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08

「かわいいかわいい我の番が一番かわいい」

「あ、あの、カムイ様? ご挨拶に行かなくていいのですか?」


 お城に着く前に、違う屋敷に連れてこられたと思ったらそこでカムイ様に猫可愛がりされてる。文字通り、猫可愛がり。

 龍の姿のままのとぐろを巻いたカムイ様の膝の上でただひたすらかわいいかわいい言われてるんだけど、なんなのだろう、これ。城に行くのではなかったの?


「いいのだ、ルビリア。もう今日はそなたと二人きりになりたい」

「ん、ぅう……」


 ぐりぐりとほっぺた同士を擦り合わせられる。

 今日は、というより今日もでは……? カムイ様と出逢ってから火竜族の彼が訪れた日以外ほとんど二人きりの生活だったのだと思うのだけど。

 なんて思いながらもカムイ様にされるがまま。本当にされるがままで、淑女としてはどうかと思うような姿だ。他の人には見せられない。カムイ様にドレスをほぼ剥かれて、胸元なんて丸見え。どうかと思うのだけど、カムイ様ってなにもしないからそのままでいっか、とズルズル。


「いや、よくない」

「きゃぁあっ」

「我の番を見るな、リュウカイ!」


 なんて考えていると、人の声がして慌てて胸元を隠してカムイ様へと抱き着いた。こうすれば顔は見られない。

 それにしても、リュウカイ様? この島の主人よね?


「リュウザンはまだしも、リュウカイが我の番を見ることは許さぬ」


 がる、とカムイ様が牙を剥いて唸る。その顔は少し恐ろしい。普段は綺麗でお美しいのに。牙を剥くときは、とても龍らしいお顔をしてる。龍のお顔ってお世辞にもかわいいとは言えない。

 綺麗だけど、それは人外の美しさ。夜道を歩いていて、突然あの顔と会ったら恐ろしくて気絶すると思う。初めて会ったときは別として。

 カムイ様の牙を剥いた顔をものともせず、リュウカイと呼ばれた男性? たぶん男性。声の男性は言葉を続ける。


「だが、明日にはお披露目がある。番はリュウセンとともに皆の前に顔を出さねばならない」

「番など我以外に出来た試しがなかろう」

「それでも決まりは決まりだ。仕方ない」

「んむぅ……」


 カムイ様が私をぎゅっと抱きしめて、私の髪に顔を埋めた。すんすん、と髪の匂い嗅がれてるのだけど、私、まだ身を清めてない……。

 今さらなのだけど、とっても今さらなのだけど!

 改めるととっても恥ずかしいのだわ……。


「リュウセンの番よ、私の名はリュウカイ。リュウカイと呼ぶことを許そう。ああ、返事はいらん。お前には専用のヴェールを作らせる。口さがない奴らがいるだろうが、リュウセンが吠えれば黙るだろう。リュウセン、睨むな。これは私の独り言だと思えばいいだろう」

「馬鹿者。我の番に語りかけておいて独り言はないだろう」

「独り言だ」


 リュウカイ様は少し天然らしい。リュウセン様も天然具合は負けてないけど。龍って天然な方が多いのかしら。リュウザン様も少し、ちょっと天然が入ってる。

 うむうむ、と頷くリュウカイ様は一人納得してまた部屋から出て行く。そうしてまた私とカムイ様は二人きり。

 顔を上げてカムイ様に向かって口を開いた。


「彼は青龍様?」

「ああ。そうだ。やはり、明日は城に行かねばならぬか……」


 人型に戻ってギュゥっと私を抱き締めるカムイ様は無表情ながらもとても嫌そうに口元を歪める。わかりやすい人だと思う。でも、基本は無表情。不思議。

 番だから、こうしてカムイ様のことがわかるだけで、普通の人から見たらカムイ様はわかりづらい方なのかしら。……考えてもさっぱりわからないのだわ。

 ふぅ、とため息を吐くと、それに気が付いたカムイ様があわあわとして私を見つめる。


「す、すまぬ。やはり大勢の前に立つのが嫌か? ならばそなたの言う通りにしよう。そなたが嫌ということを無理してやる必要など全くない。これっぽっちもない。だから我を捨てるなど言わないでくれ、頼む」


 その言葉にきょとんと目を瞬いて首を傾げて、それからカムイ様のお言葉の意味がわかってハッとした。


「ちが、違うの! このため息はその、カムイ様の表情はわかりやすいのだけど、それって私だけなのかしら、それとも違うのかしら、のため息なの! カムイ様と大勢の方の前に立つのが嫌なわけじゃないの!」

「そ、そうなのか?」

「それに、カムイ様のお隣で大勢の方に認められるのなら、その、私、とても嬉しいのだわ……」


 ぽぽぽ、と顔が熱くなる。

 大勢の人の前でカムイ様の隣に立つっていうことは、カムイ様の正妃と認められるのと同じことなのよね?

