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4話 決着

 早川と遠野は楽しそうに言葉を交わす丸川兄妹に歩み寄る。


「またお前たちの仕業か」

「なんだぁ、ずいぶんと早いじゃねぇか」


空はつまらなさそうに言う。


「この罠は兄の方が作ったようだが、妹の方はなにもしていないのか?」

「え、私?」


遠野の質問に奏は素っ頓狂な声を出す。


「そう、君だよ。なにか案を出したりすることはあるのか?それとも、ただ兄を持ち上げてばかりなのか?」

「私だって考えられるわ!お兄ちゃんよりすごい罠だって作れる!」

「無理だろうよぉ」


空は奏の方を向いて呆れた顔をしている。

会話の流れは遠野の思惑通りに進んでいるようであり、早川は、遠野の目の奥がきらりと光ったように感じた。


「例えばこの迷路ならどんな罠を作るんだ?」

「そうねぇ……」


奏は斜め上を見上げて、考え込んでいる。


「そうだ! この迷路の分かれ道すべてに矢印を書くのよ!」

「意味ないだろ、それはよぉ」


空は先程よりも、さらに呆れた顔をして、奏を見ている。


「なんでよ! いっぱい矢印があればそれだけ悩むじゃないの!」


奏は納得いかないといった面持ちで空を見つめ返す。


「全部の道に矢印があったら、どれを選んでも同じになっちまうだろうがぁ」

「じゃあ、全部の道じゃなくて、いくつかの道に矢印を書くわ」

「それは俺がやったことと同じになるなぁ。オリジナリティがないぞぉ」

「何なのよもう! 大体お兄ちゃんの作った罠だってこいつらにすぐに突破されてるじゃない!」

「こんなのまぐれさぁ、そもそも昔からお前は――」


丸川兄妹はいがみ合い始めた。


「ふっふっふ、俺の心を弄んだ罰だ。兄妹で言い争うがいい」


偽の手紙の罠の仕返しを果たしたことで、遠野は満足そうに高笑いしている。

その時、迷路の入り口の方から何かが壁にぶつかる大きな音がした。


「この音、もしかして宮田か?!」

「きっとそうだろう。あいつ、壁を壊して、まっすぐ迷路を抜ける気だ」


早川と遠野は、大きな音を聞いても気にせず言い争いを続ける丸川兄妹を横目に迷路の出口へ向かった。

迷路を出ると、その先一帯は泥沼となっていた。

早川が足を踏み入れてみると、ずぶずぶと膝まで沈んでいく。


「この沼を渡りきるには、かなり労力がいるだろうな」

「ああ」


遠野の言葉に、早川もうなずいて同意する。

二人は泥沼を進む。泥の中から足を持ち上げ、できる限り大股で次の一歩を踏み出していく。その足取りは、先程の固い地面を走っているときとは違い、重たいものであった。

その間にも、宮田が壁とぶつかる音はだんだん近づいてくる。


「迷路の壁をぶち抜いてくるパワーだなんて反則だろ」


遠野がため息とともに言う。

早川もそう思うが、しかし、宮田がそれに見合う訓練をしてきたというのは事実だったので、今はその現実を認めて、自分にできることをやるしかなった。


 二人が泥沼地帯の半分を過ぎたころ、遂に宮田が最後の壁を破って、迷路の出口から姿を現した。宮田は躊躇なく泥の中に足を突っ込むと、まるで普通の地面の上にいるかのように、両足を交互に前に出して、泥を押しのけて進む。力がある宮田にとっては、いちいち泥から足を持ち上げて、一歩一歩進んでいく必要などなかった。


「急ぐぞ!」


早川と遠野も足を速めるが、宮田との距離はだんだん縮まっていく。


「なかなか頑張ったようだな。だが、ここまでだ」


二人が泥沼を抜け切る前に宮田が追いついた。そして、二人の横を通り過ぎ、そのままぐんぐんと先に進んでいく。

泥沼地帯を抜ければ、ゴールまではもうそれほど距離はなく、ここで差をつけられれば、逆転するのは困難であった。


「遠野、俺に勝負を託してくれないか?」

「ああ、任せるぞ、早川」


早川の真剣な顔つきを見て、遠野は即答する。

遠野は腰を落として、両手を前に出し、手のひらを開いて上に向ける。これで跳ぶための足場を作ることができた。

早川は遠野のそれぞれの手のひらの上に足をのせ、姿勢を整える。


「いくぞ!」


遠野が腕を振り上げると同時に、早川は思い切り跳び上がる。

その高い跳躍は、今まさに泥沼を超えて陸に上がらんとしていた宮田の頭上を越えて、その目の前に着地した。


「最後の勝負だ、宮田」

「いいだろう」


ゴールまでは、残り百メートル程の何の障害物もない直線であった。

早川と宮田はラストスパートをかける。


「練習試合からの半年で、お前は何かを得たのか?何も変わっていないなら、器用貧乏なお前は結局また一歩たりない。この試合も俺が勝つ」


宮田が隣を走る早川に問いかける。


「確かに、俺はお前のような圧倒的な力もないし、他の奴らみたいな何か特別な力を持っているわけでもない。この半年だって、ひたすら練習を積み重ねることしかしていない」


ゴールは残り十数メートルというところまで迫ってきている。


「でも、俺は今、一人じゃない。俺を信じて託してくれた遠野の気持ちを背負っている。その気持ちが、あと一歩足りない俺を押し出してくれる!」


ゴールが目の前に来たところで、早川は宮田の方に体を向ける


「ここだ!」


早川は意を決して、宮田の前に飛び込んだ。


「何!?」


宮田は早川の突然の行動に驚く。

しかし、止まることもできず、そのまま体に当たった早川を前方に吹き飛ばしてしまう。宙を舞う早川の体はそのまま玄関の形状を模したゴールを通過した。

それに続いて、宮田もゴールする。


「やるな……。まさか自分の身を犠牲にして突っ込んでくるとはな」

「勝つためならそのくらいするさ」


早川がふらふらになりながら立ち上がる。


「認めよう。その実力と精神力。しかし、まだこの道の先は長いぞ」

「ああ、次は世界だな――」


    終


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