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悲しみの合成獣

 良治は部屋の中央に立つキメラを避け、大きく迂回して壁際から白衣の男へと向かう。

 一瞬ちらりとキメラを見ると、ちょうど結那がその腹に正拳突きを放ったところだった。


「ッ!」


 しかし衝撃を吸収するようにキメラの身体にくが揺れると、なんのダメージもなかったかのように鳥のような手を伸ばす。

 結那はすぐさまバックステップで距離を取り、キメラの様子見に入る。


「ハッ! 余所見など!」


 男は笑いながら手を振ると、その手から無数の氷の矢を放つ。どうやら得意なのは氷属性のようだ。

 だがそれなら良治は対応策を知っている。


「いとも簡単に!? クソっ!」


 恐山の時いつかと同じように、今度は片手で青白い防御障壁を展開して襲い来る氷の矢を弾き飛ばしていく。

 間合いに入った瞬間に右手の刀を振るうが、意外にも俊敏な動きで白衣の裾を掠めるに止まる。体術もなかなかのものらしい。


「研究一筋で実戦は苦手かと思ったが」

「は、このご時世それだけじゃ生きていけないんでな」

「それもそうか。その通りだな」


 言われてみればそうだ。一人で退魔士として生きていくのなら身を守る手段は自らの力しかない。最後に頼りになるのは自分の力だけだ。


 良治が再度走り出し、またも男は氷の矢で迎撃する。今度は先ほどよりも数は少ないが大きく、太い槍のようだ。


(考えてるな!)


 円形の障壁の端を槍が削られたのを見て良治は障壁に傾ける力を増加させ、それと同時に回避も混ぜていく。

 矢の状態なら何発か受けたところで持ち堪えられたが、槍は直撃すればわからない。一発や二発ならなんとかなるかもしれないが、それ以上は貫通するかもしれない。


 白神会の退魔士ではこんな風に、すぐに戦術を変化させたり対応出来たりはしないだろう。力が劣っているということではない。単純に人間との実戦経験の差だ。

 命懸けの戦闘、殺し合い。それを多く経験している退魔士はそう多くないのだ。


 足を止めずに回避と防御を織り交ぜ、相手の疲弊を待つ。これだけの術を間断なく放ち続ければ電池切れは遠くない。集中力も持続しないだろう。


「――はぁ……!」

「ッ!」


 男が大きく息を吐いた直後、良治は障壁を消して最短距離を駆ける。この瞬間が一番の隙だと判断して。


「ぐぅ……!」

「転魔石か!」


 良治の心臓を狙った刺突は突如現れた小太刀によって軌道を変化させられ、男の肩を僅かに裂いただけ。

 しまったと後悔するが今はその時ではない。伸びきった身体を男の間合いから離す為足に力を入れて、残った勢いを借りてすれ違うように――


「……!」

「浅いか!」


 数m離れて対峙する両者。しかし良治の左腕からは赤いものが、締め忘れた蛇口から落ちる水滴のようにぽたぽたと落ち始めていた。


 この攻防で負けたのは良治の方で、それは彼の目算が外れたからだ。研究者は基本的に実戦経験不足で攻撃されることに慣れておらず、攻撃すれば勝手に転んでくれると考えていたがそれは甘かった。


 すれ違いざまに振るわれた小太刀を防御障壁で防ぐ選択肢もあった。成功すれば無傷だっただろうが、障壁の展開と相手の攻撃どちらが速かったは微妙なところだ。

 良治は間に合わないと判断して左腕を盾にしたが、障壁を展開しようとして手を伸ばして間に合わなかった場合は指が数本斬り飛ばされていただろう。それを考えればこの判断は悪くないと思える。


(奇襲は失敗。現状はこっちが不利。さて)


 結那の気合の入った声が聞こえ、男を視界から外さないままそちらを見ると軽いフットワークでキメラを翻弄しつつ問題なく戦えているようだ。キメラの背中に氷の矢が数本刺さっているが、あれは男がキメラの被害を考えていないのと結那が盾に使ったこと両方の結果だろう。