 それなら全然苦じゃない。むしろ、カムイ様の隣にいることがたくさんの人に認められることはとても嬉しい。

 もちろんカムイ様はとても偉いお方。私なんかを番として認めてくれない人はたくさんいると思う。だけどきっとカムイ様はそんな人なんていても構わず私のことを認めて、番として愛してくれる。そう思うと嬉しくて嬉しくてたまらない。私、なんでもできると思うの。

 カムイ様が思うよりたくさんの気持ちを私はカムイ様に捧げられる気がする。


「ルビリア……」

「カムイ様……」


 カムイ様の黄金の瞳とジッと見つめ合う。綺麗で美しい瞳。縦長に開かれた瞳がいつも私を撃ち抜く。


「口付けを、してもよいか?」

「っ、は、はい……」


 訊ねられて慌てながらも頷いてしまう。頷いてから、私口臭くない? 気持ち悪くない? 色々大丈夫!? なんて考えてしまったりして、ハッとしたときにはカムイ様に口を塞がれてしまっていた。

 ぱっちりと目が合ったまま。

 触れるだけ触れて、カムイ様はすすっと私から離れた。そのお顔は真っ赤に染まっている。たぶん、それは私も同じ。


「……初めて、だな」

「はい……」

「その、我の口臭は気にならなかったか?」

「気になるだなんてむしろ……っ、わ、私こそ、変な匂いはしませんでしたか?」

「ルビリアから変な匂いなどするはずなかろう」


 お互い変なことが気になりながら、今度はどちらからともなく目を閉じて唇を重ねる。


「深く、口付けても?」

「もう、お訊ねにならないで」

「……ダメか?」

「違うの。カムイ様の好きにして、って言いたいの」


 そう返すと腰をギュッと掴まれ唇が重なる。誘うように唇の隙間を開くと、そこからカムイ様の舌が割り込んできた。

 は、とカムイ様から熱い吐息が零れ落ちる。

 初めて感じる口の中の異物。でもそれは溶け合いそうなほどに熱を感じて私の頭の中を蕩けさせる。まるで甘い果実を食べさせられてるみたい。


「ふ、ぁ、んァっ……」


 カムイ様の舌は私の口の中を味わうように、丹念に奥歯から歯列をなぞり、歯茎や上顎をなぞっていく。呼吸が難しくて、カムイ様のキモノの布をギュッと握り締めると、カムイ様はさらにギュッと私の腰を自分の方へと引き寄せた。


「っ、は、む、かむ、い、さまぁ……」

「ルビリア……!」


 これは、マズイのでは……?

 下半身に当たる硬いもの。今世では見たことも聞いたこともないけれど、前世のある私はわかってしまう。

 興奮されてるらしいカムイ様のカムイ様がお腹に当てられている。どうしよう。リュウザン様にここで閨には入るなと言われているのに、このままだと突入してしまいそうな雰囲気。


「ゃ、は、んンッ、ちゅ、」

「かわいいルビリアかわいい……愛しくてたまらぬ……」

「ぁ、んっ、だめ、かむいさま、おっぱい、なめちゃ、やぁ……」


 カムイ様の舌が唇からどんどん下に向かっていることに気が付いて静止させようとしてみる。けれど少し興奮気味のカムイ様ははだけた胸元からザラザラとした舌を止める気配がない。

 どうしよう、どうしよう。そう思っている間に、ざり、とカムイ様の舌が胸元の刻印を舐め上げた。


「ッあ、やぁあっ!」


 ゾクゾクッとした快感が私の身体を駆け巡る。驚いて思わずカムイ様を力任せに押し退けてしまった。

 カムイ様は押し退けられるとは思っていなかったのか、茫然とした顔で私を見ている。


 ──捨てられる。


 その五文字が頭の中にぐるぐると踊り出す。

 捨てられる。捨てられてしまう。いや、いや。そんなのもう嫌。そんなの嫌。

 ああ、ちがう。頭の中で考えるんじゃなくて、言わなきゃ。言い訳。ちがう、言葉にしなくちゃ、押し退けた理由。


「ぁ……ちが、ちがうの、カムイ様、まって、ちがうのっ!」


 そう思ってるのに言葉にならない。


「あのっ、ちがくてっ、いやじゃないのっ、こわくてっ、あ、ちがう、そうじゃない、いや、やだ、まって、ごめんなさい」


 違う、そうじゃない。言いたいことが言葉にならない。纏まらない。涙がボロボロと箍が切れたように溢れてくる。

 まとめなくちゃ、言わなくちゃ、捨てられてしまう、取り残されてしまう。ぎゅう、と逃がさないとでも言うように、カムイ様のキモノの布を握り締める。


「やだ、まって、いや」

「ルビリア」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「ルビリア!」


 カムイ様に肩を掴まれてハッとする。カムイ様の瞳が私を見つめていて、ヒュッと息を飲み込んだ。


「我を、誰と重ねておる」

「ぁ……」


 重なるのは私を捨てた人たち。私を捨てて他の女性の手を取った私の世界だった人たち。


「我はそなたを捨てぬ」


 彼らと決別するような言葉を、彼は吐いた。


「唯一の番だからという理由だけではない。そなたが、ルビリアが愛おしいからだ。捨てたりなどするものか」

「あの、ちがうの、ただ、びっくりして、」


 今度はするりと声が出た。

 あまりにもカムイ様が私を愛おしそうに見つめるから。涙は止まって、感情の羅列はきちんとした言葉になる。


「すごく、きもちよくて、こわくなったの。ドキドキして、まるで自分の身体が自分の身体じゃないみたいで」

「す、すまぬ、ルビリア! 我が早急過ぎた! 我の番愛しい! かわいい!」


 ぎゅっぎゅっ、すりすり、ちゅっちゅっ。

 今日からほっぺたすりすりに加えて、唇にキスが加わった。

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