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プロローグ

閲覧感謝です。


短編を連載にするという試み。

一応最後まで書ききれそうなので、完結まで毎日投稿予定です。

家名や名前は結構短編から変更しております。

暑い暑い夏の日__

僕は今でも思い出す。

すっかり平和になったこの世界で、目の前の子供達の野球風景を眺めて。

僕はあの夏を今でも鮮明に思い起こせる。

あの暑い暑い夏の日__


踏みしめる硬いマウンドのプレート。

スパイクの土を踏みしめるザッザッという音。

ボールの縫い目の指の掛かり。

静まり返る球場。

自分の手を離れキャッチャーの手に吸い込まれていく一直線の白いライン。

グラウンドの土に転がる白球。

応援をするチアリーダー達。


そして__飛び交う決戦級大魔法。

舞う血しぶき。

壊れた魔導具のカケラ。

走塁の度、交わる剣閃。

血生臭い鉄の匂いと混ざる真新しい土の匂い。


その全てが懐かしい。


そして、マウンドに立つ僕の背を見守る頼もしい球友たち。

僕は追憶の中で全員を見回す。


一塁ファーストを守る魔導ゴーレムのマスターハート7号。通称、ゴッチ。その単眼の目と僕の目が合うと、ぎこちなく片手を上げて答えてくれる。かわいいやつだ。魔改造に魔改造を重ねたその体に隠されたすべては、人間界のみならず魔界でも稀有な存在であろう。魔界像。いや、破壊像か?


二塁セカンドベースから少し右に離れた位置でこちらを熱く見つめてくるのは神金聖騎士団の団長であるセルバンテス。純白の鎧とマントに茶色いグローブは似合わない。“名目上の”チームリーダーでもある。彼の加入はもっとも遅く、様々な苦難があったが、それは神金聖騎士団と我がチーム【亞人あじんタイタンズ】との因縁による物であろう。彼個人は神を信仰しすぎているのが玉にきずだが善人だ。


首を左から右に回すと遊撃手ショートの位置に着いている戦猫ワーキャットの美しい少女、リンディスが悪戯っぽくウインクしてくる。このチームでは僕とアイツに次いで、もっとも古いメンバーであり野球のルールやセオリーへの理解も深い。僕が最も信頼している。“鉄壁のリンディス”を名乗っているが、“絶壁のリンディス”との呼び声も高い。その身体能力の高さで幾度もチームを救ってきた。


三塁サードベース上で目を瞑るかの如くバッターを睨みつけるのは糸目の武人、シジマだ。リンディスとは逆に野球への熱はそこまででは無いが魔族への恨みと平和への渇望が彼の信念となっていた。まぁ、今ではすっかり野球に染まってしまったが。当初はチームに打ち解けられず苦労したが、連携と信頼に結ばれた今ではリンディスと合わせ鉄壁の三遊間だ。準決勝で球場の結界ごとホームラン性の球を切ったその刀、“朝霞あさがすみ”、“夕霧ゆうぎり”、“夜露よつゆ”もその腰に無造作にぶら下がっている。


左翼手レフト_グローブも持たず腕組みをしたまま、その爬虫類テイストの尻尾を左右へ揺らしているのは龍人と竜人のハーフの女性である、逆立つ赤毛の女性、イグゼスカ・ディーハイド。今でこそ人間サイドで戦っているが、時に魔王に傭兵として雇われることもあった“どっちつかずのイグゼスカ”だ。まぁ、今はもうアイツにべた惚れだから裏切りは起こらないのだが。遠くでわかりづらいが少し舌打ちした様にも見える。早く投げろだって?


中堅手センターの紺色のローブを着たエルフの青年はミゲール。時を操る魔法をベースに瞬間移動や透明化、光線収縮砲ミゲールビームなどを開発した稀代の天才大賢者。数千年の時を生きるエルフの観測者であったが、“脅されて”参加しているらしい。飄々としたつかみ所のない男だが“賢なる陰者”の名にふさわしいのではないだろうか。彼も目が合うとウインクと共に魔法で小さい花火を打ち上げた。


右翼手ライトの修行僧にしか見えない男性。托鉢で年齢不詳の顔付き。若くも見えるし、年の様にも見える。

彼は仏の化身であり、名をカネミツという。

…これ以上の説明が必要か?坐禅を組み上下逆転しながら満面の笑みで浮遊する男を見て。



そして____幻想の中で僕はマウンドの正面に向き直る。

そこには女房役、捕手のカッツォ=イ=ソノこと進藤 球(しんどう キュウ)が少しニヤつきながらキャッチャーミットを構えている。その表情は他人には不敵な笑みにしか見えないだろうはが、僕にはわかる。この先の分からないゲームをただ楽しんでいる。子供のように。俺の記憶の中の彼は、いつだってニヤニヤと笑みを浮かべている。だが、不思議と嫌いにはなれない笑みだ。


彼は、自身が開発した鍔付きの帽子を逆向きに被り、ユニフォームを着こなしてはいるが、プロテクターもマスクも無くて恐怖心はないのだろうか?まぁ、恐らくは無いのであろう。


僕も彼のすべては知らない。ただ、他の人よりは多く知っている。

曰く、日本からの転移者。

曰く、伝説の勇者。

曰く、ノックランド王国の貴族、ソノ家の創設者。

曰く、100の名前と顔を持つ闇社会のボス。

曰く、女には見境ないスケコマシ。

曰く、神。

曰く、すべての記憶と能力を失った孤独な人間。

曰く、野球の伝来者。

曰く、僕の女房役で、野球をこよなく愛するプレーヤー。

曰く……

まぁこれぐらいにしておこう。彼への話は尽きない。 

この全ての話が当たりでもあり外れでもある。


とにかく、魔改造した魔導ゴーレムやら、龍人と竜人のハーフやら、仏の化身やら、大賢者やらを集め、チームとして作りあげた男なのだ。


僕も彼に救われ__



「ねぇ!コーチ、次のメニューは!!??コーチってば!!」

少し思い出にひたっていると、不意に子供達の甲高い声で現実に引き戻される。


「……ん?あ、あぁごめん。ちょっと昔のこと思い出して懐かしくてね…そうだね、少し休憩してから試合形式のミニゲームをやろうか。」


「最近コーチぼーっとしてるの多いよ?僕たちがお話聞いてあげよっか?」


「…そう、かな?」


「そうだよ!だから休憩中はコーチの昔の話して!悩みが分かるかも!」


「お前ら、これが狙いかぁ?別に休憩時間を延ばしたりはしないよ?」


「いいよ〜別に。コーチの昔話面白いんだもん。」


「そ、そうか…ならしてあげるよ。今思い出してたのは、魔闘球技大会の攻士園大会の決勝戦。それに参加するまでには色々有ってね___」


子供達に話しをしながら僕の頭の中ではさらに遡って思い出を探していた。


そうだな、決勝大会の話は少し後にするか。


まずはそこに至るまでの思い出話に付き合ってもらおう。

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