいいかも? って」
ユーリ「今の自粛生活って、なまじ、身体が元気で、危なさを感じられないから、感染避けしなきゃいけないっていうのが実感できないせいで、どんどんしんどくなるかもね……?」
天平「アレだな、危険が目に見えないから感染避けしないとしたら、それって、大雨が降るって言われてたのに、天気がいいからなんとかなるだろ、で旅行に出かけちゃって、天気予報で注意喚起されてたように、ゲリラ豪雨に襲われて、雨で車が動かなくなってしまって、どうしようって大慌てする、みたいな?」
ユーリ「んん? なんかそういうのなかった……?」
天平「ん? なんか……あ。台風? どこだっけ? 九州のどこかじゃなかった? 台風が来るから川とか海沿いとかには近づかないでください、ってテレビとかで言われてたのに、渓谷にキャンプに行って、川が増水して車が水没しちゃってレスキューに助けてもらった、っていうの、あったよな?」
ユーリ「あったね? 確か、全員無事に救助されたんじゃなかった?」
天平「そのときのでは無事救出されてたよな」
ユーリ「ただ、『台風来るから危険だって言われてたんだから、もし無事じゃなかったとしても自業自得だ』みたく突き放す反応が大多数だったような……?」
天平「けど、アレって、実際に救助が必要な状態になってレスキューされたから事件としてニュースになってたけど、台風が来るっていう中で、自粛できるのに自粛せずに旅行したり、遊びに出かけたりした人って、日本全国、結構いるんじゃないかと思うけど? 台風が逸れたり、勢力が弱かったりで、たまたま無事に済んだだけって人」
ユーリ「そうだね、いるよね、きっと。――だから、そういう事件を知ったら、自分が同じ状況に置かれたら旅行を取りやめるって判断しなきゃいけないな、って、自分の行動に反映させなきゃいけないよね。そしてそれって、新型ウィルスに関してもそうで。旅行する予定があっても取りやめるとか、そういうの、大事だよね……」
天平「今って、日本も他の国も、コロナ旋風っていう見えない台風に、いつどこで襲われるかわかりませんよ、っていう予報が出てる状況って言えるもんな?」
ユーリ「そうだねぇ……。でも、そう考えると、ホントに難しい問題かもしれないよね? ほら、テレビやラジオとかで、台風が来るので気をつけてくださいとか、大雨が降るので気をつけてくださいとか、注意を促したり、市役所の広報車が避難所の開設を知らせて回ったりしても、自分たちは大丈夫だからいいよ、って避難しないでいて、土砂崩れに遭った人たちもいるよね?」
天平「『これまで大丈夫だったから、今度も大丈夫、うちは大丈夫』ってヤツだろ? それも、実際に被害が出たから、避難しておけばよかったんだ、ってなるけど。被害が出ないうちは、『ほら、やっぱり大丈夫だったじゃないか』なんだよな……」
ユーリ「それまで大丈夫でも、『大丈夫かな?』って疑ってかかることが大事だよね。だから、新型ウィルスも、『自分は感染していないし、これからも感染しない』って思わないようにしないと」
天平「――災害時に、『自分のとこは大丈夫だろう』って言ってなかなか避難しないのは、名づけて『大丈夫なことにしたい症候群』、だったりするかも? って思うこともある。言霊の行動バージョンっていうか」
ユーリ「『言霊』って、言葉には魂が宿るってヤツだよね? 例えば、悪いことを言ったら、その悪い言葉が悪いことを引き寄せて悪いことが起きるから、悪いことは言わないようにした方がいい、とか、そういうの」
天平「それの行動版でさ、もしも避難したら、避難するってことは、ここに災いが起きると認めることになる気がするっていうか。逆に、自分たちがここを動きさえしなければ、災いの方が避けていって、家が土砂崩れに潰されたりすることはない、みたく思えてしまったりするのかもしれない、っていうか?」
ユーリ「ああ……。その感覚は、わからなくもないかも? うん。逃げたら、逃げたことで、災害を呼び込みそうな気はするかもね? 実際はそういうの関係なく、地理的な問題とかで災害に遭うんだけど」
天平「そういうカンジで、新型ウィルスに関しても、新型ウィルスが存在していないようにふるまっていれば、新型ウィルスの存在がこの世から無くなりそうな気がする、っていうか……そういうことにしてしまいたくなる人、いるかもしれなくない?」
ユーリ「けどそれじゃ、『自分のとこは大丈夫』って避難しないでいて土砂崩れに襲われることがあるみたいに、『自分は大丈夫』って感染避けしないでいていつの間にか感染してしまったり、そこからさらに、今度は自分が人に――家族や友人やどこかの誰かに――感染させてしまったりしてしまうかもしれないよね?」
天平「――オレは『言霊』っていうのは、在ると思ってるけど。神頼みと一緒で、『頼るもの』じゃなくて、『心がけるもの』だと思うんだ」
ユーリ「それって……神様に丸投げするんじゃなくて、『人事を尽くして天命を待つ』っていうか、その入れ替えで、『天命を待つためには人事を尽くす』ってカンジ? 神様のご加護を得るためには、何より、自分がせいいっぱい自分にできることをやらないと、みたいな?」
天平「だろ? 災害のときも、今みたいなウィルスの感染拡大危険のときも。神様や言霊とか霊的な何かに任せてしまって、何をすべきか、どういう行動をとればいいか、自分自身でしっかり考えて行動を取らないでいたら、命を守れないのかな、って思う」
ユーリ「さっきの、渓谷にキャンプに行ってレスキューされた人たちも、無事だったからよかったけど、考えて行動しないと、いつでもちゃんと助けが来て、助けてもらえるとは限らないよね……」
天平「ソレ……実際に助からなかったケース、ある」
ユーリ「え?」
天平「ネットで見つけたんだ。確か二十世紀の話なんだけど――」
ユーリ「え? 二十世紀?」
天平「っつっても、今から二十年くらい前の話なんだけど。オレらみたいな子供も含めた二十人くらいのグループで川の中洲でキャンプしてて、けど、川の上流で大雨が降って、ダムが決壊しそうだから、ダムの水を放流して水嵩を減らさなきゃいけないってなったんで、キャンプしている人に、逃げるように言ったけど、避難しなくて」
ユーリ「え? なんで? マジで?」
天平「『マジで?』はココからでさ? 逃げるように言われて逃げた人もいるけど、ほとんどの人が逃げなかったらしいんだ。ダムの人とか警察の人とか、先に避難した人とか地元の人とかが、何度も逃げるように言ったらしいんだけど」
ユーリ「……それでも逃げなかったわけ?」
天平「ダムの放流をするんだか、したんだかで、とにかく、警察官とかが何度も退避するように呼びかけたけど、大人はお酒も飲んでいたのかな? かなり態度が悪かったみたいで。避難したがってた子供もいたみたいだけど大人たちが避難しようとしなくて、そしたら川の水がどんどん増水して、これはさすがにヤバイ! って急いで逃げようとしたときにはもう、水位が上がって簡単には逃げられない状態で。しかも、助けようにも救助する人が増水した川の急流に流されてしまいかねないしで、救助しようにもできなくて」
ユーリ「……それで?」
天平「それで……全員じゃないけど、半数くらいの人が流されて亡くなられてしまったらしくて」
ユーリ「……え? ……え? ……え?」
天平「しかも、そのときの様子、テレビで中継されてたらしいんだ。何度も退避するように言ってたのに退避しないっていうんで、そのことを知ったマスコミが取材に行ってその様子を取材できたくらい、逃げられる時間はあったのに、逃げなくて、なのに、川の水位がどんどん上がっていくと、中洲にいた人たち、パニック起こして『早く助けろ!』ってレスキュー隊の人たちにあわてて助けを求めたらしくて」
ユーリ「……それはまた……」
天平「なんか、『いかにも人間!』ってカンジだろ?」
ユーリ「……うん。まあ、人間のやることだな、とは思うけど。けど、やっぱり異常なんじゃないかな?」
天平「まあな」
ユーリ「いつでも行ける家の近くの動物園や遊園地に行くのを、雨が降ってるからやめておこう、っていうのは決断できると思うけど、これが、千葉のテーマパークに行こうとしてホテルとかも予約してたのに、台風が来るからやめなきゃいけないんじゃないか、っていう決断は難しいと思うから、台風が来てても、前から計画して予定していたキャンプを取りやめにできずに、ついつい、行っちゃう、ってなっちゃっても、それはそれでわからないでもないんだ。それだって、台風来てるときに川の中州にキャンプっていうのは無いと思うけど。――だけど、いくらなんでも、ダムの放流があるってなって、退避しろってなってるのに避難しないのは、やっぱり異常だよ?」
天平「それが異常じゃないとは言わないよ。オレが言いたいのは、異常かどうかじゃなくて、起こり得るかどうか、やってしまい得るかどうかの話」
ユーリ「起こり得るかどうか、か――」
天平「さっきの川の中洲に取り残された人たちの件では実際に何人もの人が亡くなってるから、当時、大事件として扱われてたみたいで、ネットではやっぱいろいろ言われてるし、ホント、やっちゃいけないことだと思うし、中洲に残った人たちをバカにするのはカンタンだけど。――ここまでのことじゃなくても、こういうことやる人、やってる人、オレ、いると思う」
ユーリ「まあ、いろいろ言われるのは言われるだろうね? けどそれ……んん……?」
天平「例えばさ、電車が通っているのを見たことのない線路があったとして。川の中洲から動こうとしなかった人たちって、その線路の上でピクニックやってたら、列車が走って来て、列車の姿を見て急いで逃げようとしたけど間に合わずに逃げ遅れた、みたいなことだろ? 『臨時列車を緊急に走らせることになった。その列車が走り出してもうすぐここ通るから逃げろ』って知らせに来てくれた人がいても、鼻っから廃線だと思いこんでいたら、『何言ってんだ、コイツ』みたいになってしまうもんなんかもな? って思う」
ユーリ「それは……まあ、もしホントの廃線であったとしても、線路の上でピクニックはしないようにするとこだと思うけど……本当に廃線だと信じてたら、安心して、『危険だから退け』って誰かに言われても、線路の上を退こうとはしないかも……んん? 退かないかな……?」
天平「んーとな? そだな……。前にテレビでやってたのは、阪神や淡路の震災のもっと前の、伊勢湾台風っていうの」
ユーリ「知ってる。いつだったか、昭和の大きな災害ってことで、伊勢湾台風のことも紹介されてた。超大型の台風で、津波――じゃない、台風のときは高潮っていうから――高潮が起きて、漁村が大波に襲われて海に浸かったり……大きな被害が出たんだよね?」
天平「その台風、実は気象予報やってた人が、これまでにないクラスの相当ヤバい台風が来るって予測して、事前に、自治体に住民を避難させるよう訴えたり、台風に襲われそうな地域の家一軒一軒に電話したりして、できる限り避難を呼びかけたらしいんだけど、『何言ってるんだ、コイツ』ってカンジで、誰も取り合ってくれなかったらしくて」
ユーリ「……そっか。災害って、実際に起きるまで、こんなに大きな被害が出るとは思いもしなかった、ってことはあるから……。当時の人からすると、台風で大きな被害が出るなんて聞かされても、笑い話だったのかも……?」
天平「『隕石が落ちてきますよ』って言われてるくらい、あり得ないカンジだったかもな? もしも、当時、そのときの気象予報した人と同じレベルで台風に危機感を持つことができた人たちがもっといたら、たくさんの人の命を救うことができていたんだろうけど」
ユーリ「――僕たちだって、これから日本全国どこででも大規模な地震が起こり得るって言われてるのに、自分のいるところに地震が起きると思っているかっていうと、そうでもないっていうか。防災への備えをしていないわけじゃないけど、危機感を持ってるわけじゃない……」
天平「自治体とか政府とか専門機関とかから、『明日、小牟田に大雨が降るので、今のうちに早く逃げてください』って言われても、『すぐに逃げなきゃ!』とはいかないだろ? どうやらこれは本当に避難しなきゃいけないような規模の大雨が降るみたいだからとにかくすぐに逃げなきゃいけないみたいだ、って、自分自身が信じるだけの何かがあって、はじめて『ヤバい! 逃げなきゃ!』ってなるから。――けど、そうなってから逃げようとしても、そんときには車が渋滞して逃げられなくなってたりするかもしれないし」
ユーリ「……そう言えば、前から気になってたんだけど。台風が来てて波も荒れてるのに、海沿いを通ってる車を見ることあるよね? テレビのニュースとかで」
天平「避難中なのかもしれないけど、海沿いはちょっとな……?」
ユーリ「後は、台風が来てるときに、敢えて海に釣りに行く人とかいない? 釣りに行ってるわけじゃないのかな? ニュースでそういう話が出ることない?」
天平「あるある。なんなんだろ? 台風のときに釣れやすい魚がいるとか? だとしてもやっちゃダメってヤツだろ?」
ユーリ「漁師さんで船を持ってて、海や川に繋いでいる船が台風で流されてないか様子が気になって見に行ってしまう、とかはわかるけど。――それだって、わかるけどやっちゃダメなことだけど」
天平「一番ダメなの、台風で荒れてる様子を撮影するために、海に近づいたり、増水の様子を撮影するために川に近づいたりする一般人じゃないか? たまに、ニュースに使われてる一般人からもらった映像で『コレ、撮影しに近づいて撮った映像じゃないか?』っていうのあったりするよな?」
ユーリ「たまたま撮れたとか、安全な場所で撮影したとは思えないような映像だろう? たまに『ん?』って、気になることあるよね?」
天平「敢えて撮影に行ってるとしたら、無事に済んでるうちはいいけど、もし危険な状態に陥ったら、その人を救助に行く人が危険な目に遭うことになるかもしれないし、下手をすれば、救助に行った人が命を落とすかもしれない。自分一人の問題じゃないから、ホントやっちゃダメだけど――やってる人、いるんじゃないか?」
ユーリ「いそうだなぁ。……そういう人って、きっと、『危険だよ』って言われてても、他人事としてしかとらえてなくて、自分が危険な目に遭うって思えないんだよね? ――それはどうすればいいんだろう?」
天平「他人事感覚? 危険に疎いっつーか、危険に対する意識の低さ? 危険を察知するアンテナの感度の悪さ、みたいなもの? そういうのがあるんだろうな? とは思うよ?」
ユーリ「危険があるって言われても、事態を軽く考えてしまう、ってことなのかな? 危機管理意識? が低い……?」
天平「んー。というより、そもそも、まじめに考えたくないのかもな? さっきの『大丈夫だと思いたい症候群』とは違って、大丈夫だと信じたいっていうんじゃなくて、自分に都合よく物事を見ていきたい、というか、『考える』という作業を放棄したい、というか――根っこはカミカシイ感じるけど」
ユーリ「……そうだね。危険かどうかホントのところどんなものかは関係なく、他の人はダメでも自分は大丈夫、みたいな優越意識信じていたいだけかも……? ホントのところどんなものかは関係ないから、危険かどうか考えないのかも……?」
天平「『考える』という作業を放棄したいパターンとしては他に、『危険があるみたいだけどそれに対してどう対処していいかわからないから、危険から目をそらす』っていうヤツもあると思うわ」
ユーリ「それは、イヤなことは考えたくない、ってカンジだよね?」
天平「さっくり言うとな? これの根っこにあるのは『能力がない問題』だと思うけど」
ユーリ「……どう対処していいか考えてもわからないから不安になって、それで、考えることそのものを放棄したくなってしまう? 要するに、現実逃避ってことかな?」
天平「ってカンジ? これの厄介なのは、やろうと思ったら結構できちゃいそうなとこじゃないかと思うんだよな?」
ユーリ「ん? やろうと思ったら? できる?」
天平「例えばさ、テレビを点けない。テレビを点けなかったら、テレビで『台風来てるから気をつけて』ってどれだけ訴えても、その訴えは届かないだろ?」
ユーリ「そうか。今って、そこここに情報があふれてて、いろんな知識や情報をゲットしようと思ったら、割と簡単に入手できる環境ではあるけど。逆に、情報をシャットアウトしようと思ったら、それなりにシャットアウトできてしまう――」
天平「テレビ点けない、ネットは見たいものだけ見る。スマホでネットニュースのトピックスが自動的に表示されるようになっていても、そんなのスルーすればそこまで。情報の方から追っかけてくるってこと、なかなかないだろ?」
ユーリ「そうだね……」
天平「目をそらそうと思えばそらすことができるから、考えたくないことがあったら、考えない、っていう人、結構いると思うんだよな?」
ユーリ「……かもね? 問題は、個人的なことならまだしも、イヤなことから目をそらすことで他の人を危険にさらすようなことになったら……ダメだよね?」
天平「ダメだろ?」
ユーリ「イヤなことから目をそらすことで、情報に疎くなってしまって、逃げなきゃいけない場面で逃げ遅れるとか? 逃げ遅れた人を助けようとした人が危険にさらされる、みたいなことになりかねないよね?」
