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 人の姿になっているリュウザン様は、黒龍様の鼻に手を当てて私たちから引き離しながらため息を吐く。


「なに言ってんだ、ダメに決まってるだろ」

「しかし、もう大事な行事は終わっただろう。我がいる意味などない。というかそれよりもベルとともに過ごしたい。さっさと家に帰り二人きりになりたい」

「煩悩だらけじゃねーか、このジジイ」

「せっかくベルが我に身を委ねているのに、どうして我が我慢する必要がある」


 カムイ様はとてもいい顔でリュウザン様にお答えする。同時に意思を固めたようなカムイ様はキリッとして、私を強く抱きしめてくる。

 そんなカムイ様にリュウザン様は大きなため息を吐いて、黒龍様を睨み付けた。


「馬鹿リュウケツ。せっかくリュウセンが我慢してたのに煽るようなこと言いやがって」

「ごめん?」

「わかってねーな、その顔は……」


 黒龍様のお顔がこてんと傾げられる。それはまるでカムイ様の幼い頃を見ているようで少しだけかわいらしい。

 そんなことを思っていると、カムイ様の手が私の両頬を掴んだ。

 慌ててカムイ様を見ると、ムッとしたカムイ様の表情に驚いてしまう。


「ベル、そなた。いま、黒を見て少しかわいいと思っただろう」

「ごめんなさい、カムイ様も幼い頃はあんな風だったのかな、と思ったら……」


 カムイ様、不快だったのだわ。一瞬でも他の男を見てしまうだなんて。

 私の両頬を包む大きな手に自分の手を重ね反省する。

 ああ、でもこれだけは言わなくちゃ。カムイ様に勘違いでもされて嫌われでもしてしまったら、それこそ絶望で死んでしまう。


「でも、だけど、私の一番はカムイ様で……」

「わかっておるが、嫉妬したのだ」

「カムイ様……」


 すりすりと頬を擦り寄せてくるカムイ様にポッと顔が熱くなる。

 嫉妬、だなんて。いつも私がしていたもの。私だけがいつも恋い焦がれて、嫉妬の炎に身を焼かれていた。そんな私にカムイ様が嫉妬だなんて。

 カムイ様に何度かそのようなことは言われたけど、何度言われても気恥ずかしくて、それからとても嬉しくなってしまう。

 そう感じてしまうのは醜いとはわかってるけど、どうしても喜びが隠せない。


「すごい、普通の人間なら龍族の愛情深さは嫌になるはずなのに、あの人間はうっとりしてる」

「ああ。あいつは少し変なんだよ。珍しいタイプの人間だ」


 ぎゅっとカムイ様を抱き締める。抱き締められるカムイ様もいいけど、龍のお姿のカムイ様もやっぱりすき。

 リュウザン様と黒龍様がなにかお話しているけど、それよりもカムイ様と抱き締めあってたい。カムイ様の温もりに触れて安心したい。


「リュウザン、聞こえておるからな」

「んだよ、本当のことだろ? 普通の人間は大抵ドラゴン族たちの求愛に耐えきれなくて逃げ出すから、人間が運命の番になるのは運が悪いって言われてんだからな」

「ふん、そこらの人族と我のかわいい番を一緒にするでない。我の番が一番だ」

「はいはい」


 カムイ様に褒められて顔の熱が治らない。それを隠すようにカムイ様の胸へと顔を埋める。

 こんなに幸せでいいのだろうか。エドガー様に捨てられた私なのに。

 前世でも今世でも捨てられたのに、私はカムイ様にこんな愛される価値のある人間なのだろうか。

 そんなことを考えてしまう。


「で、もう我は祝福を終えた。戻るぞ」

「戻ってどうする気だ」

「無論ベルと二人きりで篭る」

「……それ、大丈夫なんだよな?」

「ベルが嫌がることなどせぬ。魔物が増殖して面倒なことになって、ベルとの時間が減るのは困るしな。我慢なら得意だから安心せよ」


 力強く頷くカムイ様。そんなに力強く頷かれると少し寂しい気がしてしまうのはどうしてだろう。

 カムイ様に面倒なことなんてしてほしくないのに。

 我慢なんてしてほしくない、と心のどこかで思ってる。カムイ様の心のまま、私なんて自由に扱ってほしい。そうじゃないと私は。

 そこまで考えてぶんぶんと首を振る。

 心にしこりを残すエドガー様のこと。それだけじゃない。前世の私を捨てた人たちも。カムイ様と向き合いたいのに、その人たちが頭に浮かんで私を自由にはしてくれない。


「どうした、ベル」


 首を振った私を不思議に思ったのかカムイ様が私の顔を覗き込んでくる。


