表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/179

事後処理完了

「まぁそんな感じで階級を下げて欲しいんですが、綾華さん」

「それは難しいですね。でも良治さんがどうしてもと言うなら、貴方の所属する東京支部から何人か呼んで再度会議をしてもいいですが……どうします?」

「……遠慮致します」


 十中八九来るのはあの三人だ。それではまったく意味がない。返って逆効果だ。

 仕方なく良治は綾華の提案――というかあの任命書を正式に受けることにした。


 良治と綾華がテーブルに向かって事務作業をしているのは京都本部の一室だ。それなりに広い和室で、庭の方の廊下の障子は開かれている。時々人が通過していくのが見えた。


 綾華からの出頭要請を受け、良治は翌日に京都を訪れていた。

 三日間ほど休養を取っていたが本当はとても忙しい。やらなければならないことが山積していた。

 しかし白神会総帥の妹である綾華の要請は断れない。友人である和弥の妻でもあり、最初から断る選択肢はなかったとも言えた。

 綾華とは同じ支部で幾度も仕事をした戦友ではあるものの、その立場から友人とは言い難い。しかし何よりお互いそんな関係性で十分だと判断しているので何の問題もなかった。


「すみませんね、こんな業務まで任せてしまって」

「そう思うなら勘弁してください。これくらいなら任せられる人もいるでしょう」


 現在行っているのは白神会全退魔士の情報だ。一枚一枚に個人の得意武器や適性のある術の属性、退魔士階級、果ては身体情報まで載っている。

 こんな重要機密を戻ってきたばかりの人物に見せていいのかと心配になってしまう。


「それはそうなんですが、その仕事は以前良治さんが担当していたのでは?」

「いやまぁそうなんですけどね。でもだからと言ってまさかこの為に呼び出されるとは思ってなかったですよ」


 これまでは年に一回の作業でそこまで大変ではなかったこともあり綾華が担当していたのだが、どうも他の作業で手一杯になりかけていたので良治に白羽の矢が立ったということだ。