天平「人って、一人で生きてるわけじゃないからな? 人は人のこと考えて行動決めなきゃいけないけど、それができる人ばっかりじゃないんだろうな? オレだってちゃんとできてるわけじゃないし」
ユーリ「んー。僕は、漠然とだけど、誰もがみんな、あたり前に、人も自分も危険な目に遭わないようにしようとしているものだと思っていたけど、意外とそうでもないのかもね?」
天平「だからさ、いま話してたような心理が新型ウィルスに対しても働くと、すごく危険だと思う」
ユーリ「あ。そうだった。新型ウィルスの話だった」
天平「新型ウィルスの問題も、中洲で退避しなかった人たちみたいに、危険だって言われてても、『知ったことか!』『オレには関係ない』『誰がそんなもんにかかるか』『どこにそんなウィルスあるんだよ』『うるせぇな!』って鼻で笑うとか。そうやって危険を避けようとしないでいて、いざ自分の身が危険になったら、『早く助けろ!』みたくなる人、出て来そうでさ? そういうの、怖いな、って思う」
ユーリ「……そうだね、『バカにするのはカンタンだけど』って思うようなことをやってしまう人、出て来るかもね? 『人間』だから。『人間』だから、『人間』って、そうなっちゃうかもしれない……?」
天平「自粛生活続いていくと、いろんな危険な人が出て来そうかな? って。中でも、オレが心配なのは――『ギリギリマニア』」
ユーリ「ギリギリマニアって、前、なんかのときに言ってたよね? 確か、チキンレース的なことを好むっていうか……?」
天平「『マニア』って単語はピシャっと合ってないかもしれないけど――好き好んでやるカンジ? わざと危ないことをやって、『でも、ほら、オレはダイジョーブ!』みたいなのやって調子に乗りたがる、っつーか?」
ユーリ「……例えば?」
天平「例えば――さっきの台風んときに釣りに行く人とか、ギリギリマニアな人だったりするかも?」
ユーリ「台風のときに釣りに行く……」
ユーリ「他で考えると――車の運転だと、カーブを曲がるときってブレーキ踏んでスピードゆるめないとぐんって遠心力で振られちゃって、下手するとスピンしたりしかねないんだよ。F1とかだと、なるべく減速しないでコーナー曲がろうとして曲がり切れずにクラッシュとかしちゃったりするんだけど、それはF1だからの話で。ふつうの人がふつうの道でふつうにカーブ曲がるときはちゃんと減速するもんなんだけど、そこをあんまり減速しないでビューンって曲がろうとする人とか,、ギリギリマニア」
ユーリ「んー。ホントはちゃんと減速しなきゃいけないのに、減速しないで曲がれるかにチャレンジしちゃう?」
天平「そ。減速せずに曲がれるかどうかにチャレンジ――っつーか、勝負、を仕掛ける、みたいな? 誰もやれって言ってないのに勝手に自分の中で勝負事にしちゃって、敢えてやる、みたいなカンジ? しかも、危険なこと、下手すれば危ない目にあう、みたいなギリギリんとこを、わざわざやる。要は『要らんことしい』な『にやがり屋』のことなんだけど」
ユーリ「『にやがる』って、『調子に乗る』とか『悪ふざけする』とか、そういう意味の方言だよね?」
天平「そだよ。にやがる。――ギリギリマニアは、要は、『にやがりモン』のことなんだよ」
ユーリ「にやがりモンか……。にやがりモンって、ものすごい極悪人ではないけどめんどくさいカンジ? なんか、そういうイメージだなぁ……?」
天平「ほら、安全マージン! 安全に物事を行えるようにちょっと余裕を持って行動するときの、その余裕のことを、確か『安全マージン』っていうんだけど」
ユーリ「さっきの車の話で行くと、カーブ曲がるとき、スピード速いと曲がり損ねたり、コントロール失うことがあって危険だから、危険を減らすために減速するってことだけど。その、スピードを減らす度合いが、安全マージン?」
天平「そゆコト。安全を考慮して運転すればいい、つまり、ちゃんと安全マージンをとりながら運転すればいいのに、わざとスピードを緩めずに、危険な曲がり方でカーブを曲がる。スピードが出過ぎてて曲がり損ねたら、道路わきの電柱にぶつかったり、道沿いの店に突っこんだり、あるいは、対向車に衝突したりするかもしれない」
ユーリ「危険だよね、それは。下手をしたら死んじゃうよ?」
天平「そんなバカなことする人いるわけないだろ、って思うかもしれないけど――いるらしいんだよ、コレが」
ユーリ「……それって、何が楽しいの?」
天平「ま、楽しさに関しては、カミカシイの変種なんじゃないかと思うけど。要するに、曲がれなさそうでギリギリ曲がれてるオレ、スゲェだろ! みたいな?」
ユーリ「……ああ。そういう……」
天平「しかも、ギリギリマニアの人って、自分一人のときにそういうことするっつーより、同乗者がいて、『やめてよ、危ないから!』とかギャーギャー騒いだりすると、余計に調子に乗って『ほらほら、もっとグイッと曲がっちゃうよん』っつってもっとスピードのある状態でカーブ曲がったり、みたいなことやらかすらしいんだよな、コレが」
ユーリ「……なんか、わかってきたかも?」
天平「女子が『やめなさいよ』とか言うことを、『やめなさいよ』って言われれば言われるほど、男子が悪ノリしてやりたがるカンジ? そういうの」
ユーリ「うんうん」
天平「『お前、ビビッてんのかよ、ダッセェなぁ!』とか『なぁにマジメぶってんだよ、このくらい平気だって!』とか言って、やらない方がいいことを敢えてやる。ハッキリ言って、そんなことやってるお前の方がダサいんだよ、な人」
ユーリ「なるほど。いるよね? そういうタイプ」
天平「ただ、こういうのも、たいていはちょっとしたおふざけや、悪ふざけ、ってカンジですむと思うんだけど。中にはシャレにならないレベルで『やらかし』ちゃう人がいたりするわけで――」
ユーリ「さっきの、カーブをわざと速いスピードで曲がるのなんかは、曲がり損ねたときに、運転手や同乗者の命に関わるし、もしも歩道に子供がいてその子供をはねてしまったら、最悪だよね? 周囲の人を巻きこむかもしれない危険な運転なのに、ちょっとふざけただけです、じゃ済まないよ」
天平「と思うから、ふつうは安全マージンをちゃんととるもんなんだって。けど、ギリギリマニアには、自分が助からないっていう未来予想図はないわけ。あくまで助かる前提でギリギリを攻めたがる」
ユーリ「けど、ギリギリを攻めてたら、ギリギリアウトになることだってあり得るだろうに」
天平「ギリギリを攻めるのは、あくまで、ギリギリ助かる、っていうところがいいわけで。だから、絶対に助からない、みたいなのには手を出さないし。ギリギリ『行ける、勝てる!』くらいを狙うわけなんだけど、そこに踏み込めるのは、たぶん、『自分は大丈夫、おかしなことにはならない、っていう、わけのわからん、どっから湧いてくるんだ? っつー自信』を持ってるから、なんだと思うんだけど……?」
ユーリ「……それって、自信があるからやるわけ? やりたいから自信が湧いてくるのかな? ――あ。というか、その辺がカミカシイなんだ?」
天平「ヤバいことギリギリ回避したときの『自分スゴイ感』みたいなのにハマっちゃって、ギリギリ助かるために、むしろ、ダメになるまでギリギリを攻め続ける、みたいな――中毒系? なんだと思うんだけど」
ユーリ「それはまた――おかしなとこにハマるね」
天平「中毒系、っつか、依存系は、なんでもだいたい『なんでそんなことにハマってんの⁈』っていうとこにハマるだろ。そんで、抜け出せない」
ユーリ「抜け出せないくらいハマることを『依存』って言うんだもんね……」
天平「っつか、依存系は、何にハマってるかっていうことより、『何かに依存しなくちゃ生きていけない心理』っつーのを研究しなくちゃいけないだろ、って話だと思うんだよな? 海外ではどうなってるか知らないけど、少なくとも日本は、依存系の研究って全然できてない気イするわ」
ユーリ「その話、かなり深くなりそうだね……」
天平「なので、依存系についてはまたちょいちょい考えていくことにして。何が言いたいかっつーと、ギリギリマニア型の人は、新型ウィルスに感染しかねないからこういうことはやめましょう、って言われてることを敢えてやりかねない、って思うんだよ。そうなったら、マジで怖いって思って」
ユーリ「え? あ、そこに繋がるのか。そっか、うわぁ……。つまり、ギリギリマニアが、新型ウィルスに感染するかしないかのギリギリを試したくなるかもしれない、ってこと?」
天平「かもしれない、って、心配になってしまった、と」
ユーリ「そっかぁ……」
天平「もしも、新型ウィルスに感染するかどうか、ギリギリを試そうとする人が出てきたら……」
ユーリ「今って、誰が海外渡航歴があるかわからないし、海外渡航歴がない人でも海外渡航歴がある人から感染されてる人もいるかもしれないし、自分が感染しているかどうかもわからないし、どこの誰が感染しているか感染していないかわからないから、極力、人混みを避けて、感染したり感染させたりしないように考えて行動しなくちゃいけない状況なのに、そういうのすっ飛ばす人が出てくるかもしれない、ってことだ?」
天平「自分自身、体調に異常を感じられなかったり、周囲の人も別段、特に患ってそうに見えなかったりするから、ホントに誰が感染しているかわからない状態だろ? そこがさ、ギリギリマニアからすると、どこに地雷が埋められているかわからない道を歩くみたいなギリギリ感? 感じちゃって燃え上がりそうっつーか。人との距離をあけて安全マージン取るどころか、逆に『新型ウィルス? そんなん大げさに言ってるだけだって。たいていの人は軽く済むんだぞ? そんなもん怖がることないって。それより、自粛する人のおかげであちこち空いてるから、今が狙い目だ! めいっぱい遊ぼうぜ!』とか言って人を呼び集めたりしそうな気ィすんだよな?」
ユーリ「自粛自粛ってなってる中で、敢えて自粛しない! みたいな? 集団で集まるのやめた方がいいのに、ダメだと言われれば言われるほど、自分は平気だ、新型ウィルスなんて怖くないぞ! って、大勢の人で集まっちゃう?」
天平「それどころか、敢えて人と近距離でくっちゃべったりハグしたりして? そんなことしてると、その中に誰か感染者がいたらみんな感染してしまうかもしれないわけで、その、もしかして感染してしまうかも――あるいは、自分が感染させてるかも――っていうギリギリ感が楽しくてたまらない、みたいな――マニア通り越して変態さんな人。そういう人がいっぱい出てくるかもしれない、って思って。それが心配」
ユーリ「んー。けどそれも、ヤバそうなことやっているけど、本当にヤバくはないギリギリ助かるところだと思っているから、やるわけだよね……」
天平「そ。助かるか助からないか一か八か賭けに出るぞ、っていうんじゃなくて、なんだかんだいって自分は『助かる』と思うからギリギリ目指す。――これがエボラだったら、ギリギリマニアが出るとは思わないんだけど、新型ウィルスは、感染した人の一部しか重症化しないって言われてるし、特に若い人は持病でもない限り、感染してもほぼ軽い症状ですむだろう、みたいに言われてるから。ギリギリマニアが出そうな気がする」
ユーリ「もしも、今、感染の拡大が心配されているのがエボラだったら――」
天平「ギリギリマニアな人はきっと、我先に危険そうな地域を逃げ出して、少しでも安全そうなとこに向かいそう」
ユーリ「だけど、新型ウィルスは、もし感染しても、重症化しない人が多いって言われてるから――」
天平「好きそうな気がするんだよぉ、ギリギリマニアが。んで、ギリギリマニアがギリギリを攻めてくだろ? 感染するかもしれないのおかまいなしの行動をとっていく。大勢の人で集まったりする。すると、その集まりからネズミ算式にガンガン感染が拡大していく――ことだって起こり得るだろ?」
ユーリ「そうなったら、かなりヤバいね? ただでさえ、自粛生活がしんどくて爆発する人が出てくるかもしれないし、不安から、新型ウィルスがいないものとしてふるまいたくなるかもしれないし、危機感が薄くて、感染を拡大させないような行動をとらない人が出てくるかもしれないし――」
天平「『結論ありき系』もヤバい」
ユーリ「結論ありき?」
天平「結論が決まってる、つまり、予定を変更できないってこと。さっき言ってた、旅行する予定にしてて、前から計画練って予約とかたてて準備してきたから、なかなかそれを取りやめにするってことができないパターン」
ユーリ「やってしまう気持ちはわかるけど、っていうヤツだね」
天平「この日はこうする、っていう結論がまずあって。こうするって決めてるから、そのためには、自分が感染しているかもしれないし、感染するかもしれないっていう危険から目をそらす」
ユーリ「自分が感染したりさせたりしてしまうって考えたら、予定を変更せざるを得なくなるから。予定を変更できない、あるいは、したくないから、自分は感染していないし、感染もしないって前提で予定を変更せずに、予定通りの行動をとってしてしまうから、感染リスクの高い行動でもやってしまいかねないわけだ」
天平「そういう人たちが、自粛しないで、感染を拡大させかねない行動をとっていくかもしれないわけだけど――」
ユーリ「そこにさらにギリギリマニアな人がホントに出てきたら――あっという間に感染が爆発的に拡大してしまうかもよ?」
天平「自粛って大事だよな」
ユーリ「そうだね、大事だね……」
天平「――結論ありき系とかだと、予定を変えた方がいいんじゃないか、予定を変えないと自分が人に被害を与えてしまいかねないんじゃないか、って、うっすら思っている人も多いと思うんだ」
ユーリ「危険から目を背けるってことは、そこに『見たくないもの』があるって、頭のどこかでわかってるってことだよね? だから、『目を背けている場所』に目を向けさえすれば――」
天平「それができさえすれば、状況を把握して、『やめよう』って決意することができるんじゃないか? そしてそれはきっと、ちょっとの勇気でできることで。ちょっと勇気を出せば、目を向けることができるはずで」
ユーリ「だとしたら、その『ちょっとの勇気』を出せるように、周囲の人が背中を押してあげたら――?」
天平「だよな? どこかに旅行に行こうとしている人がいて、その人に、『旅行なんかやめろ!』『なに考えてんだ!』って責め立てるようなことをするんじゃなくて。その人が『やめよう』って思えるように、背中を押してあげれば、きっと、多くの人が、決断できるんじゃないか?」
ユーリ「自分で『やめよう』って思えないと、やめられないもんね。やめさせられるとか、渋々やめざるを得ないとか、そういうことじゃなくて。旅行に行こうとしている本人が自ら『やめよう』って思えるように――」
天平「特に、渡り鳥みたいに、移動していくタイプ。例えば、自転車で日本縦断旅行しようとしている人とかだと、マラリアを蚊が媒介して広めていくみたいに、新型ウィルスを広める媒介になりかねないと思うから、やめるように決意してもらえたら、って思う」
ユーリ「渡り鳥系っていうと……日本国内じゃなくて、すでに、海外のあちこちを回ってる人、いるかもしれないよね? それも、ただの旅行じゃなくてボランティアとか人助けのために。そういう人たちってどうしてるんだろう?」
天平「そうだな、海外であちこち回ってる人……お医者さんとかが村から村へ診察して回る巡回診療の場合は、やめるの難しいと思うけど。それでも、渡り鳥みたいに移動していくのは、できるかぎりやめていって――各地の村をオンラインで繋いで、状況を確認できるようになるといいのかな? すぐにそんな体制を作るのは難しいかな……?」
ユーリ「海外にいる人で、どこかに拠点を持たずにあちこち移動している人に関しては、ただ『帰っておいで』って呼びかけるだけじゃなく、日本に帰って来られるように、支援することも必要かもね?」
天平「っつか、海外にいる人って、もしも新型ウィルスに感染してしまったら、その国の医療機関を利用しようとしたときに日本人ってことでゾンビ扱いされないかちょっと心配だよ……」
ユーリ「ただイヤな顔されるだけならまだしも、ゾンビだと思って攻撃されるようなことになったら、いろんな意味で危険だよね?」
天平「あと、海外の病院で治療を受けるとすんごい高額の医療費が後で請求されたりすることあるっつーから、そういうのも怖いよな? 新型ウィルスに関してはそういうの、問題にならないんかな? っつか、そもそも、今って、他の国では自国の人以外への医療行為って、どんなカンジになってるんだろ?」
ユーリ「高額請求は、テレビとかでやってたよね? 海外旅行するときに海外旅行用の医療保険とかに入らずに、渡航先で暴行されて手術とか入院とかしたら、日本に帰ってから、旅行先の病院から何百万も請求された、って――」
天平「……怖いよな」
ユーリ「……怖いよね」
天平「――って考えていくと。帰国したがいいだろ?」
ユーリ「だね。まだ新型ウィルスが流行っていない国に滞在している人だと、そのまま新型ウィルスとは無縁に旅を続けられそうに感じられて、帰国するかどうか迷ってしまうかもしれないけど。いざ感染したりさせたりする事態になったときに怖いから」
