奪還作戦
お互い痛み分けでほぼ現状維持。それが良治の予想だった。
しかし霊媒師同盟の目的は見えず、交渉をしてくる気配もない。あるのはこちらをどうやって倒すか、それだけだ。
総指揮官は京都の奇襲が失敗したことを受けても、東京支部への別動隊の襲撃を止めなかった。そこに何か強い意志を感じる。
京都本部が失敗したからこそ、東京支部だけは落としたかったのか。それとも東京支部だけは初めから落とすつもりだったのか。
「怪我人はここで治療を。参加できる者だけ参加でいい。夜には出る、準備を怠るなっ!」
道場で指示を出し、せわしなく皆が動く。
今回の目標は川越、宇都宮、そして福島支部の奪還だ。
すぐに動かせる戦力はもうほとんどを失っているはず。ならば奪い返すことは今なら難しくないはずだ。元々こちらのものでもあるし、各支部の生き残りもいる。参加者のモチベーションは高く、道を阻む問題はない。
「葵さん、もう東京支部は安全だと思いますが一応警戒を。怪我人は任せますね」
「ええ、わかったわ。……ごめんね、力になれなくて」
「俺を迎えてくれて、好きにさせてもらっただけで十分ですよ」
優しく迎え入れてもらえた。それだけで良治の不安は立ち消え、そして勇気を得ることが出来た。十分すぎるほど有難いことだった。
「そう言ってくれると助かるわ。ああ、そう良治君」
「はい?」
「またいつでもここに帰ってきていいからね。ここは良治君の実家じゃない」
母との逃避行の末、魔族に母が討たれたあと白神会に引き取られた幼い良治が住んだのはこの東京支部。確かに実家と言える場所だ。
「……ありがとうございます。戻って来れる場所があるって良いものですね」
今までそんなこと考えたことがなかった。
良治は自分の故郷すら知らず、ただ迷い込んだだけの異分子だとずっと思っていた。
だから、そんな言葉を貰える日が来るなんて思ってもみなかった。
「そうね。だから気を付けて。いってらっしゃい」
「――はい。いってきます」
時刻は日付が変わって数分。深夜零時を回ったところだ。
川越市郊外にある川越支部に良治たちはもう一度最終確認をして踏み込んだ。
結界はない。霊媒師同盟に襲撃されたときに破壊されたまま放置されている。新たに張られた結界もない。どうやら拠点にはせず、一晩を過ごしただけのようだ。
「……大丈夫だな。結那、川越支部の人たちを呼んできてくれ」
「わかったわ」
良治の後ろに付いて来ていた結那に声をかけ、良治自身は警戒しながらゆっくりと部屋の死角を潰していく。
川越支部は小さな支部で、そもそも探すのが必要なほどスペースはない。ただ机の引き出しや箪笥が開けられているので、なくなった物の確認はしてもらわないとならない。
「すいません、どうですか」
「そうですね……パッと見は特に。冷蔵庫の中の食料が少しなくなってるくらいだと思います」
「なるほど。一応もう少し調べてください」
「はい」
川越支部の男に指示をしてもう一度確認をする。ただ良治ももう特に発見はないだろうと考えていた。
川越支部には一切出入りはなかった。それは東京支部への襲撃が終わった段階から彼の指示で行われていた、川越支部の監視が証明している。
つまり支部を奪い返しに来た良治たちを目標とした罠は存在しないはずだ。もし襲撃が成功していたら、しばらくは白神会により奪還作戦は行われない。罠を外すのも面倒だろう。もしかしたら捨て石にするつもりで罠を張った可能性はあったが、今回はそういった搦手は一切使用してきていないので考慮から除外していた。
「柊さん、やっぱり特に何も。おかしな仕掛けとかもないです」
「そうですか。わかりました、それでは今夜はこちらで待機ということで。後片付けも必要でしょうから」
「はい。わかりました」
派手に散らかってはいるが狭い部屋だ。朝まではかからないだろう。
片付けがてら起きていてくれればそれでいい。大事なのはいつでも連絡が取れるということだ。
部屋で温まることもなく五分ほどで川越支部を出る。