「なぁ、お前。ここは見逃してはくれないか。ここは引き払う。謝罪をしろと言うなら謝罪もしてやる。お前らは自分たちの目の届く場所から俺がいなくなって、もう被害者も出ない。どうだ、悪くないだろ?」


 自分が優位になってからの交渉。駆け引きとしてはそれこそ悪くないものだ。劣勢になってからの交渉など相手に受けるメリットは少ない。そのまま力押しで解決してしまえば得る物が多いからだ。


 だが。


「断る。初めから交渉の余地はない。あるとすればアンタが降伏して捕まるか、それともここで果てるかの違いくらいだ」

「は、即断とは。交渉するつもりはなしか。白神会の退魔士らしい」


 小太刀に付いた血を払い、片手で前に構える男。まるでフェンシングのようだ。


(こうも実戦経験豊富そうな人間を何回も相手にするのはな……)


 郁未を助けたあのビルで遭遇した小太りの男が頭を過る。

 白神会の退魔士たちが人間との実戦経験不足だというのに、何故自分だけこうもその機会に行きあってしまうのか。


 だがこのレベルまで行ってしまえば、経験不足の退魔士を待つのは虐殺だろう。そういう意味では自分で良かったと、良治は苦笑した。


「大人しく捕まるつもりは?」

「あるわけないだろう。他の組織ならいざ知らず、白神会だけにはそれこそ死んでも従わんさ」

「どういう意味だ?」

「……ふん、喋りすぎたか。別に知られたところでどうということはないがな。だが教える必要もないッ!」


 話をしてる最中に血を止めていた良治に、今度は男が向かってくる。

 これは少々予想外だ。タイプ的に術の方が得意そうだったので、距離を取って攻撃すると予想していた。


 それでも接近戦は問題ない。振るわれた小太刀を正確に受け、数度切り結ぶ。


「ハッ!」

(――同時!)


 大きく口を歪ませた男の頭上に先ほどよりも大きな氷の槍が姿を現すと、瞬時に発射される。

 槍の直撃を受ければ致命傷にも成り得る。しかし今は鍔迫り合いをしている状態だ。刀で迎撃しようとすれば追撃は免れない。


「はぁッ!」

「ぐっ!?」


 一瞬の判断。

 良治は二人の間に爆弾のような風を発生させる。力の調整などする余裕はない。

 お互いが風によってよろめき、距離が開く。後退しながら良治は襲い来る槍を、体勢を崩しながら斬り払う。衝撃で背中を打ちながら倒れるが直撃が避けられたらなら十分だ。


「あれを凌ぐか!」


 すぐに刀を構えながら立ち上がる。更に追撃があるかと思ったが、そこにいたのは怒りに燃える白衣の男。今ので決められなかったのが相当頭に来たようだ。

 良治としてもただの思い付き、一か八かの対応だったので勝ち誇る気はなしない。ただやり過ごせただけ、次はどうするかを考えるだけだ。


「こいつッ!」


 次の行動。それは頭に血が上っている今攻勢に出ることだ。判断力が鈍っている今がチャンス。


 良治の刺突をギリギリのところで小太刀を盾に防いだ男はまたも頭上に氷の槍を準備する。だが先ほどと比べるとそのスピードはやや遅い。


(冷静さってのは大事だな)

「なっ――がっ!?」


 両手に握った小太刀、そして頭上に作成しつつある氷の槍。

 良治は鍔迫り合いをすると見えるように一瞬上体を前に倒す振りをし、そこから腰を落とす。男からは消えたように見えたかもしれない。


 良治は腰を落とすと同時に、完全に意識を向けていなかった下半身を狙った足払い。現在後方で戦闘をしている結那仕込みのものだ。


 まるで『すてーん!』と擬音が聞こえてきそうなほど鮮やかに決まった足払い。腹を向けて倒れた男に向けて刀を振り下ろしてトドメを刺そうとした良治だったが――


「ぐふっ!?」

「……必要なさそうだな」


 ほぼ完成していた氷の槍が制御を失い、男の腹にジャストヒット。頭上にあったものが集中力が切れたせいで落下、男がその場で転倒したのだから当然と言えば当然の帰結だ。


 通常の状態の退魔士なら耐えられるが、転倒して思考が止まったところに不意打ちで入ればどうしようもない。槍と言っても中心は細い丸太に近いくらいの太さはある。重量は言わずもがなだ。