「なんでもありません、カムイ様」


 なんでもない、なんでもない。

 忘れたい過去。消え去ってほしい。思い出すたびに、私は必要ないものだと思わされるから。カムイ様にいつか捨てられるのではないかと怯えてしまうから。


「あー、そういえば、ローズがリュウセンに掴まれて飛んだとき、下で叫んでるやつがいたよ」


 リュウザン様が私たちの間に流れる空気を変えるように話を持ち出す。カムイ様はリュウザン様の言葉に反応して、リュウザン様へと視線を向ける。そして私を逃がさないとでもいうように、力強く私を抱きしめた。


「男か、女か」

「どっちも。ありゃ番だね」

「ふむ……」


 番……、ということは、アンディラ第一王子殿下と、ミスティアお義姉様かしら……?

 お二人には優しくしていただいた。私の生まれたボルグンガ国の王太子ご夫妻。

 第一王子殿下の妻であるミスティアお義姉様は元々私の又従姉妹で、姉のように慕っていた人。仲が良かったから将来は本当の姉妹関係になれることをお互い喜んでいた。

 アンディラ第一王子殿下にはお義姉様の妹のような存在であることと、そして将来の義妹になるからと可愛がっていただいていた。


 でも、もうそれも過去のこと。


「ベル、そなたの知り合いがここにいるのか?」

「はい。ですが、私はもう彼らとは一緒に暮らしませんから」


 私が選んだのはカムイ様。

 それをカムイ様に理解してもらえるように、カムイ様のキモノの袂をギュッと握る。


「……会いたいか?」

「カムイ様が嫌がるなら会いません」


 私の全てはカムイ様に捧げる。そう決めたから、私はカムイ様の嫌がることはしたくない。

 優しいお二人には悪いけど、私なんていなかったことにしてほしいし、詳しいことを聞きたいのなら国に帰ってエドガー様にでも婚約破棄した経緯を聞いてほしい。


「ベル、我はそなたの気持ちを訊いておる。その知り合いとやらはそなたと近しい関係にあったのだろう?」

「……私、は……」


 カムイ様の黄金の瞳と目が合う。真っ直ぐに私を見つめるその瞳から逃げ出しくなってしまう。

 会いたいか会いたくないか、きっと、私は会いたい。話したい。会ったら話すだろう。どうして私がここにいるのか。そしてその過程でどれだけ私の心がエドガー様によって傷付けられたのか、私を断罪した者たちに傷付けられたのか、それもきっと話してしまう。

 それはまるで告げ口のような醜いこと。

 私の傷ついた心を共有してもらいたいというのは、私の心を傷つけた人間のことを悪く思ってほしいと共有したいということ。

 それをどうしてエドガー様の兄弟であるアンディラ第一王子殿下に言えるのだろう。お二方の仲に亀裂を作るようなこと。

 私はもう彼らとは関わらないのに。

 それに清廉でいたい。カムイ様と並ぶ人間として、醜い自分は少しでも消えてほしい。

 カムイ様にこんな醜い私は知ってほしくない。

 ここまで育ててくれた両親のことを考える。選ぶのはカムイ様のほう。けれど、両親に恩を感じていないわけじゃない。断罪されたときに無力だった両親だとしても、私のような人間を育ててくれた恩はある。

 第一王子殿下とお義姉様に会えば、私の様子は両親に伝わり彼らを安心させることができるだろう。

 けれど、だけど。


「いい。会おう、ベル」

「カムイ様……?」


 ぐるぐると考える思考に終止符を打ったのはカムイ様だった。カムイ様は私の頬を大きな手で包んで微笑む。


「我はそなたが我と出逢うまでどのように生きてきたかを知りたい。そなたを知る人間に会ってみたい。男と二人きりなら許すはずもないが、番同士で、我にも話を聞かせてくれるのならば、問題ない……はずである」

「でも、」

「だから、ルビリア」


 魂名を呼ばれる。リュウザン様たちに聞こえないようにひっそりと耳元で。


「泣きそうな顔で笑わないでくれ」


 懇願するような声。

 笑って、いたのだろうか。自分の表情がわからない。泣きそうな顔で? それはどんな表情なのだろう。


「我はそなたを幸せにしたいのだ」


 幸せなのに。どうしたらこの気持ちすべてをカムイ様に伝えられるのだろう。

 私を抱き締めるカムイ様。抱きしめ返しながら、私はぼんやりとそんなことを考えた。

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