天平「帰国を迷っている人たちが『帰国しよう』って思えるように、背中を押してあげられるといいな? ――海外にいる日本人ってすごいたくさんいるみたいだし、その国で仕事して、家族がいて、暮らしがあって、って人もいるから、全員が全員、日本に帰って来るのがいいとは言えないと思うけど」
ユーリ「海外ですでに新型ウィルスに感染しているかもしれないし、帰国する飛行機の機内で感染してしまうかもしれないから、海外から帰って来た人は、武漢からのチャーター機のときみたいに、帰国した後しばらくはどこかで待機しなくちゃいけないと思うから、受け入れ態勢が整わないと簡単に帰国は出来ないかもしれないけど……」
天平「渡り鳥系の人だけでも、帰国できるようにした方がいいんじゃないか?」
ユーリ「そうだね……感染を拡大させないことを考えたら、そうかも……?」
天平「中国とか見てると、今回の新型ウィルスなら、あっという間に病院に感染者をあふれかえらせてしまうことになりかねないよな? って思う」
ユーリ「感染症って、ホントに感染して感染して広がっていくもんね……」
天平「豪雨も、あっという間に川を増水させたり、道路を冠水させたりするけど、あれもさ、ゆるやかな変化ならまだ対応のしようもあるけど、急激に状況が悪化していくと、対応できずにパニックになっていくから。新型ウィルスの感染者も、急激に増えていくと怖くないか? 冷静に段階を踏んでいけば助かる命も、パニクッってバタバタになったら助けられない人が出てくるかもしれない。助けるために必要な道具を揃えたりする準備も間に合わないかもしれないし……」
ユーリ「……うん。怖いね」
天平「感染を拡大させないようにしないと――」
ユーリ「――ギリギリマニアだのなんだのって、そんなの考えすぎじゃないの? って言いたいけど、ハロウィンのときに渋谷で人が車をひっくり返した事件あったしね。そういうの思い出しても、感染が拡大することはないなんて言えない、って思う。人ってあり得ないことやらかすし、特に、大勢で集まっちゃうと、怖いもの知らずになる怖さってあるよね?」
天平「あるある。ハロウィンの事件なんか、ホントそんなカンジ。それに、人が集まると、他の人と張り合って『にやがって』いくうちにギリギリマニア化してく人、出て来そう」
ユーリ「一人ひとりだと人との距離とか自分の行動とか考えて行動しても、何人も何人も人がいるとそういうのどうでもよくなっちゃったりしそうだよね? それ考えても、新型ウィルスが落ち着くまで、できるだけ集まらないようにするって大事かも……?」
天平「集まらない、か……。休校するのはいいけど、学校が休校になっても、それ以外のとこで子供や大人が集まって感染が拡大してたら意味ないもんな」
ユーリ「感染が拡大していったら、支援もできなくなっていくよね? ほら、熊本地震の後は、東日本の震災の後のときみたいに経済がダメにならないように経済活動しようってなってたって話だったけど――」
天平「ん? それが?」
ユーリ「そうやって、経済活動しましょう、ってなったのって、熊本に大きな地震が起きても、それ以外の地域が無事だったから、被害のなかった土地で経済活動していくことで、被災した熊本を支援しよう、ってことができたわけだよね?」
天平「うん。そうだよな?」
ユーリ「それで、東日本のときも、東日本の被害は大きかったけど、それ以外の土地は被害を受けていなかったから、被災した地域の支援ができたわけで。それってつまり、ダメージを受けた人やダメージを受けた地域を支援するためには、ダメージを受けていない人やダメージを受けていない地域があることが大事だろう?」
天平「ああ、それは――それはホント、そうだよな」
ユーリ「だから、感染が拡大していって、どこもかしこも感染者がいて、その人たちからさらに感染者が増えていって……ってことになってしまったら、感染者の出た地域を支援する地域が、なくなってってしまうだろう?」
天平「そうなったら――誰もがみんな、助からなくなってしまうかもしれないよな? そんなのダメだろ。感染は拡大させられないって」
ユーリ「感染が拡大するって、クルーズ船の中で感染が拡大していったみたいな現象が日本全土で起こってもおかしくない、ってことだよね? クルーズ船一つとっても、船内感染ですごいことなっていってたのに……」
天平「っつか、クルーズ船で感染者が確認されたあたりから、新型ウィルスに気をつけましょうって、テレビとかでずっと言ってたからなー。そういう自粛ムードに反発してさ、ギリギリマニアがわざと集まって飲み会とかして、すでに新型ウィルスがひそかに広がってたらイヤだよな」
ユーリ「ウィルスって誰が感染しているか目に見えてわからないから、わからないよね。自分自身でも感染しているかどうかなんて症状が悪化しない限り自覚できないし。例え、今このとき感染していなくても、次の瞬間、どこかで感染してしまうかもしれないし、ウィルス検査で陰性だったのに後日、陽性になった人もいるから、毎日毎時毎分、ウィルス検査をしていないと、誰が感染しているかわからなくない?」
天平「いっそ、みんないったん感染してそこから回復するっていうことができたら――って、それが予防ワクチンか。予防ワクチン、マジで大事だな……」
ユーリ「そうだね、一度かかれば同じ新型ウィルスにはかからないって言われてるから、世界中の人がワクチンを受けて、新型ウィルスにそれ以上かからないようになればいいわけなんだけど……」
天平「早くワクチンができるといいよな。けど、そのためにはワクチンの開発のために力を使ってもらえるように研究者の人たちにワクチン開発の研究に専念してもらわないと」
ユーリ「そのためにも、研究者の人たちが感染者の治療や感染拡大防止の対策とかに追われないように、感染者の数が増えないようにしないとね」
天平「ホントだよ」
ユーリ「あ、自粛できるのに敢えてたくさんの人で集まって感染が拡大した場合は、その集まりに参加した人たちは、感染して重症化することになっても医療機関を利用できない、ってすれば、ギリギリマニアが感染しそうなことするのを防げるんじゃないかな? だって、医療機関を受けられないかもしれないってことにすれば、『なんだかんだいって自分は助かる』っていう、ギリギリに挑戦してしまう『前提条件』を崩せるだろう? 助からないかもしれない危険性が強くなるから、ギリギリを攻めなくなるんじゃないかな?」
天平「それは――いくら、もし感染してもどうせ軽症ですむと思ってるギリギリマニアでも、感染したときに医療機関を利用できないって思ったら、感染しそうなことに挑戦しようとはしないかもしれないけど……」
ユーリ「自粛していても感染することはあるのに、自粛していて感染した人より、自粛せずに、敢えてたくさんの人で集まって感染してしまった人の方が、手厚い医療を受けられるようなことになったら、それはどうかと思うよ?」
天平「うー。オレはソレ、医療関係者をゾンビ扱いするヤツらにやりたいわー」
ユーリ「医療関係者をゾンビ扱い?」
天平「医療関係者のことを、『新型ウィルスの感染者の治療して、その感染者から新型ウィルスを感染されてるぞ』って決めつける人がいるとかで? 医療関係者っていうだけで新型ウィルスの感染者とみなされてバイキン扱いっつーか、ゾンビ扱いみたいなことされてる人、いるらしいってよ?」
ユーリ「え? じゃあ、天平のお母さんも?」
天平「母さんはないけど、母さんの看護学校時代の友達とかで、そういう人、いるみたいでさ?」
ユーリ「……ゾンビ扱い? それも、医療関係者を? ――何考えてんの? そういうことする人たちって。あり得ない。気持ち悪い」
天平「だろ? 確かに、新型ウィルスの感染者の看護にあたってる看護師さんたちとか、治療に関わっているお医者さんや技師さんたちとかは、新型ウィルスに感染するリスクにさらされてるし、感染した人いるかもしれないし、これから出てくるかもしれないけど。それって、新型ウィルスに感染した人を助けるために働いているから、そういうリスクを負っているわけだろ?」
ユーリ「そうだよ? そうやってリスクを負って病院で働いてくれる人たちがいるから、僕たちは命を守っていけるわけで――」
天平「だからさ、医療関係者をゾンビ扱いしたり――っつか、医療関係者だけじゃなくて、オレみたいな、医療関係者の家族もゾンビ扱いされたりしてるっぽくて」
ユーリ「はぁ⁈」
天平「っからさ、医療関係者やその家族をゾンビ扱いするような人は、新型ウィルスに感染しても医療機関のご利用お断り、ってやっていいんじゃねーの、って思う」
ユーリ「いーよいーよ。お断りだよ。というか、そんなことしておいて医療機関を利用してたら、いくらなんでも厚かましいって」
天平「と、ユーリでもやさぐれるくらい、あり得ないことだと思うから、マジで医療機関の受診をストップさせていいんじゃねーの、って思うけど。ただ、ゾンビ扱いしている現場とか、あと、さっきの、ギリギリマニアとかが感染リスクおかまいなし行動やってる現場とかを撮った動画とかあれば、この人が医療機関を利用するのおかしくないですか、ってやれるけど」
ユーリ「そううまいとこ、現場を押さえた証拠って用意できないか……」
天平「それに、そういう『行い』を追求していくと、この人は犯罪者だから後回しにしよう、とか、家族を誘拐したっていう電話がかかってきて身代金を持って犯人に指定された場所へ移動しているときに人混みを通らざるを得なかったのに、そのときに人混みを通っているところを撮影されて、この人は感染リスクおかまいなしの行動を取っていたから医療機関を利用する資格ないぞ、とか、なっちゃうかもしれないだろ?」
ユーリ「う? うん。んーと、例えがやけに細かいけど――誰がどこでどういうことをして感染しているかわからないし、この人の行動はこうだからセーフ、こうだとアウト、とか、セーフとアウトを決める基準とかって決めかねるし。そういうこと考えると、実際には、やりようがないね、お断り制度」
天平「そうなんだよなー。ま、それ以前に、人としてやっちゃダメだけどな」
ユーリ「それはそうなんだけど。――ムカつくな」
天平「それこそ、お断り制度なんか作っちゃったら、医療関係者をゾンビ扱いするヤツとやること変わんねーもん。人をつまはじきにするのは、やっていいことじゃないだろ」
ユーリ「まあねぇ……」
天平「それより。感染者が大量に増えるのって、マジで怖いよな。感染者が増えすぎたら、それこそ、ネットとかで『この人はこういう行動とってたから治療を受ける資格ナシ!』とか個人を特定して医療機関を利用させまいとする人が出てくるかもしれないし……?」
ユーリ「……さっきは勢いで『お断りでいい』って言っちゃったけど。誰かが独自の基準で医療機関を利用できる人と利用させない人に振り分けていくようなことを始めちゃったら――怖いね。何が起こるかわからない……」
天平「医療機関を利用できる権利の取り合いっていうか、イス取りゲームのイスの取り合いみたくなってしまうかもな?」
ユーリ「感染者が少なければ、そんなことにはならないと思うけど」
天平「クルーズ船の感染者の受け入れ先だって苦労して用意して対応してあったみたいなのに。――それ思い返しても、きっと、イス取りゲームのイスは、たくさんあるわけじゃない。数の限られたイスを奪い合うことがないようにしたいよな」
ユーリ「新型ウィルスのワクチンや治療薬はまだ使えるものはできてないみたいだけど、新型ウィルスに感染した人には、熱を下げたり、咳を抑えたり、感染者の症状に合わせた薬や治療方法を試していくわけだよね? 感染者がガンガン増えていったら、その薬や治療方法や、何より、お医者さんや看護師さんや技師さんとかいった医療関係者の人手が足りなくなるかもしれないだろう?」
天平「それもあるけど、感染者が増えてしまうと、ただでさえ足りてないお医者さんたちが、通常の患者さんプラス、ガンガン増えていく感染者の治療に当たっていくことになるわけで。どうしたって、お医者さんたちが休めなくなるだろ」
ユーリ「そう……だね。実際、休めてない人、たくさんいるんじゃないかな? もともと、日頃から大変そうだもんね? ドラマとか見てるとだけど」
天平「病院によるし、何科かとかそういうのにもよるだろうけど、大変だと思うよ?」
ユーリ「だよね……」
天平「そこで問題なのが、十分に休まないと、体力や免疫力が落ちてしまうんじゃないか、ってことなんだ」
ユーリ「それは……あ。え? あ、もしかして――感染する?」
天平「んじゃないか?」
ユーリ「――医療関係者の人って、感染者が増えすぎて治療に追われて、無理に働き続けて十分に休めなくなると、医療関係者自身が弱って新型ウィルスに感染しやすくなってしまうかもしれない?」
天平「医療関係者の人が、感染者の治療に当たっていて、その患者さんから新型ウィルスに感染するか、つまり、院内感染するかどうかっていうのはわからないけど。――病院の中でなくても、生活している中で、どこかで新型ウィルスか、それ以外の何かのウィルスを拾うことがあるかもしれない。もしもそんなことになったとき、ふつうの状態なら、体内に侵入しても、免疫力で退治できる程度のちょっとのウィルスだったのに、免疫力がガタ落ちしていたせいで、体内であっという間にウィルスが大増殖して急激に症状が悪化する、とかいうことは起こり得るかな? って思うんだ」
ユーリ「医療関係者が休めないっていうのも、すごく怖いね……」
天平「だから、医療関係者が定期的に休めるようにするために交代要員の確保とかも必要だと思うけど。ソレ、病院ごとにやろうとしたって、どこに交代要員になれる人がいるか情報ないし、交代要員探しする人手もそもそもないしで、やってらんないだろうし」
ユーリ「大学病院だと医局? とかいうのがテレビドラマとかで出てこない? 医局がお医者さんを病院に紹介するんじゃないっけ? お医者さん専門の派遣会社みたいなイメージなんだけど? そこがお医者さんの調整をしたら……?」
天平「医局は、いろいろ複雑そうだよな? 詳しくはないけど、ドラマとか見てると、警察の天下り人事とかに似てそうな気もするっていうか、しがらみ多そうっていうか……? よくわからんけど、とにかく、お医者さんの交代要員を確保するのには、医局にも協力してもらわないといけないと思うけど、看護師さんとかの交代要員の確保とかも、全国規模で考えなきゃいけないと思うから、交代要員の準備や手配は、テレビの対策会議で対応するだろ? 人手が足りないとこは、対策会議に、『今、こういう体制でやっていて、こういう人員がほしい』って連絡すると、対策会議の方で、人手を出せる病院の中から、人手が足りない病院の近くで、こういう人がほしいっていう要望に沿った人がいないか探して――」
ユーリ「対策会議が、病院で働ける人のマッチングをするわけだ?」
天平「そ。その方が、統制がとれるだろ? どこの病院がどういう状況になっているかを把握しやすくなるし。ふつうの病人やケガ人や、新型ウィルスに感染した疑いのある人が、どこにどれくらいいるか、感染者や、医療関係者をどこにどう配置していけばいいかとか、あ、あと、今は看護師やってないけど、資格は持ってますとか、一時期この病院で働いてましたとか、そういう人にも、『私、働けます登録』してもらうと、病院で働ける人がどこにいるかわかるし、どこからどこへ助っ人を出すか――マッチングできるんじゃないか?」
ユーリ「そうだね。……その場合、人手の足りない病院に助っ人に行く人が、病院から離れたところに住んでいる場合は、臨時の寮っていうか、住むところを用意してあげる必要もあるよね?」
天平「その辺も、対策会議で、どこに空き部屋があるか調べるだろ? そんで、マンションの部屋を用意するとしたら、その助っ人さんがそこに住むことで、他の住人さんたちに院内感染のマンション版が起きないかとか検討して、大家さんとかに交渉して、部屋を貸してもらうようにするとか、一軒家があれば一軒家を貸してもらうとか、いろいろなケースに応じて、必要なものを用意していくだろ?」
ユーリ「じゃあ、薬も? 薬って言っても、飲み薬だけじゃなくて、点滴のパックとか、医療用の医薬品とかも、こっちの病院にはこれこれはあるけど、あっちの病院には何々が足りない、とかなるかもしれないし。医療器材や医療器具も、足りないとこに、貸せるとこがあったら貸してもらえるようにして――」
天平「どこも貸せないぞ、っていうもので、これから多く必要になりそうなものがあったら、それは新しく作るとか。それも、どこの企業なら作れるだろうか、資金はどうする、とか、そういうのも対策会議で対応していくだろ?」
ユーリ「そうすれば、現場の医療関係者の負担を減らせるね」
天平「だろ? 事務的な手続きとかは医療関係者じゃなくてもできることだから、そういうことは他の人に任せてしまうと、病院の人たちは、通常の業務や感染者の対応に集中できるし」