「人手不足が顕著になりつつあるのはこちらも理解はしています。しかし対策と言ってもどうしたらいいのか……」

「その辺隼人さまは?」

「特に何も。正直な話あまり組織の運営に興味がないように思えます」

「あー……」


 良治がいた頃にもその傾向はあった。

 元々自由な人だ。総帥を継いだ理由がなくなった以上執着が消えてしまったとしても不思議はない。


 そして現在実質的な運営は綾華がメインに行っている。だが名目上、書類上隼人の認可が必要なことが多く、なかなかスムーズとは言えない状態だ。


「なので出来たら良治さんには京都に詰めて欲しかったんです。でもそれは無理なのでどうしようかと」

「それはまぁ無理ですね」

「でしょう? 私もまどかたちに恨まれたくはないですから」


 綾華の言葉で先日の話し合いの内容が全部漏れていることを確信した。情報源は間違いなく名前の出た彼女だ。むしろ嬉々として報告した光景が見えてくるくらいだ。


「……まぁ手が空いてる時なら手伝いますよ。でも今日はこの仕事終わったら東京戻りますからね」

「ありがとうございます、それで大丈夫です。ちなみにどなたかとデートの約束でも?」

「違います。やっと諸々の賠償金の算出が終わったのでその話し合いに明日山形まで行かないといけないんです」


 霊媒師同盟の件の後始末はこれで終わる。今後は京都か福島支部の者が霊媒師同盟との外交担当になるはずだ。良治の仕事もこれまでとなる。

 ――その予定なのだが、何故か良治は嫌な予感がしていた。


「ああ、まだそちらは終わっていませんでしたね。東京支部にある遺骨は?」

「はい、それも明日届けるつもりです」


 こちらの支部を襲撃した際に戦死した者たちの亡骸は全て火葬して骨になっている。結構な人数なので遺体をそのままにもしておけなかったからだ。


「それが終わったら人心地つけそうですね」

「ええ。そこまでは全力でやりますよ。それよりも綾華さんは仕事を任せられる人を探してください。もうそろそろ無理は出来なくなるんですから」

「そうですね……少なくとも誰かに引き継いで貰おうかとは思ってます」


 綾華は現在妊娠四か月目だ。本来ならもう一線の仕事は控えておくべきなのだろうが、結局今でも以前と変わらぬ量の仕事をしている。良治がいなかったら増えているところだ。


「その方が良いです。無理はしないようにお願いします」

「ふふ、以前とは逆になってしまいましたね」


 昔は綾華が良治に言っていたことだ。懐かしさにふと笑いが込み上げてきたのだろう。


「ん?」

「どなたか来ますね」


 廊下をどたどたと不快に鳴らし近付く気配。がさつで下品な人物だろうと予想がついた。


「これはこれは綾華さま。……ん?」


 予想は当たった。しかし嬉しくはない。そしてそれは良治も知る人物だった。


「お久しぶりです、成孝なりたかさん。お元気そうで何よりです」

「柊良治か……ふん」


 身長は良治よりも少し高く、体格は良い方だ。和弥と似た身長と体格とも言える。性格と顔はかけ離れているが。


 彼の名は宮森成孝。現宮森家当主の弟で京都本部所属の医術士だ。

 数年前の後継者問題で成孝が兄の道孝みちたかを押し退けて当主になろうとしたことでごたごたした時期があったが、結局順当に道孝が宮森家を継ぐことになった。


 兄の道孝は温和だがやや気弱で医術士としての実力も特に秀でている訳ではない。そんな頼りなさを突いて成孝は当主になろうとしたのだが上手くいかなった。

 良治の見立てでは、成孝は道孝より技量は上だがそんなに差はない。はっきり言ってしまえば五十歩百歩だ。


「それで何か御用でしょうか?」

「いえいえ、綾華さまがこちらにいらっしゃると聞いて……それにしても、こんな出戻りに仕事を任せないといけないくらい綾華さまは調子が悪いのですかね」

「そうですね、今はこんな身体ですし、負担を軽くしたいと思っているのです。もし良治さんに仕事を任せるのが御不満ならあなたがやってみますか? 全職員の適性調査の纏めと霊媒師同盟との外交、関東地方の仕事とありますが全てお任せしても?」


 微笑みを浮かべてはいるがそこに感情はない。まるで氷の微笑だ。


「わ、私にはもっと大切なやることがあるのでね。だがそんな奴を重用するなんて――」

「成孝さん。つまりは良治さんを起用することを決めた私や和弥、白神会総帥である兄に対する批判でしょうか。ご意見があるのでしたら書類にして正式な手続きをお願いします」

「ひっ……そ、そうだ、用があったのを思い出した。失礼するっ」


 面白いくらいに狼狽して、来た時以上の足音を立てて部屋から出ていく。綾華の圧力に簡単に屈して逃げる姿はまるで小悪党だ。


 だが逃げる姿はともかくその判断だけは正しい。宮森の当主でもない人間が白兼家の縁者、それも白神会を実質動かしている人間に正式に意見書を出す。そんなことをすれば宮森家は問題を起こした成孝を躊躇いなく切り捨てるだろう。

 いかに宮森家と言えども、白神会を統べる白兼家に簡単には逆らえない。


「あんなのが出入りしてていいんですか?」


 足音が聞こえなくなったのを見計らって暗い表情の綾華に尋ねる。

 あの人物は邪魔にしかならないと感じたからだ。


「あまりよくはないのですけどね。しかし一応宮森家の者ですし、本部を閉鎖的にしますとまた別の問題がありますから」


 京都本部を宮森家の者すら簡単に立ち入りが出来ないような場所にしてしまえば、中で何が行われているか完全に見えなくなってしまい閉鎖的で独裁者のような印象を持たれかねない。


 組織内でも内密にするべきことはあるが、完全封鎖となれば反感を買ってしまう。少しでもそれをなくし、開かれているイメージを出すのは重要だ。そうすれば様々な意見が入り込みやすい。


