1話〜願望〜
「はぁ………」
寡戸弦は本日5度目の深いため息をついた。
彼はとある出版社に勤める24歳。
社会人として2度目の春を迎える寡戸は多忙な日々に嫌気が差していた。
寡戸は大学を卒業してすぐ出版社に入社した。
仕事ぶりの良い寡戸はすぐに上司から認められた。
順調なスタートを切った寡戸だったがそれも長くは続かない。
上司からの高い評価ゆえ難易度の高い仕事を任されることが多々あった。
最初はなんとかこなしていたものも徐々に上司からの期待に押しつぶされそうになった。
若い彼にはその期待は負担でしか無かった。
入社して1年。後輩となる社員が入ってくる。当然、寡戸は後輩からも慕われた。やはりそれも負担である。
家に帰れば家事をする必要である。掃除、洗濯、ゴミの処理等。
休日も先輩・後輩との約束で埋まっている。
自分の為の時間は皆無と言っていい。
先刻のため息は帰宅途中の電車内でついたもの。
帰宅後、溜めていた洗い物を片付けなければならないのだ。
ようやく仕事がおわったのに。
「あーあ。せめて自分がもう一人いれば楽なのになぁ……」
ポツリと呟く。彼の口癖だ。
他人に自分の負担を投げつけることはできないが自分なら難なく頼むことができる。
そんなことを考えていると電車が終点の並内駅にとまる。
そこで電車を降り、改札を通る。駅から自宅まで徒歩3分。そう遠くない道のりを家に向かって真っ直ぐ歩く。憂鬱な気持ちで。
どんなに嫌だと思っても寡戸の足は休むことなく自宅へと運ばれる。
ポケットから鍵を取り出し手の中で握る。
足が止まる。玄関の前だ。握りしめていた鍵を持ち直す。鍵穴に差し込み、右にひねる。
ガチャリ((
鍵が開く。玄関の戸を引いて寡戸は自分の目を疑った。
自分の目の前に自分によく似た男が立って居たのだから。
………Next………
人称がバラバラな気がする。
いや、気がするんじゃなくてバラバラなのか………
三人称のつもりで書いたのに。
誤字脱字等ありましたら知らせて頂けると有り難いです。