ユーリ「そうやって、医療関係者が目の前にいる患者さんの治療に専念できるような体制を整えていかないと、それこそ、今度は医療事故が起きるかもしれないよね?」
天平「ソレはヤバいよな。それに、病院内がバタバタしてしまうと、新型ウィルスの感染予防対策が緩んで、院内感染が起きてしまうかもしれないし……」
ユーリ「そういう医療機関に必要なことは、もちろん政府もやるんだろうけど、なんていうか――働ける人を確保したり、確保した人を医療の人手が手薄なとこに移動させたりするためには、大きな病院だけじゃなくて、個人経営の小規模な病院や診療所なんかも網羅する必要があると思うから。そうなると、民間で動いた方が話が早そうだよね?」
天平「言えてる。政府から『協力してください』って打診されるより、対策会議に『こういうことに協力できます』って申し出て『じゃあ、これやってもらえますか?』『いいですよ』ってやり取りでやってく方が、進みそう」
ユーリ「災害が起きたときに、被災地の支援をするボランティア組織があって、たくさんの人がボランティアとして被災地の人のために働いている姿を、テレビを通してだけど、見て来たから、だからそう思うのかも? 災害時のボランティアも、問題や課題がないわけじゃないみたいだけど」
天平「それは――逆かもな?」
ユーリ「逆?」
天平「被災者の人たちが困ってあって、それを助けたいって人たちが助けようとして、それでボランティアやるってなって。だったらこうしましょう、って、やりにくいところやうまくいかなかったところ、問題のあるところを改善していって、人と人とが繋がっていって、ネットワーク作って協力し合える体制を整えていって……っていうのを、国がやろうとしたら、それってすんごい無理がある気がするだろ?」
ユーリ「……ボランティアの人ならやれる、じゃなくて、国じゃやれないってこと?」
天平「ボランティアの人たちって、被災者の人に対して細々した心遣いをして、現場で必要なことを、臨機応変にやっていってあるわけだろ? それと同じようなことを、国がやっていけるかっていうと――どうなんだ? 国って、ボランティアが個人個人の判断でできることやっていくのと同じように動けるのか?」
ユーリ「ボランティアの人がやることは、ボランティアの人が自己責任でやることで、基本的にその人の責任でやっていくことになると思うけど……国が主導して被災者を助ける体制を作ろうとしたら、被災者を助ける人手は、お給料を払って雇うのか、危険なことをさせる場合の補償はどうするんだ、とか、いろいろ決めてからしか動けないよね?」
天平「それで、そういう『決めごと』に時間や労力を使ってしまっている間、被災者の人たちは、苦しい生活を強いられたり、家や畑の状態が悪くなっていったりするわけだろ? けど、ボランティアとか民間のやることって、個人個人で、あるいは、企業ごとに決めるから、その人が『やる』って決めたらそれで決まるし、その企業が『やる』って決めたらそれで決まる」
ユーリ「それが国になると――国って、何をするにも議会で決めるし。あるいは、総理大臣とか内閣の人たち少人数で決めるにしても、その人たちで会議して話し合って合意しなきゃいけないとか、やろうとしていることが法律違反していないか調べたり、過去に同じような前例があったか、もしあったらそのときはどうしてたか調べたりしなきゃいけなかったりで……時間かかっちゃうよね? なんていうか、誰かの『一存』では決められないわけだから」
天平「かと言って、例えば、総理大臣一人の判断でなんでも決めていっていいコトにする、っていうのは、オレはめちゃめちゃ怖いから、反対」
ユーリ「『戦争します』って、総理大臣一人の判断で決めてしまうことができるような状態を作るのは、怖いよね。僕も反対」
天平「だから、そういうこと考えていくと、民間の人たちが協力体制を自分たちで作っていく方が、それぞれの人たちのやれる範囲で、協力し合える体制をスピーディーに作っていきやすいんじゃないかと思うんだよな?」
ユーリ「そうだね。それで、それができたら、ボランティアするときのために『ボランティア保険』ができたように、民間の人たちを守る取り組みもしていけたらいいわけで」
天平「そだな。民間の人たちが自己責任でやるからには、自己責任でやっていけるように――ボランティアやった人がボランティアやったことでよくない目に遭わないように。困らないように守っていく取り組みを同時にやっていくのも大事なことだよな」
ユーリ「それと一緒で、医療体制を整えるためのネットワークも、民間で協力して作っていければいい。――対策会議がその要になれば、全国の人たちで、それぞれができることをやって協力し合う体制を作れそうだよね」
天平「AIの技術持ってる企業とか、アプリを開発したりする企業や大学とかが協力してくれれば、ネットワークを築く体制を整えやすいと思う。だから、企業や技術者の協力も得ていければ――大人って、ホント、すごい力持ってるもんな」
ユーリ「企業だけじゃなくて、自治体とも協力し合って、地元の力をフルに使っていけば、国が動くより、細やかな取り組みができそう」
天平「もちろん、国そっちのけでやっていく、ってことじゃなくて。国は国で国じゃなきゃできないことあるだろうから、国でなきゃできないことをやってってもらうとして。っつか、国には国でなきゃできないことに専念してもらうとして」
ユーリ「国がやろうとしていることを、民間のネットワークがジャマをしてしまっても意味がないから、その辺は、国と相談しながらやっていかないといけないよね?」
天平「そんなカンジで、早いとこ、医療関係の協力ができるような体制を整えておくことで、医療関係者の負担を減らしていきたいよな?」
ユーリ「それと。医療関係者の負担を減らすためには、何より、新型ウィルスに感染しないようにすることだよね」
天平「それだけじゃない。新型ウィルス以外の病気にかかったり、ケガをしたりしないようにすることも大事だろ?」
ユーリ「そっか。新型ウィルス以外の患者が増えるのも、病院の負担になるよね」
天平「ならないようにしようっつっても、病気になるときはなるし、ケガをするときはしてしまうもんだから。気をつけてて病気になったりケガしたりしてしまうのはしょうがないけど、ただ、休校になったからって、調子に乗って家でふざけてすっころんで流血沙汰起こして救急車で緊急搬送とか、よーく焼かずに生焼けの鶏肉食って食中毒起こすとか、そういう、気をつけておけば防げるようなケガや病気はダメだろ、ってことで」
ユーリ「ふつうの風邪を引いたりするのも――新型ウィルスに感染しているんじゃないかって、紛らわしいってこと含めて、――しないようにしたいね。お風呂あがって湯冷めするほど夜更かししたりしないとか。自己管理をちゃんとやる」
天平「けど、例えばユーリが言ってた、仕事をリストラされた人とかだと、仕事を探して回ってるうちに、無理して身体を壊す、とかなってしまうとヤバいな、って思って……」
ユーリ「それ、新型ウィルスにも感染しやすいかも……?」
天平「しっかり休めないと免疫力落ちて新型ウィルスに感染しやすくなるっつーのは、医療関係者に限らないから。新型ウィルスの影響で仕事がうまく行ってない人って、ストレスでかいだろうし、しっかり休めてなくて感染リスク上がってしまうかもしれないよな?」
ユーリ「ということは。みんながしっかり休めるように、仕事のサポートもしていかないといけないってことだけど――」
天平「経済がちゃんと回るように、飲食店ではテイクアウトに力を入れるとか、感染リスクを抑えたビジネスの仕方っていうのを考えて来たけど。感染しないように仕事を維持していくことも大事だけど、実際に仕事にならなくて倒産したり、リストラされたりして、仕事ができずに収入がなくなった人たちもいるわけだろうから。そういう人たちがどうやって生活していくのかっていうのも考えていかないと――」
ユーリ「んー。けど、そういうのって、失業した人とかお金が要る人に、政府が当面の生活費をあげるとか、そういう対応になるんじゃないかな?」
天平「どうかな? 政府のお金って、保険みたいな使い方、あんましようとしなくないか?」
ユーリ「保険みたいな使い方?」
天平「保険って、保険に入った人が、毎月、『掛け金』って言うんだっけ? 決まった額のお金を保険会社に納めておくと、掛け金を払っている人が災害に遭ったり、病気になったりして、お金が要りようになったときに、まとめったお金をもらえるシステムだろ?」
ユーリ「うん? ざっくり言うと、そうだよね?」
天平「それって、細かい決まりはナシにして考えると――例えば、月々一万円ずつ払って十カ月経ったときにケガをして手術して、五十万円かかって、そのお金を保険会社が払ってくれる、ってなる。つまり、十カ月だから十万円しか掛け金を払ってないのに、五十万円、保険のお金を使える」
ユーリ「んーと、貯金したお金とは違うから、『十万円しか払ってないから、十万円しか使えません』にはならない、よね?」
天平「そうなんだよな?」
ユーリ「保険の場合は、ケガをしたその人と同じように、月々、掛け金を払っている人が他にもたくさんいるから、その人はまだ十万円しか払っていなかったとしても、五十万円の保険金をもらえるわけで。それって、そうやって大勢の人でお金を出し合って、大金を集めて、その集めたお金の中から、何かダメージを受けてお金が必要になった人に、集中的にお金を使わせてあげる、っていうか――」
天平「あ、ソレ」
ユーリ「ん? どれ?」
天平「ダメージ受けた人に集中的にお金を使わせてあげる、っていう仕組み。みんなが少しずつお金を出し合っておくことで、一人では払い切れないお金が必要になったときに、みんなで集めたお金から、自分一人じゃ作れないお金を用立ててもらえる。――このやり方だと、自分一人じゃお金を払い切れないときに助けてもらえるっていうところが、助かるわけだろ?」
ユーリ「っていうと……何らかのダメージを受けていて、そこから回復するためにお金が必要だけどお金を持ってないときに、ダメージから回復するために必要なお金をもらえたら――助かるよね? そういうことだよね?」
天平「けど、それだと、ダメージがない人は、お金もらえないわけだろ?」
ユーリ「ざっくり考えると、そうなるよね? ただ、確か、実際は、何年間かなんのダメージも受けなかった人は、その人が、その何年間かの間に毎月払っていたお金を合計して、まとめて返してくれたりする場合もあったと思う……けど?」
天平「医療保険はだいたい『掛け捨て』ってヤツで、払いっぱなしだぞ? たぶん。母さんたちがそんな話してたから」
ユーリ「そっか。何のための保険か、保険の種類によっては、毎月お金を保険会社に払ってて、ダメージなくて保険のお金もらわないでいた場合でも、払ったお金が返ってこないこともあるのか……」
天平「宝くじの逆バージョンっていうか? 宝くじは当たりが出たら大金をもらえるけど、保険は災害に見舞われた人がお金をもらう。そんで、お金をもらえなかった人は――」
ユーリ「――自分が払った分のお金は損をすることになる」
天平「そうやって、自分が払っていった掛け金を損することになり得るけど、保険をかけておくと、いざ何かダメージを受けたときに、回復に必要なお金を保険会社からもらえるから、保険って大事なわけで」
ユーリ「そうだね。――おばあちゃんが言ってたけど、地震保険に入ってないと地震で家が壊れても保険金がもらえないし、地震保険に入ってても、家の壊れ方次第でお金が払ってもらえないこともあるみたいだから。いつでも回復するのに十分なお金をもらえるわけじゃないだろうし、毎月払うお金が高額だと掛け金を払い続けていけなくなってしまうだろうから、問題もいろいろあると思うけど……保険って、掛けておけるなら掛けておくと安心だよね? きっと」
天平「で。国のお金っていうのも、国民から税金ってカタチでお金を集めて国のお金にするわけだから、ダメージ受けた人がいたら、保険みたいに、みんなから集めたお金の中から、ダメージ受けた人にその人が回復するために必要なお金を使わせてあげればいいと思うんだけど」
ユーリ「……そうだね?」
天平「けど、国のお金の場合は、国民みんなから集めてるから、国民みんなのお金であって、特定の国民のためのお金じゃないっていうか。だから、国のお金の場合、ダメージ受けた人がいても、その人だけ特別扱いして国からお金をあげるわけにはいきません、みたいなの――ある気がする」
ユーリ「え? けど、地震や台風で家が壊れたときとか、国から補修のための支援金が出たりしない? 補助金とかって?」
天平「絶対にコレ、足りないだろ? 家、直せないだろ、っていう額だよな? いや、ふつうに考えたらすんげーいっぱいお金もらえてるんだよ? ただ、家を直すためってなると少ないんじゃないか、って思う」
ユーリ「前に、イタもぶーぶー言ってたね? 災害で家が壊れたときに、もっと助けになるやり方があるんじゃないか、って。家を建て直したり、補修したりするの、すごくお金かかるのに、国からもらえるお金って少なくないか、って」
天平「まあ、そういうときのために地震保険とか、災害のための保険とかに、国民がそれぞれ個人個人でちゃんと入っておけって話なんだろうけど。――けど、それってさ、自分のことは自分でなんとかしろ、ってことじゃないか?」
ユーリ「え?」
天平「税金って、みんなで一緒にお金を出し合って作るもののために集められてるカンジ? だから、国民って、税金を納めていても、そのお金って個人的に使えるっていうわけじゃなくて、基本的に、自分のことは自分でなんとかしなくちゃいけないっていうか。――税金って、保険とは違うな、って」
ユーリ「そう……かな?」
天平「税金の場合は、えっと、アレかな? 図書館の本」
ユーリ「図書館の?」
天平「図書館の本は、自分が借りて読むことはできるけど、その本はみんなの本であって、自分一人の個人的な持ち物ではないから、図書館の本を借りパクするわけにはいかないだろ? あるいは、本の中に気に入ったイラストがあったとしても、それを切り取って自分のものにするっていうのもダメだし」
ユーリ「あ、あったね? 図書館の本を切り抜いて、図書館の司書の人に注意されたら『え? なんでダメなの?』って、理解できない二十歳過ぎの大人の人がいた、って――実際にあった話なんだよね?」
天平「昔、新聞にそういう話が載ってたことあるらしいって、ひいばあが話してくれたことあったヤツだよ。マジで怖いよな?」
ユーリ「図書館の本を切り抜いちゃダメだってのがわからないなんて、ちょっとどころでなく怖いよ? 図書館の本はみんなの本だからみんなで使うために大事に使わなきゃいけない。それだけって言えばそれだけのことなのに――」
天平「図書館の本を自分のものにしたり、誰か人に勝手にあげたりしちゃいけないように。税金も国民みんなのものだから、誰か一人で使っちゃいけないんだよ、みたいなカンジ? そういう感覚っていうのが、大人たちの中にあるような気がする」
ユーリ「それは……保険の場合は、『こういうときにお金がもらえるけど、こういうときはお金もらえませんよ』っていうのが保険に入るときの契約内容として決めてあるんだよね? そこが違うのかもよ?」
天平「どういうことに税金を使えるか、国民一人ひとりが納得して、国と一人ひとり契約して税金を払います、ってわけじゃないもんな? そういうとこが違うせいなのかもしれないけど。――ほら、中国の武漢で新型ウィルスの感染が拡大し始めたとき、武漢にいる日本人を日本に帰国できるようにチャーター機を飛ばそうってなったけど、そのときの飛行機代は、もともと、帰国者の自己負担にしますって話だっただろ?」
ユーリ「ん? あ、そうだったね? そう言えば――」
天平「それも、国からお金を出さないのは、同じようなケースのときに国がお金を出したっていう前例がないからだ、って説明がされてたけど――」
ユーリ「それで、政府が盛大にブーイング食らってたよね。ブーイングっていうか、非難されてなかった?」
天平「自己負担しろって言われたら、お金がない人は帰って来られないからな。自己負担させずに国がお金を出してやればいいのに、国のくせに、外国で困っている自国の国民を助けるためにお金を出さないのか、みたいな? そういうこと言われてただろ?」
ユーリ「そうしたら、国が、チャーター機で帰ってくるのにかかる費用とかを国が負担することにした、って――当初のプランから変更したんだよね?」
天平「こうやって変更するくらいなら、最初っから、国が負担するってことにしとけばよかったのに――みたく言われてたと思うけど。オレは、もしもそうしてたら、文句言ってた人、いると思う」
ユーリ「え? 文句って?」
天平「海外にいる人って、仕事だったり、旅行だったり、留学だったりで行ってる人がたいはんなんじゃないか? 北朝鮮に拉致された人みたいに、本人の意志じゃなく無理やり連れて行かれた人って、ちょっとなかなかいないと思うから」
ユーリ「それはまあ、そうだろうね?」