「まぁそうですね。しかし個人的なことを言わせてもらうと……俺はあの人あまり好きではないですね」

「そんな奴呼ばわりされてもオブラートに包むんですね」

「別に敵を増やしたい訳じゃないですし、相手が嫌っているからと言ってこちらも嫌う必要はないですから」


 良治は彼のように地位に固執はしていない。はっきり言えば宮森成孝など眼中にないのだ。

 能力があったり性格が良かったりするならお互いに組織の為に協力したいと思うが、どちらも欠けているならお互いプラスにならないだろう。

 それなら邪魔さえしなければ特に思うところはない。


 現状の宮森家は以前と比べると大きな力は持っていない。

 先代の空孝そらたかは非常に有能な人物で《時を戻す者》とまで言われた凄腕の医術士だったが、現在当主を務める道孝はかなり落ちてしまう。だからこそ成孝に反抗されてしまっているのだが。


「興味が全くないという感じですね。私もそう出来れば楽なのですが、そうもいきませんから」

「お疲れ様です」


 京都本部で組織を回している以上関わりは断てないということだろう。面倒な人物、嫌いな人物とも話をしなければならないのは非常にストレスが溜まりそうだ。


「それではすみませんが、この書類の纏めだけでもよろしくお願いします……あ、時間があれば蔵にある魔導具の整理も」

「……ええ。お願いされました」


 これ以上彼女にストレスや負担をかけるべきではない。

 仕方ないと諦めて良治は再度書類の束に目を通し始めた。










「……あの、聞いてないんですけど」

「同席者が増えることなど些細なことですよ、お兄さま」


 良治が訪れた部屋に座っている人物に投げかけた言葉は些細という言葉で軽くあしらわれた。

 無論些細とはとても言えない状況なのだが、きっとそれを言っても無駄だろう。何を言っても私はここにいますよと、悠然なその態度が語っている。


鮭延さけのべさん、これはいったい?」

「うぅむ……儂も止めたのじゃが、どうしても同席すると聞かなくての」

登坂とさか

「いやー、俺っちも止めたよ? でもよ、そんなんで止められないじゃん、崩さま。割と頑固な――」

れい、控えなさい」

「うひっ、ねーちゃん怖えよっ!」


 なんとなくそうかなと予想していた通り、今発言したいろはは登坂零の姉だった。良治がそれを知ったのは恐山を去る時で、いろはから教えて貰ったのだが完全に上下関係が出来上がっていた。少なくとも登坂が姉に逆らえる状況にないことははっきりと理解していた。


 今良治がいるのは山形にある霊媒師同盟の拠点の一つだ。この場所は恐山を攻めるのに寄った拠点で、鮭延からバスを借りたあの場所だ。

 言うまでもなくこの場所の長は鮭延で、今日は彼と登坂に東京から持ってきた彼らの同胞の遺骨を手渡す手筈になっていた。――のだが。


「ねぇ。なんで志摩なだれさまがいるの?」

「俺に聞かれてもわからないって。知らなかったんだから」


 車を出してくれた結那から冷たい視線が来るが良治は正真正銘崩が山形に来ることを知らなかった。

 他の者たちの様子を見るに突発的、そして強引にここまで来たことは予想が出来る。問題は何故来てしまったかということだが、いろはまで一緒となると以前冗談で言った結婚話の件が思い当たって良治は頭を抱えた。


「さ、お兄さまこちらへ」

「……はい」


 お兄さまと呼ばれることに言いたいことはあるが、とりあえず仕事だけはしなくてはならない。あとは終わり次第さっさとお暇するだけだ。

 本当なら少しくらい登坂と話をしたかったがそれどころではない。良治の人生の危機だ。もっとも、もしその話が上手く進められてしまった場合隣の結那に殴られて人生が終わりかねないが。