今夜は天気が良く、星空も見えるくらいに晴れていた。雨など降らなくて良かった。
「このまま予定通り行くの?」
「ああ。このまま一気に行く」
まだ夜は長い。そして出来るだけ短い期間で福島支部まで奪還したい。だからここで時間を無駄にする余裕はなかった。
川越支部員たちを残して良治たちはワゴンとマイクロバス二台、計三台に分乗して更に北上する。
先頭からミニワゴン、福島支部から乗ってきたマイクロバス、長野支部で使用しているマイクロバスだ。良治はミニワゴンに乗り先導する役割になる。
「眞子さんすいません。助かります」
「いいのよ。運転するの好きだし。それよりも良治くんはちゃんと怪我を治して」
「そうですよ、本当にこんな無理をして」
「えぇ……いや、はい。わかってますけど」
運転席越しのミラーから笑う気配。助手席に座る加奈も口元を抑えている。良治が年下の女の子に言われているのが面白いらしい。言われている本人としてはまったく面白くないのだが。
「ごめんね、蒔苗ちゃん。良治は見栄っ張りだから」
「大丈夫です、ちゃんと全身確認しますのでっ」
「いやそこまでしなくていいから。というかまどか、見栄っ張りってなんだ」
「良治って結構そういうとこあるわよ。心当たりない?」
「……」
一番後ろの列から投げられた、しれっと同行しているまどかの言葉に良治は黙り込む。冷静に振り返ってみるとそういう傾向にあった気がする。
そもそも今回の件を宇都宮支部で請け負った時の動機は何だったか。それは鷺澤薫の期待に応えたかった為ではなかったか。
「良治の負けよ。まどかも思うくらいには私もそう思ってるし。だって今回もそうじゃない」
まどかの隣の結那まで良治の背中のシートに、腕とにやにやした顔を乗せて話に入ってくる。ちょうど思い出したタイミングなので何の反論も出来ない。
「そうか、俺は見栄っ張りだったのか……」
「別にいいと思うけど。それで誰かに迷惑かけてないし。頑張ってる姿ってのは凄く魅力的だしね」
「結那にセリフ取られた……」
「どっちが言っても変わらないって。だから落ち込まないのまどか」
まるでコントをするような背後の二人から意識を戻すと、視線を感じて良治は左を向いた。まだ蒔苗にあちこち身体を触られているが気にしない。
「……」
「……なんですか、佑奈さん」
何故か良治の隣には佑奈が座っている。一番後ろでも良かったろうにとも思うが、騒がしくなりそうな結那の隣は嫌だろう。
運転席に眞子、助手席に加奈。二列目に蒔苗、良治、佑奈。そして三列目にまどかと結那の座席になっている。
蒔苗が良治の隣なのは、眞子が言っていたように治療の為だ。
周囲の女性陣――良治以外は女性しかいない――が揃って良治の怪我に言及したため彼女が隣に来て、移動中に治療という流れになった。普段から負傷を自分で応急処置したあとで報告することが多かったのが原因だ。
良治としても心配をかけている自覚はあるし、これも心配しているからこそ言われていることを理解していたので強くは拒否できなかったのだ。
「あの……」
「はい」
「ちゃんと、治してください……」
心配度百パーセントの蚊の鳴くようなか細い声に上目遣いの潤んだ瞳。
これに抗う術を良治は持っていなかった。仕方ない。
「はい、わかりました。ご心配おかけしてすいません」
「……よかった」
「ありがとうごッ!?」
言葉の途中で肩に激痛が走り思わず叫んでしまう。振り返ると結那が肩を力強く掴んでいた。笑ってはいるが怖い。背中に般若の形相が見えるくらいに怖い。
「良治はほぉんとにぃ、色んな女の子に優しいわよねぇ」
「結那痛い痛い痛いッ!」
「大丈夫よ。蒔苗に聞いて怪我をしていないところ選んでるから」
「そういう問題じゃッ!?」
結那の握力で握られたら無事な部分が無事でなくなってしまう。治療をしていた蒔苗もちょっと冷たい目で見ていて助けてくれる気配はない。
「はぁ。まぁ良治がこんな風に八方美人なのは昔から知ってるけど、目の前でやられると腹が立つわね」