天平「ってことは、それって海外にいる人の自由意志っていうか。『自分が好き好んで、海外に行っているんだから、税金を使わなくても、自己責任で、自費で、帰国するべきじゃないのか』とか、そういうこというヤツ、出てたと思うわ、オレ」
ユーリ「……ああ。そういう……。そうだね、そういう話になってただろうね、まずはきっと。それで、その後、武漢の感染の状況がひどくなっていったら、自己負担だと帰国できない人を国のお金で救済しよう、って話になっていったかも?」
天平「そうなったんじゃないか、って、オレも思う。――だから、そこなんじゃないか?」
ユーリ「そうだね、これはソウ力の問題だ」
天平「そうだろ? どれだけ国民に受け止める力があるか。そこが問題なんだと思う。国民に受け止める力がなければ、ダメージを受けた人だけに税金を使う、ってことはできないんじゃないか?」
ユーリ「うん……。同じように税金を払っているのに、ダメージを受けた人だけ国から回復資金をもらえるなんておかしい。それじゃ、ダメージがなかった人や少なかった人は、損をするじゃないか。――そんな風にしか考えられない人たちがいると、国のお金を、ダメージを受けた人に集中的に使わせることに反発が起きてしまう」
天平「自分が損をすることになっても、全体にとっていいことがなんなのかを考える力――それを、国民一人ひとりが持っているかどうか。それを国民一人ひとりが持たなければ、ダメージを受けた人のために税金を使うことはできないと思う」
ユーリ「そうだね。――つまり、誰か一部の人が税金を使うことを、使えない人が『不公平』だと見てしまうと……救済は成立しない」
天平「人のことを考えることができなければ、みんながみんな、自分に都合のいいように国を動かそうとしてしまいかねない。そういうことになるんじゃないか? 実際は、そんなことになったら、自分がダメージを受けたときに自分の首を絞めることになるのに」
ユーリ「――税金の使い方ひとつとっても、自分が損するか得をするかだけで考えてしまうと、税金の使い道を決めるにあたって混乱がおきてしまって、速やかな対応が取れなくなってしまうね……」
天平「国のお金って、国民一人ひとり――っつっても、大人だけで子供は出してないけど――国のお金は、国民が出した税金から出来ているから、誰か特定の人に使うのはNGだ、って考えてる人、多いと思うんだ」
ユーリ「……うん」
天平「誰か特定の人のために使うのは、その人だけえこひいきされてて、その人だけ得してる。その人が得をする分、税金を使えない人は損しているじゃないか、って。税金に対しては、そういう感覚を持ってある人が多い気がする。――そういうカンジ、しないか?」
ユーリ「する。するよ。そういうカンジする――」
天平「だろ?」
ユーリ「そういう人たちってきっと――税金を特定の誰かのために使いたいなら、その人に使ったお金を、その人以外の人にも同じだけ使ってあげないと不公平だ、みたいな? そういう風に考えそうだよね?」
天平「けどさ、他の人にもお金を配っていたら、お金がいくらあったって足りないだろ?」
ユーリ「足りないよね。それに、ダメージがない人がもらっても、それは余分なお金なんじゃないのかな? なくてもやっていけるわけだよね?」
天平「お金はいくらあっても困ることないから、もらえるならもらいたいとこだけどさ? たくさんの人で分ける場合、一人がもらえるお金が少なくなるだろ? それじゃ、地震で壊れた家を直すために必要な補助金がもらえないみたいに、国からお金をもらえても、『もらえないよりはいい』けど『ダメージ回復するには足りない』ってことになってしまうんじゃないか?」
ユーリ「……そうなるよね?」
天平「……そうなるよな?」
ユーリ「けど、それでいいのかな? って、いいわけないよね? だって、ダメージから回復できずに、破産する人や倒産する会社がたくさん出てくると、日本経済全体がダメージを受けることになるよね?」
天平「飲食店がダメになると、飲食店が仕入れる食材や調味料やおしぼりやなんかを作っている生産者さんたちがダメになるだろ? 店舗を借りているお店だったら、お店の大家さんも困るし、従業員さんも働く場所がなくなるし……お店とか会社とか、そういう企業……っていうか、事業者っていうのか。事業者が一つダメになると、その事業者と取引していた人たちも、そこで働いていた人たちもダメージを受けて、バタバタ共倒れしていくだろ?」
ユーリ「そうやって共倒れしていった人たちが、それからどうするかって言ったら、生活できなくなるだろうから――」
天平「生活保護を受ける?」
ユーリ「けど、バタバタ共倒れしていったら、どれだけの人が生活保護を受けることになる? 生活保護を受ける人がたくさん出てきたら――税金を納める人より、生活保護を受ける人の方が多くなったら――どうなる?」
天平「どうなる? って――やっていけないよな?」
ユーリ「生活保護をほしい人にお金を渡していったら、国のお金無くなるよね? 新型ウィルスの治療薬の開発は? 国ってお金出さないのかな? 製薬会社がすべて自費で開発しなきゃいけないってなったら、満足な研究が出来なくて開発が進まないんじゃ? それって、どこかで感染者が出るたびに自粛する生活が延々続いていくことになるってこと――?」
天平「よその国が治療薬を開発しても、日本が国のお金で治療薬を買うんじゃなくて、個人個人でお金を出してよその国から直接買ってください、みたいなことになったりしてな?」
ユーリ「……」
天平「……」
ユーリ「……経済がダメージを受けると医療体制も崩壊するし、救える命も救えなくなるって、天平、言ってたけど。ホント、経済がダメになっていったら、僕たちの将来ってどうなるか全然わからないよ?」
天平「だからさ、自分たちの命を守るためには、経済をダメにしないことが大事なわけでさ? 経済をダメにしないためには、ダメージを受けた事業者が、ダメージを回復していくことが大事だと思うんだよな?」
ユーリ「そうだよね? ということは、みんなに同じようにお金を行き渡らせるんじゃなく――保険みたいなお金の配り方ができればいいわけで。つまり、ダメージを受けていない人はお金をもらえないけど、ダメージを受けている人が集中的にお金をもらえるようにすれば、ダメージから回復できる」
天平「そういうことができれば――誰かが自分で背負えないようなダメージを受けたときに、国に助けてもらえる前例ができる!」
ユーリ「――ってことだよね。それこそ、超個人主義の本領発揮だ」
天平「ホントホント。人が困っているときにその人を助けていく環境を作っていくことで、自分が困ったときに助けてもらえる。それが超個人主義の狙ってるところだから」
ユーリ「うん」
天平「今、他の人がお金をもらっているのに自分はお金をもらえない、っていう人がいても。それが、ダメージのない人やダメージの少ない人にはお金を回さずに、ダメージの大きな人に多くお金を渡したからだとしたら――自分がお金をもらえないことを受け入れる。そうすることで、自分が大きなダメージを受けたときに、回復できるように助けてもらえる。そういう仕組みを作りたいんだよな」
ユーリ「今は、新型ウィルスの影響で、収入が減っている仕事と。逆に、収入が上がっているかはわからないけどマスクの生産みたいに、ガンガンフル稼働でやっている仕事と。これまでとそう変わらない仕事とかに分かれると思うし。収入が減っても、これまでにたくさん稼いでいて、十分な資産を持っている人だっていると思うし……」
天平「それぞれの人の状態に合わせて、ダメージの度合いで、回復資金をもらえたり、もらえなかったり、ってできればいいと思うんだよな?」
ユーリ「そうだよね? 日本全体を一つの生き物って考えて、その生き物の中のダメージを受けているところを治して、元気なところにがんばってもらって、日本っていう生き物を生き延びさせることを考えていかなきゃいけないんじゃないか、って思うんだけど……ね?」
天平「けど、そういう風に考えない人、意外と多い気がするから。だから――税金は税金で、必要なことに使っていくことを考えていかなきゃいけないと思うけど。それ以外に、つまり、税金で作られた国のお金以外に、特定の個人や企業を支援するために使いやすいお金があるといいと思うんだ」
ユーリ「そうだね。けど、だからってそこで、宝くじ式支援、ってわけにもいかないよね。その、宝くじ式支援ができないってわけじゃなくて――」
天平「なんでもかんでも宝くじ式支援しようとしても、無理があるよな? 宝くじ式支援はお宝になる何かがあって、それをほしがる人がいっぱいお金出してくれるから成立する支援だから。個人のお店に対して、そのお店の支援になるだけのお金が集まるかはわからないよな?」
ユーリ「んー。でも、お金の集め方としては、宝くじじゃないなら……企業だったら、株を売って資金集めするって方法もあるんだろうけど、今回みたいな、新型ウィルスでダメージを受けている人や企業の回復のためにお金を集めるとなると、株で資金集めってわけにはいかないだろうし。あとは――クラウドファンディング? けど、クラウドファンディングは……」
天平「クラウドファンディングも、それでだけお金集めていくのはキツいよな? 寄付型のクラウドファンディングだと、協力してくれる人がある程度お金を出し切ったら、そこからさらにお金が集まっていくかどうか……? お金をあげるばっかりで基本的に見返りないから、一時的にバーッてお金が集まったら、それ以上はあまりお金が増えていかない気がする」
ユーリ「集めたお金も、どう使うかが難しいよね? ダメージの度合いは人それぞれだから、誰にどれくらい必要かを調べて、それから、お金が必要な人や必要な企業にお金を配ろうとしたら、まず、その『調べる』ってところに労力や時間やお金を使わなきゃいけなくなってしまうだろう? それじゃもったいないっていうか……」
天平「申告制にすると、その手間は省けるよな? お金が必要な人や企業が、いくら必要か自己申告する」
ユーリ「それだと、もらわなくてもやっていけるけどお金もらえるならもらっとこう、って、『新型ウィルスで困っているので、これくらいお金ください』ってやっちゃう人が出て来るんじゃない? 新型ウィルスのせいで経営状態が変わったわけじゃないのにお金をもらおうとする人もいるだろうし、そこまで悪質じゃなくても、新型ウィルスの影響はあるけど資金援助を受けなくてもなんとかやっていけるのに、もらえるものはもらっておこう、で、お金をもらいに来る人とか。そういう人たちにまでお金をあげてたら、倒産寸前のところに回復できるだけの資金援助できなくなってしまわない?」
天平「そうだよな? お金をあげますって言ったら、正直、誰だってほしいもんな? そしたらやっぱりそうなると思うんで。だとしたら――貸す?」
ユーリ「貸す、って、集めたお金を、ほしがる人に貸す、ってこと?」
天平「んー。お金を『あげる』じゃ、要らない人でももらおうとするだろうけど、『あげる』んじゃなくて『貸す』んだったら、『返さなきゃいけない』から。後で返さなきゃいけない、つまり、自分のものにはならないお金なんだって思ったら、自分たちでなんとかやっていける人は自分たちだけでやっていこうとするんじゃないか?」
ユーリ「けど、例えば、旅行関係の会社だと、露骨に新型ウィルスの影響出てるよね?」
天平「感染を拡大させないためには旅行自体をやめたほうがいいからみんなが旅行やめて。旅行する人がいないと仕事ができないわけで、仕事ができないと会社に収入が入らないから、どこも厳しいだろうな?」
ユーリ「会社に収入が入らないと、働いている人にお給料をあげられなくなるから、そこで働いている人たちが生活していくために必要な生活費を用意して支援してあげないといけないと思うけど――その生活費が、もらえるんじゃなくて借りられるってことで、後で返さなきゃけないってなると――ほら、給料の前借りをしちゃうと後が大変って話、しただろう? それと同じで、後で返すのって大変なんじゃないかな? 後日、前借りした給料の分、いつもより多くお金を稼げるっていうならいいけど……?」
天平「旅行関係の仕事はさ、ハッキリ言って、今後しばらく、開店休業状態だから、いっそ、休業にした方がいいと思う」
ユーリ「それはわかるよ。問題なのは、休業している間に、その仕事をしている人たちがどうやって生活していくか、だよね? 生活費がなければ、自粛ってできないんじゃないかな?」
天平「旅行関係の仕事の場合は、一時的に、宅配業をやったらどうかと思う」
ユーリ「ん? 宅配業? って――あ。商売替え? というか、臨時転職?」
天平「そ。旅行するとか、鉄道やバスに乗るとか――タクシーは窓を開けて乗れば感染リスク減らせると思うし、鉄道やバスも、窓際で窓あけて乗る分には感染リスク少なそうだけど――飛行機に乗るとか、ホテルとか、そういう体験型の仕事とかは、できるだけ休業にして。床屋もかな? あ、あとはアレ、ホストクラブとか」
ユーリ「ホストクラブ……ホストクラブ?」
天平「オレ、マジでテンパッてたときは、年齢ごまかしてホストやって稼げないか、かなり真剣に考えたことあってさ? ま、無理だな、って断念したけど」
ユーリ「ぼくたちお酒飲めないから、まず、そこで無理だよね」
天平「まあな。見た目も、さすがに二十歳すぎって言い張ろうとしても通らないよなー」
ユーリ「ええと、ホストクラブって――換気のいいホストクラブって、なさそうだけど? 感染リスク……」
天平「感染リスク高そうじゃないか?」
ユーリ「そうだね、高そうだよね? その、実際に行ったことないから、どんなとこかわからないけど。テレビのドラマかなんかでチラッと見かける分には、感染リスクを抑えながらホストクラブとかやっていくのって難しそう……」
天平「ホストクラブの場合は、休業にするっつっても、お店での仕事を休めばいいだけで。ホストの人が、彼氏風の動画をお客さんに配信したり、電話でお客さんと話をしたり、ホストの人が、実際に会わずにお客さんをおもてなしするようなやり方とか、あるんじゃないかと思うけど。料理上手なホストさんだったら、家で料理している動画とか、オススメレシピとか紹介するとかすればいいし? そんで、お客さんは『ご指名』する感覚で、自分が推してるホストさんの動画を見て、そしたらホストさんにお金が入る、みたいなの作れば」
ユーリ「『おうちでホストクラブ体験』みたいな?」
天平「――コトもできると思うんで、そういうのやれるんならやってけばいいと思うけど。ホストクラブがホームページに、ホストさんたちの顔写真並べて、『ご指名』するホストさんの顔写真をクリックすると、そのホストさんの動画とかブログとかを有料で見られるとかしたら、ホストクラブ感出るんじゃないか?」
ユーリ「そういうホストクラブなら、それこそ、うちのおばあちゃんでも体験できるかもね? いや、やってほしいわけじゃないけど」
天平「かえってお客さん増えたりしてな? ホストさんと電話ができるサービスとかあったら、今っていろいろ不安だったりしんどかったりする人いると思うから、ホストさんにいろいろグチったり相談したりできると、それで少し元気になれたりするかもよ?」
ユーリ「その場合、ついつい話しこんじゃって、後ですんごい金額を請求されたりするとまずいんじゃない?」
天平「んじゃ、プリペイド式にしとく? ホストクラブのサイトに、自分がこれくらいなら使ってもいいぞ、って額を入金できるようにしといて、そのお金の範囲で、動画見たり、電話したりできるようにしといて。入金できる金額は上限をあらかじめ自分で決めておくと、最初に入金したお金を使い果たして追加金を入れようとしても、あらかじめ制限した上限を超える額は入金できない、とかしとく? っつか、入金の上限とか作っちゃうとホストクラブって商売として成立しない気もするけど」
ユーリ「けど、上限とか作っておかないと、今は新型ウィルスで不安になってる人が多いから、毎日のように電子上のホストクラブに通いつめて、ホストクラブに依存する人出て来そう」
天平「依存するのはよくないよな? だから――無料で相談に乗ってくれるサービスとかも必要だよな……って、そういうのも、また考えていくとして。ホストクラブみたいにSNS使って仕事できそうな仕事はSNSとか使って仕事していくことを考えていくだろ?」
ユーリ「代替業務でやっていけるとこは、そうしてけばいいよね」
天平「映画館なんかは、日本だけじゃなく、世界の国と協力して、最新の映画を特別に有料で配信して、そのお金の一部を各地の映画館に分配する、とかすればいいと思うし」
ユーリ「そうだね。それで、有料配信サービスされた映画であっても、感染問題が落ち着いてからあらためて映画館で上映して、みんなで観たっていいしね」
天平「ん。そんで――SNSとか使う方法で仕事ができなさそうな仕事の場合。お客さんが来てくれてなんぼの商売っていうのは、いったん、休業するだろ?」
ユーリ「それで?」
天平「休業せざるを得ない仕事とは逆に、今だから人手がほしいとこ、ってあると思うんだ」
ユーリ「今だから人手がほしいところ……あ! ホストしてある人でも、看護師とかの資格持っている人いたら、看護師さんやってくれるといいよね?」