 つまりここは何とかやり過ごして素早く東京に帰ることが最上の結末だ。それ以外にはない。


「ええと、今回の会談の正式なお相手は結局……」

「盟主である私がこの場にいるのです。私以外にあり得ません」


 思わず『ですよねー』などと言いそうな口をぎゅっとつむぐ。公式の場だ。知り合いばかりだからと言ってあまりフランクなのも問題だろう。


 そしてもう一つ問題がある。今回はあくまでお互いの組織の担当者で会談し、合意を得たことを組織の長に確認して判を押してもらう。そんな手続きをする予定だった。

 しかしその長がここにいる。つまり対等な立場同士での会談でなくなってしまう。良治は決して白神会のトップではないのだ。例え全権を任せられていたとしても。


「……鮭延さん、建前的にだけでもいいので――いやいいです。崩さまで大丈夫です」


 良治は考え直して提案を受けることにした。対外的には実質的な現状を鑑みるとさして問題ではないはずだ。白神会側から呼び出したわけでもない。

 決して悲しそうな崩の潤みそうな瞳に負けたわけではない。決して。


「良治……」

「待て結那。仕事はしなくてはならない。そうだろう?」

「そうだけどさー。……いいわ、まどかたちと話してから決めるから」

「……おう」


 結末は有罪ギルティだろう、間違いなく。何とか避けたいがまどかと結那を言い包める自信はあるが天音は強敵だ。


 いや今はそれどころではない。


「では東京支部で亡くなった人たちの遺骨は先程運び込みました。確認は登坂、大丈夫だよな」

「ああ、ちゃんと受け取ったよ。少ないけど遺品もな」


 結那が東京支部の車で運んできた遺骨と遺品は既にこの拠点の一室に移動してある。残念ながら数が多かったので纏める形になってしまっているのが若干心苦しい。

 あの時はこういった感じで収まると予想できなかったこともある。遺品の方だが、そちらはほぼ残っていなかった。特別何かを身に付けている者はほとんどいなく、良治が倒した二戸が身に付けていた数珠など数点しかなかった。死を覚悟してあえて持ってこなかったのかもしれない。


「ではそちらの方は完了ということで。次に領地の割譲の件ですが、これは以前恐山で言ったのと少し変わります。新潟全域と山形県の一部でしたが、これに加え宮城の一部もと考えているのですが、いかがでしょうか」

「そうですね……こちらはもとより全てを奪われても仕方ない状況でしたので、そちらの要求は基本的には受け入れます。しかし何故でしょうか?」

「山形県の一部という条件でしたが、それと少し関係があります。山形の方は山形市から南部は白神会に割譲と考えています。なのでほぼライン上になる宮城の仙台で線引きを致したく」


 仙台と山形で線を引ければ非常にわかりやすい。重要な都市である山形と仙台はそのまま霊媒師同盟の領地なので、あちら側としてもさほど影響はなく呑みやすい条件なはずだ。


「なるほど。こちらとしては山形市と仙台市が残れば言うことはありません。しかし新潟も含めてですが、割譲する地域にいた者たちの処遇はどうなるのでしょうか」

「それは彼らに任せます。その拠点……寺社などですが、白神会に所属してもらう方が良いでしょう。でもどうしてもこちら側に与したくないと言うなら、霊媒師同盟側に拠点を移動してもらうしかありません。どちらを選ぶかは当事者の判断で」


 中途半端な地域は残したくない。今後も管理はしなくてはならないので出来るだけ簡単に、わかりやすくしておきたい。引き継ぎもそっちの方がミスがなくて楽だ。


「わかりました。これから連絡を致します。期日は?」

「そうですね、今十一月下旬なので……連絡は年内、移転するなら年度内で」

「はい、わかりました。ではそのように」


 崩の同意を得られ安心する。

 こちらの条件提示については昨日の別れ際、綾華から許可を貰っている。すんなりいくと思ってはいたが、実際にそうなるとまたほっとするものだ。


 霊媒師同盟が失ったのは全体の五分の一から六分の一程度だ。都市として大きなところでは米沢くらいなもので、大したダメージはない。今後も以前と同じように活動できるはずだ。


「最後に、この山形と恐山に白神会の拠点を置きたいと思います。これは監視でなくお互いの円滑な外交、情報交換の為と思ってください」

「はい、了解致しました。……その、新しく出来る拠点には、お兄さまは……?」

「参加しません。俺は少なくともしばらくは東京支部所属ですので」

「残念です……」


 きっと申請すれば通るとは思う。だがさすがにそれを行うと後が怖すぎる。あと隣の結那も怖すぎる。


 恐山と山形の支部だが、派遣する者の選定には注意しなければならない。家族や友人を殺された者を配置すれば要らぬ摩擦を生んでしまうだろう。そうなると福島、宇都宮の支部員たちは難しい。

 長野、東京支部員たちは直接戦い、こちらに死者は出なかったが逆にあちらに多大な死者を出している。結論としては今回の件に関わっていない人物たちを派遣するのが妥当だと言える。