「結那が私の気持ちをわかってくれて嬉しいな……」
「うん、ごめんねまどか。――これから増えなきゃいいけど」
「何が……いやいいです。何でもありません」
どうやったって最終的に負けるのはこっちだ。なら不要な言い争いは避けるべき。まだこれから宇都宮支部で戦闘があるかもしれないのだ。余計な体力は使いたくない。
「それで柊さん。宇都宮支部の攻略法は?」
「ああ、ええっと。結界が張ってなかったらさっきと同じ、張ってあったら戦闘の可能性があるので警戒しながら包囲して一斉に、って感じですね。ただやはり多くの戦力はないと思われますので加奈さまたちは車で待っていてください」
「はい。わかりました。お任せします」
助け舟を出してくれた加奈に感謝しつつ気持ちを仕事に切り替えていく。
それにしても居心地が悪い。八方美人などと言われるが、別に率先して女性と関わろうしている訳ではないのだ。こんな自分以外女性しかいない空間に閉じ込められるのは望んでいない。
(あー……退魔士に女性が何故多いか、そんな資料を纏めたのを思い出すな。思い出したところで仕方ないけど)
退魔士としての力。つまり霊能力と呼ばれる力が一番発現しやすいのは中学生以下の子供、そして女の子に多い傾向がある。その頃の男女比は二対八くらい偏る。
だが高校生以上になった時に力が失われるのも女性が圧倒的に多く、結局成人して力を持つ者の比率は三対七から四対六ほどだ。
強力な力を持つことに差はないが、どうしても女性の退魔士が何処の支部も多くなっている。
女性の方が多いのは何らかの理由があるのかと思ったが、結局それは解明できていない。
感受性の強い思春期の女子がふとした瞬間に得ることが多い。それ以上の答えは出なかった。
(まぁ昔から『女の勘』とも言うしなぁ)
あれはきっと昔から力を持つのが女性に多かったことの証左なのだろうと良治は理解した。そしてこれ以上は調べても何も出てこないとも。
(まぁ考えても無駄、ってのがわかったことだけでも収穫なのかな。このことに関しては。……さて)
目蓋を閉じ、宇都宮支部に到着するまでの少しの時間、良治は外界との接続を断った。
念のため宇都宮支部が視界に入るくらいの距離で本隊は待機し、良治たちが周囲を注視しながら支部に近付いていく。
星空と月明かりのお陰で何も見えないほどではない。ただ襲撃する側とすればあまり嬉しくはない。
良治と結那を先頭、そしてまどかと天音が続く。
「――ないな」
「ええ。乗り込む?」
正門が見える位置まで来たが結界の気配はない。
気配のない結界というのも存在するが、それは結界士と呼ばれる専門家の中でも特に高位の術士にしか扱えないという。ここで考慮する必要はないだろう。
「行こう。天音、背後は頼む」
「はい」
正門を潜り庭を確認してから道場へ向かい扉を開ける。
何もない。誰もいない。荒らされた様子もここにはない。ただ時間が止まったような空気が静かに佇んでいるだけだ。
「……結那、連絡を」
「わかったわ」
「いや待ってくれ。……宇都宮支部に残る者だけ来てくれと。その他の者たちはこのまま福島支部まで行く」
「本気? 時間ないわよ?」
確かに現時刻は深夜二時半で、これから福島支部まで向かうと到着するのは五時近くになる計算になる。もう明け方だ。これでは一般人に姿を見られてはいけないというこの世界のルールに触れる危険性がある。
「行くだけ行こう。戦力が多そうなら明日に回せばいい。少なそうか誰もいないなら福島支部を確保する」
「ねぇ、ちょっと焦ってない?」
「焦ってはいないよ。ただ時間を切り詰めた方が後々楽になりそうだなって」
「ならいいけど。わかったわ。電話してくる」
「頼んだ」
道場を出て庭伝いに建物の外周を確認していく。宇都宮支部員が来るまで少しでも状況を把握しておくべきだ。
天音を正門に残し、まどかと二人で歩いていく。
「……?」
「どしたの……あ」