天平「おお。いたらいいな! 人手が足りないところとかに助っ人に入ってくれると、きっと助かるとこ、あると思う」
ユーリ「それで、えっと、医療関係以外に人手がほしいとこっていうのが、宅配業?」
天平「宅配の配達してくれる人は、いっぱいいた方がいいんじゃないか?」
ユーリ「けど、宅配の場合、人手があっても、宅配のための車がなかったら、できなくない? それに、トラックの場合、トラックを運転できる免許が必要なんじゃないっけ?」
天平「軽トラとかだと、普通の車を運転する免許でできたと思うけど?」
ユーリ「特別な免許が要るかどうかは、トラックの大きさとかで違うか」
天平「別にトラックで宅配しなくても、自分の車とか、自転車とか、なんなら手に持って運ぶとか、できる方法で運ぶっていうのでいいと思うんだけど?」
ユーリ「その場合、自分の自家用車で宅配されるの、それこそ、潔癖症の人とかはイヤなんじゃないかな?」
天平「車は自分のでも、その車に、宅配用のボックスを入れて、そのボックスの中は衛生的です、みたいになってればいいんじゃないか? ダメかな?」
ユーリ「どうだろう? 今は新型ウィルスのこともあるし……」
天平「だから、宅配するにあたって気をつけなきゃいけないこととか、どうやって仕事をすればいいのか、そういうのを対策会議から指導してもらえるといいと思うけど? っつか、むしろ、対策会議が臨時で宅配会社を作って、仕事できてない人を雇って給料を払う、とか?」
ユーリ「あ、『農業会社』でやろうとしてたこと?」
天平「ん? あ、そうそう、そうだよ、そーゆーコト」
ユーリ「対策会議に協力している宅配業のスペシャリストたちや、実際に今も働いてある宅配会社そのものが協力すれば、臨時の宅配会社、作れるかもね?」
天平「いけそうだろ?」
ユーリ「どんな形になるかは僕じゃわからないけど……感染を拡大させないように宅配業の人たちが取り組んでる新型ウィルス対策とかあるだろうし。配達している人やお客さんを新型ウィルスから守るために実践していることや、よくなかったこととか、複数の宅配会社どうしで情報交換して、マニュアルとか作って、宅配業をやったことのない素人でもやりやすいように考えてくれそう」
天平「地方ごとに、どんな会社があるのか、人手が足りないとこと足りてるとことか、必要なこと、違うと思うから。地方の特色とかに合わせて、宅配業もネットワークっていうか、宅配体制っていうのを整えていくといいと思うんだよな?」
ユーリ「長崎だと、すんごい坂が多いっていうから、人が担いで持っていく方がいいのかもしれないよね? それか、音がうるさいかもしれないけど、ドローンが使えたらドローンを使うとか?」
天平「そうやって、要するに――仕事ができてない人がとりあえず身を寄せて、生活していくために一時的に仕事をもらって働いて、また自分の仕事をするときが来たら卒業していく、みたいな場所ができればいいと思うんだけど……?」
ユーリ「……だったら、宅配業じゃなくてもいいよね? ほら、バイトのアプリのCM。人手が必要なとこが、どういう仕事してほしいか要望を出して、働きたい人が、この仕事ならできるからバイトに入ります、みたいなの、やってない?」
天平「そっか。そういうマッチングアプリやってもいいよな? 逆に、自分はこういうことできます、とか、こういう仕事をしている会社です、とかって、会社ごと売り込んでもいいし?」
ユーリ「会社ごと?」
天平「んーと、そだな……警備会社とか」
ユーリ「警備会社の人に別の仕事をしてもらうってこと?」
天平「あ、警備会社の場合は別の仕事じゃなくて、警備の仕事で。ほら、熊本の地震のときに、地震が起きて間もないころから火事場泥棒が被災地をうろついてたから、村の入り口に関所を設けたり、被災者が自警団組んで独自に自衛してたって話、あっただろ?」
ユーリ「ああ、紗智子さんの友達が住んでるとこ、そんなカンジだったってね?」
天平「感染避けで自粛生活してると、例えば、夜遅くまで居酒屋さんとかでにぎわってる街とかが、時短営業で夜は誰も人がいなくて真っ暗、とかになっちゃうかもしれないだろ? ゴーストタウンとまではいかないけど、人気のない場所が出てくるかもしれないから、そういうところって、火事場泥棒じゃないけど、泥棒に狙われるかもしれないな? って思って」
ユーリ「ふだんより人気がなくなるところとかの防犯対策を警備会社に依頼して、警備員さんたちに見回りしてもらったり?」
天平「必要があれば、だけど」
ユーリ「そうだね、詐欺汚染だけじゃないね、怖いのは」
天平「こういうときこそ狙い目! って狙ってくる悪質な泥棒もいるかもしれないし、新型ウィルスのせいで仕事がうまくいかなくなって生活に困って泥棒する人も出てくるかもしれないし。テレワークとかって在宅勤務で働く会社が増えると、会社に人がいない状態が続いて、泥棒に入られても、入られたことに気づかなかったりとかもあるかも……?」
ユーリ「……そんなことになったら、あんまりだね……」
天平「考えすぎかもしれないけど。いろんな可能性考えて備えといたがいいかもな? って」
ユーリ「そうだね……」
天平「ま、警備会社だからって警備の仕事しなくても、他の仕事でもいいわけで。会社の人丸々、うちの宅配会社で雇います、みたいなマッチングもあるかもよ?」
ユーリ「そうだね、そうやってバイト――って言うか、臨時仕事マッチング、みたいなのができれば、働けてない人も臨時の仕事ができるようになるし。臨時でもなんでも、仕事ができれば収入が入るから、生活していけるわけだし……」
天平「それだと、給食の話してたときにユーリが言ってた、給食をお弁当に詰める作業をするのに、新型ウィルスの関係でリストラされた人を雇う、っていうのも、マッチングでやれるんじゃないか?」
ユーリ「あ。ホントだ。いいね、臨時仕事マッチング」
天平「ただ、その場合、気をつけなきゃいけないのは――この状況下でもなんとか仕事を維持している人たちの仕事を、臨時仕事が横取りしてしまわないようにする、ってことだと思うんだ」
ユーリ「そう言えば、そんな話、聞いたね? ミヤのとこの話だよね?」
天平「ミヤのおばあちゃんのお父さんの話、だったよな?」
ユーリ「つまり、ミヤのひいおじいちゃん」
天平「そのひいおじいちゃんが、腕のいい大工さんで仕事もよく依頼されてたけど、なんか政治で政権交代? があったとかで、日本が社会主義? 的な体制になったせいで、国が、失業して仕事がなかった人に優先的に仕事をさせるようにしたせいで、それまでまじめに仕事してたミヤのひいおじいちゃんの仕事がなくなっちゃって、家にお金が十円しかなくて、あやうく路頭に迷うところだったって、おばあちゃんがミヤにたまに語ってるって話、前にミヤが言ってたの思い出して」
ユーリ「新型ウィルスの感染問題のせいで仕事ができなくなっている人をサポートしていくことは大事だけど、そのせいで、自分たちで仕事や生活を守っている人たちが生活できなくなってしまったら、それはそれで意味がないもんね?」
天平「みんなでいい方向に向かっていきたいからな」
ユーリ「そうだね……。あ。話戻るけど、さっきのホストクラブのやり方の応用、思いついたんだけど」
天平「おお?」
ユーリ「スポーツジムも利用する人減ってると思うけど、テレビ電話とかで家で鍛える方法をジムのトレーナーさんが教えてくれたら……つまり、トレーニングを個人個人向けに遠隔指導する、っていうか、通信制の指導をするってできないかな?」
天平「ジムか……。ジムの場合、ジムの施設や設備をどうやって活かすかってことを考えてたけど、トレーナーさんの通信制の指導をビジネスにするのか。それもおもしろそうだな?」
ユーリ「だから……。確か、スポーツジムって、一回使うごとにいくら払う、っていうやり方じゃなくて、会員さんの会費がジムの収入になっているんだよね? ジムを利用したい人が会費を払って会員になることで成立しているんじゃないっけ?」
天平「一般的なジムは、そうだと思うけど?」
ユーリ「だとすると、ライブの場合は、代替ライブをする代わりにチケット代をライブの準備にかかった費用に充てようって言ってたみたいに、ジムの場合は、通信制のトレーニング指導をするのを、代替ジムってことにして、会員さんにはこれまで通り会費を納めてもらうようにしたら、やっていけるんじゃないかな?」
天平「代替ジムか……」
ユーリ「ジムに会費を払っている会員さんが、自分の家の中にあるものを使って、効率よく、その人に合ったトレーニングができるように、テレビ電話で通話しながら、家でトレーニングする。ってカンジでやれるなら、やりたいって思う人、いるんじゃないかな?」
天平「トレーニングって、下手にやるとかえって身体を傷めたりしかねないって聞くから。自分の様子を近くから直接見てもらえるわけじゃないけど、画面越しでも、トレーナーさんに見てもらいながらやる方が、知識や経験のない人が一人で自分なりにトレーニングするより、安心安全だよな?」
ユーリ「それに、同じようなトレーニング指導をしてくれる人をネットで見つけた場合、もちろんちゃんとしたトレーナーさんが多いと思うけど、中には、経歴を詐称した『自称トレーナー』さんが紛れてる可能性もあるし。けど、その点、これまで自分が通っていたジムのトレーナーさんなら、ちゃんとしたトレーナーさんだってこと、信用できるだろうし」
天平「トレーニングか……。それって家の中でトレーニングするだけじゃなく、家の外に出て、人がいない道を選んで、スマホとか使ってトレーナーさんと連絡をとりながらウォーキングすることもできるよな? それができたら、気晴らしにもいいかも?」
ユーリ「だったら公園で鉄棒するとか?」
天平「遊具とか使うのは、感染リスクあるかもよ? 人と接近しないように、ウォーキングするかランニングするか、うさぎ跳びするか、それくらいにしといた方がいいかも?」
ユーリ「うさぎ跳びはキツそうだから……なわとびにしようよ?」
天平「なわとびは、周囲に人がいなくて、自分専用のなわとびだったら大丈夫かな? どうかな?」
ユーリ「その辺は天気の良し悪しもあるし。やっぱり感染リスクがわかんないよね? とりあえず、極力、基本的には家の中でトレーニングということで」
天平「そだな。ただ、周囲の人に、特に、マンションやアパートだと階下の人に音が響かないように運動するようにしないと。そこんとこも、トレーナーさんが一緒に考えてくれるだろうから……」
ユーリ「今って特に、家の中にいて運動不足になってる人、きっといっぱいいるだろうから。おうちでジムっていうのも、いいかもな、って」
天平「自分一人だと運動するのってついついサボってしまいがちだけど、トレーナーさんが一緒なら『やろう』って思うかもしれないもんな。……って、んん? おうちでジムは、グループレッスンしてもいいかもな?」
ユーリ「グループ? え? どういうこと? 家族でやるの?」
天平「ほら、オレらは家族いるから、自粛生活するって言っても、少なくとも一緒に暮らしている家族と家で顔合わせていられるだろ?」
ユーリ「うん?」
天平「『実際に会える』ってすごい安心感あるって思うっつーか、逆に、母さんとも誰とも実際に会えなかったら、今こうしてるみたいに画面越しに友達に会えても、やっぱりメンタル的にしんどいだろうな、って思って」
ユーリ「そうか、そうだね、一人暮らししてる人って――すごい不安だろうね、お年寄りでも若い人でも、誰でもきっと……」
天平「だからさ、一人暮らししている人に、『一人で家に居るようにして、誰とも極力会わないように自粛してください』って言うのも、どうかと思って。一人暮らししている人は、一人暮らししている人どうし二、三人くらいでグループ作って、ある意味、同じグループのメンバーとは、同居している家族と接するように接するって、できないかな? って」
ユーリ「そうか。……例えば、小牟田出身で、今、東京で一人暮らししている人で、家族は小牟田で暮らしている人だったら、小牟田にいる家族とは電話やSNSでのやり取りはしても、東京から小牟田に帰省して、家族と実際に会ったりするような接触はしないようにして。でも、その代わりってわけじゃないけど、東京に居続けている間は、東京にいる友達と一緒にごはん食べたり、通信ジムのレッスンを一緒に受けたり、家族みたいに支え合ったりできたら、いいんじゃないか? ――って?」
天平「アレだな、『遠くの親戚より近くの他人作戦』? 一人暮らししてて家にずっと一人で居たらしんどくなると思うから、会って話したりできる人がいた方がいいと思うんだよな? けど、誰とでも会っていたら、新型ウィルスが広がりかねないだろ? 誰から誰に感染していくかもわからなくなるだろうし、それがわからないと、自分が感染していることを知らずに人に感染させている人がそのまま人に感染し続けていくかもしれないし」
ユーリ「そうだね、それで、その人から感染された人が、さらに他の人に感染していくかもしれないし」
天平「それより、グループ内での感染リスクはあるけど、グループ外への感染リスクは少なくすませる、っていうのも、感染拡大を防ぐための工夫かな? って思って」
ユーリ「それだと……家族どうしで会うことはしない、というか、先延ばしにするけど。その代わり、さっきの小牟田出身の人の話でいくと、小牟田にいる家族から、東京で一人暮らししている人に、野菜やお米とか支援物資を小牟田から送ってあげたりしたらいいかもね?」
天平「あ、そういう『家族との会い方』っていうのも、よさそうだな!」
ユーリ「そうしたら、小牟田から送られてきた野菜を、同じグループの友達に分けてあげたり、一緒に料理して一緒に食べたりすると、楽しいかも?」
天平「支援物資が大量だった場合は、何人かで食べた方が、野菜を腐らせたりしないですむだろうし?」
ユーリ「そういうのって、グループというか……『チーム』かな?」
天平「『新型ウィルス乗り切りチーム』?」
ユーリ「『乗り切りチーム』。メンタルのこと考えると、そういうやり方もいいのかもしれない。けど――その辺は専門家に意見聞かないとなんとも言えないかな?」
天平「それもそうだな。そうやってチームになった人と気安く会うようになることで、チームメンバーじゃない人とも簡単に会うようになって、感染リスクが上がってしまうかもしれないもんな?」
ユーリ「それに『乗り切りチーム』制度を知らない人が、チームで行動している人を見て、『あ、ふつうにしてていいんだ』って勘違いして、ふつうに人とごはん食べに行ったりして、感染リスクの高い行動をとるようになってしまうかもしれないよね?」
天平「あり得るな。……チーム作ってる人たちは、同じリストバンドして『チームです!』って、人が見てわかるようにしとく?」
ユーリ「そういうことするなら、同居している家族も同じリストバンドかなんかの目印をつけといた方がいいかもね? 同い年の大学生くらいの兄弟くらいだったら、ただの友達にしか見えないかもしれないから、同居をしていない他人なのに一緒にいるみたく見えるかもしれないし?」
天平「お。それもそうだわ。そういう工夫もあった方がいいんかな……? 『チーム』制度をやるかどうかは別にして」
ユーリ「個人的には、もしも僕が一人暮らししていたら、『チーム』制度があった方が心強いと思うけど。同じチームのメンバーに自分が感染させるなんて絶対にイヤだから、感染リスクのある行為をしないように、すごく気をつけると思うし」
天平「仲良しなメンバーなら最高だよな! ケンカして険悪になると最悪かもしんないけど」
ユーリ「もしも『チーム』になることがあったら、仲良くやろう」
天平「仲良くな!」
ユーリ「ただ……思うんだけど」
天平「んん?」
ユーリ「こうやって、感染を拡大させないようにしながら仕事をしたり、生活したりしていけるように取り組んでいくのは大事だけど。臨時仕事マッチングができるようになったとしても、マッチングする仕事がないかもしれないよね? 臨時の仕事をしようにも、自分ができそうな仕事が自宅の近くにない人とかだと、働くのが難しいと思うんだけど……?」
天平「アレ? そう言えばもともとその話だったはずなのに、すっかり臨時仕事や、ふだんの仕事の代替モードの話になっちゃってたな?」
ユーリ「そうだね、天平がコースアウトしたんだけどね?」
天平「えっとぉ。――マッチングする臨時仕事がない場合。その場合はやっぱり、仕事ができないでいる企業や、仕事ができてない人個人に、お金を貸す」
ユーリ「んー。臨時仕事で生活できる人が増えれば、その分、お金を貸さなきゃいけない人が減るから、お金を貸し出しやすくなると思うけど……お金を必要とする人に必要な額を渡していけるだけ、お金を集められるかな? お金を借りた人って、お金、返せるのかな?」
天平「お金の集め方なんだけどさ――クラウドファンディングと代替ライブをミックスしたカンジでやれないかと思うんだけど?」
ユーリ「ミックス? ミックスするって?」
天平「動画で、支援基金、みたいなの作れないかな?」
