プロローグ 1-2
「なんだ、街にも獣人くらいいくらでもいるだろがい。そんなに騒ぐことなのか?」
「当たり前でしょう!?ここのコロシアムは獣人もいるのよ!こんなところでそういうやつらに見つかったらどんな目にあうか想像しただけでも…」
不思議そうな圭護の腹筋に少女はバチバチと手のひらを叩きつけて抗議の声を上げる。
「おまえさんみたいなちんちくりん、闘士にしようってやつはさすがにいないだろ…」
「ちんちくりんいうな!そんな野蛮な連中に連れ去られたりしたらどうするのよ!」
木靴を履いた小さな爪先で繰り出されるローキックをすねでカットして、ケイゴは笑った。
「なるほど、まあちんちくりんのお前さんが余計な心配をしてるのはわかった。こっちもここまで来て騒ぎが起きるのはごめんだからな。」
鼻を鳴らしながら少女がフードを被りなおしところで、鎧を着た闘技場の衛兵数名が台車を牽いて近づいてきた。頭に羽飾りのついた指揮官と思われる兵士が厳かに告げる。
「闘士よ、間も無く貴様が闘う番だ。覚悟は良いな?」
「おうよ!」
兵士は気合の入った圭護の返事に満足げに頷き、傍らにある台車を示した。荷台には片手剣、両手剣、長短さまざまな槍、棍棒に鎌まで、様々な武器が
並べて置かれていた。
「今回貴様のエントリーした試合では武器の使用が認められる。無論、相手もだ。好きなものを選べ。それが終わればいよいよ、入場だ。」
「武器…ねぇ…」
あからさまに気乗りしないという顔でしばらく並べられた武器を眺めていたケイゴだったが、握りにさらしが巻かれた短い槍を見つけるとそれを手に取り、しばらく矯めつ眇めつした後、これにするか、と呟いて肩に担いだ。
そのまま兵士に促されて歩き出そうとしたが、そこで何かを思いついたように足を止め、振り返った。
「アーティ!」
兵士の注意を引かないよう柱の影にいた少女が、名前を呼ばれてビクッと身体を震わせる。その様に圭護は
苦笑いしながら、革の小袋を放り投げた。
「これも賭けとけ。もちろん俺の方にな。」
地面に落ちた革袋から、硬貨特有の金属が擦れ合う音が響いた。
「ちょ、ケイゴ!こんな金額賭けて負けたらどうするの!?」
「勝ちゃいいんだよ!心配すんな!」
拾った袋の中身を覗き込んで驚きの声を上げるアーティを背に、圭護はヒラヒラと手を振りながら返すと、兵士に連れられて見えなくなってしまった。
「…ああもうっ!知らないからね!?」
アーティはヤケクソといった感じに袋を抱えて歩き出し…途中で立ち止まると左右を確認して、袋の中身から金色に鈍く光る硬貨を数枚ポケットに入れて再び歩き出した。
「…ホント、知らないからね!?」