 ぴくぴくと痙攣しているのでまだ生きてはいる。腹に受けた衝撃と転倒の際に頭も打っていたようなのでほぼ間違いなく気絶だろう。

 これが気絶した振りだと困るので、良治は男の周囲に小規模な結界を張って閉じ込める。


 自身が内部に存在しない結界は強度がどうしても下がってしまう。安定性も落ちてしまうがこの場合は仕方ない。

 男が意識を戻したらすぐに破壊されるだろうが、それでも結界が消えれば気が付く。不意打ちを防ぐ意味では充分だ。


 そして、良治は未だ戦闘を続けている相棒パートナーに視線を送った。











「――ッ!」


 良治が男に向かうのと同時に、結那はこの巨躯のキメラと相対することになっていた。

 しかし鉄板を仕込んであるグローブで腰の入った一撃を打ち込んでも手応えが薄い。肉の壁を殴っているような感覚だ。プロテクターをつけた膝蹴りも打ち込むが結果は同じで、結那は長期戦を覚悟する。


「フッ!」


 結那の打撃は効果が少ないが、相手の攻撃は直撃すると効果大だ。一般の女性と比べると筋肉質な身体だが、体格差がありすぎる。防御しても衝撃は殺しきれない。もしかしたら壁まで簡単に吹き飛ばされてしまうかもしれない。


「ッ!」


 視界の端に何かが飛来してくるのが見え、反射的にキメラを盾に出来る立ち位置に移動する。

 すると数秒後に何かがぶつかる音がしてキメラの身体が何度か揺れる。しかし特にダメージがあるようには見えず、ゆっくりと結那にまた近づいてくる。


 素早くキメラの横に回り込み、何があったのかを確認する。わからないことは早めに把握しておかないと後々足をすくわれることになりかねない。


(氷の矢? ああ、向こうの流れ弾――って!)


 今度は先ほどよりも大き目の氷が飛んできて、結那は慌ててキメラの攻撃を躱しながらまたキメラを盾に出来る位置に移動する。


 この広くない部屋で同時に戦闘をするとなると、流れ弾が飛来する可能性はそれなりにある。救いがあるとすればキメラはそれを意に介さず避けようともしない点だ。大きな身体が十分な盾になってくれる。


 結那の回避能力があればそうそう直撃は貰わない。しかしこのままだと埒が明かないのは確かだ。


(足や手を殴っても効果はなさそうだけど。それなら)


 人間相手なら有効な攻撃も、立ちはだかるキメラには効果的ではない。

 そうなると狙うは胴体か頭ということになる。


 胸部分は太い血管のようなものが密集しておりあまり触れたい部分ではない。時折蠢いており、見ようによっては触手にも見える。有り体に言ってしまえば気持ちが悪い。


 なら頭部ということになるが、そこは意識がないように見えるが女性の顔だ。格闘技をしていた経験上そこまで拒否感はないが、それでも殴られたくはないし殴りたくもない。


(仕方ないか)


 キメラの攻撃を避けながら出た結論は胸部分への攻撃。これで効果がないようなら頭部に切り替えるしかない。

 腹には最初に正拳突きを見舞ったが、大してダメージは与えられなかった。しかし太い血管らしきものがある胸部なら柔らかそうに見え、もしかしたら有効な打撃を与えれるかもしれない。


 右拳を握り締め、振るわれた鳥の腕を躱して上体が下がった隙。そのタイミングで軽くジャンプをして、振り上げた拳を赤く蠢く胴体に――


「ッ!?」


 身体を浮かしたその瞬間、複数の血管が彼女に鋭い動きで巻き付いてくる。最初は腕、そしてすぐさま足や身体にも。ねっとりとした感触と生温かいのが合わさって全身に怖気が奔る。