ユーリ「動画で? 動画で支援って――熊本地震のときにやってあったヤツ? 熊本の被災地の映像とかを動画にして、一般の人がその動画を視聴すると被災地へ寄付が入るようになってて、みたいなのをやるってこと?」
天平「そのやり方もそれはそれでいいと思うし、実際、すごい支援になってたみたいだけど、同じ動画だと、二度三度と見ていたら、それ以上見るには『支援のために見よう』ってなってしまって、どこかで息切れしそうな気がするから……アーティストの代替ライブみたいに、『この動画を見たいからお金払って見マス!』みたいなのの方が、たくさんの人が何度もサイトの動画を見ようとするかもしれないな? と思って――」
ユーリ「つまり、たくさんの人が見たくなるような動画を配信する?」
天平「例えば、アーティストの過去のライブ映像とか、ユーチューバーの動画とか、映画やアニメとか、いろんな映像を見ることができるサイトを作って、そのサイトにアクセスするためには、お金を払わなきゃいけない――要は、有料動画サイトを作る」
ユーリ「それって、月額いくら、ってやってるヤツみたいにするわけ?」
天平「月額いくら、にしちゃうと、高く設定するとお金がない人が見られないし、安く設定するとお金がたくさん集まらないだろ? だから、例えば、最低百円から、とかにして、いくら払うかは、見る人が決める」
ユーリ「つまり――寄付?」
天平「そ。最低いくら、は決まってるけど、払える人はたくさん払ってくれるといいな、って思って。動画は、いろんな人から無償で提供してもらって、お宝映像とか、そうじゃなくても、人が見たくなるものがいっぱい見られるサイトにするだろ?」
ユーリ「その場合、一度寄付したら、ずっとその動画サイトを何度も何日も自由に見られるわけ?」
天平「んーと、そだな、そこはどうしたらいっかな……?」
ユーリ「じゃあ……週替わりメニューみたいに、一定期間で提供される動画の内容が入れ替わるようにして、この週の分を寄付します、とか選択して、寄付ができるようにする? その、週替わりにするとしても、毎週毎週、動画を全部入れ替える必要はないと思うけど」
天平「お! ソレいいな!」
ユーリ「それで、寄付するっていうと――支払い方法は? 宝くじ式支援のときみたいに、コンビニとか利用出来たらいいのかな?」
天平「コンビニのオンラインマネーでやれたらいいよな? そんで自分がこれくらいなら出せるぞ、っていうお金を寄付すると、動画サイトに入れるパスワードというか、入力コードをもらえて、それで、自分が選択した期間、動画サイトの動画を好きなときに視聴できるようにすれば」
ユーリ「あとは、ふつうのネット通販のときみたいにカードとか銀行口座とか使って引き落とせるようにしたり?」
天平「詐欺ができないように入金方法を決めて、お金集めて……」
ユーリ「けど、それやっちゃうと、これまで無料で動画を提供していた人が、その支援基金サイトに協力して、そっちにばっかり動画を提供してしまったら、無料で見られる動画が減ってしまわない? その、無料で見られるから発信力があるものだったりするんだと思うし、元気づけられてる人いっぱいいたりすると思うし。支援基金サイトを見るための寄付金の最低額を低く設定したとしても、寄付する余裕がない人は、有料では支援基金サイトを見られない、ってなるかもしれないんじゃ? なんかそれはちょっと……」
天平「支援基金サイトに動画を提供してくれる人は、ふつうの無料動画の活動とは別に、特別に支援基金サイト用に動画を用意してもらえたらいいよな?」
ユーリ「まあ、そうやってくれればいいけど……」
天平「テレビだって、ふつうのテレビはスポンサーが番組を作るお金を出してくれるから、視聴者は基本的に無料で見られるだろ? でも、それとは違って、スポンサーつかずに番組作ってるテレビ局もあるわけで」
ユーリ「NHKとかケーブルテレビとかだと、スポンサーついてないから、基本的に、見るのにお金かかるよね?」
天平「それと一緒で、無料で見られる動画はそれはそれで存在してて、それとは別に、支援基金サイトとか代替ライブとか、有料の動画サイトももっとあっていいのかもな? って思って」
ユーリ「小説とかもそうか……」
天平「小説?」
ユーリ「小説も、フリーのネット小説もあるし、電子書籍もあるし、電子書籍の場合は、ふつうに出版されているのより安くなっているものもあったりするけど、リアル世界の製本された本もあって、それはお金を出して買ってるわけで。製本された本は、パンフレットとかだと無料でサービスされてることもある。――動画もそれと一緒で、無料のものや有料のものがあっていいのかな? って」
天平「オレはそれでいいと思うよ? ただ、支援基金は、有料動画っていうより、クラウドファンディングのお礼に動画を見ることができますよ、ってカンジでイメージしてる」
ユーリ「そうだね、ホントは動画とか関係なく、通常の募金活動でお金が集まりそうならそうしていいところだもんね? 新型ウィルスでダメージを受けている人や企業のためにお金を集めるのが目的だから」
天平「とにかく、お金出せる人はいっぱいお金出して、出せない人はそんなに出さなくていいから出せる範囲でお金出していくだろ? そんで、そうやって集めていって集まったお金を、お金が必要な人に無利子で貸していく」
ユーリ「そこなんだけど……。お金をあげるんじゃなくて、貸していく方がいいんじゃないか、っていう意味はわかるけど、借りたからには返さなきゃいけないわけだよね? いつまでに返せばいいことにする? すぐに返せって言われても、お金って簡単に作れないんじゃ?」
天平「その辺は、その人の仕事の状況とか、収入の状態とかに合わせてやりくりしてけばいいんじゃないか? いちおう、一年とか二年とか五年とか、期限を区切っておいて、期限内に返せない人は、その都度、次の期限を考えていくようにしていけば……?」
ユーリ「それだと、返せないからいいや、って、期限を延ばしてもらうのがクセになるっていうか、ズルズル延ばしていくうちに、もう払わなくていいでしょ、ってなってしまって、そのまま闇にされてしまいそうだけど……?」
天平「というか、期限内に返せない人は、仕事とかがうまくいってないかもしれないから、その人が収入を得られるようになっていくために、仕事の相談に乗ったり? えっと、経営コンサルタントの人とか、あとは、人気ラーメン店を起ち上げた創業者とか、やり手の実業家さんとかが、経営アドバイスしたり、他の仕事を勧めたりして、生活を安定させるお手伝いをして、お金を返せるように持っていくといいんかな? って」
ユーリ「あ、お金をあげずに貸すのって、そこが狙い?」
天平「狙ってます! ……というほど狙ってたわけじゃなくて、今ハッキリ、頭ん中でカタチになったってカンジなんだけど。要するに、お金を貸し借りすることにしておくと、返せない人は生活ができてないかもしれないから、生活を立て直すサポートをしてあげるだろ? そんで生活を立て直して収入を得られるようになると、お金返せるやん?」
ユーリ「なるほど。お金をあげるんじゃなく、貸すことで、貸した後の生活が安定しているかどうかを見守り続けることにもなる、ってことだ?」
天平「そんなカンジ」
ユーリ「ってことは……支援基金って、いっぱい集まっても、人や企業に貸して減っていくわけだよね? それと同時に、動画を配信し続ける間は寄付金が入って来るだろうし、お金を借りた人が返してくれれば支援基金のお金も戻ってくるわけだけど。支援基金って、貸したお金が全部返ってきたら、そのお金ってどうする?」
天平「防災防疫軍の設立費用に充てればいいんじゃないか? とか思ったりもしたけど、考えてみたら、これから先も、こうやってお金が必要になることってあるんじゃないか? と思って」
ユーリ「あ。それもそうだね? つまり、プールしとく? 支援基金はずっと存続させて、なんなら、動画の配信もずっと続けて資金を集め続けていって、これから先、また、豪雨とか台風とかで被災する人がいたら、そういう人たちが利用できるようにすればいいわけで――それに、日本だけじゃなくて、海外の人の支援に使うこともできるかもしれないし……?」
天平「うんうん。なんか、そんなカンジでやってくとよさそうな気がする」
ユーリ「そうやってダメージを受けた人が回復していくためのサポートをしていけるお金――資金源――っていう土台ができると、これからも心強いよね」
天平「個人個人なこととかこそ、ホントはしっかりサポートがほしいとこだもんな、きっと、マジで。――家が壊れたのに家を建て直せるお金がもらえない上に仮設住宅も期限過ぎたら出ていかなきゃいけないっていうのじゃ、ヤバいだろ? 県営住宅とかに入れればいいのかもしれないけど、それだって誰もがみんな入れるわけじゃないんだろうし? それより、元々の家より小さくなっても家を建て直せるようサポートできたらいいのに、って思うだろ? もしも自分がそうなったらって考えたら」
ユーリ「災害時の個人的なダメージだって、個人個人でももちろんがんばるけど、個人で回復できないレベルだったら……元通りとはいかなくても、ダメージ受けた人が個人でやっていけるようになるとこまで、他の人たちが協力して支えていく。自分が被災したら、そうしてほしい。そういう国であってほしい。それと同じで、感染症でダメージを受けた人がいたら、その人が危機的状況を脱したり、ダメージを回復したりできるように、サポートがほしいよね」
天平「自分がダメージを受けたら、って考える。自分だったらどうしてほしいか考える」
ユーリ「自分だったら、って考えると。災害やパンデミックが起きて倒産しそうになった企業があったら、会社やそこで働いている人を守るために、倒産させないようにサポートするとか、仕事ができなくなった人たちが生活していけるようにサポートするとか。そこまでのサポートができるようになるのが理想だよね」
天平「ただ、そうやってダメージから回復できるように、手厚いサポートをしていくためには、ダメージを受ける人や企業をできるだけ少なくしておかないと。ダメージがデカすぎたら、助けられなくなってしまうだろ」
ユーリ「そうだね。旅行会社とか空港とかホテルとか、そういうところは厳しいよね、きっと……」
天平「……」
ユーリ「ん? どうかした?」
天平「……うわぁぁぁ!」
ユーリ「えっ⁈ なに⁈」
天平「そうだった! その話だった!」
ユーリ「ええ⁈ なにが?」
天平「実はさ、昨日、うちの大家さんの親戚のおじちゃんから電話があってさ」
ユーリ「え? 天平に?」
天平「んにゃ、うちの母さんに。おじちゃん、こないだ初孫が生まれたとかで、赤ちゃんのことでよくわからんことがあると、母さんに電話かけてくるんだ」
ユーリ「あ、そういうこと」
天平「そんで、そんとき、母さんうちにいたから、オレもおじちゃんと話しこんじゃったんだけど、話題は新型ウィルスのことでさ」
ユーリ「ん? え? もしかして、そのおじさんの身近で誰か感染したとか?」
天平「ああ、そういうことじゃなくて。天神とか博多とかって、中国からの観光客向けのホテルとか旅館とかが軒並み、経営が厳しくなっているんじゃないか、って、おじちゃん気にしてて」
ユーリ「おじさんってどこに住んでる人?」
天平「小牟田に近いってよ? オレはまだ遊びに行ったことないけど、熊本との県境の方.。山持ってて、みかんとか作ってるんだって。みかん採れると分けてくれる。甘くてうまいの」
ユーリ「ふーん?」
天平「それで、テレビとか見てて、小牟田とか柳川とかから天神や博多に通勤している人がいたら、通勤するのをやめて、向こうの、空いてるホテルにしばらく住んで、そこから通えるようにした方がいいんじゃないか、っておじさんが」
ユーリ「え? ホテルに住む? ホテルに住むって、あ、福岡市内に職場がある場合、そこの近くのホテルに住めば、小牟田から電車に乗って通勤しなくてもいいから、感染リスクを減らせる?」
天平「その上、お客さんの減ってるホテルも、お客さんが入るから助かるだろ? 要は、単身赴任状態、っていうか?」
ユーリ「そうだね、それに、その場合、同じ人が同じホテルにしばらく滞在することになるよね? その方が荷物を置きっぱなしにできるから楽だろうし」
天平「そうなるんじゃないか?」
ユーリ「それだと、不特定のお客さんがホテルを利用するより、同じ人が同じ部屋を利用するようにした方が感染リスクは少なくなりそうかな? って。人の動きを把握しやすくなるし。同じ部屋を使っていたら、ふつうのマンションに住んでるみたいなカンジになるよね? だから、ホテルをマンスリーマンションみたいな使い方にするカンジ?」
天平「そんなカンジ。そんで、そのホテルは国や県が借りて、ホテル代を払ってあげればいいと思うんだけど、っておじちゃんが言ってたんだよ」
ユーリ「……おじさん、スゴい! そのアイディア、いいよね!」
天平「いいだろ? いいよな?」
ユーリ「ホテル代に関しては、そこに住む本人が自分で出せるなら自己負担してもらえるとありがたいけど、ホテル代払い続けるのはさすがに無理! っていう人の場合は、国とか自治体とか、あとはさっき話してた支援基金とかから払うといいよね?」
天平「それに、ホテル代自体も、これまで通りのホテル代じゃなくて、ちょっとまけてもらうだろ? 通勤をなくすための単身赴任の場合は、ホテル側にも、儲けは度外視してもらって、ホテルを維持していくのに必要なお金がいくらか計算して、必要なお金だけ国とかから払うようにすればいいわけで」
ユーリ「そうだね。そうすれば、ホテルの従業員さんたちが生活に困らないよう、お給料を払えるし」
天平「その給料も、できるだけカットしてもらうだろ? 生活していくのに必要な額は確保するけど、ふつうだったらそれ以上もらっていたとしても、そこは減額してもらって」
ユーリ「その辺も、従業員さんからできるだけ自己申告してもらえるといいよね? 自分たちはいくらくらいでいいです、って。それに、これくらいで生活できますって一度、減額した給料を決めたとしても、急にお金が必要になったら、逆に、お給料を多くもらえるとかしていけばいいんじゃないかな? ――いいんじゃない?」
天平「だろ? けどさ、おじちゃんの話って、コレだけじゃなくてさ」
ユーリ「ん? その口ぶりだと、かなりスゴい話?」
天平「スゴい話なんだよ、コレが!」
ユーリ「ナニナニ?」
天平「今、日本のホテルとか旅館とか、どこもかなり経営が厳しいと思うんだけど」
ユーリ「そうだろうね?」
天平「そういうホテルや旅館って、経営が苦しくなると――中国から買収されるかもしれない、って」
ユーリ「え?」
天平「ホテルも旅館も、そもそも、銀行とかからすんごい大金借りて建物の補修してたりするだろ? んで、ホテルを経営しながら少しずつお金を返していってたりするから、今みたいにお客さんが来ないと収入がないから、借金を返せないし、従業員の給料も払えないし、ってなってしまっていくから、お金がどうしても必要になってくると思うんだ」
ユーリ「それはわかる」
天平「そういうときに、どこからも支援がないと、このままじゃ倒産するし、借金だけ残る、しかも莫大なヤツ、ってなるよな?」
ユーリ「なるよね?」
天平「そこで、中国の実業家さんとかが、『お困りならお助けしますよ、こういうときこそ力になりますよ』とかなんとか言って、お金に困っているホテルや旅館を買い取ろうとしたら? 現にお金に困っていたら、ふつうだったら旅館を売るようなことはしないような老舗の旅館でも――売っちゃうんじゃないか?」
ユーリ「……ヤバ」
天平「ヤバいだろ? ヤバいよな? おじちゃんに言われて、オレもその可能性に初めて気がついてさ! ええ⁈ ソレ、マズくない⁈ って。マジで怖いと思って――それで、この話をしようと思ってそもそも今日、ユーリに連絡とったんだよ」
ユーリ「中国からしたら、ふつうだったら買えないようなホテルや旅館が買えちゃうわけだよね? しかも、相手は困っているから、かなり値切れるんじゃない? それで、でも、現実にお金がないから、ホテルや旅館の人たちは、泣く泣く売るしかない……」
天平「いや、中国の人たちに売っちゃいけないって話ではないんだけどさ? ただ――」
ユーリ「前に話してたヤツだよね? 日本って、建物もそうだけど土地も、『所有権』を海外の人に売ることを制限している法律がないから、極端な話、日本の土地が、非売地になっている土地以外はすべて海外の人が所有している土地になってしまうかもしれないわけで――」
天平「それってどうなん? いいんか? ってなるよな?」
ユーリ「もしも万が一にもそんな状態になってしまったら、日本なのに、日本じゃなくなりそうな気がする」
天平「日本の土地が、海外の人の土地になったからといって、海外の人が所有している日本の土地が、大使館みたいな治外法権になるわけじゃないけど――」
ユーリ「けど、日本の土地のほとんどが海外の人のものになってしまうってことは、理論上は可能なわけで。もしもそんなことになったら、海外の人の持っている土地に日本人が住まわせてもらってる、みたくなるよね? 自国の人間が他国の人が所有している国土を間借りしているって、どういう国? って話だよね?」