北側の庭の片隅。不自然に盛り上がった箇所がある。そして小さな石が三つ、並べられていた。
これは墓だ。宇都宮支部では福島支部から来たメンバーが三名犠牲になっている。
まさかという想いと、埋葬してくれたという感謝が入り交じる。
良治たちは死んだ霊媒師同盟の者たちの遺体をどうするか迷った結果、明白にわかる遺物以外は火葬して纏めることにした。
出来ればそのまま引き渡したかったが、交渉出来る目処も相手もない。二十体以上の遺体をそのままには出来ない事情がありこうなってしまった。
突如襲撃してきて一方的に殺したことは許せない。
だが死者に対しての礼儀も持ち合わせていたことも覚えておかないといけない。
「――行こう」
「うん」
死者には感謝と鎮魂を。
それだけを祈り、二人はその場を立ち去った。
まだ、やるべきことがある。
福島支部は山間部に存在している。それは設立当初外部からの侵攻を想定してのことだったが、時の流れと共にただ不便なだけになり、そして当初の目的を忘れたかのようにあっさりと陥落してしまった。雪化粧をした建物が何だか物悲しい。
「結界、あるな」
「予定より早く着いたから少しくらいなら時間あるけど……さすがに無理じゃない?」
時間的に道が空いていたこともあり、予定より早く到着することが出来た。だが今から本格的な戦闘を始めるには時間がない。
あと一時間もすれば起きてくる人もいるはずだ。――普通の場所なら。
「この付近に民家はない。それは加奈さまと眞子さんから確認は取れてる。だから、今ここで決めるぞ」
「ねぇ、ホントにやるの? 私ちょっと心配なんだけど」
結那の言うこともわかる。
何せ良治が情報収集しないまま行き当たりばったりで勝負に出ることなんて、今まで有り得ないことだったのだから。
本来の彼なら出来る限りの情報収集ののち、多角的に情報を確認してから安全第一で作戦を立てる。
だが今回はその気配すらなく、ただ勢いだけで乗り越えて行こうというだけだ。
「不安に思う理由もわかる。だけど決行すべきだと俺は考えてる。ここに誰かがいるなら何かの情報を聞き出せるかもしれないし。マイナスはない」
マイナスがあるとしたら、それは戦力の把握が出来ていないことが原因の返り討ちだ。
こっちの戦力は東京支部防衛戦から落ちている。
東京支部組はまどか以外が残留し、神薙兄妹も援軍の申し出を断って残って貰った。つまりほぼ宇都宮支部にいた頃と変わらない。
神薙兄妹の申し出は嬉しかったが、それでも恩を受けっ放しというのは良治は嫌だった。きっと彼らは頼めばずっと付いて来てくれる。だからこそ便利な道具のように使い潰すような真似は意地でもしたくなかった。
「祥太郎に連絡を。支部の周囲を囲むように……いやさすがに手が足りないか。結界を破壊したらすぐに勝手口から入って建物を囲むように。誰か出てきたらすぐに合図を」
「……信じるからね」
「――ああ」
全力で信頼に応える。
痛くても辛くても、涙を血を流そうと前進あるのみだ。
「はぁぁぁぁッ!」
結那の咆哮と結界がき軋む音がまだ星明かりの残る空に響き渡る。
鈍い音が更に二度続くと、支部を覆っていた結界がガラスが砕けて落ちるような音とともに消失した。
正門にいたのは良治たち四人。前もって決めていた場所へ一斉に走り出す。集団が移動する足音で祥太郎たち長野支部組も敷地内に入ったことを確認する。手筈通りだ。
天音と結那の二人と別れ、まどかと道場に向かう。遠目にはわからなかったが所々に血の跡があった。死体がないのが唯一の救いだ。と言ってもその血を流した本人は無事ではないだろうが。
道場の扉を勢いよく開け、中を見る。だががらんとした道場の中には何もない。同時にまどかが道場の裏手の方へ。出来るだけ早く福島支部全体を把握し、おそらくいるであろう霊媒師同盟の人間を燻り出したい。
道場の奥までしっかり確認しておこう。
良治が道場へ一歩踏み出したそのタイミングで何かが爆ぜるような音が響いた。――近くだ。
「良治!」
「わかってる!」