「この――!」


 触手に力が込められる。

 どの程度まで締め付けられるかわからない恐怖。だがそれを超える反抗心で思いっ切り身体を動かすが、それでも引きちぎることは出来ない。まるでゴムのような弾力性だ。


 一本一本に意思があるように、触手たちは結那の身体を持ち上げていく。こうなると踏ん張りの利かない空中では結那の長所は活かせない。一気に劣勢に陥ってしまう。


「――えっ」


 しかし触手の恐怖は唐突に終わりを告げた。

 キメラの胸から生える赤に濡れた一本の刀。それを結那が視認すると同時にキメラから力が急速に失われていく。

 象の足は膝を折り、そのまま前のめりに倒れていく。


「大丈夫か?」

「うん。ありがと」


 触手が長かったお陰で倒れていくキメラの巨体に潰されずに済み、結那は触手に絡まったまま愛する恋人に礼を言う。


 いかな合成獣キメラと言えど、心臓を破壊されれば活動は止まる。背中から胸部のやや左側を平突きしたのだが、どうやら正確に心臓を捉えられたようだ。

 あまり自信はなかったが、この巨体が倒れたことが何よりの証拠と言えるだろう。

 もし失敗していたら良治は首を断つつもりだった。そうならなくて少しだけ安心した自分に、良治は甘いなと反省した。


 良治はキメラから抜いた刀を軽く振るい、彼女に纏わりついていたものを切り落とす。弾力があると言っても退魔士が刃物を使えば造作もないことだ。


「それにしてもこの、触手ってやーね。気持ち悪い……良治はそういう趣味ないわよね?」

「ないな。嫌悪感が先に立つ」

「良治がそういう趣味なくて良かったわ。もうこりごりね。で、アイツは――って後ろッ!」


 結那の警告に良治は迷いなく結那の横へ跳ねた。

 普段ならともかく戦場では一瞬の躊躇いが致命的な隙になる。彼女が嘘や冗談を言うわけもない。迷う理由はなく、良治は後方にあるらしい危険から距離を取った。


「心臓を捉えられてなかったか……」

「キメラだし複数の心臓があるとか? 少なくとも動きを一時的にでも止めたんだし、心臓は潰したと私は感じたけど」


 前方に一回転してから向き直ると膝立ちで立とうとしているキメラの姿があった。結那も良治のところまで下がって拳を構えている。


「核の一つを潰した、ってことなのかな。どうにもわからんが」


 キメラの詳しい構造はわからない。造った本人にしかわからないことだ。しかし起こして聞くわけにもいかない。


「でもなんかさっきよりも全然動き鈍くない? あれなら――」

「ああ。俺がいく」


 動きの鈍った相手を斬るだけだ。体力を消費しているとは言え結那よりは適任だ。というより結那ではあまり相性が良いとは言えない相手だ。痛みを感じている素振りがなく、痛覚があるのかさえわからない。


 キメラはちょうど立ち上がったところだった。

 良治は床に叩き付けられるように振るわれた鳥の腕を直前でくるりと一回転して避けながらそのまま刀を薙ぐ。

 そして肘の上付近に与えた傷を狙い、更に今度は関節を壊すように深く刺し込み、すぐさま一気に引き抜く。


 右腕を動かそうとするが、関節の壊れた右腕は上腕部までしか機能しない。するとそれを理解したのか今度は毛むくじゃらの左腕で良治を捕らえようと手を伸ばしてくる。


「――遅い」


 胸を貫かれた影響は非常に大きかったらしい。

 速度重視の近接戦闘型の良治はそんな動きでは掠りもしない。


 だが胸部から伸びてきた触手だけは例外で、滑らかな動きで良治に向かってくる。ついさっき見た結那の姿が思い起こされ、そんな趣味もない良治は触手の間合いからバックステップで離脱する。