天平「それに、テレビでやってたけど、京都とか観光地で中国人がオーナーになって、中国人観光客向けにホテルや民泊をやってるとこが増えてるけど、そこを利用している中国の人たちが夜中でも大きな音をさせてたりして、近隣の住民が迷惑しているって、中国の人たちのマナーが問題になっているだろ?」
ユーリ「みんながみんなそう、ってことではないだろうけど、そういう話、あるみたいだよね?」
天平「実際は『マナー』じゃなくて、育ってきた『文化圏』の違いだと思うんだけどな? 中国の人たちの『ふつう』と、日本の人たちの『ふつう』は、たぶん違ってて。けど、その『違い』がきっと、かなりヤバいくらい違ってて、中国人の『ふつう』がしんどい日本人って、たぶんいっぱいいる、ってカンジ?」
ユーリ「なんか、パワフルだもんね? 中国の人たち。――しかも、ソウ力とか超個人主義とかとは逆方向にパワフルな人が多そう……」
天平「だから、これくらいは『ふつう』のことだ、っていう感覚が違うから、日本人と中国人とではトラブルが起きやすいと思うんだ。そこが、中国人が日本の不動産オーナーになるときの問題の一つじゃないか、って――思うんだよな?」
ユーリ「たとえ日本のホテルのオーナーが中国人になったとしても、それでそのホテルの中が中国の支配下になるというわけじゃないし、そのホテルの中では中国の法律に従ってください、ってなるわけじゃないけど、中国の人が『中国流』でやりやすい空間になりそうだよね……?」
天平「そういうの想像していくと、やっぱり、日本の土地を、海外の人が所有できるっていうのはどうかと思うんだよな?」
ユーリ「前、話してたとき、そういう話になったんだよね? 日本の土地は、日本国籍を持っている人と在日の人とかだけ所有できることにするか、海外の人が所有してもいいけど、日本の国土の何パーセント以下までしかダメだ、とか、法律で決めちゃわないといけないんじゃないか、って。――そしてそれが、おじさんが心配しているところなんだね?」
天平「そーなんだよ。法律で制限されていないから、お金が要る人や、お金はあるけど所有している土地を高く買ってくれる人がいるんなら高く買ってもらって現金化しておこう、っていう人が、海外の人に日本の土地を売っちゃうだろ、ってことでさ?」
ユーリ「特に、今みたいに、お客さんが激減して商売として成り立たなくなっているところは、売りたくなくても売らざるを得ないわけで――」
天平「売らざるを得なくて買い手を探していたときに、日本人が『買いますよ』って言ってくるとするだろ? 中国の人だと文化圏の違いで近隣の人とトラブルになりやすいかもしれないから、中国の人以外の誰かに買ってもらおう、って考えている日本人のホテルオーナーが、買うって言ってきたのが日本人だから、大事な宝物を預けるような気持でホテルを売ったとするだろ?」
ユーリ「うん?」
天平「そしたらさ、今度は、ホテルを売ってもらった日本人が、中国の実業家とグルで、その中国人にホテルを売っちゃうんだよ」
ユーリ「……ああ……」
天平「それか、グルではないけど、中国人のお金持ちなら自分が買ったときの値段より高く買ってくれるだろうと踏んで、ホテルオーナーから安くホテルを買い叩いた日本人が、中国の実業家に転売してしまう、とかも起こり得ると思うんだよな?」
ユーリ「……ありそう。ありそうだよ?」
天平「っていうか、すでにもう起こってたらどうする?」
ユーリ「どうするって……。なんか、やっぱり法律で土地の売買に制限をかけておかないと、知らない間に中国にいいようにされてしまうような不気味さを感じない?」
天平「不気味さか……」
ユーリ「確か、日本の和牛の受精卵を中国の人に密売しようとした日本人がいた、って、ニュースになってたことあったよね? それに、日本で苦労して品種改良した果物が、いつの間にか、中国で作って売られていたとか、そういうのもテレビでやってたし。そういうことがあったって聞いたからかな? 日本人のソウ力が低すぎるのも大問題だけど。――なんか、不安になるよね?」
天平「なるよな? そしてそれは、ホテル関係だけじゃなく、どの業種でも、な?」
ユーリ「そうだね、老舗料亭とか、三ツ星レストランとか、デパートやコンサートホールやライブハウス、テーマパーク、スポーツ施設、製造業とか……日本のありとあらゆる仕事が、中国の人に買収されて、中国化する可能性があるよね……?」
天平「あるよな?」
ユーリ「もしもそうやって、中国化していったら、どうなるんだろう? それが悪いことになるかはわからないけど、国として、それでいいのかな? ――ほら、世界には、『国』というか『国土』を持てていない人たちもいるわけだろう? それで、その人たちは、自分たちの民族の『国』を持つために紛争になったりとかしてたりするみたいだけど。日本には日本の『国』が、『国土』があるのに……」
天平「日本のホテルや土地や企業とかを中国人が所有することになっていったとしても、それで日本が日本という『国』じゃなくなるわけじゃないんだけど……ないんだけど! やっぱなんか、違う気がするわ」
ユーリ「だけど、だからって、中国の人が日本の土地やホテルや企業なんかをほしがっても売らないようにしてください、って、持ち主の人になんとかしてもらうってわけにもいかないしね」
天平「そうなんだ。だって、例えば『国全体として、日本の土地や企業が中国人にどんどん買われていったらダメだろ、中国人には売るなよ!』っていう人がいても、その人が、買いたがってる中国の人の代わりに、困っている人から土地を買って、お金を渡してあげるわけじゃないからさ?」
ユーリ「お金に困っている人を助けるわけじゃないのに、お金に困っている人が自分でなんとか助かろうとするのをやめさせようとするなんて、あんまりだよね。国のために犠牲になってくださいって言ってるようなもので。そんなのおかしいって思うよ」
天平「だからと言って、そのまま何もしなかったら、知らない間に、経済的に困窮した人たちが中国人の人たちに自分のお店とかを売っていって、日本のあちこちで、日本が日本であって日本じゃなくなっていってしまう、って現象が起きてしまうかもしれないよな?」
ユーリ「――ということは」
天平「――ということは」
ユーリ「支援基金で、経営の厳しいホテルや企業とかが経営を続けていけるよう、キッチリ支援する!」
天平「だよな!」
ユーリ「国は国で、経営の厳しいホテルや企業が経営を続けていけるように対策をとってくれるかもしれないけど――天平が言ってたみたいに、国って、国民に平等にお金を配分していこうとするから、経営の厳しいとこは、国からの支援だけじゃ、経営を続けていけないかもしれないって思うし」
天平「平等にお金を配分しようとするのがいけないとは言わないけどさ? ダメージの受け方は平等じゃないんだから、ダメージを回復するための支援だって、不平等にしていかなきゃ、回復していかないよな?」
ユーリ「そう思うよ?」
天平「んで、そうやって経営の厳しいとこの支援をしていくのと並行して、前にも話してた日本の土地の所有権を持てる人を日本国籍か在日の人とかに限定するとかさ、法律で取り決めてってほしいよな」
ユーリ「そこはぜひぜひ。お願いしたいです」
天平「けど、それって不動産関係の取り決めの変更としては、かなり思い切った変更になるだろ? やんなさそー」
ユーリ「別に、中国の人にだけ売らないようにしよう、ってことじゃなくて、海外の人ならどの国の人にであっても売らないように、ってことだし。海外の人には絶対に売るな、ってことじゃなくて、国土の何パーセント以下までなら売ってもいいとか、所有権じゃなくて『地上権』か『借地権』を売ることにするとか、制限をかけるようにしよう、ってことだから。日本としては、当然、そういう法律作っちゃっていいと思うんだけどね? ――やんなさそうだよね……」
天平「国として、そういう取り決めしちゃったところで、誰に文句を言われる話でもないと思うけどな。――あ。新聞」
ユーリ「新聞?」
天平「新聞っつーか、新聞社?」
ユーリ「ん? 新聞社がどうかした?」
天平「新聞社の人たちに、今、国会議員とか、県とか市とか各地方自治体の議員さんたちが、新型ウィルスの問題が起きている中で、どんな発言をしたり、どんな取り組みをしたりしていたかを記録しておいてもらうだろ?」
ユーリ「記録……例えば、日本の土地の海外の人への売買を制限する法律を作ろうと提案した議員さんがいたら、ナニナニ議員は土地の売買を制限する法律を提案しました、とか、そういうことを記録しておく、ってこと?」
天平「そゆコト。そしたら、その議員さんが法律を提案しても他の議員さんが反対して法律にならなかったとしても、記録を読めば『提案をした』議員さんなんだ、ってことがわかるだろ? んで、逆に、そんときに反対した議員さんが誰だったのか、とかも記録しとく」
ユーリ「うん? それで、その記録をどうするわけ?」
天平「この先、議員さんを選ぶ選挙があったときにバーンと出す!」
ユーリ「――あ、そういう。つまり、選挙で議員さんを選ぶときの資料にするんだ?」
天平「そゆコト~」
ユーリ「わかった! それ、きっと、『これは民意です! 問題』の解決策の一つになるね!」
天平「だろ? だろだろ?」
ユーリ「選挙って、イタも言ってたけど、テレビの政見放送っていうの見てみても、ホント、立候補している人がどんな人で、何をしようとしているのか、どういうこと考えてるのか、かなりわからないもんね」
天平「わっからんよなー」
ユーリ「その点、今みたいなこれまでにない深刻な問題が起きているときに、どういう対策をとろうとしたか、どう動いたか、どんなときになんて言ってたか、SNSになんて書いてたか、誰かの提案に賛成したか反対したか、どんな行動をとっていたか、いろいろ記録が残っていると、この先、議員を選ぶ選挙をすることになったときに、その記録を見れば、『この人に議員になってもらいたい』とか、『この人には絶対に議員になってほしくない!』とかなるだろうし。誰に投票するか、心が決まりそうだよね!」
天平「オレだったら――新型ウィルスの感染を拡大させないために、できるだけ自粛した方がいいのに、同居している家族ではない十人以上の人と近い距離でごはん食べたり、どさくさに紛れて批判されそうなこと通そうとしたり……何十人もの人が密集しているところで講演会やったりする議員さんとか、ギリギリマニア系の言動をしている議員さんがいたら、絶対に投票しないわぁ」
ユーリ「さすがにそんな人いないって! 議員さんでギリギリマニアなんて、あり得ないよ、いくらなんでも! もしもそんな人がいて、その人から感染するとか、あるいは、その人のせいで人が集まったことで感染が拡大していたら、さすがに、そんな議員さんには、損害賠償していいんじゃない? 全財産とまでは言わないけど、出せるだけ支援基金に寄付してもらおう」
天平「新型ウィルスを感染した人に損害賠償請求できるってなったら、冤罪起きたり、感染させたのさせてないのでもめにもめて、下手すれば殺人事件起こるから。外交問題にも発展しかねないし。さすがに損害賠償だの寄付金の強要だのはないとして――」
ユーリ「まあ、それはそうなんだけど……。けどさ、それこそ、議員さんがもらう給料というか報酬というかお金って、税金の集まりなんだから。精いっぱいやってある人に無報酬で働いてくださいとは全く思わないけど、感染を拡大させるような、危機意識の低い議員さんがいたら――そういう人が税金からお金をもらえて、ダメージを受けて困窮している人が税金からお金をもらえない、っていうのは、どうかと思うよ? そういうのが『不公平』ってものじゃない?」
天平「個人差って大きそうだよな? 議員さんとか、あと、自治体の人たちとか。――危機感感じている人は、これでもか! ってくらい、やりすぎなくらいがんばってあるみたいだし、やりたくても持病があったり身体が不自由だったりして思うようにやれない人もいるだろうし、そもそも新型ウィルス自体がまだまだよくわからないこといっぱいあって、勉強しても勉強してもわからなくて対策をとることができていない議員さんもいるだろうし……」
ユーリ「かというと、ダムの放流があっても川の中洲に残った人たちみたいに、危機意識低く新型ウィルスの問題に取り組んである議員さんがいるかもしれなかったり? いろんな人がいるだろうけど、だけど、議員さん一人ひとりがどこでどんな意思表示をしているかなんて、すべて把握していくことって、ちょっとできないから。だから、新聞社の人とかに、記録をまとめてもらえると助かるのにな、ってことなんだ?」
天平「今、議員やっている人が、次に選挙があったときにまた立候補するかはわからないし、今、議員やってない人の場合は、記録がないから、選挙のときの参考にはならないけど。議員って、一度やった人って、けっこう何度も選挙に出てあるみたいだから。多くの議員さんに関しては、有用だと思うんだ」
ユーリ「データベースを作って、記録をずっと残しておいて、議員さんの名前を検索すると、その人の記録が出てくる、ってなってると、次の選挙には出ないで、その次の選挙に出たときでも、参考にできるね」
天平「それだといつでも確認できるな」
ユーリ「どんな情報が集まるかな?」
天平「『この人スゴい!』っていうのもあるだろうし、その逆に『はぁ⁈』ってのもあるんじゃないか?」
ユーリ「『この人スゴい!』で埋め尽くされていたらいいけど……」
天平「その逆になったりしてな? 『はぁ⁈ はぁ⁈ はぁ⁈』みたいな?」
ユーリ「怖いからやめてくれる? そんなデータ、イヤだよ、要らないよ」
天平「だよな。オレもヤダ」
ユーリ「それで、そのデータなんだけど、そういうデータを作っておくと、防災防疫軍で、防疫問題の対策を練るときの参考にもできそうだよね?」
天平「お。そうだな、防災防疫軍のためにも貴重な資料になるな」
ユーリ「もちろん、選挙のときに誰に投票するか、投票する人を選ぶ参考にする上でも、貴重な資料だろうけど」
天平「今回の問題で、誰を議員に選ぶか、選挙のときに誰に投票するかって、ホント、大切なことだな、って思った人、多いだろ? きっと」
ユーリ「そうだね。――だとすると、いま議員をやっていて、これからも長く議員を続けたいと思っている人の中には、データを参考にされたくない人もいるかもしれないけどね……?」
天平「参考にしないでくれ、って言ってくる人がいたとしても、そういう記録なら、議員としてはチェックされて当然の情報だからな。個人情報になるのでお問い合わせには応じられません、ってことにはならないから――オレらが十八になって選挙権を持つことができたとき、オレらが投票するときの参考にすることだってできるよな?」
ユーリ「できるできる! このデータベース、もしもできたら、すごく大事なものになるね!」
天平「選挙って、何か問題が起きた後すぐに選挙がある場合と、問題が起きてしばらく経ってから選挙がある場合とでは違うだろ?」
ユーリ「すぐの場合は、選挙権を持っている人って、その問題のことを踏まえて投票するだろうけど。問題が起きてしばらく経ってからだと、記憶が薄まっていたり、他の問題が起きてそっちに気をとられたりして、前の問題のこと忘れちゃって、前の問題のことを参考にして投票する人って、すごく少なくなっちゃうだろうから。だけど、その『前の問題』が重要な問題だった場合、そのことを忘れて投票するのって、すごく危険なことだと思うから――」
天平「紗智姉みたいにしっかりした考えで投票するって、なかなかできなさそうだもんな?」
ユーリ「そうだよね。しっかり考えずになんとなく投票してる人、多そうだよね? そういうのも危機意識が低いんだろうけど。――それなのに、政治に不満を言う人、多いよね? 議員さんを選んでいるのは自分たちだろうにね?」
天平「選挙権持ってる人がちゃんと考えて投票するしかないんだよな。じゃないとまた、『これは民意です!』って言われちゃうからなっ」
ユーリ「選挙権持ってる人がしっかり考えて投票できるように、データベースも、ぜひぜひ、作ってほしいです」
読んでいただいて、ありがとうございます。
今回、出した「ギリギリマニア」は「カミカシイ」を知った方がわかりやすい考えですが、カミカシイは、本編第2話に登場するので、ここには書いていません。すみません。
自粛しながら、どうやって経済活動を続けるか、そのためには、できるだけ感染者の数を少なくし、医療崩壊を起こさないようにする必要があり、医療崩壊を起こさないようにするためには、経済活動を維持していくことが大切で……と考えていくと、いちばん簡単な方法は、「一人ひとりがしっかり考えて行動すること」という、超個人主義の考えに行きあたります。
政治に不満がある人も多いと思いますが、政治家を選んでいるのは私たちです。
そのことも心に留めて、早く、感染の心配や自粛生活から解放されるよう、できることをしていきたいと思います。
次回も、よろしくお願いします。