 人選は今後霊媒師同盟の外交を担当する福島支部の誰かになる。その話だけしておけばいい。


「それではこちらの書類にサインを」


 用意していた書類を二枚鞄からテーブルの上に差し出す。条件が変わっていないので準備していたもので大丈夫だ。もし条件が変化していたらまた作り直さないとならないところだった。


「はい……これでよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 書類には既に白兼隼人のサインが書いてある。昨日ついでに書いてもらったものだ。これでこの同盟は条件を含めて完了したことになる。これは歴史的なことだ。当人たちにはそんな感じは薄いが。


「ではお兄さま、仕事は終わりましたしこれから食事でも――」

「ダメ、良治はもう帰るの。ね?」

「……そうだな」


 テーブルから乗り出した崩から良治を守るように前に出た結那が振り返りながら言う。目が怖い。

 そして結那が良治の腕を抱き寄せて両手で掴んだ。ちょっと痛い。


「そんな……まさかとは思いますが、その、もしかしてその方とお付き合いを……?」

「ええそうよ。私と良治はもう付き合っているの。だからちょっかい出さないで」

「そんなッ!」


 大袈裟に崩れ落ちていく崩。畳に手をつく時に『よよよ』という声が聞こえた気がした。実際はそこまでショックな訳ではないらしい。慰める立場にないので少しだけ助かった気がする。


「まぁそんなわけですので。申し訳ありませんが本日はこれで失礼しますね。登坂もまたな」

「お、おう。んじゃな」


 仕事の話は全部終わったのでこれ以上滞在する理由はない。こんな状況で残りたいとも思えない。


「崩さま、お気を確かに。まだ柊さまは結婚したわけではないですし、いっそのこと子供だけでも……!」

「ああ、そうですね。いろは、まだ私は諦め――」


 不穏な言葉が聞こえ始めたので速足で部屋を出て、一目散に車に乗り込む。

 危険だ。これ以上居てはならない。何をされるかわからない。


「ね、良治」

「なんだ結那」


 車を発進させた結那が前を向いたまま話しかけてくる。ちょっとうんざりしたような雰囲気だ。


「あの娘、怖いんだけど。ぐいぐい来る感じが」

「正直結那が言うなって感じだが……まぁそうだな。逃げたい」


 結那と付き合っているとは言ったが、付き合っているのは彼女だけではない。事実全てのことは言っていないが、嘘は吐いていない。

 もし三人彼女がいると知れれば『私も!』と言ってくるのは目に見えている。だから訂正はしなかった。


「それにしてもモテモテね良治は。嬉しいけどちょっと不安だわ。良治は頼られると頑張っちゃうから」

「ここ最近で一気に幸せと苦労が増え……と思ったけど高校の時なんかもこんなだった気がする……」

「そうだったわね。ま、いいんじゃない? 不幸じゃないんなら」

「――だな」


 薄く死んでいくような人生よりは遥かにこっちの方が良い。生きている実感がある。

 少しくらいの苦労は人生を輝かせるため、その後にある幸福を深く感じる為に必要なものだろう。人生のエッセンスだ。


 これで霊媒師同盟の事件は完全に事後処理も含めて終わる。京都支部に書類を提出するだけだ。

 そうなればしばらくはゆっくりできる。


「あー、何日かは家で寝るだけの日にしよ」

「いいんじゃない。でも気が向いたら連絡してよね」

「了解」


 三人のうち誰に連絡するかは良治の自由だが、それでも時間が空いていなかったりするので順番に、というわけにはいかない。ただその辺は良治が苦労して調整するべきだろう。



 休日はどう過ごすか。

 そんなことを考え始めた良治だったが、翌日容易にそのプランは崩れ去った。


【全退魔士の情報】―ぜんたいましのじょうほう―

白神会においての非常に重要な情報の一つ。しかしここには黒影流の者は一人分しか乗っていない。

配置転換や仕事に裂く戦力の選定に必要な戦闘タイプや得意武器など多数の情報があるが、それに付随して身体情報も載っている。

一部の女性たちから不満や抗議の声が上がったことがあり、現在は綾華がその整理を担当している――はず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