プロローグ 1-1
コロシアムは観客の熱狂と割れんばかりの歓声で溢れかえっていた。
夏の陽光がすり鉢状の闘技場を炙るように照りつけ、さながら熱された平底鍋に投げ込まれたような錯覚を覚える。
「この空気はどこの世界でも変わんねえな。」
圭護は首を回転させて筋肉をほぐしながらニヤリと笑って呟いた。
汗で濡れた裸の上半身は見事なカットの入った筋肉で覆われ、木綿で自ら作ったファイティングパンツから伸びる下肢は樫の木のように太く固い。
「終わりよ…もう全部終わり……こんなことになるなら最初から自分でなんとかすればよかったんだわ…」
息を吐きながら入念にストレッチをする彼の傍らで、頭からすっぽりとハードを被った小柄な人影が小刻みに震えながらブツブツと何事かつぶやき続けている。
「試合前にネガティヴなことを言うなよ、お嬢ちゃん。モチベーションが下がるだろうが。」
歯をむき出して笑いながら、圭護はフードの人影の頭を乱暴に撫でる。
「ちょっ!やめっ、フードが取れるでしょうが!」
甲高い悲鳴をあげて彼の手を振り払った拍子に、フードがズレて短く整えたサラサラの金髪が現れた。
アーモンド型の大きな瞳に透き通るような白い肌の美少女が、自分の2倍はありそうな背丈のケイゴを睨みつける。
そしてその金髪に埋まるようにあるフサフサの毛に覆われた獣人の耳。フードが外れたことに気づいて慌てる少女の挙動に合わせて、小刻みに愛らしく動く。
「もうっ!こんなところで獣人だってバレたらどうなるかわかってるの!?」