道場の扉付近で合流し、彼女たちの担当箇所へ走る。
あの音は天音の起こしたものだ。天音の術の得意属性は水だが、水では音が出しにくい。それでまどかと良治が合図を決めた経緯があった。
その二人がこの合図を間違えるはずがなかった。
「く……放しやがれッ!」
支部の正門に近い場所で結那に組み伏せられ、じたばたと暴れる男。見た目は十代後半から二十代前半。そして何よりも特徴的な頭をしていた。
赤く染めた髪もそうだが、それ以上に気になることがある。
「こちらに危害を加えない、自殺しない、逃げないと言うなら放してもいいが」
「んだぁそりゃあ……ああ、なるほどな。死んだ奴もいるのか」
膝をついて男に話しかける。良治の言葉を聞くと仲間の最後を察したらしく沈んだ表情になった。昔を思い出すような遠い目を浮かべる。
「そういうことだ。出来たらそっちの話を聞きたい。霊媒師同盟の退魔士だよな?」
「ああ……そういうアンタらは白神会のヤツらで間違いないな」
「合ってるよ。で、話してくれるか。話してくれるならとりあえず解放するが」
「女に密着されるってのも悪くは――痛い痛い痛いいいいいいッ!」
背中に乗っていた結那が更に腕を締め上げる。あのままだと折れるまでさして時間はかからないだろう。自業自得なのでこのまま放置していても構わないのだが、聞きたいことがあるので断念した。
「余計なことを言うから。結那、少し緩めて」
「ふんっ」
「本気で折れるかと思った……わかったよ、さっきの条件を呑もう」
「本気で折るつもりだったと思うけどな。まぁいい、助かるよ。結那」
「仕方ないわね……」
不承不承腕を解いて後ろに下がる。要求を呑んだとは言っても警戒は緩めていない。これが正しい反応だ。相手の名前すら知らないのだから。
「っつう……一瞬で吹き飛ばれて何も出来ないまま押さえ込まれるとか、俺っちのプライドはガタガタだぜ」
「そりゃあ相手が悪かったな」
天音と結那のペアが相手ではそれこそ良治でも同じ目にあいそうだ。全盛期でも逃げ切れるかどうか怪しい。
男は腕を気にしながらその場にドカッとあぐらをかいた。逃げるつもりはないという意思表示だろう。音を聞いて駆け付けた祥太郎たちが周囲を囲みつつあり、逃げ場はない。
良治はそれを見て男と同じように地面に座る。
距離は五十cm程しかない。お互いに殺そうと思えば殺せる間合いだ。二人以外に緊張が走ったのを感じる。
「それで……トサカ頭の君よ。名前は――」
「トサカ! トサカって言ったなアンタっ!」
「え、あ、嫌だったか。すまな――」
「いいや初対面でそう言ってくれたのはアンタが初めてなんだ! 誰も彼もモヒカン頭としか言いやがらねぇ! 言い方が違うだけってみんな言うけど俺っちの認識はちげぇんだよ。ああ、こんなところでわかってくれる奴ぁいるとはなぁ。わからねぇもんだ」
身を乗り出して熱弁するトサカ頭に、周囲が一気に殺気立つ。一歩前に出た結那を手で制止した。
ふと見るとまどかは矢をつがえているし天音は無表情で大鎌を構えている。一触即発の状態だ。
「……落ち着いてくれ。このままだと危ないから」
「おっとすまねぇ。何でも聞いてくれ、わかる範囲だけだけどな」
急に気安くなったトサカ頭に苦笑いしか浮かばない。良い性格をしている。
「まず名前と所属を。俺は白神会の柊良治。そっちは?」
「自分から名乗ってくれる奴ぁ信用出来そうだな。俺っちは霊媒師同盟の登坂零、トサカ頭の登坂だ」
トサカ頭の男――登坂零は堂々と、楽しそうに面白そうに笑ってそう言った。
【トサカ頭】―とさかあたま―
以前流行ったこともある髪型。
モヒカン頭は両サイドを刈り上げる、剃り上げることもあるがトサカ頭はそうせずに頭頂部に髪の毛を集めて尖らせるような傾向にある。このトサカ頭をソフトモヒカンとも言う為、モヒカン頭でも間違いではない。
髪型はその個人のポリシーが出やすい場所でもあるので、気安く触れるのはお勧めしない。髪の毛のないことを気にしている人には特に気を付けよう。