「交代する?」

「まさか」


 様子を見ていた結那の提案を軽口で返し、今度は大きく壁際から回りキメラの左腕を狙う。正面から行かなければ触手は関係ないはずだ。


「――はッ!」


 素早い動きで斜め後方からジャンプし、珍しく大上段から力の限り振り下ろす。

 類人猿の左腕は鈍い音をさせて床に落ち、血飛沫が床と壁に撒き散らされた。


「……止まらないか。これでも」


 まだキメラは立ったままで、良治の方へ向こうと身体を動かしていた。それを見て少しだけ距離を取った良治は、とても悲しい目でキメラを見つめていた。


 人間ならとうにショック死、失血死しているだろう。

 だがキメラ特有の強い生命力がそれを阻害している。痛みがないのが救いで――良治は決断した。


(結局こうなるのか)


 腕を失い、身体のバランスを崩して動きのぎこちないキメラを前に、良治は一度構えを解いた。だらりと両手を下ろし、肩の力を抜く。


(――ごめんな)


 彼女の目からは何かが零れているようにも見えて――そして、良治は走り出した。


 歩いてくるキメラの脇をすり抜け、その背中を蹴って跳んだ良治は無表情に刀を薙ぐ。


 最初に背中から心臓を貫いた時と同じように、キメラの巨体は地に伏せ――もう動かなくなった。

 前回と違うのはもうピクリとも動かないこと。そして腕と首の有無だ。


「……お疲れ様。大丈夫?」

「大丈夫だ。心配ないよ」

「……ちゃんとこっち見て言って。ほら」

「……大丈夫だって」


 今はあまり顔を合わせたくなかったが、ずんずんと近づいてきた結那は強引に良治の顔を両手で包むと無理やり自分に向かせる。少しばかり痛かったがそれは些細なことだ。


「もう。つらい時はつらいって言ってよ。私相手に強がったって意味ないじゃない」

「……悪い」


 結那は良治の頭を自分の胸に柔らかく抱き締めると、ゆっくりとその髪を撫でていく。


 連戦の疲労はあった。それも難敵相手。やっと気が休まるタイミングだ。

 だがそれよりも良治にとってはキメラを、キメラにされてしまったあの女性の残された頭部を傷付けたことが心に刺さってしまっていた。

 首を上手く刎ねはしたが、それはあまり関係ない。うなじは存在していたし、やはり良治が殺したことには間違いないことだ。


「もー。そういう時は違うでしょ。わかってるわよね」

「そうだな……ありがとう、結那」

「どういたしまして」


 一度大きく息を吐いて、良治は彼女の胸から離れる。もう泣き言は終わりだ。それにまだ仕事は片付いていない。


「ね、良い感触だったでしょ? こればっかりは二人に負けない自信あるんだから」

「そういうことを言うなと……じゃあ続きといこう」

「ちぇー」


 不貞腐れた仕草の結那は置いて、良治はあの男の状況を確認する。

 結界は消えていない。やはりまだ気を失ったままのように見える。


「アイツはまだ気絶してるみたいだな。とりあえず結界に閉じ込めておいたけど、いつ起きて逃げられるかわからないから今のうちに奥の探索をしておこう。大きな結界もこのままじゃ張れないしな」

「おっけ。じゃ行きましょ」


 現状この建物を包むような結界は悪手に成り得る。自分が内部にいるので強固なものにはなるが、そうするとあの男が起きた際結界内を自由に行動できることになってしまう。

 そうなると最悪起きた男が気配を消して良治たちを奇襲する可能性がある。それだけは避けたかった。


 結界を内包して更に結界を張ることは現在非常に難しく、どの退魔士も何の準備や単独では実現できないことだ。なので身の危険を優先するなら現状が一番いいはず。そう良治は考えていた。


「まだ敵が残ってるかもしれない。慎重にいこう」

「ええ。うん、リフレッシュ出来たみたいで良かったわ。そんなに良かった?」

「……そりゃな。さ、行こう」


 少しだけ笑い合い、二人は部屋の奥にあった古びた鉄製の扉に歩きだした――



【対応策を知っている】―たいおうさくをしっている―

氷の矢を見ての良治の反応。

思い出したのは恐山で倒した真鍋、そして現在総帥補佐をしているあの女性。

攻撃性能の高い属性故に良治はその対処法を理解していた。

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